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銀色の雲  作者: 火曜日の風
3章 まず行動、目的は後からやってくる
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5話 注目の的で視線をずらそう


 星明りが狭い路地に振ってきている。路地はわずかに周囲が見える程度の明るさになっていた。そんな所に、二人は壁にもたれ掛かり、横並びで地面に座っていた。


「ねぇ、お名前は? 私は麻衣って言うの、以後おねーちゃんって呼んでね?」

「ルディ…」と犬耳の少年は、彼女を見上げながら言った。


「ルディちゃん、ここで何してたの? さっきの女の人は?」

「僕のおねーちゃん… 見つかった… ここで待ってて… 一人で…」


 断片的に、途切れ途切れに話すルディ。麻衣は、そんな彼の肩を引き寄せる。彼のおかれている境遇について、考え始めた。犬族と人族は争っている点、そして人族の街にいる。街を歩き回って、何かを探していた兵士たち。そして、先ほどの路上での出来事。


「みつかると、マズいわね。どうしようかねー」

「・・・待ってる」


 ルディは小さな声で言うと、自身の両膝を引き寄せ顔を乗せた。


「そうだね、しばらく待ってようか」


 麻衣は狭い路地の先にある、通りを眺め始めた。まれに人が通るが、こちらを向くことは無く。ひとまず、安心だ… と麻衣は感じた。

 それから、ルディと麻衣は会話することもなかった。麻衣も通りの様子を伺って、見つからない様に彼を庇っていた。ルディも彼女に横で、小さく縮こまっていた。

 そんな状態が、30分ぐらい続いた。しかし、彼の姉は現れなかった。


「こないねー・・・」


 麻衣はルディに話しかける。しかし彼は頭を伏せた状態で、黙ったままだった。そんな時、通りの方から男性たちの、騒ぎ声が聞こえた。それと同時に、ルディが頭を上げた。


「おねーちゃんの臭い」


 麻衣は彼の声で、彼の方を見る。


「来たの?」

「うん… 近くに…」

「そう。でも… 見つからない様に、私の後ろに居てね」


 麻衣は、彼に背を向け通りの方に体を向ける。通りから彼の体が見えない様に、姿勢を変えた。通りから数人の兵士たちが、歩いていく姿が見えた。


「ほら、さっさと歩け」


 一人の兵士の声が、麻衣達の所まで届いた。数人の兵士が通り過ぎた後、ロープに縛られ引き連れられている、犬耳の女性の姿が見えた。口も塞がれ、縛られた両腕からロープが伸び兵士がそれを引っ張っていた。


 それを見たルディは「あっ」小さな声が漏れる。それを聞いた麻衣は、素早く振り向くと。座り込み彼の口を、手で塞いだ。


「黙ってて… 見つかっちゃうよ」


 麻衣は顔を彼にの耳に寄せ、小さな声で彼に話しかける。そして再び通りの方を見て、兵士たちが通り過ぎるのを、黙って見ていた。

 兵士たちが通り過ぎ、静かになると。麻衣は、彼の隣に座り方に手を回し優しく引き寄せた。


「捕まっちゃてる… ね?」

「絶対… 戻って… 来る… おねーちゃんが… 言った」

「でもねー。あの状態で… 逃げれるのかなー」

「絶対… 戻って… くる… 言った」


 ルディは再び、頭を膝に乗せ顔を伏せ黙り込んだ。麻衣は、そんな彼を見ながら考え込む。しかし、なかなかいい考えが浮かばなかった。


「とりあえず、私の泊まってる宿屋に行こっか? ここに居るより安全だと思うよ」

「でも… 待ってろ… って… 言った」

「でも、こんな所にいると、いずれ見つかっちゃうよ?」


 麻衣の問いに、ルディは黙ったままだった。

 麻衣は考えた。ここから宿屋に行くには、中央広場や大通りを歩かなくてはならない。当然人通りも多い為、確実に見つかってしまうだろう。彼の犬耳を隠せる余分な服は、持ってきてない。今から買いに行くにしても、ここで彼を一人にさせるわけにはいかない。なにより、彼に逃げられたら、もう彼に会えない気がした。


 麻衣はルディを引き寄せ、彼の頭に手を回し目を隠した。そしてスマホを取り出し、操作をすると耳に当て話し始めた。


「ララちゃーん、ヘルプー。どうしたらいい? 当然知ってるよね?」

『麻衣様。では、ナノマシンの服を半分、彼に分け与えて変装させましょう』

「耳も隠せるよね?」

『髪を盛り隠しましょう。そして、ズボンの中に尻尾を入れてください』

「わかった、お願いやって」

『了解しました。では、彼と一緒に立ち上がってください』


 麻衣はルディのそばに顔を寄せる「目を閉じたまま、立ち上がって。これから起こる事、絶対見ちゃだめだよ」そう言って、彼の肩をつかみ立たせようと力を入れた。


「おねーちゃん、なにするの? 誰と喋ってたの?」

「いーから、いーから、立ち上がってね。着替えるから」

「でも・・・」

「大丈夫、おねーちゃんにすべてを任せて! 絶対に助けてあげるから、ルディちゃんのお姉さんもね! ほら、早く早く」


 さらに力を入れルディを立たせようとする麻衣。ルディは、諦めたのか、麻衣の力に負けたのか、目を閉じたまま立ち上がった。


「おっけー、ララちゃん。やって」


 麻衣の服が一瞬で微細な粉上に砕け、装着されている服が全て無くなった。そして粉々になった粒子は、彼女の周りを数周する。そして半分以上がルディの方に、流れて行った。


「ひあぁー、はだかー」と麻衣は、とっさに腕で大事な部分を隠す。


 まず先に麻衣の体に、服が形成されていった。胸の部分、そして腰の部分。辛うじて見えないレベルの、布が巻き付けてある状態になった。下着は無く、下から見れば丸見えの状態だ。腰の部分は、股下10cm程。胸部は胸の下部が、見えない程度。お腹は丸見えだ。見栄えは2枚のタオルで、胸部と腰を巻いてある状態だ。そして、背中に剣が紐で固定されていて、お尻の部分の布を押さえつけてた。

 彼女は、巻き付けられただけの服を見て、顔が引き吊り「ははっ」と乾いた笑いを発した。


 ルディの方に流れた、ナノマシンの服の素は彼の頭部を中心に回っていた。そして徐々に彼の髪が盛り上がっていく。そして耳のある部分に2個の盛りを出来上がり、耳はその盛りで隠された。


「ララちゃん、私の服の面積が… ほぼ無いんだけど? 半分って言ったよね?」

『若干足りませんでした。それより麻衣様の過激な服で、人々の視線を麻衣様に集中させる事が出来ます。よって彼への視線を、回避でき。より、見つかりにくくなります。安心してください、計算は完璧です。では、ご健闘を祈ります』

「まえってー・・・恥かしいんだけど・・・うっ、切れた」


「おねーちゃん、誰と話してるの?」


 麻衣の言った事を守り、律義に目を閉じているルディ。不思議そうな声で、麻衣に尋ねた。


「ああ独り言よ、と言う事にしておいてね… じゃぁ、目を開けていいよ。ただし、おねーちゃんを見上げないでね!」

「頭が何かおかしい…」とルディは、目を開ける。その目の前には、麻衣のお腹が見えた。


 麻衣は彼の頭に手を置き、彼が頭を上げない様に下を向かせた。そして素早く彼の隣に移動した。


「ルデイちゃん、変な感じがしても髪は触らないでね。じゃ、行こっか」

「う… うん…」


 麻衣はルディの手を取り、通りに出ると中央広場へ向かって歩き出した。麻衣は人とすれ違うと、確実に過激な服を見ている視線を感じた。そして、しばらく歩いていると、前方に兵士が麻衣達に向かって歩いてくるのが見えた。麻衣は、あ…まずい… と感じ隣のルディを促し兵士を避ける様に道の端へ移動する。しかし、その兵士は麻衣達に向かって歩いてきた。


 兵士は麻衣達の前でその進行をふさぐように止まった。麻衣も兵士の前で止まった。兵士は麻衣の服装を丹念に見始める。その視線は隣の、ルディには向けられていなかった。


「ねえ、いくら?」

「売ってないわー! あっち行けー」と麻衣は、激しい口調で兵士に言った。

「ちぇ、何だよ… まぎらわしいなー」


 兵士は残念そうな表情で、麻衣の横を通り過ぎスラムの奥へ歩いていった。麻衣は彼を目で追い、充分な距離になるとルディの手を引き再び歩き始めた。

 そんなやり取りが、宿屋に着くまでの間に、何度も遭遇するのであった。さらに人通りの多い大通りでは、人の視線が痛いほど麻衣に、突き刺さった。

 宿屋に着いた麻衣は、直ぐにララに連絡し服を戻すのであった。


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