表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀色の雲  作者: 火曜日の風
5章 寄せ集めの村
72/91

12話 人の街へ


 村に戻った兼次達一行は、撮った獲物を捌き鍋で煮込んだだけの、肉スープを食べていた。適度な広場で、火を起こして鍋をかけて調理した鍋料理であった。その鍋を囲み、兼次と麻衣、そしてリディが囲んで食べていた。


「なんかさー、意外に美味しいだけど?」


 兼次の超能力で作った、即席のお椀でスープをすすりながら麻衣が話し始めた。


「骨を煮込んで出汁を取っている、さらに昨日の茶葉を少し入れ臭みをとった。さらに、これだ!」


 兼次はポケットから、瓶を取り出し麻衣に見せた。小型の瓶に白い粉上の物が入っている、瓶だった。


「何それ?」

「料理の定番、味塩コショウだな」

「なっ! 持ってたなら、早く出してよ! てか、私に何も持っていくな! って言っておいで、酷くない?」

「まぁ、量が少ないし、最後の手段として隠しておいた。てか、俺に作らせておいて、クレームかよ。黙って食え」


 食事中に聞きたいことがあると、兼次はリディも食事に誘っていた。リディ達の食事は、肉をそのまま食べるか、ただ獲物を火の上で焼いただけの物を食べていた。今回の鍋で煮た料理は初めてだった。彼女は、黙り込み黙々とそれを食していた。


「リディどうだ? うまいだろ?」

「美味いな… さっきの塩は、ルサ族の街で買った物か?」

「俺の国から、持ってきたものだ。ルサ族の街には、これは売ってない。お前らは、塩はどうしているんだ?」

「海の近くに居る部族から、毛皮や干し肉と交換している。往復で2カ月ぐらいか… ここでは、塩は貴重だ」


 リディと兼次の話を聞きながら麻衣は、お椀に残ったスープを一気の飲み干した。お椀と木のスプーンを地面に置くと、満足したのか幸せそうな顔で長い息を吐いた。


「ねえ、その味塩コショウって量が少ないけど、地球に帰る時までもつの?」

「これは俺専用で、どうしても不味くて我慢できなくなった時に、使う物だ」

「そうっすか… 私の分は無しですか…」

「麻衣は、異世界に行く為に覚えた、自慢の知識があるだろ? 自分で何とかしろ」

「さすがに味の素の製法までは、調べてない… てか企業秘密? 作り方は無かったし」


 2人と会話を聞きながらリディは、食事を終えると兼次に向かって話し始めた。


「なあ、救出の件だが?」

「ああ、すまんがリディも同行してもらうぞ。アディから協力は得られそうでないんでな」

「なぜだ?」

「救出自体は簡単だが、男どもが俺を信用してついてきてくれないだろう。リディの説得が必要だ」

「そのくらいなら… その前に、捕らえられている場所は、どうやって見つけ出す? そこまでは、一緒に行けないぞ、ルサ族の奴らに見つかってしまう」

「問題ない、調査済みだ。俺の優秀な配下が、きっちり調べ上げている」


 優秀な配下と聞いてリディは、昨日の出来事を思い出し始めた。全く気配がなく、自身の背後に接近されても気づかなかった。その出来事を思い出し、その女の事が気になり始めた。


「配下とは、あの女の事か? 何者だあいつは… 臭いもだが、気配が全くなかったぞ」

「気づいたのか、だが説明したところで理解出来んだろう。俺の国に来たら、詳しく教えてやるよ」


 兼次はお椀を置くと、スマホを取り出し操作を始めた。


「ふむ… 街の北側だな。この村から行くと、街の中を突っ切る事になるな。ふむ、麻衣。お前の服、半分ぐらいリディに分け与えて、帽子を作って耳を隠そう。そうだな… 尻尾は、腰に巻くか…」


 服を半分分け与えて、と聞いて麻衣は一昨日の出来事を、思い出した。胸部と腰部分に巻かれただけの服を…


「それはダメ! 私の服の面積が無くなる。男どもの視線が集まって、苦痛!」

「なんかあったのか?」

「あったの! 絶対いや!」

「なら、服を交換しろ。それでいいだろ?」


 麻衣は、リディの着ている服と自身の服を見比べた。身長はリディとほぼ同じぐらいだが、明らかに幅が違った。麻衣は、リディの服を着た自身の姿を、思い描きながら考えこんだ。


「うーん… なんか、嫌な予感が…」

「着替えろ、すぐ出るぞ」

「今から? 夜行くって、言ってなかった?」

「昨日考えたが、夜行くと寝ているだろ? 十数人起こすのに時間が掛かる、どのみち看守達見つかるし、夜行こうが朝行こうが同じだ」

「騒ぎを起こす気満々ね… 大丈夫かしら…」


 リディは兼次の言葉を聞いて、本当に大丈夫か心配になった。


「大丈夫なのか?」

「大丈夫だリディ、改めて俺のすごさに惚れるぞ」


 兼次は、手に持っていたスマホを麻衣とリディの方に向けた。


「ささっと、着替えろ」

「こんな所で着替えないからね! しかも撮る気満々! リディちゃん、家の中よ」


 麻衣は立ち上がると、近くにある兼次は寝ていた家に向かって歩き出す。そして振り返ると、リディに向かって付いてくるように手招きした。リディは、それを見ると立ち上がり、麻衣と一緒に家の中に入っていった。


 暫らくして、微妙な顔つきの麻衣と、帽子を手で押さえながらリディが出てきた。リディの服を着た麻衣は、サイズがあっておらず、短くなったスカート部分の裾を下に引っ張りながら歩いてきた。


「さ、サイズが… (ウエストがヤバい、キツイ…)」


 リディの服は、当然ナノマシンの服なので、サイズが自動に調整され違和感がない。スカート丈は、尻尾を隠す様に足首まであるロングスカートになっていた。だがリディは、苦痛の表情でひたすら帽子に位置をずらしていた。


「折り曲がった耳が痛い」


 出てきた2人を見ると兼次は、彼女達に近づいた。


「二人とも、今日だけだ我慢しろ。行くぞ」


 と言うと、リディと麻衣のアゴをつかんだ。


「おい、何をする!」

「そろそろ、アゴクイテレポートやめない?」

「却下!」


 3人は姿を消した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感想とか、評価とか頂けると励みになります。よろしくお願いします
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ