2話 長年の癖は簡単には治らない
「おおー、似合ってますよー。ルイさん、可愛いですよー」
着替えた瑠偉は、ファルキアの前で一回転し、ファルキアに愛想笑いを見せた。
「ありがとうございます。(スカートの丈が、今時の女子高生レベルに…)」
「お嬢様も、今時の女子高生ですが」
部屋の隅に立っている、ララの声が瑠偉の耳に届いた。瑠偉はララの方を素早く振り向いた。
「思ってないですけど? (っく、なぜ分かる)」
「そう言う事にしておきましょう。続けてください」
瑠偉はファルキアの方を見た。まだファルキアは、瑠偉を見上げながら笑顔で微笑んでいた。瑠偉はファルキアの微笑みに耐えきれず、少し距離を取るとベットに腰かけた。
(早く帰ってもらいたいんだけどなー… よし! 早く寝ることにして… )
「瑠偉さん、これでレッグちゃんはルイさんに、メロメロですねー。ふふふふ」
ファルキアは、上半身を瑠偉に近づけ、右手を瑠偉に差し出すと親指を立てた。
「ははは… そうですかねー(早く話題を変えないと…)」
瑠偉はファルキアの両肩に手を置くと、近づいている彼女を元の位置に戻した。
「ファルキさん、実は聞きたいことがあるんですが?」
「安心してください。レッグちゃんは、今はフリーですよ」
「一旦、レッグさんの話は、止めましょう。聞きたいことは、なぜ部屋に入る時、ノックをしないんですか?」
ファルキは、聞いたことない言葉だったのか、首を傾げる。そして、悩ましい顔で瑠偉を見た。
「ノック? ってなんですか?」
「ドアを数回叩いて、中の人に入っていいか、聞く行為です」
「なぜ、聞くんですか?」
「なぜって… 突然入って来られると、困るでしょう?」
「困るんですか?」
「困ります」
「なぜ困るんですか?」
「着替えとか見られたら、困りますよね?」
「困りませんけど?」
「私が困るんです」
「なぜですか?」
「(なぜなぜ子供かよぉー! )とにかく、私の国では、他人の部屋に入る時は必要なのです」
「なるほど… ルイさんの国では、そんな風習があるんですね。私達は、そんな事しないんですよ」
「そうですか… とにかく、私の部屋に入る時だけでもいいですので、ドアを2回叩いて『入っていいいですか?』と訪ねてください。お願いします」
「わかりました。2回叩くんですね?」
「はい、お願いします」
瑠偉は、ファルキアとの会話を遮る様に立ち上がった。ドアの方に少し移動すると、ファルキアの方を見た。
「ファルイキアさん。私は明日に備えて、早めに寝ますので… 今日はこの辺で…」
瑠偉はドアの方へ手を向け、ファルキアを出て行くように促す。ファルキアは、それを見ると立ち上がり、瑠偉の側まで歩き立ち止まった。そして、瑠偉の肩に軽く手を置いた。
「じゃあ、ルイさん。明日、頑張ってくださいね」
「はぁ… (何を頑張るんだろう? )」
ファルキアは、ドアの所でいったん止まると。振り返って、瑠偉を見る「おやすみー」と言うと、ファルキアは部屋から出て行った。
瑠偉は肩を落とし、長い息を吐く。疲れ切った様子で、ベッドに飛び込む。両手を広げ天井をぼんやりと眺め始めた。
「なんか、疲れた…」
「この世界の人間は、男女比率が4対5で女性のが多いのです。戦争、狩り等で男性は早死に傾向なります。したがって、女性の方から積極的に攻めないと、結婚できなくなります。ゆえの『頑張ってください』なのです」
部屋の隅に居るララの声が、瑠偉の所に届く。瑠偉は頭を上げ、不満の表情でララを見た。
「かいせつどうも! 頑張りませんけどね!」
瑠偉はスマホを取り出すと、電話帳から美憂を見つけだすと、電話を始めた。
「もしもーし、美憂ぅ。瑠偉だよぉー」
『瑠偉か。すまんな、なかなか電話をする時間が取れなくて』
「いいよ、いいよ。今何してるの?」
『志摩さんと、追試の勉強会だ』
「そっか… じゃ、お邪魔だね」
『すまんな、落ち着いたら電話するよ』
「ごめん、またねー」
『ああ、またな』
瑠偉は電話を切ると、今度は麻衣に電話を始めた。
「もしもーし」
『はいはいー、どったの瑠偉ちゃん?』
「ところで、いつ帰れます?」
『いやいや、まだ4日しか経ってないけど! はやいってばぁー』
「暇で暇で… 話でもしようかと思って」
『私は、今狩り中ね。あとでいい?』
「狩り!」
『兼次ちゃんに、赤レア全部奪われて、オコオコプン中なの』
「ゲームかよ!」
『ごめん、切るねー』
「まてぇー! …っく、切れた」
瑠偉は体を回転させると、うつ伏せ状態になり、目の前にスマホをたてかけた。
「しかたないなぁー、映画でも見るかぁ」
瑠偉が映画を見ようと、アプリを立ち上げた時。画面に【省電力モード起動】と表示された。
「ついにきたか… (電池残量20%、あと10カ月は無理ですね)」
彼女は、悩ましい表情で後方にいるであろう、ララの方をゆっくりと向いた。
「あのー、充電とかできませんか?」
「USB充電なら対応しています」
「ケーブル持ってます。お願いします」
瑠偉はポーチから、USBケーブルを取り出した。そして起き上がると同時に、ララが瑠偉に向かって近寄ってきた。しかしララは、瑠偉の側まで行かず途中で止まった。
「こちらを、お使いください」
ララは、足を肩幅に広げると腰を曲げ、スカートの端を持つと勢いよくスカートをまくり上げた。瑠偉の目の前に、パンツの履いていないララの下半身が現れた。
「履いてない! じゃなくて、いきなり何してるんですか?」
「お嬢様、変な事を言いますね? 女子に挿す場所と言えば、一カ所しかありませんが?」
「女子! じゃないでしょ…」
瑠偉は難しい表情でララに近づくと、その前で床に座りララの股の付け根を観察した。瑠偉は下から覗きこむと、その場所にUSB端子を見つけた。
「なぜ、この場所に…」
「女子に挿す場所と言えば、ここしかないですが? 2回目です」
「まぁいいですよ、使いますね」
「初めてなので、優しくお願いします」
「はいはい、ゆっくり挿せばいいんですね! (いちいち、突っ込むのも疲れたわぁ)」
瑠偉はケーブルの先端を握ると、ララの端子めがけて腕を移動さる。そして端子を挿した。
その時… 突然部屋のドアが開くと、ファルキアが現れた。
「ルイさーん。さっき聞きわすれ、たあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ファルキアの目の前に、スカートをまくり上げたララの股間に、手を伸ばしている瑠偉の姿が飛び込んできた。
「ふひゃぁー!!」
ドアの開く音で、瑠偉はビクリと体を震わせ奇声を上げた。そして現れたファルキを見て固まってしまった。
「あっ… ノックでしたね。なんか、ごめんなさい… でも、やっぱり女同士で、それはいけないと思うの…」
ファルキアは手を口に当て、小声で言うと。ゆっくりと後ずさりし、ゆっくりとドアを閉めると。ファルキアが廊下を走る大きな足音が、瑠偉の耳にエコーの様に響き渡った。
瑠偉は、両手を床に付け床に寂しく話しかけた。
「さっき、ノックしてくれるって、ゆうたじゃーん」
「長年積み重ねられた行動は、そう簡単に治りませんよ」
「はははっは、もういや… 帰りたい」
瑠偉は暫らく、肩を落とし床を眺めていたのであった。