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夢と物語と泥棒と不幸  作者: こころも りょうち
1.夢を見る
6/42

6.整体に行く夢

 2018年にパキスタンで始まった戦争を思えばここは平和だ。2020年の夢の中でそんな事を考えている。


 その雨の日の夢は、とても幸せな心地にさせられている。

 整体マッサージを受けている。(とし)の老いたおじいちゃんだが、とても優しいマッサージをしてくれている。

 本当はどこかの若いお姉さんにいろいろなマッサージを受けたいところでだったけど、そこまでの勇気もなく1時間3000円のマッサージを受けることで妥協した。


 お金はニシキ君から貰った。ニシキ君はどこかのお金持ちの女を騙すのに成功したのだ。

 誕生日のプレゼントとして買ってもらった高級時計を売ってお金に替えた。その一部を指導料として頂いた。

 実際のところ、ニシキ君はそれ以外のプレゼントも含め100万以上の儲けを得たようだ。私が受けたのはその1割の10万円だ。


「いいかい?そのおばさん(騙されている相手)からはもう手を引くんだ。実は病気であなたにはもう会えないと言えばいい。彼女は君を探すかもしれないが、そこまで深くは追ってこないさ。そしてまた別の女を追うんだ。今度は田舎の町長の息子とでも名乗るんだな」

 ニシキ君は私のアドバイスをすっかり信用してしまった。そして彼自身も一度の成功にすっかりその気になってしまった。

 どこかのホストのようになりかけている。だから私は彼に、なるべく素朴で自然にするよう指導している。


『ガキッ、ガクガクガッキン!!!!!!』

「いてええええええ」

 思わず、声を上げた。

 でかい声を上げたつもりだったけど、酷くしょぼいじいさんのような弱い声が出ただけだ。

「いやあ、いかんなあ、あんさん。体が80代の爺さんみたくなっとるぞ」

『それはあんただ』とつっこみたいが、声は出てこなかった。痛みを堪えることで精一杯。

「何度か、来るとええ、そしたら、全部悪いところ直してやるがな」

 私には10万ある。

『まあ、何とかなるか』と思いながら頷く。

「んじゃ、いくぞ」

『ガキッ、ゴッキン、ガクガクガアア』

「うわああああああ」

 これで本当に直るんだろうか。このまま死んでしまうかもしれない。

 こんなじいさんに殺されるのか?それならどこかのお姉さんにあんな事やこんな事をされて、、、、

『ゴゴゴゴゴ、ガッキッンンンン』

 はあ、ニシキ君、未来を繋いでくれ。君だけが頼りだ。


 ※


 2020年、その年の夏は暑かった。

 温暖化は様々な環境の変化で縮小傾向にあるというのに、今年の夏は暑い!

 私は今日もクーラーの掛からない整骨院で暑さに堪えている。

 ここに通い出して、何度目になるだろう?月々10万くらいの金が毎月入るようになって、気が付くと4ヶ月が過ぎた。

 相変わらず整体でゴキゴキやられている。


 ニシキ君の結婚詐欺はプロの域に達し始めている。どこで覚えたのかわからない女騙しのテクニックが増している。

 それならいっそう詐欺なんて止めて、女の紐になってしまえばいいとさえ私は思う。

 しかし彼は現状から抜け出せない。

 そう言う私は彼以上に現状から抜け出せそうにない。


 もうゴミの山にも行く気が起きない。あんなゴミ臭い場所によくも毎日通っていたものだ。鼻がおかしくなる。いやもうなっていたのだろう。

 先日久々に行ってみたが、もう二度と行く気にはならなかった。

「お客さん、あんたいつまでこの整体続けるつもりかね?」と、70過ぎのじいさん整体師は尋ねる。

「ええええええ、だって何度か通った方がいいって言ったのは先生ですよぉ」

「まあ、そうじゃが、何度かで、もう、これ以上、治しようがない」

『この、へぼ医者!』と言いたい気持ちを押し殺して、「でもねえ、まだ体がだるいんですよ」と答える。

「運動した方がいい。そうすれば体力も尽くし、筋肉も元気になる」

「もう、40過ぎですし」

「いやあ、まだまだ若い。人の体はいくつになっても衰えきりやしませんぞ」

「でもねえ、何したらいいか」

「おお、ちょうどええ、わしの息子が柔術の指導をしている。犯罪対策とかでぇ、意外とはやっとる。わしからの紹介って事で安くしとくぞ」

 そんなわけで、私は柔術を始める運びとなった。

 夢の中で、時間は飛んでいく。あっという間に夏になっていた。


 ※


 体は好調になった。とても41歳の体とは思えない。

 人は機能改善により、これ程改善するのか!?と驚き溢れるほどに好調だ。

 この3ヶ月で私は若返った。30代より今の方が若い。20代の頃の体のようだ。

 私の体は生きている。

 柔術の先生はコウキ君にも柔術を教えてくれた。最近のコウキ君は柔術に燃えている。


 話は少し戻るが、金が入り出した頃、コウキ少年は酷くわがままになっていた。

「あれが食べたい。これが食べたい」

 と言う。食べ物に飢えたどうしようもない少年だった。

「このままではろくな大人にならないぞ」

 私を父親の気持ちにさせるくらいわがままだった。

 柔術をしていると、コウキ少年は笑顔を取り戻し、素直で凛々しく成長していった。


 家の表には今も貼り紙が貼ってある。

『この家の中で待つ たかたこうき』

 しかしその表示はかなり薄れてしまい、私らはそれを気にするわけでもなく共に幸せな日々を過ごしている。

 人生におけるわずかな幸福。

 私みたいな人間が、普通の親父のように子供との暮らしを楽しんでいる。

 結婚もしていない。恋人もろくにいなかった。それなのに子供と二人で暮らす。順序も過程もないめちゃくちゃな展開だ。


『これはこれでいいのだろうか?』

 自問する。

『いや、いいはずもない』

 自答する。


 この生活の全てはニシキ君の結婚詐欺によって成り立っている。私はニシキ君のヒモにしか過ぎない。

 ということは、コウキ少年はニシキ君のヒモのヒモであるわけであって、、、なんて考える。

 いつまでもこんな生活が続くはずがない。続いたとしても続けていいはずがない。

 どこかで変えなくてはならない意思が生まれている。


 コウキ少年が「エイヤー」とやっている姿を、父親気分で眺めながら、この先の未来をどうするか考えている。

 2020年夏、私は夢の中で気力に溢れる幸せな生活を送っていた。

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