12話 人の街へ
村に戻った兼次達一行は、撮った獲物を捌き鍋で煮込んだだけの、肉スープを食べていた。適度な広場で、火を起こして鍋をかけて調理した鍋料理であった。その鍋を囲み、兼次と麻衣、そしてリディが囲んで食べていた。
「なんかさー、意外に美味しいだけど?」
兼次の超能力で作った、即席のお椀でスープをすすりながら麻衣が話し始めた。
「骨を煮込んで出汁を取っている、さらに昨日の茶葉を少し入れ臭みをとった。さらに、これだ!」
兼次はポケットから、瓶を取り出し麻衣に見せた。小型の瓶に白い粉上の物が入っている、瓶だった。
「何それ?」
「料理の定番、味塩コショウだな」
「なっ! 持ってたなら、早く出してよ! てか、私に何も持っていくな! って言っておいで、酷くない?」
「まぁ、量が少ないし、最後の手段として隠しておいた。てか、俺に作らせておいて、クレームかよ。黙って食え」
食事中に聞きたいことがあると、兼次はリディも食事に誘っていた。リディ達の食事は、肉をそのまま食べるか、ただ獲物を火の上で焼いただけの物を食べていた。今回の鍋で煮た料理は初めてだった。彼女は、黙り込み黙々とそれを食していた。
「リディどうだ? うまいだろ?」
「美味いな… さっきの塩は、ルサ族の街で買った物か?」
「俺の国から、持ってきたものだ。ルサ族の街には、これは売ってない。お前らは、塩はどうしているんだ?」
「海の近くに居る部族から、毛皮や干し肉と交換している。往復で2カ月ぐらいか… ここでは、塩は貴重だ」
リディと兼次の話を聞きながら麻衣は、お椀に残ったスープを一気の飲み干した。お椀と木のスプーンを地面に置くと、満足したのか幸せそうな顔で長い息を吐いた。
「ねえ、その味塩コショウって量が少ないけど、地球に帰る時までもつの?」
「これは俺専用で、どうしても不味くて我慢できなくなった時に、使う物だ」
「そうっすか… 私の分は無しですか…」
「麻衣は、異世界に行く為に覚えた、自慢の知識があるだろ? 自分で何とかしろ」
「さすがに味の素の製法までは、調べてない… てか企業秘密? 作り方は無かったし」
2人と会話を聞きながらリディは、食事を終えると兼次に向かって話し始めた。
「なあ、救出の件だが?」
「ああ、すまんがリディも同行してもらうぞ。アディから協力は得られそうでないんでな」
「なぜだ?」
「救出自体は簡単だが、男どもが俺を信用してついてきてくれないだろう。リディの説得が必要だ」
「そのくらいなら… その前に、捕らえられている場所は、どうやって見つけ出す? そこまでは、一緒に行けないぞ、ルサ族の奴らに見つかってしまう」
「問題ない、調査済みだ。俺の優秀な配下が、きっちり調べ上げている」
優秀な配下と聞いてリディは、昨日の出来事を思い出し始めた。全く気配がなく、自身の背後に接近されても気づかなかった。その出来事を思い出し、その女の事が気になり始めた。
「配下とは、あの女の事か? 何者だあいつは… 臭いもだが、気配が全くなかったぞ」
「気づいたのか、だが説明したところで理解出来んだろう。俺の国に来たら、詳しく教えてやるよ」
兼次はお椀を置くと、スマホを取り出し操作を始めた。
「ふむ… 街の北側だな。この村から行くと、街の中を突っ切る事になるな。ふむ、麻衣。お前の服、半分ぐらいリディに分け与えて、帽子を作って耳を隠そう。そうだな… 尻尾は、腰に巻くか…」
服を半分分け与えて、と聞いて麻衣は一昨日の出来事を、思い出した。胸部と腰部分に巻かれただけの服を…
「それはダメ! 私の服の面積が無くなる。男どもの視線が集まって、苦痛!」
「なんかあったのか?」
「あったの! 絶対いや!」
「なら、服を交換しろ。それでいいだろ?」
麻衣は、リディの着ている服と自身の服を見比べた。身長はリディとほぼ同じぐらいだが、明らかに幅が違った。麻衣は、リディの服を着た自身の姿を、思い描きながら考えこんだ。
「うーん… なんか、嫌な予感が…」
「着替えろ、すぐ出るぞ」
「今から? 夜行くって、言ってなかった?」
「昨日考えたが、夜行くと寝ているだろ? 十数人起こすのに時間が掛かる、どのみち看守達見つかるし、夜行こうが朝行こうが同じだ」
「騒ぎを起こす気満々ね… 大丈夫かしら…」
リディは兼次の言葉を聞いて、本当に大丈夫か心配になった。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だリディ、改めて俺のすごさに惚れるぞ」
兼次は、手に持っていたスマホを麻衣とリディの方に向けた。
「ささっと、着替えろ」
「こんな所で着替えないからね! しかも撮る気満々! リディちゃん、家の中よ」
麻衣は立ち上がると、近くにある兼次は寝ていた家に向かって歩き出す。そして振り返ると、リディに向かって付いてくるように手招きした。リディは、それを見ると立ち上がり、麻衣と一緒に家の中に入っていった。
暫らくして、微妙な顔つきの麻衣と、帽子を手で押さえながらリディが出てきた。リディの服を着た麻衣は、サイズがあっておらず、短くなったスカート部分の裾を下に引っ張りながら歩いてきた。
「さ、サイズが… (ウエストがヤバい、キツイ…)」
リディの服は、当然ナノマシンの服なので、サイズが自動に調整され違和感がない。スカート丈は、尻尾を隠す様に足首まであるロングスカートになっていた。だがリディは、苦痛の表情でひたすら帽子に位置をずらしていた。
「折り曲がった耳が痛い」
出てきた2人を見ると兼次は、彼女達に近づいた。
「二人とも、今日だけだ我慢しろ。行くぞ」
と言うと、リディと麻衣のアゴをつかんだ。
「おい、何をする!」
「そろそろ、アゴクイテレポートやめない?」
「却下!」
3人は姿を消した。