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一番欲しい物

 




 レディースフロアで散々服や小物を見て回った。しかし、これといった物は見つからず、フロアを変えて俺たちが最終的に行き着いた場所。それは、文房具屋であった。


 椿ちゃんは小さな身体を揺らして、一生懸命プレゼントを探している。ちょこちょこと動く姿が小動物みたいで可愛い。ずっと見ていたいが、そうも言ってられない。


 さあ、椿ちゃんのために頑張りますか。

 自身を奮い立たせる。良しやるぞ、っと歩きすぎて軋む足を気付け代わりに掌で叩いた。


(頑張る……って言っても、これがなかなか難しいんだよなぁ)        


 俺はそもそも、髙野宮さんの好きなものなんて、タカ以外知らな……あっ、うん。その手があったか。


 ――ぴこんっ!


 頭の上で電球が輝いた。


 エウレカっ、っと叫びそうになる口を押し止めて、俺は店内を回って品物を探す。数分もたたずにお目当ての物を見つけることができた。それを手に取り、すぐさま椿ちゃんの元に戻り声をかける。


「なぁ、椿ちゃん、俺これが良いと思うんだけど」

「……えっと、シャープペンシル、ですか?」


 椿ちゃんは目を丸くして首を小さく傾けた。その動作に癒しを覚えながらも俺は頷いて肯定する。


「ああ、シャーペンだ。種も仕掛けもない、正真正銘ただのシャーペンだ。学生の懐にも優しい値段。ワンコインで買えるぞ。加えて、デザインは全く遊びがない。シンプル・イズ・ベスト。柄は赤・青・緑の3色のみ。ちなみに、俺のオススメは青色だ」

「ええっ」


 捲し立てあげる俺に、たじろぐ椿ちゃん。困ったように瞳を揺らし、上目遣いで俺を見る。


「お、お兄ちゃん。撫子姉様に、これをその……」


 そこまで言って、椿ちゃんは口をつぐんだ。きっと、気を使ってくれたのだろう。客観的に見ても、プレゼントとしてアウト。客観的に見なくてもアウト。


「いいか、椿ちゃん良く聞いてくれ」

「は、はい。お兄ちゃん」


 俺が静かにそう言うと、椿ちゃんは戸惑いながらも姿勢を正した。覚悟を決めた表情。いや、別にそこまで構える必要はないんだが。でも……まぁ、可愛いからいっか。俺は即座に納得した。俺が女なら全肯定チョロインと化していたわ。あれ? でも、それって男の俺と同じじゃね? 


「……お兄ちゃん、どうしたのですか?」

「あ、ああ、ごめん。ちょっと意識飛ばしてた。それよりも、このシャーペンを髙野宮さんのプレゼントに選んだ理由なんだが」

「はい」

「タカが使っているからだ」

「えっ?」

「……椿ちゃん、俺は髙野宮さんに贈る最適なプレゼントなんて分からない。でも、椿ちゃんも言ってただろ? 髙野宮さんにとって、一番はいつだってタカなんだって」

「なるほど。つまり、貴弘兄様とお揃いの物をプレゼントすると言う訳ですか」

「うん、その通り」


 数秒置いて、分かりましたと椿ちゃんは頷いた。あまりにもあっさりとした返答に少し拍子抜けする。


「えっ、自分で言うのもあれだけど、これでいいの?」

「はい。大丈夫です」

「本当に?」

「ええ。だって、お兄ちゃんは撫子姉様が絶対に喜ぶと思っているのでしょう?」

「勿論。髙野宮はそういう人だ」


 それは予想ではなく、確信だった。

 タカが好き、というかもはや愛している彼女が嬉しくないはずがない。それにタカのことを抜きにしても、髙野宮さんは妹である椿ちゃんのプレゼントがなんであれ喜ぶだろう。彼女は身内にどこまでも甘い。タカ以外の人間に対する愛情表現が、不器用で分かりにくいからこういうことになるんだ。色んな意味でひねくれている。まあ、だからこそ、飾らないストレートな生き方をしているタカに惹かれるのかもしれない。


「……圭一お兄ちゃん。私はこの世界で一番お兄ちゃんのことを信じています。だから、お兄ちゃんがそうおっしゃるなら何も心配ありません」


 静かに、しかし、はっきりと椿ちゃんは言った。俺からシャーペンを受け取り、ふわりと微笑む。ああ、なんて優しい笑み。


 ――とくり。


 鼓動がなった。


 胸に手を当てて、思わず首を傾げてしまう。何故このタイミングでドキドキしたんだろう? あまりにも妹分が尊すぎて、俺の心臓が馬鹿になったのだろうか。きっと、そうに違いない。


「そ、そっか」

「はい。では、お会計に行って参ります」

「うん。俺ここで待ってるね」


 会計に向かう椿ちゃんの後ろ姿を見送って、安堵の溜め息をつく。何はともあれ髙野宮さんのプレゼントを選ぶと言う高難易度のミッションはクリアできた。誇らしい気持ちになる。



 ***



 帰り道。


 椿ちゃんと手を繋ぎながら、ゆっくりとした歩調で足を進める。冷たい風が間を通り抜けた。先程まで暖かいところに居たおかげで、身体が暖まりまだ耐えることができた。


「椿ちゃんまた髙野宮さんの反応を教えてくれよ」

「はいっ、お任せ下さい!」

「うん。任せた」


 椿ちゃんは大きく頷いて、俺の手をきゅっと握った。その仕草が可愛くて、俺はどうにかなってしまいそうだった。


「そういや、まだ先だけど椿ちゃんは誕生日何が欲しい?」

「えっと、ではお兄ちゃんが使っているものと同じシャープペンシルを」

「いやいや、髙野宮さんじゃあるまいに。もっと、わがまま言ってくれて良いんたぞ? お兄ちゃん、ちゃんと頑張るから」

「……私、お兄ちゃんのそういうところが駄目だと思います」

「ええ、何でっ!?」


 つーん、と拗ねた顔で椿ちゃんは俺を睨んだ。本当に何で。ますます意味が分からない。そんな困惑顔の俺を見て、椿ちゃんは仕方がないですね、と微笑んだ。


「私は……お兄ちゃんからのプレゼントならどんな物でも嬉しいです。ちゃんと覚えていて下さいね」


 そう呟いた椿ちゃんの頬は真っ赤に染まっていた。





更新遅れてすいません!


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