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銀色の雲  作者: 火曜日の風
6章 異世界冒険譚?
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10話 それぞれの思惑 1


 森林に囲まれた村、収容所から男どもを無事助けただした兼次達。村の中央に奪ってきたベッドを2つ並べて置き、スマホを眺めながらくつろいでいた。兼次の隣にはニアが、その隣のベッドに麻衣が居る。


『キヤァァァァーーー!!!』


 兼次の鑑賞しているスマホから、瑠偉の甲高い悲鳴が村中に響き渡った。その画面には、驚いた瑠偉が尻餅をつく姿が映し出されていた。

 スマホ画面の瑠偉は、立ち上がれなかったのか、手と足を器用に動かし後ずさりを始めた。


「見ろよ、某映画並みの背面四足歩行! 傑作だな」

「おおー、すごいすごい」


 兼次の横には、収容所から連れ去ったニアが、兼次に体を寄せてスマホ画面を釘居るように見ていた。


「おおぉー、瑠偉ちゃんてば意外と早く動けるのね」


 少し離れた場所の、もう一つのベッド。麻衣が寛いでいるベッドである。そのベッドに横になりながら、同じようにスマホ画面を眺めていた。


「でもさぁ、策略バレてるけど? ここから、どうやって好感度上げるわけ?」


 麻衣は横の兼次に尋ねた。そこにはニアの腰に手を回し、引き寄せながら幸せな笑顔の兼次が、目に入ってきた。麻衣の右眉が小刻みに動くいた。


「ねえ、聞いてるの?」

「聞いてるよ!」


 兼次は麻衣の方を見て、ニヤリと口元で笑った。


「ララに持たせた指があるだろ。あれを投げて獲物をしとめた後、その指は瑠偉に向かって勢いよく戻ってくる。そして、その指は瑠偉のスカートをまくり繰り上げパンツが丸見えになる。それを目撃したレッグは、興奮して瑠偉に襲い掛かるわけだ。そこに俺が登場して、助けるわけだな。好感度バク上がり、と言う訳だ」

「なるほどねー、そんなに上手くいくのかなー、世の中甘くないんだよねー」


 兼次と麻衣は再びスマホ画面に釘付けになった。


 後ずさりをした瑠偉は、レッグの元に戻って来た。起き上がると彼の後ろに周り、彼の肩に手を置いた。


『どうしたんですか?』

『レッグさん! あれです、でっかいカンガルーが!』

『カン… ガルゥ?』


 スマホ画面のレッグは、手で瑠偉をかばいながら彼女の視線の先を注意深く見た。そこには、道中に話していた、あの猛獣が姿を現した。


『なぜ…』


 レッグは腰を浮かせ、何時でも動ける姿勢をとった。視線を前方に維持しながら、小声で瑠偉に話しかけた。


『ルイさん、先に馬車まで移動して陰に隠れていてください』

『はい』


 レッグと瑠偉は、ゆっくりと立ち上がる。


『行って!』


 レッグは瑠偉を送り出すと、自身も背後を警戒しながら瑠偉の後を追う。馬車に到着すると、瑠偉は馬車の陰に隠れ体勢を低くした。レッグは、荷台から弓矢を取る。前方の猛獣は、それを確認したかのように動き始めた。勢いよく加速してくる猛獣、その足音は地響きとなってレッグと瑠偉を襲った。


 素早く弓を構えるレッグ、猛獣の体毛の少ない首元を狙った。右手に力を込め弓をさらに引く、限界まで引き延ばされた弓の弦。タイミングを見計らい、レッグは激しく動く猛獣の首元めがけて矢を放った。勢いよく飛び出した矢は、猛獣の首元に当たった。しかし、その矢は猛獣の皮一枚を貫いた程度であった。矢は地面に、虚しく落ちた。


『浅いか!』


 レッグに迫りくる猛獣、彼の目の前に迫ってきた。レッグは素早く、側面に転がり回避した。それを見た猛獣は、急停止し馬車にぶつかる寸前で停止した。そして、ゆっくりと首をレッグの方に向けた。


『ルイさん、逃げて!』

『えええぇ!」


 逃げてと言われた瑠偉だが、猛獣がレッグに向かって行こうとする姿。そして倒れて膝をついて猛獣と対面しているレッグを見て、助けようと思ったのか彼の側に駆け寄った。


『だ、大丈夫ですかっ』

『ルイさん、逃げて下さい。ここは私が、何とかします』

『で… でも』


 猛獣は方向を変え、レッグとルイと向かい合った。距離して、およそ5m程。猛獣の移動速度だと、何とか避けれる距離であった。息をのむレッグとルイ。それを合図にしたかの様に、猛獣は二人に向かって突進した。

 レッグはルイの体を、勢いよく突き飛ばした。


『きゃぁー!』


 瑠偉は悲鳴を上げ、飛ばされた方向に倒れこんだ。猛獣は口を大きく開けて、レッグに襲い掛かった。レッグは寸前の所で体をひねり、回避をしようと試みた。しかし、完全に避けきれず猛獣の体と、接触し後方に吹き飛ばされてしまった。


『レッグさん!』


 立ち上がった瑠偉は、レッグの危機を見て声を張り上げた。


『そうだ! ぶきぶき!』


 瑠偉は慌ててポケットに手を入れ、ララの小指を握りしめた。そして猛獣めがけて投げつけた。


『シネェ、コラァァ!』


 運動が苦手な瑠偉、球技の経験も学校の授業程度の瑠偉。小指は、猛獣へ向かわず瑠偉の目の前の地面に突き刺さった。


『ふあぁぁー』


 自分の失態に、思わず変な声を出す瑠偉。しかし、小指は地面を飛び出すと弧を描きながら、猛獣の頭めがけて進んでいき、頭を貫通した。体への指示を失った猛獣は、崩れる様にその場に倒れた。小指は猛獣の頭を突き抜けると、再び瑠偉に向かって地面に這う様に飛んでいった。そして瑠偉のスカートの下で、急上昇をした。


『きゃぁー!』


 小指はスカートを引っ掛けて、上空に飛んでいった。それと共にスカートは、綺麗にまくれ上がった。そして瑠偉は、素早くスカートを両手で押さえた。


『みっ、見ました?』


 瑠偉はスカートを押さえながら、レッグの方を見た。


『レッグさん?』


 瑠偉はレッグを呼びかけたが、レッグは地面に横たわっていて動かなかった。最悪の事を想像して、瑠偉は急いでレッグの元に駆け寄る。口元に手を当て、彼の息を確認する。


『よかったぁー、気を失っているだけかー』

 (しかし、スカート捲り上げとか… ララさんは余計なことを! 宿屋に帰ったら、文句を言わないとね! )



 そんなレッグと瑠偉の結末を、兼次は微妙な顔つきでスマホを眺めていた。


「はいはいー、ざんねんでしたー!」


 隣のベッドから身を乗り出し、麻衣が口だけで笑いながら兼次に言った。


「まったく… あそこで気絶するかー」

 兼次の隣のニアが彼にすり寄る「ざんねん、ざんねん」


「まぁいい… シネコラ! の部分は保存しておこう、何かに使えるかもしれん」

「久しぶりに、瑠偉ちゃんの素を見たわ。これは貴重な動画ね、永久保存だわ」


 兼次と麻衣は、瑠偉のスマホを操作して、瑠偉の素が出た部分を切り取り保存を行った。



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