9話 ピクニック 4
「久しぶりの純粋な甘み、そしてカロリーゼロ! 甘味サイコォー!」
瑠偉は地面から摘んだステビアの葉を口に含み、その汁の味を確かめていると、自然に声が漏れていた。
(しかし、これだけでは物足りないなぁー… ハーブティにするには、他の香りも欲しいですね。よし、帰ったら市場に行ってみましょうか)
「何しているんですか? 草なんて口にいれて…」
「ひやぁぁぁ!」
突然レッグに声をかけられた瑠偉、奇声を上げ背筋が伸び切った。素早く振り返りレッグを見上げ、気まずかった様で愛想笑いでレッグに答えた。
「これですよ! これ! ステビアです。これを水に入れて、沸かしましょう」
「すてびあ? 薬草ですか?」
「まぁ… 薬草みたいなものです」
薬草と聞いてレッグは、街で作っている薬草を思い出していた。煮出して作る薬草、自身も飲んだ記憶があり、とても苦いものであった。その事を思い出し、苦痛の表情を瑠偉に見せた。
「わざわざ、苦い飲み物を飲むですか?」
「あー、はいはい、違いますよ。これは甘いのです! 飲んでみれば分かります。私を信用してください」
「甘い… 蜜の様にですか?」
「みつ? 蜂蜜の事ですか?」
「はちみつ? とは?」
「えぇー… はは… その件は、またの機会に…」
瑠偉はレッグの考えている事と、自信で思い描いていることが、かねりズレていると感じた。苦笑いをし、考えこんだ。
(改めて、私達の世界とは、かなり違うと感じますね。味を伝えるのにも、一苦労ですね…)
「こんな時に質問攻めとかやめますね! じゃぁー、火を起こしましょうか!」
「そ、そうですね!」
レッグは革袋からスコップらしき物と、2つの拳大の石を取り出した。レッグは草をスコップでかき分け、周囲の草を掘り起こし地面を出した。更に革袋から繊維状に木片を取り出すと、その領域に積み上げた。
瑠偉は、着火剤の様な、燃えやすい木? かな? … と考えながら、その様子を観察していた。
レッグは2つの石を持つと、2つの意思をこすり合わせ始めた。
「え?」
瑠偉はレッグの持ってきた石は火打石で、その石同士を激しくぶつけあって、その火花で火を起こすと考えていた。自身の思っていた火の起こし方と違っていたため、思わず声を出してしまった。
「え?」
レッグも瑠偉の声で驚き、瑠偉の方を振り向いた。
「おかしいですか?」
「すいません… つい声が… その石は?」
火が起きる石。それが気になった瑠偉は、レッグに尋ねた。
「これは力石と言って、こうやって互いにこすり合わせて粉末にすると、火が起きます。しかも、これを持っているだけで力が湧くです。だから力石と呼ばれています」
そう言ってレッグは、右手に持っている石を瑠偉の目の前に差し出した。瑠偉は、その石を受け取ると、両手で包み込むように感触を確かめると。瑠偉の手には、石の温かい感触が伝わってきた。
「たしかに、温かいですね… 何もしないのに発熱する石ですか… 」
瑠偉は目を閉じて、力石を軽く握りしめた。
(たしかに、体の奥底から… なにやら湧きあがる力を感じます。こんなファンタジー的な石が、この世界に存在するとは… まてよ? たしか、この惑星の住人は…)
瑠偉は、そんな事を考えているうちに、一つの可能性を導き出した。そして思わず、声が出てしまった。
「ま… まさか… 放射性物質?」
「正解です。ウラン鉱石です。ウラン粉末の酸化熱で起きる、発火現象を利用するのでしょう」
瑠偉の耳元で、ララの小声が聞こえた。
「は、ははっ… お、お返し… します…」
瑠偉は微妙な顔つきで、レッグに力石を渡す。
「はい? どうしたんですか?」
「な、なんでもありませんよ。あっ、火が付いたみたいですよ」
瑠偉は地面を指さした。レッグの作った窪みから、白い煙か立ち込めていた。その煙の量は、次第に多くなると、オレンジ色の炎が姿を現した。レッグは革袋から直径30cmほどの鍋と、丸い鉄製の丈夫な網を取り出した。網を窪みに乗せると、その上に鍋を置き、水を注ぎ始めた。
「レッグさん、これを」
瑠偉は先ほど摘み取ったステビアを、レッグにそっと渡そうとした。レッグはそれ見て、苦笑いを見せた。
「入れるんですか?」
「はい、お願いします」
瑠偉はレッグに向けて、微笑んだ。レッグがそんな瑠偉を見て、断り切れず渋々受け取る。
「大丈夫ですよね?」
「ええ、大丈夫ですよ」
瑠偉は嬉しそうに答える。レッグはステビアを受け取ると、自陣の目の前で詳しく観察して、鍋に入れた。2人は鍋で煮上がっていくステビアを、じっくり観察し始めた。レッグはチラチラと、瑠偉の顔を見て話しかけるタイミングを伺う。しかし瑠偉の笑顔を見るたびに言葉を詰まらせ、また鍋の方を向くのであった。
(ああ… 沈黙が始まった。レッグさん、何か言いたそうだけど… やっぱり、告白かなぁ…)
瑠偉は側にいる緑の小動物を抱きかかえると、太ももの上に乗せ優しく撫ぜ始めた。
(どんな会話がいいんだろう? この惑星に来て数日しか経ってないし、ネタがない。どうしよう? )
瑠偉はそっと、レッグの顔を見る。レッグも瑠偉の視線に気づき、瑠偉を見る。そんな事を何度も繰り返した。その時、瑠偉のポーチから電話の呼び出し音が鳴った。
プー・プー・プププ… プルルルル・・・
「うあぁ!」
「ひあぁぁ!」
2人は背筋を伸ばし、その音に驚いた。瑠偉は当然、その音に聞き覚えがある、電話の呼び出し音である。瑠偉は、素早く側にあるポートを取ると素早く立ち上がった。その勢いで、モモに乗せていた小動物が転がった。
「ちょっと、すいません! ここで待ってて下さいね! 絶対ですよ!」
瑠偉は右手を出し、レッグの方に向け広げた。そして、その場から動かない様にと言わんばかりの、表情を見せると離れた木陰に向かって走り始めた。
(もー、なんでマナーモードにしたのに、鳴るのよ! おかしーでしょ! )
瑠偉は木陰に入ると、走るのをやめ一息ついた。振り返りレッグが見えない位置に、歩いて移動を始めた。
(この辺でいいかな?? )
瑠偉はポーチから、スマホを取り出した。画面には<着信・セクハラバカ>と表示されていた。瑠偉は眉間にしわを寄せ、あからさまに嫌な顔をしながら電話を取り、スマホを耳に当てた。
「もしもし、何か用ですかっ!」と瑠偉は、不機嫌になりながら話し始めた。
『少女か! 思春期か! モジモジしてんじゃねーよ! 見ているこっちが恥ずかしいーわ!』
「見てんじゃないわよ!」
『アドバイスだ瑠偉。まずは『なんか、暑いですねー。火の側だからかなー』と言いながら、スカートの裾をまくり上げ、太ももを見せて誘うんだよ!」
「アフォか! 痴女か! 誘うわけないでしょ!」
『まあいい… とりあえず、落ち着いて… ゆっくりと左を向け』
「ひだり? なによ…」
瑠偉はゆっくりと左を見る。その視線の先、約10m程に話に有った肉食動物が口を開け、瑠偉をじっと見ていた。その開いた口からヨダレが垂れていて、明らかに瑠偉を食事として認識している感じであった。瑠偉の顔が引きつり、右手の力が抜けるとスマホが地面に落ちた。
落ちたスマホから『おーい、頭は守れよー! 健闘を祈る!』とスマホから兼次の声が、瑠偉の耳に届く。が瑠偉は、どうしていいか分からず、固まってしまうのであった。