初めての出会い
俺はタカと髙野宮さんと一緒にアニメを見ている。
これは今、うちの小学校でも流行っているアニメだ。ざっくり言うと、ロボットに乗った主人公が、様々な困難を乗り越え世界を救うという内容。
とにかく、このアニメに出てくるロボットが格好いいんだよな。男心を全力でくすぐってる、完全に男の子向けのアニメなのだ。
当然、女の子の髙野宮さんは見ていて、そんなに楽しいものではないのだろう。その証拠に、さっきからアニメを見ずに、ワクワクしながらテレビ画面にかじりつくタカを眺めている。眺めていると言うよりも、タカしか見ていなかった。
(……髙野宮さん、タカのこと絶対に大好きだよな)
俺にでも分かる。
態度が露骨過ぎるのだ。
別にそれが嫌と言う訳ではない。ここまでいくと、むしろ応援したくなるのだ。タカは鈍感だから、こんなに態度で表しても言葉にしないと伝わらない。いや、言葉にしても「友だちとして好き」と能天気なタカは思うんだろうな。何となく想像ができる。
(ほんと罪なやつだよ)
タカと俺は物心つく頃から、ずっと一緒だった。
幼稚園も一緒でお母さん同士も仲が良い。親友だと思ってる。タカもそう思ってくれていると自信を持って言える。
黒髪の短髪で結構見た目は格好いいのに、目付きが悪いから同じクラスの子達から怖がられている。でも、本人はそんなことはいたって気にしていない。飾らない性格で、少し強引なところもあるが、困ったときには必ず助けてくれる本当に良いやつなんだ。俺はタカのことを一番分かっていると自負している。
だからこそ、髙野宮さんは俺のことを気に入らないのだろう。
タカは俺と一番仲が良いし、放課後は毎日のように俺と遊んでいる。
タカのことが大好きな髙野宮さんからしたら、良い思いがしないのは当然だ。まあ、とばっちりも良いところだが。
***
「いやー、今回もめちゃくちゃ面白かったな! 特にホワイトソルジャーがかっこ良かった! 敵を光線銃で撃ち抜くところがもうヤバい最高!」
「俺はブラックファング派だな。こう敵をズバッと切り裂くところなんてかっこ良すぎだろ!」
「ブラックファングも良かったな! クールなヒーローって感じがする」
俺たちが感想を言い合っていると、横から視線を感じた。髙野宮さんがこっちを恨めしそうにめっちゃ見てる。
ぐぅ、俺も途中からアニメに夢中になってすっかり忘れてた。視線が痛い。居心地悪いにもほどがある。
さすがにタカもその視線に気付いたようで、髙野宮さんの顔を見た。そして、にかっと笑う。
「アニメ見させてくれて、ありがとな! すげー、面白かった。撫子のおかげだ!」
「……貴弘さん」
「でも、悪い。女の子にはつまらなかったろ?」
「そんなことないわ。貴弘さんが喜んで下されば、私も嬉しいの」
「そっか。お前、ほんと良いやつだな」
タカは嬉しそうに、髙野宮さんの頭をくしゃりと撫でた。髙野宮さんは顔を真っ赤に染めて、微笑んだ。
タカにそんな気持ちがあるわけがないことは、分かっている。分かっているが、ナチュラルにイチャつかないで欲しい。
そう思っていると、襖がゆっくりと開かれた。
「貴弘さんに圭一さん、良く来てくれたわね」
着物姿の綺麗な女性が、お茶とお菓子を持って入ってきた。
「こんにちは、おばさん!」
「髙野宮さんのお母さん、お邪魔してます」
「うふふっ。はい、こんにちは」
机の上に、お茶とお菓子を置いてくれる。
「ゆっくりしていって下さいね」
優しい声音でそう言って、部屋を後にしようと後ろ向いた。その時、俺はおんぶ紐で背負われている赤ちゃんに気が付く。
「……赤ちゃんだ」
俺の呟きに反応して、振り向いた髙野宮さんのお母さん。
「あら、圭一さんは初めてだったのね。この娘は、撫子さんの妹で椿と言うの」
「……椿ちゃん」
俺が名前を呼ぶと、椿ちゃんはきゃっきゃっと笑った。
「ふふっ、仲良くしてあげてね」
「はい!」
即答する。
俺、一人っ子だから兄弟が欲しかったんだよな。全力で可愛がろう。
「あの、触っても良いですか」
「ええ、勿論」
許しを得て、俺は椿ちゃんを撫でる。椿ちゃんはつぶらな眼で俺を見つめて、俺の指を握った。小さくて柔らかい手だ。俺は妙に感動する。守ってあげたくなる。
「あら、椿ちゃんったら圭一さんのことが気に入ったみたいね」
そんな言葉を聞いて、嬉しくなった。
赤ちゃんって、本当に可愛い。
妹っていいなぁ。
俺もひと目で、椿ちゃんのことが気に入った。