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銀色の雲  作者: 火曜日の風
5章 寄せ集めの村
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1話 寄せ集めの村 1


 兼次達が降り立った地より東へ約900km、ルサ族の支配領域の東の末端の街クトスオジラウ。人口約10万人程の都市であり、クッド族の生活圏と隣接する前線基地でもある。クッド族の生活圏は、森林地帯が多く野生動物が多数生息している。また、その森林地帯は果実や木の実が豊富に取れ、その資源を狙いルサ族は、絶えずクッド族に戦いを仕掛けていた。


 クトスオジラウから南に約10kmほど離れた森林地帯、リディやルディの住む街があった。森林を切り開き平地を作り、木組みの簡素の家が点在している。人口は5000程度でクッド族中心の街である。周囲の森林からなる果物、木の実や動物を狩り、自給自足の生活をしていた。


「みんなー!!! 空に人がいるわぁーー! 誰か来てー!!」


 日が沈みかけた夕暮れ、街を歩いていたクッド族の女性が、空に浮かぶ怪しい人影を見つけ大声で叫んだ。響き渡った声と共に、家からクッド族の人達が一斉に出てきた。出てきた人々は、叫んで女性の周りに集まり、空を見上げ始めた。その人だかりは、徐々に数が増していき数分で百数十人規模に膨れ上がった。


 地上から見ると、人影が2つ見えた。距離が遠いせいか、それぞれが人らしき者を抱え浮いているのが、辛うじて見えるだけだった。その人影は徐々に高度を下げ、人だかりに近づいてきた。クッド族達が、降りてきた人影の姿を、確認できる距離に来た時。その中の一人の老人が、大声で叫んだ。


「ルサ族だぞーーー!! 誰か戦士を呼んで来るんだ!」


 空を飛ぶ人影は、地上10m程で停止した。そして片方の人影から、人が離れた。その人影は両膝を曲げ、両手を地面に着いて着地した。そして素早く立ち上がると、大声で集まったクッド族達に向かって叫んだ。


「落ち着けー、味方だ! 私だ! リディだ!」


 リディの声を聞き、静まり返ったクッド族達。そこに「すまない、通してくれ!」と、集団をかき分けながら、クッド族の青年がルディの前に出てきた。周囲の女性たちや、老人達より背が高い青年は、その鋭い目つきでリディを見た。動物の毛皮で身を覆い、右手には刃渡り40cmほどの小剣を握っている。その小剣を、リディに向け彼は言った。


「リディ… どういう事だ? ルサ族の奴らを連れてくるとは…」


 リディは、向けられた小剣の先を見ながら、間を取った。周りに居るクッド族達を見渡し、彼らが落ち着きを取り戻すまで待った。


「兄さん、彼らは味方だ。大丈夫だ、落ち着いてくれ」

「リディ… 騙されているのか? 目を覚ませ!」


 リディは兄の顔を見ながら、どうやって信用させるかを考え込む。そして後方上空を見上げ、空中に浮いている兼次達を見た。


「アディ兄さん… よく見て考えてくれ。ルサ族は、空を飛ばないだろ?」


 いい説得案が浮かばなかった彼女は、見たままの状況をアディに言い諭そうとした。


「確かにそうだが・・・・」

「彼らは、私の恩人だ。信用してほしい、頼む兄さん」


 リディは兄のアディに、軽く頭を下げた。アディは彼女を見ながら、考え込んだ。そして上を見上げ、兼次達を見ると眉間しわを寄せて、彼ら全身を見た。そして片方の抱えている子供に、視線がくぎ付けになった。それは、彼の見覚えのある子供だった。


「ルディか?」


 アディが、ルディの姿を確かめると同時に、2つの人影はゆっくりと降りてきた。そして人影はリディの背後に降り立った。


「犬耳パラダイスゥー!」

「リディ… 説明はきちんとできたのか? ずいぶんと嫌悪な雰囲気なのだが?」


 兼次と麻衣が、リディの背後に立った。麻衣の手が緩み、ルデイは地上に足をつけると、アディに向かって走っていった。


「おにぃーーー」


 とルディは叫ぶと、アディの手前でジャンプし彼に抱き着いた。抱き着かれたアディは、小剣を下すと鞘に納め、その手をルディの頭に置いた。


「リディ、ここではなんだ… 父上の所で話を聞こう」


 彼はルディの頭を、軽く2回たたく。ルディは彼を見上げると、彼を抱きしめていた手を緩め、距離を取った。アディは、ルディと離れると同時に振り返り、集まった人たちに向かって叫んだ。


「みんな、大丈夫だ。あとは、私が話を聞く。家に戻ってくれ」


 アディは両手を上げ、集まった民衆に見える様に手を振った。集まった人々は、不満を漏らしながらもアディに従い、各自家に戻っていった。


「リディ、連れて来い。ルディ行くぞ」


 アディはルディの肩を引き寄せると、街の奥の方へ歩き始めた。リディは歩き始めたアディを見届けると、悩ましい表情で振り返り兼次を見上げた。そんなリディを見た兼次は…

 (… なんだよ、その微妙な表情は? まさか俺に丸投げする気か? )と考えた兼次は、そのまま横に居る麻衣の顔を見た。


「ちょっと、私に丸投げするきなの? 交渉とか無理だからね!」

「ちげーよ、見ただけだよ! リディ、行け! とりあえず、今までの出来事を話せばいい、後は俺が何とかする」

「わかった、ついてきてくれ」


 リディはアディの後を追い、歩き始めた。兼次と麻衣も、彼女の後を歩き始めた。



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