10話 強制イベント 1
集落を出た兼次達一行は、村の家々が見えなくなった所で兼次が突然立ち止まった。隣を歩いていた麻衣は、どうしたの? と言う言葉が聞こえそうな表情で立ち止まり彼を見た。彼の半歩後ろを歩いていたリディも立ち止まった。
「さて、獲物をさっくっと見つけるか!」
「と言う事は、索敵スキルね?」
「そんなスキルは無いが‥‥ しかし、俺には銀河最強の科学技術がある」
兼次はポケットからスマホを取り出すと、目の前に掲げた。
「ララ、生命反応サーチだ」
「っな! そんな機能まであるの!」
兼次の行動を見ていた麻衣は、自分もとスマホを取り出し、兼次と同じように目の前に掲げた。
「ララちゃん、私も見せてー」
兼次と麻衣は並んでスマホを掲げて、右へと左へと体を回し始めた。2人で同じ行動をしている姿を、リディは不思議そうに見ていた。
「お前たち何をしている? 狩りをするんじゃないのか?」
リディは兼次の横に移動すると、彼の手の先を見始めた。彼女が画面を見ていると、その中央に赤い点が2つ光るのが見えた。
「よし、367m先に小さい反応が2つ。たぶん小型の動物だな。よし!」
兼次は、その言葉と同時にスマホを素早くしまう。そして、隣に居たリディの腰に手を回すと、彼女を引き寄せ強く抱きしめた。
「まて、なにをする!」
リディは兼次と自身の体の隙間に腕を潜り込ませる、そして力いっぱい引き離そうとした。兼次は、そんな彼女を構うことなく麻衣に話しかけた。
「飛ぶぞ麻衣、一直線に行く!」
「おっけいぃ!」
兼次はリディを抱えたまま、地上から1mほど浮かび上がった。麻衣も続いて浮かび上がる。2人は浮かび上がると同時に、猛スピードで低空飛行を開始した。ランダムに生えている木々を縫うように、目的地まで進んでいった。
「ぶつかるーーー!」
兼次に抱えられていたリディは、今だ体験したことない高速な移動に恐怖を感じていた。進行方向を見ていると迫りくる木が、目の前数十センチに迫ると急激に横に移動する。そのたびに、全身を震わせていた。時間にして、ほんの数十秒だが彼女の体感時間は、とても長く感じていた。
「とらえた!」
兼次は、その発言と同時に前方に人差し指を向けた。人差し指の先が光ると、その先から黄色い光が一直線に2つ放たれた。すると「キャイィン」という動物の甲高い鳴き声が聞こえた。
「よし、命中!」
兼次と麻衣は、急激に速度を落とす。そして、ゆっくりと地上に足を付けた。同時に兼次は、抱えているリディを離して立たせようとした。しかし、彼女は足を震わせながらその場で崩れ、両手を地面に着け四つん這い状態で、荒い呼吸を始めた。
「ハァ、ハァ、ハァ… 木にぶつかるかと…」
兼次は、そんなリディの無事を確認すると、そのまま麻衣を見た。
「しかし、麻衣… よく、ついてこれたな? そのまま木に頭突きすると思ってたが?」
「ふふふ、地球に帰って来てから、密かに練習してたからねー」
「ふーん… って、地上で練習してないよな?」
「大丈夫だよ、降りてないからね」
「なら、いい」と、兼次はそのまま動物が、倒れている地点に向け歩き始めた。
麻衣は、近くで荒い息を整えているリディに近づくと腰を落として、リディを心配そうに見た。
「リディちゃん、大丈夫? 吐きそう?」
麻衣はリディの背中に手を置き、優しく彼女の背中を擦り始めた。麻衣は、ふと彼女の後方を見ると、フサフサの尻尾が垂れさがっているのが見えた。麻衣の手は自然に、その尻尾を触りに向かった。
「はぁー、いい触り心地ぃー。癒えるわー‥‥ っは!」
麻衣はリディの尻尾を触っていると、前方から異様な視線を感じた。ゆっくりと頭を回す麻衣。そこには四つん這いの両腕の隙間から、リディが麻衣を睨んでいた。
「はっははは… なんか、ゴメン… つい」
リディは長い息を吐くと、ゆっくりと立ち上がった。麻衣も彼女に続いて立ち上がると、彼女の肩て手を置いて軽くポンポンと叩き始めた。リディは、相変わらず麻衣を睨んでいた。
「ははは、気にしない。気にしない! ははははは」
「次触ったら、殴るからな!」
「えぇぇ! そ、そんなぁ… 触っちゃ駄目なの?」
「ダメだ。気持ち悪い」
「そ… そうだなんだ。(まぁ、私にはルディちゃんがいるし… いっか)」
「おーい」と前方から兼次の声が聞こえた。兼次は、両手に全長50cm程の茶色の毛を生やした、四足歩行の動物の首をつかみ現れた。その動物は先程の光線が当たったのか、完全にぐったりしている状態であった。
「なあリディ、これは食えるのか? 上手いのか? なんて言うか、ネズミっぽくてな」
「兼次ちゃん、それウサギじゃない?」
「ネズミじゃね? いや… この後ろ足だと、リスとも言えるな」
その小動物は、全身が茶色の柔らかい毛で覆われていた。後ろ脚は太ももが大きく、そこだけ見れば地球のウサギやリスにそっくりだ。前足は短く、後ろ足で立ち上がる事も出来そうだ。顔立ちはウサギに似ているが、耳は長くなくリスに似ているとも言えなくもなかった。
「よく食べる獲物だな。特別美味しくはないが… まだ生きているのか?」
兼次の両手の獲物を見ながら、リディが答えた。
「ああ、気絶しているだけだ」
「そうか、なら持ち帰ってから、村で捌けばいい」
「よし帰るか? 麻衣、持ってろ」
兼次は手に持っている動物を、麻衣に差し出した。それを見た彼女は、嫌悪な表情を見せた。
「なんか… 可愛そうね。ウサギみたいで可愛いんだけど…」
「現代人かよ… 子牛とか見ながら『可愛いねー』とか言いつつ、焼肉食べる派か?」
「現代人ですが? てか、普通の反応だと思うけど…」
麻衣は手を伸ばし、その小動物を受け取った。両手で小動物の胴を掴むと、その動物をじっくり観察した。
「おおー、モフモフゥー。フカフカの毛だー」
麻衣は笑顔で、その動物を更に引き寄せた。柔らかいそうな腹の毛めがけて、顔を埋めよりモフモフ感を確かめようとした。
「うっ! クッサ! クサい!」
動物を近づけると、強烈な悪臭が麻衣の鼻に届いた。すぐさま彼女は、その動物を遠ざけた。
「野生動物だし、臭いのは普通だろ… よし。獲物も取ったし事だし、帰るかぁー」
兼次は、リディを見ると彼女に近づいた。彼女は自身に近づく兼次を見て、飛んで帰るのか? と感じた。すぐに彼との距離を取り、右手を彼の前に出した。
「まて、もう飛ぶ必要はないだろう? 歩いて帰ろう」
「なんだ、怖いのか?」
「うっ…」
リディは困惑気味の表情を彼に見せると、すぐさま振り返った。
「え、獲物も取ったし、必要ないだろ? 村に戻ろう…」
リディは、若干速足で歩き始めた。兼次と麻衣は、お互いに顔を見合わせると、かすかに笑った。2人はリディの後を追い、村に向かって歩き始めた。