4.何度目かの犯罪夢
またあの日がやってくる。これで何回目になるだろう?
私の脳は疲れていて、働きたくないと言っている。そして眠ったふりをする。
夢の中の、夢見の時間が過ぎてゆく。
現実はどこへ行ってしまったのだろう?
右の男が私の家を訪れる。
私は体を起こさないわけにはいかない。だから起き上がりすぐに玄関へ向かう。
最近、コウキ君は私が何をやっているのか気にしている。だから私はコウキ君の視線を見ないようにしながら玄関で待つ右の男に目を合わすと無言のまま家を出る。
夜は更けていた。
世の中はゴールデンウィークだから、ビジネス街に人はいない。そこに狙いはある。
いつもながら左の男が車を運転し、右の男は助手席に座り、私は後部座席に座る。スピーディーに走って、ビジネス街にある暗い公園の脇まで行って、車は停まる。
私らは車から降りる。いつもながらどこに着いたか知らない。しかし金持ちが暮らす都心であることは確かなようだ。
街を疾走して、10階建てくらいのビルディングの前までやってきていた。とても疲れた。
目の前には警備員がいる。だが、どこかの定年過ぎたおじいちゃんだ。覆面姿の私らにびっくりしたおじいちゃんは、無理も出来ずにすでに観念した表情を浮かべちゃっている。
右の男はガムテープを持っていて、それでおじいちゃんの手と足を縛り、さらに口を封じた。
「ここで待っていろ」
左の男が私にそう指図する。
ビルディング一階の脇に警備員室があり、おじいちゃんをそこに放り込み、私もその部屋に姿を隠した。
警備員室には四つのモニターがあり、ビルの入口と内部の三ヶ所を映している。
しばらくモニターをぼんやり見ていると、突然瞬時にプチリと消えた。
あの二人はモニターを避けながら、こそこそと盗みに入るようなまねはしない。ビルの電気を全てシャットダウンさせ、それから中に入り、目当ての物だけを求めて盗みに入る。しかもその動きに無駄はなく適確。彼らは何らかの形でどこに何があるのかをすでに知っている。ちょっと聞いた話では「まあ、会社に恨みのある奴は一つの会社に何人でもいるものさ」と言っていた。つまりそういう奴らから聞き出した情報と、調べ上げた情報を基に行動しているのだろう。
彼らは極めて用意周到だ。捕まる事は恐らくないだろう。そして私の仕事は、やってくる警備会社の警備員をぶちのめすだけだ。
数分後、予想どおり警備会社の男がビル前に車を停めて下りてきた。ビル入口の内鍵は閉めてあって、彼らはすんなりとは入れずにいる。
私の相手となる男は二人のようだ。少し厄介。一人がポケットに付いていたチェーンからスペアキーを探している。そしてもう一人が警備員室のあるこっちに向かってくる。
チャンスだ。
私は警備室のドア前まで来た瞬間にドアを開け、外に出て、催涙スプレーを噴出する。
「うあっ」
図体の大きい警備員は間抜けな声を上げた。そして目が見えなくなった警備員の口に、いつもの睡眠剤付きのハンカチを当て眠らせる。
もう一人の男が異常に気づき、自分の身に付けていた通報用のボタンを押したようだった。これでは私一人では対応できなくなるだろう。
戦うという考えをすぐに捨てて、私は右の男に貰った無線機で右の男へ連絡を入れる。
「まずい。気づかれた」と言う。
「まだ時間はあるな」と声が戻ってくる。
「多少」と答える。
そうとだけのやり取りをして、私はもう一人の警備員の男に襲いかかる。ボクシングか何かをやっていたのか、警備員の男はファイティングポーズを取り、目の前に立ちはだかる。
「知っているかい?これはスポーツじゃないんだ」
私は彼にそう言う。
そして次の瞬間に催涙スプレーを噴射する。特殊なノズル付きで催涙スプレーはかなりのところまで飛び散った。
警備員の男は目を霞ませながら、むやみにパンチを出すが私には当たらない。
何度目かのパンチしてきた右手をうまく掴み上げると、力いっぱい投げ倒して、男を地面に倒し込んだ。
そしてまたハンカチだ。警備員の男はすぐに意識を失う。よく効く薬だ。
そこで辺りを窺いながらじっとしていると、数十秒後に左の男が扉の内から外に出てきた。
一人きりだったので「彼は?」と、右の男の事を聞いた。
「あいつは後で来る。そろそろずらかろう」
左の男はそう言って、すぐに車の置いてある公園の方へと走ってゆく。
車に乗り込んで、左の男が車をスタートさせる。
今回は失敗だったのだろうか?
私は目に掛けていたゴーグルと青い覆面を外す。
車は少し走って、大通りの脇で停まった。
こんなところでどうするつもりなのか?
答えはすぐに出ていた。右の男が細い路地より現れた。しかも大きく重そうなバッグを持っていた。
これで私は報酬の400万円めを手に入れることができる。
2021年のゴールデンウィークはハードだ。人々が休んでいる中、私は仕事をしている。これを仕事と呼ぶのならば、だが。




