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夢と物語と泥棒と不幸  作者: こころも りょうち
3.続く物語と夢
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2.ボスの夢

 2022年の夢は続く。私は暗い部屋の中にいる。

 とても怪しい場所だ。でもここは危険な場所じゃない。闘う必要はない。なぜならここにいるのは、自分の仲間だけだ。

 そう。ここはボスといわれる男がいる部屋だ。

 じいさんのように体の動かないこの男は、仲間たちから絶対的な信頼を得ている。


「俺は苦痛だ!」と、私は言った。

 言ったというか、口が自然とその言葉を発していた。この場所にいる事に対してじゃない。私はボスの尋ねた質問にそう答えたようだ。

 ボスは尋ねた。

「多くの金を奪い手に入れるのは愉快なものだろ?偉そうな奴らが慌てて、俺らは優越感を得られる。君もそうだろ?」

「俺は苦痛だ!」

 だから、私はそう言った。ボスは意外性も感じずに頷いた。

「そうか。苦痛か。なら、こんな苦痛を感じ続けるつもりか?それともこんな苦痛な仕事はもう辞めたいか?」

 私は息を詰まらせる。辞めてしまいたい気持ちはずっと持っている。

 本心のままに答えてしまえば、辞めると答えられる。でも今度はさっきのように口から言葉は漏れてこない。

「苦痛な事を続けたくはないだろう?」

 ボスは答えを促してくる。


 私は応じる。

「世の中には、金に貪欲で、莫大な儲けを得る者もいるし、代々の資産を受け継いで、金を自由に(つか)いまくる奴もいる。あんたらがそういった奴らから金を奪い取っているのは知っている。決して貧乏人から金を奪い取るような真似はしない。だから俺らのやった事を、世の中は愉快だと思っている奴もいる。確かにあんたらは最悪な連中じゃない。けど…」

 けど、の後は出てこなかった。何を言いたかったのか、その結論はわかっていなかった。


「それが正義とは言えない。正義の味方ごっこじゃない。確かに俺らは生易(なまやさ)しい集団じゃない。ただの強盗集団だ。俺らは金を奪い、利益を得て、それで暮らしている。君もその一人だ。これは明らかな犯罪だ。それも軽犯罪じゃない。相当な重犯罪だ。捕まったら終りだ。いつ捕まるかはわからない。それは恐ろしい。苦痛だ。苦痛だろう?」


 反論できない。

 あくどい仕事をしているから辞めたいなんていう、そんな正義心じゃない。

 私はボスの言うように、ただ単に捕まりたくないから苦痛を感じ、辞めたいと考えているだけなのかもしれない。


「だから俺は今日、君をここへ呼んだ」

 私はずっと(うつむ)いていたが、その声に顔を上げた。

 暗い部屋の中で、ボスの鋭い瞳だけがやけに光って見えた。ボスはこのまま私をここから解放してくれるのだろうか、と期待する。


「君には大義名分が必要だ」

 ボスは私がまるで予想もしない一言を発した。

「いいか。よく覚えておけ。人なんて誰だって臆病な者だ。誰だって苦痛からは逃げたい。俺も理由なく、ただ金持ちになりたいだけなら、もうこんなまねはとっくに辞めていただろう。いや、最初からやってはいなかった。別の生活をしていただろうよ」

 いつも隙の無いボスがほんの少しだけ軟化して優しい声を発したように感じた。

「俺は最初、君にこの世界をぶっ潰すと言った。俺がやりたいのは自分が稼ぐためだけの行動じゃない。俺はこの世を揺り動かすような、でかい事をやるつもりでいた。ただ強盗をしただけで、世の中は動くか?それだけじゃ弱い。君もそれだけの俺らに納得いっていないだろ?」

 ボスは私に問うかのようだったが特に答えは求めていないようだ。私が何も言わないと、すぐに話を続けた。

「だから俺は君に俺らの大義名分を与える。俺らは奪った金を天からばら撒く。現代版ねずみ小僧だ。その時、世の中はどう動く?俺にもまだわからない。ただ、そうすれば世の中は何かが変わる気がする。君は苦痛だと言った。そう、苦痛だ。辿り着くところのない繰り返しは苦痛にしかならない。でも俺らには成し遂げたい結論がある」

 語尾が強まる。少しずつ勢いが私の心を打ち出す。

「夢のような現実を成し遂げるんだ!そのために動く。答えのあるその場所を目指せば、苦痛に耐え抜く事もできる!どうだ?まだ苦痛か?今ある現実から逃げ出したいか?」


「いつまで続く?」

 やっと発した最初の私の一言はそれだった。本当は辞めてやろうと考えていた。このまま辞めてしまおうと考えていた。

 でもそう言えなかった。心の中から不思議なエネルギーが湧いてきた。心臓はバクバク言い出していた。

 それは恐れから来るものではない。ウキウキしていて、ワクワクしていた。このじじいが言う話には、叶えてみたいと感じさせる希望があった。

 希望が私を動かそうとしていた。

「あと、20回。そのくらい成功したら、十分な金も溜まるだろうよ」

 ボスの瞳は光ってみえた。それは望みを叶えようとする者が持つ瞳と同じもののようだった。

 私は頷いた。この瞬間、私は全てをボスに捧げ、付いてゆくことを誓った。


 2022年、私は辞める事のできない夢を持った夢の中にいる。

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