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咬爪症の女  作者: 武田コウ
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約束の公園

 PCの画面を見ると、デジタルの時計がもう定時になっている事を知らせてくれた。


 長い、長い一日だった。


 僕はグッと伸びをすると、やりかけの作業を中断し、PCの電源を落として立ち上がる。


 まだ、やらなくてはならない事がいくつか残っているのだが、今日はこれ以上仕事をする気にならなかった。


 後の仕事に少し影響がでるかもしれないが、そんなことは知ったことではない。明日以降の仕事なんて、明日以降の自分が考えれば良いのだ。


「お先に失礼します」


 帰り支度を終え、隣のデスクに座っていた田村に声をかける。


 彼はやる気が無さそうに、ヒラヒラと手を振って答えた。僕が立ち去ろうとすると、田村が背後から声をかけてくる。


「相澤、今日は早めに寝ろよ? 睡眠時間が足りてりゃあ、どんな状況でも案外なんとかなるもんだ」


「……そうですね。ありがとうございます」


 どうやら、今日の不調が睡眠不足によるものであると見抜かれていたらしい。


 僕は軽く頭を下げると、事務所を後にした。








 帰りの電車に揺られながら、まだ明るい外の景色を眺める。


 僕の仕事は存外忙しく、定時で帰るなんて久しぶりのことだった。


 ゆっくりと沈んでゆく夕日。茜色に照らされた街並み。寝不足で疲れ切った僕の心を、ほんの少しだけ癒やしてくれるような景色だった。


 しばらく電車に揺られていると、自分が空腹であることに気がつく。


 それは、今まで何故気がつかなかったのかと不思議に感じるほど、強い空腹感だった。


 今すぐに何か食べたい。


 何でも良い訳では無い。何か、ファストフードのようなジャンキーな食べものを欲していた。


 生憎と、家の近くにはファストフード店の類いは無かったと記憶している。しかし、僕のファストフードを食べたいという欲求は、どんどんと大きくなっていく。


 そこで、僕はいつもの駅より一駅早い駅で下りる事にした。


 何度か利用したことはあるが、最寄り駅と一駅しか違わないが故に利用頻度の少ないこの駅は、しかし近辺にいくつかのファストフード店がある事を、僕は知っている。


 駅から出て、目に付いたのはマクドナルドの看板。赤色の背景に黄色の文字で描かれた特徴的な看板は、良く眼を引く。


 今日はマクドナルドを食べようか。


 目の前にマクドナルドがあるのに、わざわざ他のファストフード店を探す理由も無い。そう判断した僕は、看板の案内にしたがって、店舗へと足を運んだ。


 ふと空を見上げる。


 差しほどまで街を照らしていた夕日は、もう半分ほど地平線に姿を隠し、夜の闇が下り立とうとしていた。


 そして僕は思い出した。


 約束。


 あの公園へ向かわなくてはならない。


 カナエは、マクドナルドを食べるだろうか?


 わからないが、一応僕は二人分のチーズバーガーのセットをテイクアウトで頼む事にしたのだった。




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