3話 寄せ集めの村 3
入り口にかかっている、簡素な布からリディが顔だけ出した。兼次達を見て、彼女は言った。
「入ってくれ」
リディに誘われ兼次と麻衣は、布をかき分け中に入った。続いて彼らの上に光り輝いている光球は、布をすり抜け中に入っていった。薄暗かった家の中は、その光球に照らされ昼間の様な明るさになった。
部屋の奥に口髭とアゴ髭携え、見るからに偉い人と言った風貌の人物が、胡坐をかいて座っている。その人物のふさふさとした茶色の長い髪の頭部から、三角の耳が飛び出ていた。その隣には、兼次達と最初に対面した、リディの兄アディが座っている。その二人は半分開いた口から犬歯を覗かせながら、兼次達の上にある光球を呆然と眺めていた。
その2人から離れた位置に座っていたリディ。兼次達が入ってきたことを確認すると、彼らを見上げながら言った。
「その辺に適度に座ってくれ。父上、男性の方がカネツグ、女性の方がマイと言います」
「地面に直接か…」と、少し嫌な表情を浮かべた兼次は、ゆっくり腰を落とし座る。続いて麻衣も、スカートを押さえながら正座を崩した姿勢で座った。
「お尻… 冷たい… せめて座布団とか無いの?」と麻衣は、小声で隣の兼次に訴えかけた。眼だけで麻衣を見た兼次は、そのまま何も言わずリディの方を向いた。
「リディ、止まってるぞ?」
兼次はリディに言うと、顔だけで光球を見上げて固まっている2人を指した。
「父上! 兄さん!」
リディは2人の方を向き、大声で叫んだ。彼女の声を聞いた二人は、我に返る。そして髭を生やした男が兼次達に、低くかすれた声で話し始めた。
「この光っている物はなんだ?」
「その光については、仲良くなったら教えてやるよ。その前に、お前らの現状はリディから少しは聞いている。だがもう少し詳しく聞きたいのでな、話してくれるか?」
「父上、先程も言いましたが。俺は信用できません」
アディに話しかけられた髭の男は、アディの方を向くと体をアディに寄せ、頭の耳に向かって小声で話かけた。
「息子よ、彼らがここに来た時点で信用は出来る。今は言えないがいずれ…」
髭の男は言い終えると、アディから離れた。疑いの表情でアディは、髭の男を見ていた。髭の男は、アディの方を見ると少し頷き、兼次の方を見て話し始めた。
「私の名はロディと申します、この村を仕切っております。カネツグ殿。娘のリディを救っていただいた事に、感謝いたします」
ロディは両手を握りしめ、その拳を地面に着け軽く頭を下げた。
「それでは、何から話せばいいですかな?」
「いい心がけだ、俺は長い話が嫌いだからな。俺の都合上、移住には時間が必要だ。移住は約10か月後になる。その間の問題点を聞きたい。あとは、この村の住民構成と生活事情だな、あとはー・・・」
「まて! まだ移住すると、決まってない!」
兼次が話していると、アディが割って入ってきた。少し興奮気味で手を振り払い、アディは兼次達を睨んでいた。兼次は、そんな彼を見ながら口元だけで笑い、ロディの方を向くと真剣な表情で彼に言った。
「ロディ… リディから少し聞いている。切迫しているんだろう? 戦いにも負け続け、応援もない。ここに来た時、上から見たが男が少ないな? おそらく捕虜として、ルサ族の街に囚われているんじゃないのか? 俺なら、お前らを助けられるぞ?」
兼次の言葉に、ロディは黙り込み深く考えている様だった。兼次の隣に座っている麻衣は、横を向くと小声で話しかけた。
「人の弱みに付け込む天才ねぇ、交渉と言うより脅迫に近いよねぇ」
兼次はロディを見たまま、右手を上げ人差し指を麻衣のオデコに向かって弾いた。
「いったっ!」と麻衣は、手でオデコを擦り始める。
「いちいち、解説するな。丸投げするぞ?」
「ことわるぅ! 黙ってればいいんでしょ、もう!」
すこし頬を膨らませ麻衣は、首を回し兼次と反対の方向に回す。そんな2人のやり取りを、見ていたロディは見届けると話し始めた。
「確かに貴殿が言われた通り、切迫しております。だからこそ、移住先を探していたのです。それに戦士たちも捕らえられ、奴らの街に連れていかれたのも事実です。そして捕らえられている戦士たちも、この村の住人です。彼らの意見も聞く必要があります。さきほど、助けてくれると、おっしゃいました。まずは彼らを、助けていただけませんか?」
兼次は腕を組み、考えるそぶりをロディに見せた。
(…なるほど、交換条件か。意外に知恵が回るようだな)
「つまり彼らを助ければ、この村の住人の信用を得やすいと言いたいのか?」
「そう言う事になりますかな? どちらにせよ彼らを助けないと、この村の人口を維持できません。仮にこの状態で貴殿の国に移住しても、衰退する可能性が高くなります」
「たしかに、人口維持には適正な男女比率が必要だな。わかった、助けに行こう」
兼次の近くに居たリディが、心配そうな表情で彼を見た。
「二人だけで、助けられるのか?」
「ふたり?」と兼次が、リディに問いかけるた。
「ふたりって、私も入ってるの?」と麻衣は、指で自身を指しながら、リディを見た。
兼次と麻衣に見つめられたリディは、そのままロディとアディの方を見て無言で応援を頼んだ。それを見たアディは、兼次に向かって言った。
「我々からは人は出せない。先ほど言ったように、完全に信用してるわけではない。それとも、助けると言いながらできないのか?」
「強気だなアディ、そう言うのは嫌いじゃないぜ。よかろう、俺と麻衣に任せておけ」
兼次は腕を組み、得意げな表情でアディを見返す。隣の麻衣は、兼次の方を見て驚きの表情で彼に言った。
「私のメンバー入りも確定なの?」
「当然だろ、他に誰が居る?」
「ララちゃんは?」
「瑠偉の、子守だな。ララに頼むと居ない居ないって、瑠偉が騒ぎだすだろ? それに明日は、レッグとデートだろ? 録画させなきゃならん」
「人のデート見て、何が楽しいの?」
「なにか瑠偉の弱みを、見つけないとな… 交渉材料は多いに越したことは無い」
「交渉って・・・・ 恋愛は交渉で得る物じゃないんだよ?」
「セフレ持ちで少年愛のお前が、恋愛を語るとか笑えるな?」
「少年愛じゃないし! 正常です! ただ可愛いのが好きなだけよ!」
大きめの、ゴホンという咳払いが聞こえた。それに気づいた兼次と麻衣は、咳払いをしたロディの方を向いた。
「助けていただけると言う、決定でよろしいですか?」
「いいだろう、だが今は無理だ。飛んできた力の分を回復したい、明日だな。昼間作戦を練って、夜実行する」
「わかりました。それでは、今日は休んでください。明日、村を案内しがてら、現状を詳しく説明しましょう」
ロディは、立ち上がった。それを見た兼次達も立ち上がる。ロディは、兼次に近寄ると握手を求めた。
「宜しく頼みます」
「ああ…」
兼次は、少し嫌そうな顔をしながらもロディの握手に応じる。
「リディ、開いている家に案内してくれ。」
「わかりました」
リディは立ち上がると、出入り口に向かって歩き始めた。
「ついてきてくれ、案内する」
リディは振り返ざまに兼次達を見ると、そのまま布をかき分け出て行った。兼次と麻衣も、リディの後を追い、出て行った。