マンドラゴラと品種改良
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料理祭の優勝お菓子が届いていた。私も投票したあのピンク色のプリンが優勝したらしい。
プレゼントボックスから受け取ると画像で見たときよりも可愛いプリンが現れた。
おー、ぷるぷるだ。
このピンクの正体はなんだろう? えっと、パースニップのプリン グロゼイユ添え……グロゼイユは赤スグリだっけ。
パースニップはうちのかもしれない。このプリン品質高めだし、一定時間防御力上昇ついてるし。
早速食べてみようとダイニングテーブルに座ると、キッチンから1体のマンドラゴラが寄ってきて、ひとくち食べたいと主張してくる。
君、口無いでしょ?
小さいけどちゃんと口あるって?
小指の先ほどのひとくちをあげると、葉を大きく震わせてぴょんぴょんと跳ね出した。
マンドラゴラが踊るくらい美味しいのね。
私もスプーンでプリンを掬って口に運び、多幸感に酔いしれる。
酸味と甘みのバランスがちょうど良く、口の中にいれると軟らかすぎず固すぎない絶妙な舌に嬉しい感じの弾力。
この料理作った人、とても腕がいいんだろうなあ。優勝してる人だし当たり前だけど。
こうやって優勝した作品がもらえると、直接参加できないカテゴリのイベントでもあまり疎外感を覚えないし、投票して良かったなあと思うね。
他のカテゴリのときもこういうのあるといいな。
さて今、種マシンの前までマンドラゴラたちに連れられてきたわけですが、なんでしょうね。
どうやら道具に加工できる、うんと硬いパースニップが欲しいらしいですよ。
食べられない方向への品種改良は最初から発想がなかったな。
そもそもどんなに硬くしても作物なのだからいずれ腐るのでは?
あとマンドラゴラを触媒にして硬さの限界を超えようとか気軽に伝えてきて怖い。
希望通り品種改良画面を開くと、触媒の効果かいじれる上限値や項目が増えている。
周囲のマンドラゴラたちから、背中を押すような圧を感じる。
意を決して硬さの項目をぐいっと限界まで上げて品種改良を実行すると、作業完了まで2日と初めて見るかなり長めの期間表示。
現実時間で半日か。
私はこの後ログアウトして寝るけれど、出来上がったらマンドラゴラたちが責任をもって育てるらしい。
確かに要望を出したのはマンドラゴラたちだから私が育てなくてもいいのか。
しかし今の作付け比率を変えるのも面倒なので、新たに農地を増やして、作物を育てたいマンドラゴラ用スペースを作ることにした。
「どのくらい欲しい? とりあえず80マス? 結構がっつりやりたいのね」
お金もスペースもあるので、そのまま要望を飲む。
場所の確保はするけど耕すのも蒔くのもマンドラゴラに任せよう。
「畑作業用の道具も置いて行くから、これ使ってね」
マンドラゴラたちは任せてと言わんばかりに葉をわさわささせている。
一体どんなパースニップができるのだろうね?
「確かに任せたけれど」
私の目の前には金属の光沢をもつ8種類の種と、種と同じ輝きの8種類のパースニップと、そのパースニップをマンドラゴラたちで加工した8種類のインゴットが並べられている。
インゴットって。手のひらサイズだけどインゴットって!
よく鍛冶場にいる子が誇らしげにしているけど、私別に褒めてないからね?
「確かにこれなら腐らないでしょうけど」
パースニップ・アイアン、パースニップ・ブロンズ、パースニップ・シルバー、パースニップ・プラチナ、パースニップ・ゴールド、パースニップ・ミスリル、パースニップ・アダマンタイト、パースニップ・オリハルコン。
ミスリル以降は知らない金属だけれども、試しに確認した作物売価がマンドラゴラより高い時点でこの世界の稀少金属なんだろうなあというのはわかる。
「金属を短期間で畑から収穫できるようにしちゃうのは、流石にまずくない? ウィンターロックで採掘してる人たちが失業しちゃうでしょ」
基本的には売らないでここで全部消費すると言うけれど、そんなに何を作るの。
やはり私を倒して下剋上狙いなのか。
悪いことは絶対しない、と言うけどねえ。
「信じるけど、また品種改良したいって言われても、今度はすぐにOKしないからね?」
演技じゃなければマンドラゴラたちは私のことを好いているようだし、私も言葉にはしないけれどそこそこ愛着を持っているので、若干甘い判定になっている気はする。
甘くなりすぎないよう気を付けねば。