第十四話 ありふれた物語
体調不良が続いているので比較的健康なうちに来週分も更新するぜ!
あれ以降特に襲撃もなく、俺は無事にハイウェイを降りてブルーエリアの開発区、通称ヤクザ街に到着した。
ヤクザ街の入り口はセグレタの情報通り開いており、特に問題なく街の中心地まで辿り着いた。
NKC全体がサイバーパンクな未来的な雰囲気のネオン街なのに対してヤクザ街は高層ビルや雑居ビルが並ぶものの俺の暮らしていた日本に近い現代的な街並みという感じだ。
宿を探してしばらくバイクを走らせ、イーストサイドインという一階に酒場が併設された宿を見かけたのでバイクを駐車場へ止めて入る事にした。
シングルルームにするつもりだったが、一室しか空いていないと言われた為、勿体ないが金はあったのでスイートルームを二泊三日で取り、部屋のキーを受け取る。
「マット・デイヴィ様、スイートご利用のお客様に限りご利用可能なサービスがあります。端末にルームキーをかざしてデータをインストールしてください。」
フロントのAIホログラムはそう言うとサービス一覧を説明し始めた。
サービスの概要としては、ウェルカムドリンク、送迎サービス、護衛サービス、インフォメーションサービス、といったサービスが無料で頼めるそうだ。
至れり尽くせりだなと感心していると、酒場の方で言い争う声が聞こえて来た。
「だから、他のホテルも埋まってるしもうここしか無いって言ってんのよ!さっきまで残り一室あるって言ってたじゃない!」
「申し訳ありません。先程、別のお客様がチェックインされましたので只今当ホテルは満室となっております。」
酔って酒場のAIに絡むスーツ姿の女性はどうやら俺がチェックインした事で泊まれなくなったのを怒っているらしい。
「日本にいた頃に見かけたありふれた物語ならここからロマンスに発展したりするんだろうけど、ここじゃあ厄介な事しか起こりそうに無いよなぁ。」
そう呟き、とっととフロントから去ろうとするといつの間にか女性に背後から肩を掴まれていた。
俺がゆっくり振り返ると女性は捲し立てるように俺を問い詰める。
「割り込んでチェックインしたのってアンタでしょ?苦労して見つけた最後の希望なのよ!?他のホテルは満室だったり汚かったり、シャワーが無かったり最悪なんだから!アンタ男なんだから譲ってよ!」
そして、俺は驚きで声が出なかった。
「え、え?ど、どうしたのよ、そんな死人を見たような顔して。」
「オリ……アナ……、なのか?」
「その声!アナタ、ちゃんと生きて辿り着いたのね!」
「でも、どうやって?死んだはずじゃ……?」
俺がそう訊ねるとオリアナは妖艶に笑った。
「美人なフィクサーにはいくつもの秘密があるのよ。まぁ、顔すら晒さず生きて来たアナタほどじゃないかもしれないけどね。」
そう言うとオリアナはフロントに俺の連れだと告げてルームキーを受け取っていた。
「お、おい!俺は許可なんてしてないだろ!?」
「死んだと思っていた者同士が"偶然"こんな場所で再会するなんて、ありふれた物語みたいな展開も素敵だと思わない?」
そして、オリアナは俺の返答を待たず悪戯っぽく笑い俺を置いてエレベーターへ向かったので、俺も慌てて彼女を追った。
East-side INN はヤクザ街のみならずNKC全体に展開しているホテルチェーン。全般としてシングルルームの利用者のほとんどがビジネスマンなのだが、モーテルや設備乏しいホテルの多いヤクザ街においては設備が充実したイーストサイドインは富裕層の人間が泊まるホテルという認識がされており、その為スイートルームというヤクザ街限定の富裕者向けプランも置かれているのだ。




