The Reason
思春期のように急成長する突発的な感情の油をお湯で洗い流し一息つく。
そこに存在する無機質な皿に残る水滴の行方を追う事を止める。
気にしない、忘れない、ではなく過ぎた事だと客観視し、挙句の果てには自分を他人として見つめる。
思えば幼い頃からの癖であった。
自分だけの隠れ家のようなものであった。
髪を切った翌日、クラスメイトに見られる事が世界で一番の辱めに感じた。
そんな思いをするならば髪を切る事を拒否すれば良かった。
日常の自分に変化を与えることは非日常を自ら生み出す事であった。
そこで先週髪を切ったクラスメイトを弄る自分を思い出した。
どうでもいい正義を感じた。
そんな事をぼんやり考えていたら弄られる自分を弄る自分を見つけた。
その発見と同時に自分を見つめる自分が生まれた。
自分を見つめる自分。
誰もその存在に気づかない。
だから分かり合えない。
誰も見つけてくれない事が悩みの種になる事もあり得るが弄られるストレスを避ける代償として変化のない日々を送った。
今思えばそこに在ったのは同調圧力であったのだろうと達観してみた所で集団の中ではその目を閉じる。
日常と違うものを排除しようとする本能に痛みを感じるが、それに伴う筋肉の成長にも本当は気がついている。
周りと違う事に対するコンプレックスから、周りと同じに見える基準に合わせなくてはと亡霊は囁く。
恐ろしいほどに等間隔に整列した背の順の中程の隠れ家を見つけ好きな娘を眺めた。
視界の中の恋に溺れた。
また自己嫌悪した。
時が経って死神に恋をした。
デートの場所や身なりを一々気にかけた。
血なら捧げるし頸も見せよう。
必要あればインスタント英雄になったり悲劇のヒロインになろう。
そんな時、母の血を想った。
また自己嫌悪した。
映えるようなファッションに憧れた。
そこで私は髪を切った。