周辺国
~大和国~
「大王!越国のリャオが死んだようです!!」
バタバタと廊下を走る音が聞こえた後姿を見せたのはモノノベのオコシである。
大和国は周辺国と違って大王を中心とした有力部族の連合体であり、モノノベ一族はその中で軍事を担当していた。
「リャオがいなくなって越国が混乱している今が絶好の機会です。総力を挙げて滅ぼしましょう!」
すると、大王に話していた人影が振り返る。
「はぁオコシ殿。いまあなたは西で備の国と戦っているはずでは?」
その人影はソガノイナメ。大和国において内政を担当していた。
「イナメ殿!越王リャオの死亡を聞いていてもたってもいられず戻ってきたのだ!!」
「戻ってきたって…あなた、自分勝手な行動は慎んでいただきたいものだ」
イナメはあきれたようにつぶやく。
「まあよい、もう戻ってきたのだからいまさら言っても仕方ないであろう」
大王はこう言ってオコシを座らせた。
「いまオコシから越の国侵攻の主張があったが、みなはどう思うか。」
「私は反対です。」
イナメが真っ先に主張した。
「ここのところ戦が続き大和国の民は疲弊しきっております。しばらくは内政に力を注ぎ国力を増した後に戦えばよろしいかと」
「王がなくなって混乱している今が絶好の機会だといっているのになんだそれは!!」
オコシはいらだったように叫ぶ。
「私も反対です。備の国や東海国といった周辺国はまだまだ力が残っています。越の国に出兵した隙に攻め込まれたらひとたまりもありません。」
オオトモノカネムラも主張した。
「それに、もうすぐ冬です。越の国は寒さが厳しいと聞きます。雪が降って越の国から出られなくなったらどうしますか。」
「むう…」
オコシもこれには反論できなかった。
「よろしい。今の出兵は認めない。その代わり冬が明けたら越の国に侵攻することにしよう。」
大王は両者の意見をまとめて春の進行を約束した。
~東海国~
「リャオが死んだだと!」
東海国の王タシムは茫然とした。周りの部下もざわついている。
東海国は越国と南北の隣国である。しかし、境界には大きな山脈がそびえていることと、西に強大な大和国があることから、両国は友好的な関係を築いていた。
万が一、越国が大和に侵略された場合、東海国は大和に挟まれてしまう。これは何としても避けなければならなかった。
「次の王はだれだ?」
「リャオの娘のリョウカがなったようです」
「ほう」
リャオの息子のリュウガは有名である。一人で敵陣に突っ込み大将を討ち取ったとか、待ち伏せして襲ってきた部隊を返り討ちにして全滅させたとか、逃げる鹿を走って捕まえたとか、嘘かほんとかわからない逸話が残っている。
しかし、リョウカは聞いたことがない。というかリャオに娘がいたことすら初耳であった。
「誰か越国に使いに行ってくれないか」
「わたくしにお任せください」
「タロか、商人のお前なら人を見る目もあろう。リョウカの実力を調べてまいれ。もし、無能であったらリャオの弟リャギを越国の王として支持することにする」
「かしこまりました」
会議の後、だれもいなくなった部屋でタシムは越国のある北を見ていた。
「大和を幾度となく返り討ちにしたリャオが死んでしまうとは…最低の事態だ」
~越南~
越国の中で東海国との境界である山脈の下は越南と呼ばれる地域である。
「兄上が死んだか」
リャギは館の中でつぶやいた。
越国の中であるが、リャギが支配する越南は他の地域とは一線を画していた。治めている役人はみなリャギの配下であり税もリャギの下へと届けられる。リャギはその税を活用して良質な兵士や武器を多数所有していた。
「あの豪傑がこうもあっさり死ぬとは病は恐ろしいな」
リャギは館の屋根に上り、領内を見回した。
もし、いま大和が攻めてきたら越国は勝てないだろう。その場合私はどうなるのだろうか。
もし越国の一員として戦えば、大和に許されないだろう。
しかし、越国はこのまま私を放っておいてくれるだろうか。兄上の葬儀にも行かず、越南を我が物顔で支配している私を許すだろうか。
大和よりも先に私をどうにかするのではないか。
まあよい。その時は私は私のために全力で相手をするのみだ。
新しい王はリョウカになったという。兄上は人を見る目は確かなようだな。彼女はもう20歳になったというが、恐らく立派な王になれるだろう。しかし、いかに有能な王といえども越国で大和に対抗するのは限度があるのではないか。
私は大和と越のどちらの味方になるかしばらく様子を見ることにしよう。