5.久々に物語
6月からは沙希も仕事を始めた。簡単な事務仕事で仕事に対する不満は無い。
しかし会社の雰囲気はすこぶる悪い。にこやかな部分もなく不満ばかりを口にする人間が多い職場だ。皆黙って仕事をしている。
ニシキの給料では生活費が足りない。彼女を働かせたくはなかったけど、そうも言ってられない。
沙希は精神の疲れが増す前に家に帰る。そこに疲れたニシキが帰ってくる。
「おかえり」
「ただいま。今日も仕事大変だった?」
ニシキの質問に沙希は微妙な笑みを浮かべる。
「でも前よりはずっといい。頑張らなくても何とかなるし」
そんな言葉に、二人同時にため息が出る。二人は疲れているけど、互いに笑っちゃう。
「わたしたちダメダメだね」
沙希は言う。
「そりゃそうだな」
ニシキは答える。
日々はあっという間に過ぎてゆく。
夏が来て、夏が過ぎてゆく。
毎日、いやいやの仕事の時間が過ぎてゆき、毎日二人顔を合わせて安心する。
互いに安い給料を集めて何とか生活はできている。
未来はきっと明るい。二人は今日もそう信じている。
10月のある日には空から金が降ってきたというニュースをやっていた。
世の中には気のおかしくなった人間もいるもんだと、ニシキはただ感じた。
少しずつ時は経つ。
ニシキは毎日、沙希と顔を合わせる。
そこには何の不満もない。そこに不満はないけど、本当にこのままの生活でいいのかという不安はある。
最近は弁当工場のお偉いさんも、ニシキに対して冷たく当たることが多くなった。そんな対応に疲れさせられてゆく。
少しずつ限界が近づいている。この生活の先を考えなくてはならないけど、思いように行きそうな未来の方向性が見当たらない。
「また何か悩んでいるでしょ?」
疲れた顔をして家に帰ってきたニシキに、沙希が尋ねる。
「そうか、やっぱし、わかる。仕事なんだけど」と答える。
幸せが増えれば、不幸せな部分が嫌になる。誰もがどんな生活にも満足しきれずにいるのだろう。
生きている限り、人には未来があるから、満足のいく場所に行きたいと考える。
それはとても自然な考え方だ。幸せの先へ行こう。さらなる幸せへ、ニシキは足を踏み出したいと考えを巡らせる。




