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銀色の雲  作者: 火曜日の風
3章 まず行動、目的は後からやってくる
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4話 出会いは裏路地で その2


 日が沈んだスラム街の狭い路地奥、2人の姉弟が座り込み肩を寄せ合って、通りの方を見つめていた。その姉弟は、人族の街には居ないはずの種族であった。茶色の髪をかき分けて、三角のフカフカの耳が、頭に乗っかっている。そして、お尻の部分には猫族の尻尾と違う、長い毛に覆われた、フサフサの尻尾があった。クッド族である、犬系の種族であった。


「これまでか・・・」

「おねーちゃん・・・」


 弟は姉の服をつかみ、今にも泣きそうな表情で、姉を見上げていた。通りの方を見つめていた姉は、振り返り弟をそっと抱きしめた。そして、弟にしか聞こえない小さな声で話し始めた。


「大丈夫よ、私が何とかするから。いい? 後で迎えに来るから、ここでじっとしていなさい」

「・・・でも」

「かならず・・・必ず、戻ってくるから。返事は?」

「うん、待ってる」


「よし!」と姉は、弟の頭に手を置く。そして、その手を彼の後頭部に回し彼女は、弟の額に口づけをした。その時、彼女の鼻は、皮の臭いを感じ取った。近い、来る… そう思った彼女は、弟の体を近くの物陰に押し込み、彼に背を向け立ち上がった。そして、もう一度弟の方を振り返り、彼の姿、その顔を再び確認し、そのまま長く見つめ続けていた。


 弟は姉を見つめたまま、何かを言おうと口を開こうとした。しかし姉は人差し指を口に当て、静かにするように目で合図をしていた。弟をそれを見て、両手で口を塞ぎ頭を縦に何度も振り続けた。彼女は、それを見て振り返り、その先にある通りを見た。そして、強くなる皮の臭いで、彼女は通りの方に向かってゆっくり歩き始めた。


 彼女が歩き始めるとほぼ同時に、通りに皮の鎧を着た兵士が姿を現した。兵士は、そこで立ち止まり、ゆっくりと彼女の方を向いた。兵士の目は彼女をとらえると、強く息を吸い込んだ。そして大声をだそうとした時、彼女は兵士に向かって走り出した。そして兵士に体当たりした。体当たりを食らった兵士は、バランスを崩し後方に倒れた。


「ノロいな」


 彼女は倒れた兵士を、そのまま見下ろしていた。そして少しづつ、少しずつ回り込み、彼女を見ている兵士の視界を、弟の居る場所から離していった。そして、その視界が弟から消え去った時。彼女は、ゆっくりと兵士から距離を取り始めた。



 そんな出来事を、倒れた兵士の十数メートル後方で、偶然見ていた人物がいた。つい先程、スラム街に入って来た麻衣であった。


「おおぉ~犬娘だぁ、キタコレ! 助けないと!」


 麻衣は右人差し指に、エネルギー弾の準備をした。そして、地面に倒れ座り込んでいる兵士に照準を合わせようと、うっすらと先端が光っている指先を顔の前に上げた。兵士を撃とう… と思ったが、さすがに兵士を攻撃するのマズいな… と思いとどまる。ならばと、犬娘を撃とう… と照準を変える。しかし… と考え込んだ。兼次から事件を起こすな! と言われているのと、さらに攻撃するな! と言われたのを、思い出し迷っていた。



「捕まえて見ろ! お前にできるか?」と犬耳の彼女は、倒れている兵士の顔を見て、口元だけで兵士を嘲笑う。そして、スラム街の奥に向かって走って行った。


「いたぞー! 追えー! 捕まえろー!」


 路地に兵士の大声が鳴り響いた。近くにいた兵士は、その声で気づき逃げていった人影を追って走り始めた。体当たりを食らった兵士も、急いで起き上がると、続いて走り追って行った。


「あぁーあ、犬娘が行っちゃったよ… これは、私を迷わせた、兼次ちゃんが悪い!」と言いながら麻衣は、犬耳の女性が出てきた辺りまで歩き始めた。  



 取り残された犬耳の少年は、薄暗く狭い路地で地面に座り込んでいた。自身の体に、腕を巻き付ける。小さく、小さく、その体を、その足を、引き寄せ縮こまった。そして、物陰の隙間から、先の通りを息を潜め見ていた。

 暫らく見ていると、その先に黒い人影が現れた。彼からは、星明りの逆光で人影としか見えなかった。彼は、その人影を見上げると、その頭に2つの膨らみを見つけた。

 彼は、その頭の膨らみを、耳だ… と思い込む。そして、姉が返って来た… と考えると、自然に体が動き、その人影に向かって走った。


「おねーちゃん」と彼は、その人影の服をつかんだ。

「だから、スカート引っ張んなって! って、え?」と、そこに現れたのは麻衣であった。彼が耳と間違えた2つの膨らは、彼女のツインテールの根元の部分であった。


 彼は麻衣のスカートから手を離すと、ゆっくりと後ずさりを始めた。表情は強張り、今にも泣きそうな表情だった。


「マジデスカ… 犬耳男の娘だ。かわいーんだけど。まって、まって… にげないでぇー」


 彼は麻衣から背を向けると、走って逃げようとした。足で地面を強く蹴り、腕を懸命に振る。しかし、彼の体は進まなかった。虚しく空を切る両足、そして彼は地面を見る。その足は、地面から浮き上がっていた。


「だめだよー、にげちゃ。大丈夫! おねーちゃんは味方だよ!」


 彼の後方から、麻衣の声が聞こえた。彼は驚きの表情で、その声の方を振り返る。そこには、右手を彼の方に向け立ち尽くす麻衣の姿があった。そして麻衣は、彼の方へ歩み寄る。それと同時に、彼の体は自身の意思とは無関係に、回転し麻衣の方を向いた。


「大丈夫、怖がらないでー。なにも、何もしないからねー。えへへへぇ」


 麻衣は怯えている彼に向かって、歩き始めた。それと同時に、彼の体は地面に尻から落ちると。「あぅ」という小さな声が、口から洩れた。彼は尻を引きずりながら、両手で器用に麻衣から遠ざかろうと、少しづつ後退を始めた。

 麻衣は後退する彼を見ると、すばやく彼の元に移動する。そして彼の前で座り、両手を彼の両肩に置いた。


「そこにいるのは誰だ!」


 麻衣の後方から、突然声が聞こえた。彼女は声の方へ振り返ると、そこには中央広場で話かけた兵士が立っていた。彼女は両手に力を入れ、少年の体勢を押し下げる。そして自身に引き寄せて、兵士から見えない様にした。


「さっきの兵士さん、どうしたの?」


 麻衣は首だけで振り返り、兵士を見上げる。それと同時に彼女の両手に、震えている少年の振動が伝わった。彼女は少年の震えから、これは見つかるとまずい展開かも? …と思い、この場をやり過ごす展開を考え始めた。


「お前は、さっきの女だな? ここで、何をしている?」

「我慢できなかったの! 見ないでくれるかな?」


「・・・こんな所で、するなよ」

「だからー、見てないで素早く立ち去る! はいっ、行った、行った!」

「す…すまん」と兵士は、気まずそうに立ち去った。


「大丈夫、もう行ったよ」と麻衣は振り返り、少年を見た「何があったの? 話してごらん、助けてあげる。でも、その前にぃー」と彼女は、その手を少年の頭に乗せる。


「犬耳だぁー、えへへへへ、尻尾もいいかなー?」

「お、おねーちゃん。くすぐったい・・・」


 それから麻衣による、少年への犬耳、尻尾のお触りタイムが始まった。


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