14話 犠牲者1号
アレーシャの宇宙船が攻撃を受けている頃。兼次は右手を上げて、人差し指から光弾を宇宙船に向かって連射していた。
「降りてこーい!」
「降りてこーい、いえーい!」
兼次が叫ぶと、隣のニアが尻尾をフリフリさせ右拳を上下させ、兼次の言葉を復唱していた。
「降りて来いと言うより、落ちてきそうな勢いだけどね」
と、呆れ顔の麻衣。そして半口を開けているアディとロディは、その光景を見ていた。兼次の力を知っているリディは、父と兄の見た事のない表情を見て複雑な気分をしていた。
光弾が宇宙船に当たる爆発音で、村中の人々が兼次の元に集まってくると、全員がアディとロディと同じ様に兼次達を見て固まっていた。その中の一人の男性が、上を見上げ宇宙船に向かって指を向けた。
「おい、あれ… 近づいてきてるぞ!」
兼次は宇宙船が近づいているのを確認すると、攻撃をやめた。宇宙船は徐々に地上に近づき、兼次達の10mほど先の空き地に着陸した。全長20mほどの円形の宇宙船である。中央の一部分が割れると、地面に降りる階段が出てきた。その中から、アレーシャが姿を現した。
アレーシャは兼次の姿を見ると、素早く走って彼の元にたどり着き膝を地面に着け彼に頭を下げた。
「申し訳ありません。けっして、けっして監視していたわけではありません」
「その程度で怒らねーよ」
兼次の隣にいるニアは、アレーシャと兼次を交互に見比べ始めると、兼次に問いただした。
「かっちゃん、神様が頭下げて・・・」
「ニアよ、神など存在しない。いや、存在しないなら、私が神である」
「まじなのー!」
「まじだ、敬えよ?」
ニアは兼次を、尊敬の眼差しで見始めた。そんな2人を冷ややか視線で麻衣が言った。
「はいはい、ドストエフスキーね。パクりね」
兼次は、素早く振り返り麻衣を見た。
「事実でしょ?」
「っく」
ニヤニヤ顔の麻衣を見た兼次は、不満の表情で再びアレーシャの方を振り返る。
「お前、名前は?」
「はっ、アレーシャと申します」
「アレーシャよ、事情は知っている。教団本部はいつ頃来る?」
「はい、明日には到着いたします」
「明日か・・・ 早いな・・・」
「この惑星には、ゲートが設置されていますので・・・」
「まぁ、そんなことはいい。アレーシャ、スーナの種籾持ってないか?」
アレーシャは、スーナの種籾と聞いて驚き、顔を上げて兼次を見た。表情は変わらなかったが、見上げたまま固まっているようで、驚いている様子だった。
「持っているのか? と聞いている」
「っは、はい。持っております」
「買い取るから、売ってもらおう」
「は、はい・・・ 問題ありませんが・・・」
アレーシャは、どうやって取り入るかを考える間もな兼次の前に来た。ゆえに何を言おうか迷い、兼次を見たまま黙り込んでしまった。
「どうした?」
「な、何でもありません。取ってまいります」
アレーシャは立ち上がると、重い足取りで宇宙船に向かって歩き始めた。アレーシャが宇宙船に入り姿が見えなくなると、麻衣が話しかけた。
「アレーシャさん、何か言いたそうだったけど?」
「惚れたのか・・・ だが、爬虫類は抱けないな」
「違うと思うなー、なんか思いつめた表情だったよ?」
「俺には違いがわからないな。ニアは、何か感じたか?」
「うんーー、わかんない」
兼次はニアの頭を撫ぜる、その行為にニアは笑顔で答えた。
「なあ、お前は本当に何者なんだ? あれと知り合いとか・・・」
アディが兼次に話しかけた。兼次は振り返り、アディを見る。
「一言で言えば、至高の存在かな」
「しこうの・・・ そうざい? 食い物か?」
「惣菜じゃねー、存在だ。お前らは、教養レベルが低すぎだぞ。いいかアディ、俺は世界で一番偉い、そして最強だ。そして、お前たちは俺の側にいるだけで、永遠の繁栄が約束されるだろう」
「想像できんな・・・」
そこに麻衣が、2人の会話に割り込んできた。
「拳で語りあえば、全て解決よ! バトルイベントだね」
「アディ、気に入らないなら、いつでもこい! 相手になってやる」
「村の連中に、そう言う考えの者もいるのも事実。いずれ、そう言う事になるかもな」
そんな会話の中、宇宙船の出入り口にアレーシャが現れた。両腕に2個ずつ大きな袋を抱えていた。それを見た麻衣が、兼次に話しかけた。
「なんか、凄い軽そうに持ってるね。あんな細身の体で」
「さすが、爬虫類と言ったところか」
アレーシャはゆっくりとした歩調で、兼次の前にたどり着くと抱えていいる袋を地面に置いた。袋は大きく膨れ上がっており、軽く見積もっても1袋60kgはありそうな大きさであった。
「お待たせしました」
アレーシャは、そう言うと再び跪いた。
兼次はポケットの小袋を出し、中から豆金を1個取り出すとアレーシャの前に手をだした。
「ほら」
アレーシャは手を出すと、兼次の手から豆金が転がり落ちた。彼女は、それを見て半口を開け兼次を見上げた。
「え?」
後ろから麻衣が、その光景を覗きこみ兼次の耳元でささやく。
「うわー、現地のお金で払うんだ、しかも豆金1個。アレーシャさん、可愛そすぎ」
兼次は顔を横に向け目だけで麻衣を見た。麻衣に言われたように豆金1個の支払いでは、さすがにマズいと感じたのか気まずい表情を浮かべた。
「アレーシャ、持ち合わせがそれしかないのでな。何か欲しいものがあれば、用意しよう」
アレーシャは、その言葉を待っていたかのように語り始めた。自身の生い立ち、種族の連合での立場を詳細に話した。しかし、兼次は話が長くなりそうに感じ、途中で遮った。
「回りくどいな、簡潔の延べろ」
兼次は強い口調で言うと、アレーシャは体を震わせ頭をさらに深く下げた。
「はい、一族一同配下に加わえて頂けないでしょうか」
「なるほど、教団を通してじゃなく、直接は部下になりたいわけか」
「はい」
「わかった、加えてやろう」
「ありがとうございます」
そんな光景を見ていた麻衣は、アレーシャに聞こえない程度の小声で独り言を言った。
「あーあ・・・ 丸投げ王の被害者が、これから大変だよー・・・」