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ブティック訪問と初着替え

 人気少ない細道を地図の通りに辿っていくと、隠れ家のようにひっそりと佇む小さなブティックがそこにあった。

 商売的に大丈夫なのかな、ここで。


「いらっしゃいませ」


 ドアを開けるとヒゲをたくわえて紳士の装いをした店員さんが声をかけてくれた。


「初めまして、ドードーと申します。プロバさんの紹介で来ました。こちらにクリエさんという方はいらっしゃいますか?」


「私が店長のクリエです」


 そう答えたのはさっきの紳士で、プロバさんの友人として想像していたのが若者だったので驚いた。

 でも商売で意気投合すれば年が離れていても親しくできるんだろうな。


「あなたがクリエさんでしたか。クリエさんが草木染めの材料を探しているとお聞きしましたので私が作っているピンク色の野菜を持ってきました。どうぞお受け取りください」


 ふっくらとしてピンク色のパースニップ・ビートを手渡すと、クリエさんは少年のように目を輝かせはじめた。


「こちらを譲ってくださると? とても品質が良く、市場には出回っていないものとお見受けしましたが」


「そうですね。でも私の育てた野菜ですが、折角なので別の形で活躍するところを見てみたくなったんです」


「ではありがたくいただきます。早速試してきても?」


 新しい挑戦にわくわくしてる人間を目の前にして止められる訳がない。

 小走りで奥へ引っ込むクリエさんを見送っておく。


 店内を見回すと、様々なデザインの服が並んでいるので、未だに最初から着ている布の服の私は、場違いというか浮いているような気がする。

 余裕ができたしそろそろ着替えてもいいかもしれないけれど、普段の私服の評判の悪さを考えると、無難にまとめるっていうのができなさそうだ。

 せめてマネキンがあれば仕事着を買うときの必殺「マネキンの服一式ください」ができるというのに。


「エクセレント!」


 半分くらい意識が空中に漂っていたので、奥から聞こえてきた声に驚いて、若干体が浮いた気がする。

 なにがエクセレントだったのか?

 日常では叫んだりしない言葉だよね。


 そしてまた意識が飛びかけた頃、奥からクリエさんが戻ってきた。


「これは大変なことになりますよ!」


「染めるの駄目でしたか?」


「いいえ、色は理想的です。私が探し求めていた淡い春の色を出すことができました」


 それなら良かった。で、大変というのはなんだろう。


「だけど、これはもう産業革命です!」


 あ、クエスト名が回収された。


「これは実際に染めたスカーフなんですが、ちょっと見てもらえますか?」


 そう言って手渡されたのは、見るだけで心が弾むような淡いピンク色のスカーフだ。

 確かにこれは春の色って言われたら納得する色合い。


 えっと「春色のスカーフ」防御力+5……時間で体力自然回復?


 見てもわからないから比較対象が欲しいな。

 店に並べられている他のスカーフを確認する。

 防御力なし、防御力なし、防御力なし……うーん……効果付きのパースニップ・ビートを染料にすることで元々なにも効果も防御力もなかったスカーフが変化した?


 服も確認してみるけど、どれもスカーフと同じようにただの服でしかない。


「すみません、服の事情に全く詳しくないのですが、かなり大変な事態ということでしょうか?」


「ええ、今まで服でしかなかったものが防具として機能する可能性が出たというだけで大発見です。しかも体力自然回復とは! これを産業革命と称さずになんと言えばいいんですか」


 確かにそれは産業革命かもしれない。

 今までとこれからで服のありようが変わってしまうわけだし。


「まだ研究は必要ですが、将来的にポルカの街は他の地域からも人が集まり、発展する可能性も出てきました。どんなに高くても構いませんから定期購入の契約を結ばせてください!」


「そんな、今持ってる分だけならお譲りしますから、研究結果がきちんと出るまで定期購入とか言わないでください。これ本当に高いので、もし結果が出なかったらクリエさんは大損してしまいますよ!」


 今持ってる分を渡すくらいならなんでもないし。

 なんなら今80個くらい持ってるからしばらく困らないと思うよ。


「結果は絶対に出ます! きっとこれは精霊様のお導きなのです……ただ心配される気持ちもわかりますので、この近くに店をかまえる別の職人の店でもテストをして、そこでもなにかしらの効果が出れば定期購入させていただくということで如何でしょうか?」


 鬼気迫るこの様子を見るにかなりの確信を持っているのだろう。

 まだクエスト中だし、ここは従っておこう。


「わかりました」


「では早速、といきたいところですが、その前に材料を譲っていただいたお礼をしなくてはいけません。私の見立てになりますが服を一式プレゼントさせていただきます」


 疑問に思う暇もなく、私の手の中にプレゼントボックスが現れた。

 遠慮しようにも断れないというやつですね。


 開けてみると中から出てきたのは、装飾がなくとてもシンプルだけど裾がふわっと揺れるクリームホワイトのワンピースと、若草色に染められたエプロンだった。

 これってもしかして、パースニップをイメージしたのだろうか。

 いただいた服を試しに選択してみると、初めての着替えは一瞬だった。


 わりとしっかりした素材でちょっと無骨にも見えるエプロンだけど、ワンピースと組み合わせることでナチュラルな可愛さみたいな雰囲気になる。

 これはかなりいいかも。


「紺屋の白袴、ではないですが、ずっとパースニップにばかり向き合っていて見た目は二の次にしていたんです。でもこれならもっと早く服を見に来ればよかった」


「それは服屋冥利に尽きますね。それと先程染めた春色のスカーフもどうぞ」


 スカーフを首回りに巻くのはなにかしっくりこなくて、バンダナのように頭に巻いてみる。

 これでちょっと防御力が上がったのかな?


「とてもよくお似合いですよ。ではお礼も渡せましたし、早速知人の職人の店へ向かいましょうか」

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