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夢と物語と泥棒と不幸  作者: こころも りょうち
5.夢と物語の結末
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1.長い長い夢①

 2024年9月25日、その日はやってきた。私は電子辞書みたいな小さなパソコンを持って街の通りを歩いている。秋晴れの清々(すがすが)しい一日で、柔らかい風が吹いていた。

 この場所の夢を見るのは初めてだ。でも私はこの夢のこの場所は知っている。

 この大通りのしばらく真っ直ぐ歩き、角にあるケバブ屋を折れ、商店街を抜けてゆくと、そこには夢の始まりで見ていていた家具に囲まれた居所のあったビルにぶつかる。

 この夢を見ているということは、そこに行かなくてはならないということだろう。


 いつも唐突に夢を見始める。自分がどこで何をしているのか、自分は夢の始まりに思い出さなくてはならない。

 私はブルーモンキー団のボスだ。ブルーモンキー団は世の中の金持ちから金を奪い、貧乏人に金をばら撒く集団の事だ。

 今、ブルーモンキー団は国と戦争をしている。国はアメリカ軍を味方に付け、ブルーモンキー団に攻め込んできている。

 ボスとしてブルーモンキー団員を集め、一斉に銀行強盗を行う事を決めた。今日がその銀行強盗を行う日だ。

 私はそこまで思い出す。

 だけど、私はこの夢にまだピンと来ていない。

『本当にそんな事が行われるのだろうか?』

 とても他人事だ。映画を見ているようだ。私は何もしていない。ただの映画を見ているだけのようだ。


『ピー、ピーピー』と、電子辞書みたいなパソコンが反応する。そこに日本地図が浮かび、いくつかの場所が赤く点滅し出す。

 点滅した場所はさらに詳細の地図を映し出し、そこがどこの銀行であるかを伝えている。

 私は思い出す。

「これを見ればどこで何が起きているかわかります。あなたはこいつを持っていればいい。後は俺たちがやりますよ」

 左の男がそう言っていた。

 こいつが示す場所で、銀行が襲われている。いや、正しくは銀行を襲っている。全ては私の指示だ。

『ボス。これがあんたのしたかったことですか?俺はその思いのままにやりましたよ。これで世界が変わるんですか?これが世の中を変える術なんですか?』

 私は私の心の内に住み込んだ本来のボスにそう尋ねる。

『…』

 ボスは何も答えない。

 私はボスの返答は諦め、ただ道を歩いてゆく。


 ケバブ屋の角を曲がり、商店街が広がる。

 街の人々は今、何が起こっているかも知らないまま、いつもと変わらない生活を営んでいる。

 商店街を進んでゆく。

 この国では今戦争が起きている。でも人々はそれと関係なくいつもの生活をしている。不満だらけの生活に()えているかのような表情を浮かべ、それぞれの生活を営んでいる。


 夢はこうなっている。

 現実ならどうなのだろう?

 こうはいかないだろう。


 ふと遠くから自分の声がしたようだった。

 現実では確か、余計な事を考えず、ただ過ごしている毎日で、幸せだったはずだ。

 余計な事が頭に浮かび、考え出す日々が自分を苦しめるようになったのだ。

 この夢はもっと適当でよかったはずなのに、私は夢を作り出し、しっかり終わらせなければならなくなっている。

 そして夢は私に疑問ばかりを投げかける。

『君は何をどうしたいんだ?』と。


 商店街を進むと、かつて私が住んでいた家具屋に辿り着く。

 大きな商業ビルだったが今は閉鎖され、廃墟のビルとなっている。

 かつてそのビルの0.5階にある家具屋に住んでいた。今は誰も住んでいない。


 電子辞書がピコピコピコピコ騒ぎ出す。

 そいつに目をやる。日本中が赤く点滅し出す。特に東京近辺は真っ赤だ。

 そして画像はどこかの銀行をリアルタイムに映している。金を奪った男が車に乗り込む映像だ。

 いくつかの映像が映り替わり、黒いマスクをかぶった男たちが大きな黒い袋を持って出てくる映像がいくつも映る。

 最終戦争が始まった。

 今日は長い夢になりそうだ。一体どこまでこの夢は続くのだろう。この夢を終りにしなくてはならないはずだ。


 ※


 空はよく晴れていて気温もちょうどいい。銀行強盗日和だ。

 すでにたくさんのブルーモンキーを名乗る者たちが国中の銀行を襲っているだろう。

 私はそれと関係なく、昔住んでいた家具屋のあるビルの前にいる。

 小さなモバイルパソコンはあちこちの銀行を襲っている様子を示しているが、まるでシュミレーションゲームの進行状況を見ているだけのようなリアリズムに欠けた感覚しかない。

 パソコンを閉じて、ジャケットの大きな内ポケットにそいつをしまう。


 0.5階行きの階段を下りてゆく。ところで、0.5階への階段は外付けだったろうか?

 私が住んでいた頃は内に付いていた気がする。曖昧(あいまい)な夢だ。夢や記憶はいつも曖昧だ。

 入口のドアノブを(ひね)るがドアは開かない。自分の体中にあるポケットに手を突っ込んでみたが家の鍵はどこにもないようだ。

『ここに来て、何があるのか?何もないだろう。私にはもう何もない』


 階段を上り入口に戻る。

 知らない男が僕の方を見つめていた。40過ぎの男だ。黙ってその男から目線を逸らし商店街の方へと歩くこととした。

「待った!」

 男はこちらの方に駆け寄ってきた。

 周りに人はいなかった。だから私はポケットに突っ込んでいた右手を出し、そいつの頬を思いっきり殴りつけた。

 そして何も言わさないまま、首を絞め、少し気絶させ、男がしていたネクタイを(ほど)き、そいつで両腕を後ろに縛りつけ、さらに男の持っていたハンカチで口を縛り付けた。そしてそのまま引き摺るように、男を担いで、0.5階の家具屋入口まで戻って、そいつをそこに捨てておいた。

 これは私の勘だ。こいつはいい結果をもたらさない。そう感じたのだ。


 私は家具屋を離れた。少し離れた場所まで小走りに歩いた。

 急に人は増え出した。銀行強盗団の話や不況の話をする人々の会話が耳元に届く。極めて不安定な心が急に落ち着かない気持ちにさせる。

 少し歩いたところに公共施設が多く入ったビルがあり、その手前に小さな広場がある。私はそこのベンチに腰掛けて、心の不穏が去るのを待った。

 本日の夢はまだ、終りそうにない。これは長い長い夢だ。今日でこの夢を終わりにしたいと願う。

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