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咬爪症の女  作者: 武田コウ
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あの日、あの場所

 大学の敷地内に入る。


 大学というものはかなりフリーダムで、僕のようなあまり関係の無い部外者でも簡単に出入りする事が出来たりする。


 講義も全て終了した時間帯。大学に残っている人はまばらで、そして、誰も僕のことを気にもとめていなかった。


 通いなれた大学。思えば、卒業してから長い時間が立ったものだ。


 あの頃の記憶が、ぽつりぽつりと蘇ってくる。楽しかった仲間達との思い出、文芸サークルのメンバーとは仲が良かったのだが、卒業してからは疎遠になってしまった。


 みんな、元気でやっているだろうか?


 敷地内に設置された街灯が、ポツポツと点灯を始めた。薄暗かった大学が、わずかに人工の光で照らされる。


 周囲を見回すと、講義室などがある本棟はあらかた消灯しているようだが、サークルの部室が集まっているサークル棟を見ると、どうやらまだ人が残っているらしく、窓に明かりが灯っているのがみえた。


 サークル棟に入る。どうやら管理人は不在らしい。


 好都合だ。何をしに来たのかと問われれば、上手く受け答えできる自信が無い。


 特に明確な目的があったわけではないが、僕の足は自然と大学の頃に所属していた文芸サークルの部室へ向かっていた。


 文芸サークルの部室は、サークル棟の三階。階段を上って右側だ。


 ゆっくりと階段を上り、その場所にたどり着く。外から眺めると、部室の窓から明かりが漏れ出しており、どうやらまだ中に人がいるようだ。


 何故だかはわからない。


 わからないけど、僕は部室へ入らないといけないような気がした。


 冷静になって考えると、中に現在のサークル部員がいる筈で、部外者の僕が入るのは良くないだろう。


 しかし、僕はそんな事を考えながらも、自然な動作で部室の扉の前にいた。


 扉を開くと、そこには当たり前のように失踪した筈の花沢がいた。「よぉ」と僕が言うと、花沢も「やぁ」と返してきた。


 僕は、バッグの中から手書きの小説を取り出すと、使い古されたボロボロの机の上にポンと置いた。


 エアコンは新しいモノに買い換えられたようで、異音はしなかったが、使い古されたこの机は十年前の当時のままだった。


「小説……書いてみたんだけど、読んでくれるか?」


「うん……もちろん」


 花沢は、僕の手書きの原稿を見て、泣きそうな顔で笑ったのだった。


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