食事
◇
僕は遠山加奈子に連れられて、神社から少し歩いた場所にあるチェーン店のファミレスに入店した。
昼食も取らず極度に集中して小説を書いていたため、僕の胃袋は空っぽで、店内に漂う旨そうな料理の香りをかいだ時に、大きく腹を鳴らしてしまった。
隣にいた遠山加奈子は、一瞬キョトンとした後に、こらえ切れないとばかりにクスクス笑った。
彼女がこうして笑うところを、僕は初めて見たかもしれない。
初めてあった時の、どこか無理をしているような強張った表情と違って、今の彼女はとても自然な表情を浮かべていて、魅力的に見える。
「すいません、笑っちゃって……相沢さんもお腹がすいていたんですね」
「ええ、昼食を取るのを忘れてしまって、とても腹ペコなんです」
店員に席に案内されながら、僕らはそんな会話を繰り広げていた。
「ずっとあの神社にいたんですか?」
少し驚いたような彼女の問いに、僕は首を縦に振った。
「ええ、いつカナエがやってくるかわかりませんからね」
「……すいません。いえ、ありがとうございます。あの娘のために、こんなに尽力してくださって」
「僕にできることは少ないです。それこそ、聞き込みなんて本格的な捜査は警察に任せることしかできない……だから、僕は自分にできることをやっただけですよ。カナエは、僕の友だちですから」
「そうですか……少し、カナエが羨ましいです。きっと、私にはそう言ってくれる人なんていないから」
それから僕たちは、メニュー表を見て互いに料理を注文した(彼女はパスタを注文し、僕はマルゲリータピザを注文した)。
料理を待つ少しの間。無言の時間ができる。
それが気まずくなったのか、遠山加奈子が僕に問いかけてきた。
「そういえば、神社のベンチで相沢さんは何をして時間を潰していたのですか? ただボーッとしたいただけでは無いのでしょう?」
隠すほどのことではない。
僕は彼女に、カナエを題材にした小説を書いていたのだと素直につげた。
「小説? カナエを題材にしたもの……ですか。なるほど、私はあまり本を読まないので、ピンとこないですね」
「僕はもともと、小説家になりたかったんです……そう、小説を書いて暮らして行きたかった。現実は、そう甘くはなかったですが」
「夢で食べていけるのはほんの一握りです。悲しいことですが」
「ええ、でも小説家に慣れなくたって、下手な小説を書くことは自由だって、それをカナエに教えてもらいました」
彼女の言葉で僕は救われた。
だからこそ、彼女のために動くことになんの躊躇もないのだ。
「あの娘が……そうですか」
遠山加奈子は、なにか少し考えたような表情をしたのち、こちらに向き直った。
「もしよかったら、その小説を読んでもいいですか?」




