表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

告解

作者: 小田 優太郎

[キャスト]

城田 秋紀(Akinori Shirota)(無印) ♂

染野 文太(Bunta Someno)(以下記号B) ♂

酒匂 千陽(Chiharu Sako)(以下記号C) ♀


教誨師D(以下記号D)(Bと兼任でも構わないか)




利用規約はこちら https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/2590242/

D:事件概要

1987年12月 

東京都世田谷区の安アパートにて若い女性が惨殺された。

犯人として、被害者と同じ大学の学生を殺人の疑いで逮捕。しかし、学生は一貫して黙秘を貫く。

その後の裁判で残虐性の高い手口と執拗な好意とが認められ、死刑判決が下る。


D:2007年、死刑執行。

以下、担当した教誨師(きょうかいし)と被告との最初で最期のやりとりである。



D:最期に言いたいことはあるか


なぁ先生、俺は千陽を殺して本当に正しかったのだろうか。

逮捕から20年、ずっと考えてきた。逮捕された直後は確かに、俺は正しいことをした。そう思ったさ。だけど、こうして死刑判決が下されて、塀の中で長い長い時間を過ごしていると考えも変わってくるってもんさ。


D:あぁ、そうだろう。

よければきかせてはくれないか。


あぁ、もちろん。

俺と千陽は同じ学部の学生で、学生IDも近かったことから自然に話すようになった。そこから互いに友情が芽生えていって、千陽は困るとまず俺に相談するんだ。今考えれば千陽には俺に対する友人としての好意はあれど、恋愛としての感情はなかったのかもしれないなって冷静に判断できる。だけど、その時は俺も若くてさ、今と全く違った。俺は自然と千陽に惹かれたんだ。


D:いわゆる若気の至りってやつか。

人を好きになるのは至極自然な流れだからな。


あぁ、そうだ。誰もそれを抑えることはできない。

そうやって膨らんでいった俺の恋心が一瞬で猜疑心に変わったことがあったんだ。

まだはっきりと覚えてる。夏の暑い日だった。その日は、いつものように相談を持ちかけられたことに加えて、試験課題を一緒に取り組もうということになってて、千陽の自宅に向かったんだ。


D:あぁ、それでどうした


事件はそれからだ。少しお手洗いに立った時にな、当時千陽の安アパートはユニットバスでな。便器に座ると向かいに洗濯機と山になった洗濯物があった。そのなかに見つけちまったんだよ。男物の下着を。


D:男物の下着?


あぁ。真っ黒の無地のトランクスと真っ白なタンクトップだ。それも3セットだ。

その時、俺の脳裏に過去の記憶が蘇ってきた。ある梅雨の夕暮れ、男と肩を並べて帰路を歩く千陽だ。思わず尾行すると、その相手は同じ学部のスター、染野 文太だってことがわかった。まさか、あいつと交際しているのか?そう思って千陽に尋ねた。


C:まさか。単に同じ講義を受けていて、グループワークで一緒になっただけ


そう笑いながら言ってた。確かに、数回同じように帰っていたことがあったけどそれ以降全くなかった。だから安心していたんだ。いまのいままで。

だけどこれを見つけてしまった。もしかして千陽は俺に隠しているのかもしれない。見ると背丈もちょうどいいくらいだ。そう思ったら悔しくて、苦しかった。

それからが大変だった。起きれば夢、眠ればうつつ、何もかも気がそぞろで何をするにもぼんやりとしていた。だから、当然ながら成績も落ちるし、次第に頬がこけて食が細くなる。

いつの頃からだったか、夢に文太が出てくるようになった。日陰者で何をしても報われない俺と、日向でスター、勉学も運動もできる秀才だ。奴は俺から見れば近くてとんでもなく遠い存在。そんな文太が俺に言う。


B:お前ごときが俺に適うと思うな


B:お前に千陽は釣り合わない


B:千陽は俺に気があるんだ


最初は馬鹿にしているだけだった。それだけなら俺だって我慢がきいた。だけど


C:文太、誰よりも好き


B:俺もだ。なぁ、こんな男捨てて俺のところに来いよ


C:そうしたいけど…秋紀に色々お世話かけちゃったし、そういうわけにも…


B:おいおい、今更そういうことを言うなよ。


(接吻、音[SEか、あるいはリップ音か])


次第にキスを交わしたり、抱き合ったり、大胆にもまるで俺に見せつけるようにしてきやがる。

確かに許せなかったけど、これは夢の中のことだ。そうわかっていたはずだった。だけどそれがあまりにリアルで、次第に現実と混在してきた。ただでさえ寝不足の頭だ、混在するのも無理はないと思う。

俺だけの千陽、俺だけの彼女なのに。そう思うと文太が憎らしくてしょうがなくなった。だけど、それ以上にあいつが欲しくなった。

思い立って、俺は千陽の家に押しかけてみた。


C:あぁ、秋紀。どうしたの?こんな夜更けに。


あぁ、月が綺麗だからつい、君と話したくなってね。


C:まぁ、柄にもないことを。いいわ、あがって


くすくすと笑う千陽。普段となんの変わりもない対応に、なんとなくその気が削がれる。


C:それで、話って?


千陽、君って人には心底絶望したよ。


ポカンとしている千陽に刺激された俺は続けざまに


君って人は俺という人がありながら浮気をしているのか?


C:なんのこと?


とぼけるな、洗濯物に男物の下着があったのを俺は知っている。


C:そ、それは


相手も誰だか見当がついてる。染野文太だろ、グループワークで一緒になったっていう


C:違う!


嘘をつくな!この前だって俺とじゃなくてあの男と肩を並べて歩いていただろう!


C:それは説明したじゃない!


嘘だ!お前ら俺に内緒で付き合ってたんだな! 俺みたいな勘違い野郎を影であざ笑っていたんだろう! 女にモテたことも、ましてや恋人なんてできるような見た目でも性格でもないことを貶していたんだろう!


C:そんなことしてない! それにあの時ちゃんと説明した!


「グループワークで一緒になっただけ」…こんな説明を誰が信用できるか!


C:っ、ひどい…


ひどいのはどっちだ! あんなクソ野郎と俺、どっちがいいんだ!


C:あなたが思っているようなそんな関係じゃない! 本当に相談に乗ってもらってただけなんだから!


あんな男狐誰が信用できるか!


かっとなった俺は思わず彼女に馬乗りになった。そして嫌がって逃げ出そうとする彼女のルームウェアを引きちぎって、こういったんだ。


俺の、俺だけの千陽だろうが!


気がついたらすっかり冷たくなってた。だけどそれでも構わなかった。

あの時はじめて、千陽が俺のものになったっていう充足感で満たされてたんだから。


文字通り精根尽き果てて隣にごろり。冷たかったけど、ようやく俺のものになった千陽に、俺は最初で最後の本気のキスをしたんだ。その時ほんのり、熱を感じたのは気のせいだったんだろうな


さて、そろそろ時間だ。表で刑務官が呼んでいる。


D:待ってくれ。私も最後にひとつ聞きたい。君が最初問うていた殺人を犯してよかったのかという答えは出たのか


あぁ、そうだな…

今考えてみると、けして正しいことじゃなくて妄想からくるエゴにすぎなかったと、今になって猛省しているよ。

だけど若気の至りとはいえ、人ひとり殺してるんだ。この報いはきちんと受けなくちゃな。

あぁ、そうだ。先生、最後まで聞いてくれてありがとよ。すっきりして閻魔様のところに行けらぁ。


D:こうして、彼は死の門をあけて、出ていった。

ほどなくして、かすかにだがガタン、と床の抜ける音がした。


Fin.

18th, Feb, 2021



※読んでいただき、また(ボイドラサーチからいらっしゃった方)演じていただきましてありがとうございます。


感想等頂けると今後の創作の励みになります。よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ