1話 プレゼント
───兼次達が、リディの村に到着した頃にさかのぼる。カキレイの街、宿屋にて
「ねえ、ララさん。先程、電話で女性の悲鳴が聞こえたんですが、何でしょうね?」
「マスターの、リリース アンド キャッチです」
レッグの屋敷から帰ってきた瑠偉。ベットにうつぶせになり、スマホを操作していた。その近くには、兼次の所から戻って来たララが立っていた。
「へー、そうですか… (離して、受け取る? なんだろう? )」
興味がないのか瑠偉は、ララの方を見ずスマホを見ながら、ララの話を聞いていた。
「時にお嬢様、明日のデートの件ですが?」
「いい加減に、盗聴止めてもらっていいですか?」
「マスターより、護衛の任務を受け賜っております。盗聴は、安全の為に必要です。それで、明日のデートの件ですが?」
ララの言葉で瑠偉は首を回し、ベッドからララを見上げた。そこには、いつもの無表情のララの顔があった。
「まさか… 何か事件でも起きるんですか?」
「安心してください。今現在、事件の予定はありません」
「よてい! 今、予定って言いましたね? やっぱり、仕組んでたんですね」
「仕込みはありません。膨大なビックデータから解析された、確定予測です。っま、地球の科学力では、まだ無理でしょうが…」
瑠偉はララの顔を見ていると、その額に<究極のどや顔>の文字が浮かび上がった。瑠偉は、溜息をもらすと、再びスマホを眺め始めた。
「前にも言いましたが。その顔文字、人前でやらないでくださいね」
「それで、明日のデートの件ですが?」
「綺麗な滝の見える場所で、ピクニックらしいですよ。行きたくないですが…」
「いえ、そう言う事ではなく。ついでに初体験データを、頂こうと思いまして」
瑠偉は勢いよく、起き上がるとベットの上で、足を崩して座る姿勢をとった。
「そんな事しません! 1回目でありえませんし、タイプでもないです!」
「そうですか… 残念です。しかし、いいんですか? 領主で、お金持ち。この世界には学校もないですし、一生遊んで暮らせますよ? 滅多にないチャンスだと思いますが…」
「結構です。こんな星に残りませんよ? 地球に帰りますからね!」
瑠偉は頬を膨らませて、少し怒り気味でララを見ていた。暫らく無言が続く中、部屋のドアが突然、バタンと勢いよく開いた。
「ルイさーん! ちょっといいですかー」
勢いよく開いたドアから、セーラ服姿のファルキアが現れた。彼女は右手に、布切れを抱え込み、笑顔で瑠偉を見ていた。
ファルキアを見たララは、瑠偉の側を離れ部屋の隅まで移動すると、そのまま静止した。
「はぁー、今日は大丈夫でしたね」
ここ最近ファルキアが部屋に入ってくると、瑠偉とララの変な行為を目撃している彼女。今回は、何事も無く部屋に入た事で、嬉しかったのかスキップで瑠偉の側まで駆け寄った。そして彼女は、瑠偉の真横の位置でベッドに腰かけた。
「聞きましたよー。明日はレッグちゃんと、デートなんですってねー?」
と、ファルキアは、上半身を瑠偉の方に倒し、口元だけのニヤケ顔を瑠偉の側まで寄せた。
「な、なんで、知ってるんですか?」
「なんと今日は、プレゼントがありまーす! 明日のデートで着てくださいねー」
「はぁ… (話を聞かないタイプの人かー、苦手だなぁ…)」
ファルキアは、右手に持っていた布切れを、両手で持ち横に広げると瑠偉の前に出した。
瑠偉の目の前に、プリーツスカートが現れた。それは、丈が30cm位程、5cmほどのヒダを携えたスカートだった。色は光の加減で黒に見えるが、濃い藍色であった。そこに格子状の赤色模様が施されてあった。
「スカート、ですか…(これは私の学生服を、参考に作った物でしたね。話が長くなるとやだし、話を合わせましょうか…) そのデザインは、もしかして?」
「はい、ルイさんの服を参考に作りました。染料はララさんの、アドバイスで新しい技術を導入しました。まだ、この街で誰も履いていない珍しいものですよ!」
ファルキアは持っているスカートを、瑠偉の方に近づけ受け取るように促した。瑠偉は、仕方なくそれを受け取ると、自身の目の前で広げた。
「えーっと、少し丈が短い気がします」
「聞いた話によると。見えそうで見えない、それが最高だそうですよ」
「ちなみに聞いた話ってのは、ララさんからですか?」
「はい」
「そ… そうですか…」
瑠偉は満面の笑顔で向かい合うファルキアを、避ける様にララを見るが、いつもの様に無表情で立っていた。
「そして、こちらが上着になりまーす」
ファルキアは持っていた上着を、瑠偉の前で広げて見せた。それはシングルの襟が付いた、前開きの服であった。ボタンはついておらず、幅の広いひもで閉じる服の様だった。生地の色は素材を風味を生かした黄色。紐の色は薄い赤であった。
「じゃあ、着てみてください」
「えっ、今ですか?」
「はい」
瑠偉はファルキアの持っていた服を受け取った。ファルキアは相変わらず、笑顔で瑠偉を見ていた。瑠偉は、少し悩む。『あとで、着ます」と言ってファルキアを、部屋から追い出そうと思った。
「後で…」
「今着てください! 着心地とか、確かめたいんです」
「わかりました、着替えます」
瑠偉はスカートと上着を、ベッドに置くと立ち上がった。そして振り返ると、ファルキアが瑠偉を凝視していた。
「えーっと…」
「どうしましたか?」
「なぜ、見ているんですか?」
「だめですか?」
「だめです」
「大丈夫です。私は気にしません」
「はぁ… (私が、気にするんですよ! と、大きい声で言いたい。けど、今後の為に印象悪くしたくないし…)」
瑠偉は、諦めてファルキアの前で着替え始めた。