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夢と物語と泥棒と不幸  作者: こころも りょうち
1.夢を見る
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2.夢と共に生きる

 カラスに支配されたゴミの山で駄人(だじん)は生き長らえている。


 人が滅んだらきっとカラスの時代が始まるだろう。

 彼らは賢いし、繁殖力も優れている。もし人の時代が滅びずに繁栄の道を目指していたならば、やがてカラスとの第4次世界大戦が始まるだろう。

 カラスは新生命体とし進化を成し遂げていて、人類は退化して何とか生き残ったとしても、やがてカラスに負けて滅んでしまうだろう。


 私はゴミの山を上りながら、そんな無駄な想像を拡げる。

 今はまだカラスと人類は上手に共存できている。彼らが求める食べ物に人は興味を持たず、人が求める金属に彼らは興味を示さない。互いが生きるために必要な物を集め合っている。


 カラスに縄張りがあるように、私たちにも縄張りがある。私は私の島(縄張り)を守って金属を探す。

 下手に新しい場所へ向うと恐いおじさんが出てくるかもしれない。恐いおじさんは弱いおじいさんを追い払って新しい縄張りを広げてゆく。

 ゴミの山ではそんな権力闘争が始まっている。


 微笑み王子のニシキ君だけは私の仲間だ。

 彼は優しい顔をしているが結構な力を持っている。私の島のすぐ隣に島を作っている。だけど彼は私がいないとき私の島を守ってくれている。だから私も彼がいないときは彼の島を守るようにしている。


 ニシキ君とはそんな運命共同体だ!

 ゴミの島に生きるブラザーだ!


 今日は彼の姿が見えない。だから一人この島で希少価値のある電気器具を探している。

 いつかはこの島も枯れ果ててしまうだろう。それまでは生きる術をここに置いて生きていく。

 ニシキ君と共に。


 ※


 2019年、冬がやってこようとしている。

 温暖化の進む世界だというけど、今日は酷く肌寒く、雪が降り始めた。

 今年は雪の降る冬になりそうだ。

 こんな日は、日の当たらない家の中で、冷たい家具に囲まれて、温かい布団に包まって寝ていればいい。


 だけれど、その日僕は敢えて家の外にいた。街頭の大型スクリーンでは、路上で亡くなるホームレスが急増している問題を取り上げていた。


『この冬の寒さは多くのホームレスを死に追いやることになるでしょう』


 アナウンサーがそんなアナウンスをするニュースを、私はホームレスが毛布に包まる歩道橋の下で観ていた。

 ()()()を守り抜いた人間は、足早に街の中を過ぎ去ってゆく。それに対して僕らダメ人間は死体のように路肩にうずくまっている。


 この光景が当り前になったのは何年前からだろう?

 私はふとそんな事を考えるが始まりは思い浮かばない。そんな記憶はどこか遠い過去に捨てられてしまった。

 今はこれが当り前だ。

 でもこの当り前の光景はずっと昔、どこかからともなく生まれ始めていた。どうにもできなかったのにマスコミや何やらが、今になって騒いでいる。実にアホらしい。

 止められなかった世の流れ。政治もできなかったし、私もできなかったのだよ。


 報道は、政治家に対してホームレス問題を解決するよう訴えていた。

 たしか12月初めに見たニュースじゃ、政治家は福祉の充実を語っていた。民間企業の代表者は自分たちの税金負担が増すことを懸念していた。

 世の中ではそんな国家と民間団体との抗争が生まれていた。

 街頭で見られるテレビがそんな現世を理解させてくれる。


 でもそんなテレビの話は全てどうでもいい。私にとっては国家も民間企業もただの金持ちにしかすぎない。偉そうに自分の立場を守り抜いているアホ野郎にしか見えない。

 どんなに優れた人間も、貧乏人にとっては皆敵なんだ!

 生まれてくる怒りが瞳を鋭くさせる。

 心は荒む。荒みの色が増してゆく。

 冬の白い雪が駄目人間のすさみ色を消え隠してゆこうとする。私は熱を持った気持ちになってその雪を溶かす。

 自分はここにいるんだ!と小さな抵抗をしている。


 ネオンの光の輝きを見つめる年老いたホームレスの目が輝いていた。

 彼は何のために生きているんだろう。

 何のために生かされているのだろう。

 希望はあるのかな?

 希望を作ることはできるのかな?

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