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夢と物語と泥棒と不幸  作者: こころも りょうち
4.夢と物語のその先
28/42

1.夢は自由にできるはず

 2024年に始まった国とブルーモンキー団との闘争は、いつまでも長々と続いていた。

 ブルーモンキー団は38の都道府県に広がった。各都市に広がり、各都市で金をばら撒いていた。

 ニュースではあちらこちでブルーモンキー団を捕まえたとやっているけど、私の居所にはいまだ国の者はやってこない。


 何かがおかしい。こんなはずじゃなかった。夢はなぜこうも狂ってしまったのだろう。なぜ私はこんな夢を描かなくてはならないんだろう。


 気が付くと私はいつか住んでいた町を一人で歩いていた。

 冷たい風が吹いていた。街の中を冷たい風が吹いている。

 誰も私がブルーモンキー団のボスであることを知らない。


 いつか住んでいた町の公園に着いた。

 これは私が現実でよく歩く場所かもしれない。本当にここは夢の中なのだろうか。これは現実なのかもしれない。

 私は疑いながら、辺りを見回す。

 狭い視界、狭い空が見える。葉のない公園の樹木には一万円札が絡まっていた。

 今も誰かが金を奪い、金をばら撒こうと企んでいる。

 それをやった者は自己満足に(おちい)る。たまらない快感を得るだろう。

 私は青い空の下で、未来を想像しているだけなのかもしれない。そう考える。

 なんだか酷く眠い。視界が失われる。私はこの世界から再び離れてゆく。


 ※


 夢は飛んだ。今は全身がだるい。きっと昨日あたり全力で柔術の練習でもしていたのだろう。その夢は見ていない。

 寝汗を掻いていた。私はベッドの上で目覚めていた。

 本当は目覚めてなどいない。正しくは、()()()()()()()()()()()という夢を見ているだけだ。

 周りを見回す。ここはどこかのホテルの部屋のようだ。

 最近の私は都内にあるホテルで暮らしている。隠れ家のある森の中には戻っていない。

 全国に広がった国との抗争を繰り広げているブルーモンキー団のボスが私である事実を知る者はほとんどいない。

 私は捕まらない。なぜここまで不思議なくらいに、世間から放って置かれている。


『ウゥーーーーーー』

 朝から外ではパトカーのサイレンが鳴り響く。ここ最近では当り前の出来事だ。

 拳銃の発砲音もよく聞く音だ。銃撃戦が起きていないだけ平和な感じがするくらいだ。

 この国が平和を失ってどれだけの時が経つだろう。最近の私は時間感覚を失いつつあり、今がいつなのかわからなくなっている。

 この夢はどう繋がっていくのだろう。夢は物語のように順序立てて物事を組み立ててはくれない。だけど私の夢はずっと前から繋がっている。

 戦争が始まって今も続いている。国の自衛隊と強盗団のブルーモンキーは抗争を繰り広げている。そしてブルーモンキー団のボスはずっと前から自分だ。

 それが私の知る夢の私の夢だ。


 テレビをつけると朝のニュースで今日も戦争の映像が流れていた。

 どこかで銃撃戦を行っている。関西の方のようだ。

 戦争は全国に広がった。金を奪い、それをばら撒く者は全てブルーモンキーと呼ばれる。団にまとまりはない。その行動を起こす者全てがブルーモンキーだ。

 この戦争は泥沼化している。金の価値が完全に無くなるまで、戦争は続きそうだ。

 ニュースは続く。昨日も300人近くの人間が捕まり、123人の犠牲者が出た。戦争に関係のない被害者も5千人に達したという。

 私はこの戦争を望んではいない。ただ金持ちが降伏し、今の地位や名誉を全て捨て、人権が平等に戻るまで戦争を止めるわけにはいかない。


『ドンドン!』

 誰かが強い力で部屋のドアをノックしてきた。

 私は恐れない。きっと恐れるような相手ではない。警察や自衛隊がここを訪れることは無いと信じている。

 ベッドから体を起こし、入口に向かう。

 覗き穴から外を覗くと黒服の男が立っていた。私はその男を知っている。だからすんなりと扉を開いた。そこにいたのは温雅兼(おんまさかね)だ。

「何か用か?」と温雅兼に尋ねる。

 彼はニヤニヤしていた。目じりの皺がよく目立つ目が笑っていた。

「これが君の望んだ世界だったのか?君はこんな未来を目指してきたのか?」

 穏やかな声で、温は私に尋ねる。

「何が言いたい?間違いだったと謝ればいいのか?」

 温はにやにやしたままそれを否定する。

「そうは言わない。ただ君が間違いだったと思うのなら今からでも遅くはない。私の(がわ)に来ないか?」

 この男はなぜ私を誘い続けるのだろう?という疑問が生まれる。

「あんたは何者だ?」

 温は質問がよく聞こえなかったように、質問には答えずこちらをじっと見ている。

 私らはドア越しでじっと向かい合っている。

「もう一度尋ねる。あんたは何者だ?」

「それなら、君は何者かね?」

「俺の質問に、先に答えろ!」

「言わなくてもわかるだろう。私は宗教団体の創設者だよ。君はそれを知っている。君はそれを知っていて、私の寺から莫大な資金を盗み去った。私が仕掛けた罠を見事かわした。そして君はさらに力を付け、多くの金を様々なところから奪った。私は君にとって明らかだ。だが、君は何者かね?」

 私が聞きたいのはそんな表面(おもてづら)の答えじゃない。聞きたい答えは別のところにある。ただそれをどう聞いていいかわからない。

「俺はこの世界を支配する者だ。全てを(つかさど)るものだ」

 私はその事実を温に教えてやる。

『この世界は私が見ている夢だ。私はこの夢を自由にできる』と。

「ならば君の自由にするがいい。君の支配するままに好きにすればいい」

「できればそうしたい。それができないからあんたに聞いている。なぜあんたは俺の支配する世界に身勝手に現れ、自由な質問を俺にぶつけてくる?なぜあんたは俺の支配下にない?」

 私は彼にしたかった質問は苛立ちと共に口から出てきた。

「それは勘違いだよ。君が支配できていないのは、私だけじゃない。君はこの世界を何一つ(あやつ)れていない。君はこの戦争を望んで起こしたのか?」

 温は強い視線で尋ねる。にやついた表情が顔から消えた。

「確かにまだ俺は完全に世界を支配したわけじゃない。ただこの戦争は俺が全てを支配するための戦争だ。やがて全てが終わり、俺は全てを手に入れるだろう。圧倒的な力を示すために、この戦争は必要だったのさ」

 無意識に答える。ただの強がりなのかもしれない。

「君は戦いに敗れるだろう。君は自分の夢さえ支配できない。君は君自身さえ支配できない。君は何者でもなく、ただ人に左右され、揺れ動いている。生きる意味さえないだろう?君は君ですらないんだ」

 重たい声が私に()し掛かる。その声の真意が私の心のとても深い部分を傷つけてくる。

「やめろ!それ以上言うな!俺に近づくな!」

 怒鳴り声を温に浴びせる。彼は冷静にドア向こうに立っている。

「構わない。ただ君は私を必要とするだろう。君は私を必要として、私をこの場所に呼んだ。ただそれだけだ。君の気が変わらない限り、君は私を呼び続けるだろう」

 声は徐々にエコーが掛かったように響き出す。

 私はもう何も言えない。ただ部屋のドアを強く引き閉じるだけだった。


 現実感のある夢だ。

 いったい私は何がしたいのだろう?何がしたかったのだろう?

 確かにこんな戦争を望んだわけじゃない。この夢はいったいどこから来て、どこに辿り着こうとしているのだろう?

 それを決めるのは私であるはずなのに、私は何も決められない。


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