表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀色の雲  作者: 火曜日の風
5章 寄せ集めの村
73/91

13話 しかし何も起きなかった


 ルサ族の街クトスオジラウ、人気のない路地裏に兼次達が姿を現した。

 麻衣は何時もの事で慣れていたが、リディは2回目にもかかわらず、一瞬で景色が変わった事に驚ろいていた。


「また、景色が…」


 2人のアゴを掴んでいた兼次は、彼女達から手を離すと振り返り、すぐさま歩き始めた。それを見た麻衣は、小走りで彼の右側へ近寄った。


「リディ、ボケっとしてないで早く行くぞ」


 兼次は頭だけで振り返り言った。リディは離れていく彼らを見て、あわてて走ると兼次の横に並んだ。


「くくっ、美女が両脇に2人。これ、絶対絡まれるよね? と言うフラグ立てておくね!」


 麻衣はニヤケ顔で、兼次の顔を覗き込みながら言った。兼次は、自分で美女言うなよ…と思いつつ左のリディを見た。リディは帽子が気になるのか、頻繁に手を耳があった部分を頻りに触っていた。


「我慢しろリディ、少しの間だ」

「分かっている」

「ねえ兼次ちゃん。収容所に直接行った方が、早いよね?」

「リディの村に長期滞在だしな、少し買い物をする」


 3人は細い路地を抜けると、大通りに繰り出した。通りには朝と言う事もあり、人は数えるほどしか居なかった。麻衣の予想を裏切る様に何事もなく、店が並ぶ場所までやってきた。


「兼次ちゃん、何買うの?」

「まずは、塩かな」

「買うの? 作れるよね?」

「作れるが、力の消費を少しでも押さえたい。さらに言うと、その土地の食は、その土地の調味料を使う。これがグルメの王道だな」

「え~、うま味調味料持ってきている人が、グルメを語るとか・・・」


 麻衣と兼次の会話を聞きながらリディは、2人の話の内容が頭に入ってきいなかった。周囲を歩いている、自分と違う種族。その事ばかり気に掛けていた。腰に巻いた尻尾、折れ曲がった頭の耳。それを、触りながら周囲の人の視線を確認するように、周囲の人を見ていた。


「リディ、あんまりキョロキョロするなよ。田舎者かよ…」

「見つかるんじゃないかと… 気になって…」

「大丈夫だよ、あいつらはリディ達より臭いに鈍感だ。見つからねーよ」


 兼次はリディの肩に手を回すと、横を向いているリディの頬に手を当てると、リディを前に向かせた。


「ほぃい、はにをすりゅ」


 兼次に頬を押さえられ、リディは言葉にならない声で兼次に言った。


「前を向いて堂々と歩け、余計に怪しまれるぞ」

「わ、分かった」


 3人は通りの両脇に店を見て回る。


「朝なのに、店が開いてるね」

「当然調査済みだ」


 そして兼次が、1件お店の前で止まった。


「いらっしゃい」


 若干小太りの口髭を生やした男性店主が、威勢よく言った。


「塩を貰おうか、そこの大きいの3つ、小さいのを1つだ。あと、入れる鞄を2個貰おう」

「まいどあり~」


 料金を払い店主から鞄を2つ貰った兼次は、塩が3袋入った鞄をリディに差し出した。


「ほら塩だ、これだけあれば当分の間もつだろう」


 リディは、黙って兼次を見上げた。


「いいのか?」

「ああ、遠慮するな。俺の国の民になるしな、豊かな食生活は必要だ」


 リディは手を伸ばし鞄を受け取ると、その重みを確かめる様に鞄を抱きしめた。それを見ていた麻衣は、兼次の体越しにリディをニヤケ顔で見た。


「あーあ、受けとちゃった。あとで、変な要求が来るわよ!」

「そんな要求はしねーよ。すでに1日1回って約束があるしな、充分だよ」


 兼次はそう言うと、麻衣とリディの腰に手を当て、歩くように促した。リディは、すぐさま横の兼次の方を向くと、大声で抗議した。


「だから、そんな約束はしていない!」


 兼次はふくれっ面のリディを見ると、軽く笑いリディに歩くよう腰を押し始めた。


「その件は夜に、もう一度話し合おう。ささ、すすもーぜ。ほら、歩いた歩いた」

「むうー…」とリディは不満そうに、前を向き歩き始めた。


 それから彼らは、小麦粉等の食材を買い収容所に向かって歩いていった。そして、賑わいのあった店が並ぶ地帯を抜けた頃…


「おうおう、両脇に女とは華やかだねー。にーちゃん」


 兼次達の前方に2人組の男たちが、進行を拒む様に歩いてやってきた。ヨレた服に、ボサボサの髪に千鳥足。2人は肩を組み、歩いていた。


「ついにキタァーーーーーー!!!」


 麻衣は、その2人組を指さし、嬉しそうに声を張り上げた。


「見るからに、朝帰りの酔っぱらいね! ふふふ… やちゃう?」

「だから事件を、起こそうとするな! まぁ、見てな」


 酔っ払い2人組は、さらに兼次達に近寄ってきた。その時…

「はうぅー!」

 片方の男が突然止まり、奇声を発した。そして背筋を伸ばし、尻を押さえ始めた。

「おい、どうした?」

 横に居た男は、尻を押さえている男の肩に手を置き、彼の肩を揺すって無事を確かめた。

「揺らすなー! 出る!」

 尻を押さえていた男は、つま先立ちになり家屋の間に向かって、少しづつ歩いて行った。

「おーい、大丈夫かぁー? おうぅーーー!!!」

 もう一方の男も突然、尻を押さえ始めた。

「くぉうーーー! いきなり便意がぁー!! 俺も、マズい!」

 もう一方の男も、前の男と同じ場所に向かって、ゆっくりと歩き始めた。


「うぁー、あそこでするんだ・・・」

 引きつった顔で麻衣は、彼らを消えた先の家屋の隙間を見た。

「まったく、きたねーなー」

 兼次も笑いながら、彼らを見ていた。


「今、何かしたのか?」

 リディは何が起こったのか理解できず、兼次に尋ねた。

「さあな、変な物でも食ったんだろ。ささ、行こうぜ」


 兼次はリディの腰を押しながら、前に歩き出した。隣の麻衣が、歩きながら兼次の顔を覗き込んだ。


「せっかくのイベントが・・・」

「いらねーから、そんなイベント・・・ おっ、あれか。見えて来たぞ」


 彼らの目線の先に、高い塀に囲まれた建物が見えてきた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感想とか、評価とか頂けると励みになります。よろしくお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ