越前
リョウカは親衛隊のカエデとカナデを連れて国内の視察に向かった。越国は大きく分けて越前、越中、越後の3つの地域に分けられている。越前、越中は3日、越後は5日で周れる広さだ。決して大国ではない。西の方では馬という動物を使ってあっという間に移動できるそうだが、越国にはいない。いたとしても山の多い越国では邪魔になるだけであろう。ちなみに越国の都は越中の真ん中にある大越である。視察は越前から越中、越後の順である。戦いの最前線になるであろう越前を真っ先に視察する必要があった。
「二人はなぜ武人になったのだ?」
越前へ向かう道中リョウカはカエデとカナデに聞いた。
「そーですね~。やっぱり米づくりしたくなかったのと戦う男たちがかっこよかったからですかねぇ~」
カエデがのんびりとした口調で答える。リョウカよりも一つ上の21歳であるが14の時から戦場で戦い続けていた。16のときの山賊掃討作戦の時は、村娘のふりして本拠地まで誘拐され、山賊を斬りまくったそうだ。単独での行動を好み、武官としての位は高いものの部下はおらず、遊軍として活躍していた。
「わたしはこの国を敵から守るためです。」
カナデははきはきとして答えた。カナデは19だがリョウカよりも大人びているように見える。孤児として先王の屋敷で育てられたカナデは、幼少のころから剣の技術を叩き込まれ、今では神の子といわれるほどの実力を持っている。大和の襲来時には志願して参加し、敵将を二人斬った。
「そうか、私の親衛隊だと戦場で戦うことは少なくなるが不満はないか?」
「アタシはどこでもいいですよ~米づくりしないなら」
「わたしもカエデさんとは違いますが、不満はありません」
「アンタ言ってくれるじゃん~~」
「事実を言ったまでです」
カエデとカナデの相性はあまりよくないようだ。
こうして旅をしているうちにしているうちに、越前に入った。大越からは徒歩で1日の距離だ。戦いになったら最前線になるわけであるから、国力が集中して投入されており、けっして貧しくはない。
「我が君、ようこそおいでくださいました」
越前を任せている文官と武官の出迎えを受ける。
「ガコウ。久しぶりであるな。元気そうで安心したぞ」
越前の最高司令官は武官のガコウである。幼少期にはリョウカの師匠でもあった。
「我が君もお変わりなく。先王の死に目に会えずお許しください。」
「越前は常に脅威に接しておるやむをえまい。何か変わったことはないか。」
「ええ、特には。しかし、やはり兵士が足りませぬな。ヒロ殿から兵力増強と屯田兵の採用の話が伝わりましたので、今大急ぎで行っているところです。」
「うん。頼んだぞ」
歓迎の宴を行った翌日、早速ガコウに国境へと案内をさせた。
「この砦が我が国の入り口です。そしてあそこに見える関所からが大和になります。ご覧のように左には湖と山、右には海がありますので天然の要塞となっており良い立地になっています。しかし、逆にここを突破すると敵は越国内を自由に荒らしまわることができます。ここを突破されるわけにはいきません。」
「なるほど、ではこの砦から大越までに砦を8造る。ここを1の砦として大越の砦を10としよう。この冬に農民を雇って8砦を作らせよ。」
「農民は冬は基本的に自由ですからね。織物をするよりも雇われた方がありがたいでしょうね。かしこまりました。」
国民の負担の軽減と防衛力の強化を同時に進めることは案外難しい。国の財政が許される限り、報酬を与えなければならないだろう。先王は善政を敷いたとよく言われる。
しかし、大和の侵攻をはねのけたことで人気があるのであって、けっして国民の負担が軽かったわけではない。人気者の先王が死に、国民が自分たちの負担の重さを自覚するのも時間の問題だ。それまでに何とか、軍備を整え、国が豊かになる礎を築いかなければならない。
ふと、向こうの大和の地へと行ってみたくなった。なぜ大和はあんなにも大国で、豪族の連合という不安定な国家を維持することができるのだろうか。
リョウカはガコウに言った。
「庶民の服を3人分用意せよ」