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咬爪症の女  作者: 武田コウ
33/81

執筆


 カリカリと万年筆のペン先が原稿用紙を擦る硬質な音が、無音の部屋に響き渡る。


 日も落ちて、闇のヴェールが街をすっぽりと覆っていた。開け放った窓からは、ムッとするような生温い風が部屋に吹き込んでくる。


 じっとりと全身が汗ばんでいる。口内がべとついて不快になったので、机に置いていたミネラルウォーターのボトルを手に取り、中身を飲み干した。


 長時間おいていた為、ぬるくなった水が喉の奥を通っていく。幾分マシにはなったが、どうにも喉の渇きが収まらない。


 どうやら酷く集中していたようで、長時間水分を取っていなかった。


 部屋の中とはいえ、真夏に水分を長時間取らずにいたら熱中症で倒れてしまうかもしれない。


 僕はけだるげに立ち上がると、エアコンのリモコンを手に取り、スイッチを入れた。


 中古で購入した型落ちのエアコンは、自分はまだまだ現役だと言わんばかりに張り切って起動を始める。


 開け放っていた窓を閉め、僕は冷蔵庫へと向かった。


 冷蔵庫を開け、中からキンキンに冷えたミネラルウォーターのボトルを取りだす。キャップを開け、中身を半分ほど一気に飲み干すと、喉の渇きは幾分かマシになった。


 少し落ち着き、自分が酷く空腹であることを初めて自覚する。


 そういえば夕食も取っていなかった。しかし、今から何か調理をするのも面倒だった。


 冷蔵庫の中身を確認すると、徳用のウィンナー大袋とスライスチーズを発見。僕はウィンナーを耐熱の皿に盛り、上にスライスチーズを乗せて上からケチャップをかけた。


 見るからに体に悪そうなソレをレンジに突っ込み、適当に時間を設定してあたためを開始した。


 学生の頃からやっている男飯だ。体には悪いだろうが、非常に旨い(そも、体に悪い食べものは大概旨いものだが)。


 いつもの癖でコーヒーメーカーの前に立ち、少し考える。


 今温めているジャンク飯と安いコーヒーの組み合わせは、もちろん抜群だ。それは疑いようが無い……。


 しかし今の時間帯は深夜。それでなくとも最近不眠症気味な所に、コーヒーでカフェインまで追加してしまうのはいかがなものだろうか。


 しばらく悩んだ後、僕は小さくため息をついてコーヒーメーカーのスイッチを押した。


 どうせ今日は興奮して寝られそうに無いのだ。ならばとことん起きてやろうではないか。








 ジャンキーな夜食を食べ終えた後、僕はマグカップにコーヒーを並々と注いで作業机に戻った。


 アイスコーヒーも素晴らしいが、冷房をガンガン効かせた部屋で味わうホットコーヒーも乙なものだ。


 熱いコーヒーを一口啜り、万年筆を握る。


 今日一日ですっかり手に馴染んだ万年筆は、まるで何年も前からソコにいるかのように頼もしい僕の相棒になっている。


 白紙の原稿用紙に向かい合う。


 この物語が傑作なのか駄作なのかはわからない。僕が判断する事でもない。


 ただ、僕はひたすらに万年筆を動かし続けた。


 誰かに評価される為では無い。


 これは、僕の為の物語なのだから。



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