大声無職は地の獄へ
いつからだろう。綺麗に終わると信じてやまなかった人生が暗い帳に隠され始めたのは。
周平は暗い部屋で「アブちゃん家に住むわ!www」「俺は無職だぞ?」と大きな声で囀っている。ここ最近では聞きなれてしまった日常に翼子は気分が沈むのを感じた。
翼子が、溜め息を吐いて呟いた。
「あなた、本当に大丈夫?」
黒曜のテーブル越し、セウタ・ゴールドワンは週刊ヤングジャンプから目を離さず、僅かに頷いた。
あれは世界的に感染症が流行った頃。独り立ちしていた周平が埼玉から戻ってきたときは離れていた時を埋めるように思い出を増やしていった。
感染症が落ち着いた頃。周平はまだ就職するには安心できない環境だと、呟いた。
世界が不況を乗り越えた頃。周平はもう少しで職を探すと話していた。
周平は自身に与えられた部屋から出ることがなくなっていた。それは職を辞してから5年経った頃。
それからまた5年。FALLGUYSでクラウンを取り、喜ぶことだけが周平に残された最後の感情なのかもしれない。
セウタ・ゴールドワンも、翼子も、働くことのできる年齢はとうに終わっており、それはこの生活の終わりも近づいていることを意味した。
静寂が続いた時間を終わらせるかのように、その日初めてセウタ・ゴールドワンは口を開いた。
「明日、俺がやるよ」
黄金色に輝く夕焼け空に、虻山の驚愕した声が溶け込んでいった。
髭面の首は、魔転車の籠に。カレーパンを添えられていた。