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咬爪症の女  作者: 武田コウ
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僕にできること



「ふぅん、それで? アンタはそのカナエちゃんのために何をしてあげるの?」


 僕の話を聞き終えた花沢は、あまり興味が無さそうにそう聞いてきた。


 何をしてあげると聞かれても、僕にできることなんてたかがしれているだろう。遠山加奈子はすでに警察に捜索願は出していると言っていた、ならば僕がやるべきことはシンプルなことだ。


「ひたすら待つことにするよ。カナエが好きな場所、いきそうな場所でね。それくらいしか僕にはできないし、逆にこれは時間が余っている僕にしかできないことだから」


 調査なんて本格的な事はプロに任せれば良い。


 僕にできる事は、ただひたすら待つこと。


 そして、これは今の僕にしかできないことだった。


「……わかった。あんまり無茶しないでね」


「無茶はしない……というより、できないだろうね。体調が万全とは言い難いし」


 それでも、できる限りのことはするつもりだった。


 カナエは……僕の友だちなのだから。












 地平線の彼方から朝日がゆっくりと上がってくる。


 ちらりと腕時計を確認すると、時刻は朝の5時半を回ろうとしている。


 最近、特に空気が冷たくなった来たのを感じる。僕は少し厚手の上着を着て、早朝からカナエに教えて貰った神社に足を運んでいた。


 ボロボロの木製ベンチに座り、ゆっくりと昇っていく朝日を眺める。


 ジワジワとベンチから伝わってくる冷たさに身震いし、持参してきた魔法瓶から温かい茶をコップに注いで飲んだ。


 体の芯から温まる感覚に、ホッとため息をつく。


 カナエはきっとこの場所に来るだろう。


 何となく、そんな気がしていた。


 遠山加奈子はカナエの日記を読んだと言っていた。ならば彼女もこの場所は知っている。警察にも話している筈だ。


 しかし、彼女も警察も暇ではない。


 いつ来るかわからないカナエのために、一日中この場所を見張っている訳にはいかない。


 でも、僕にはそれができる。


 いつ来るかわからない……それどころか、来るかすら定かではないカナエを一日中待つことが、僕にはできるのだ。


 ぼんやりと朝日を眺めながら、僕はいつ終わるか分からない膨大な時間との闘いに身を投じるのだった。

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