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銀色の雲  作者: 火曜日の風
3章 まず行動、目的は後からやってくる
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1話 出会いは裏路地で


隣町行きの馬車の中、兼次と麻衣は横並びでスマホの動画を鑑賞していた。その画面には、瑠偉の食事姿が映っていた。麻衣は、その動画を閉じると、横の兼次の方を見た。


「橋壊したの、バレちゃったね?」

「まだわからんぞ? あとは、お前の演技しだいだ。上手くやれよ」


兼次はその言葉と同時に、立ち上がると麻衣の対面で横になる。当然、頭を彼女の太ももが見える位置に置いている。麻衣も彼が立ち上がると同時に、足を組み、その奥が見えない様にブロックした。


「しかし、親友を罠にはめるとは・・・悪女だな」

「人のせいにしないでもらえるかなー、バラしちゃうよ?」


兼次は、起き上がり座り直し姿勢を正し腕組をする。そして、麻衣の顔を凝視し始めた。それを見た麻衣は、その視線に耐えられなくなり、横を向く「怒ることないじゃん、冗談なのに…」と小声でつぶやいた。兼次は、そんな麻衣を見て大きくため息をつき、両手を上げ背伸びをして体をほぐし始めた。


「はぁ~・・・退屈だな『旅の過程にこそ、価値がある』とか言った奴、誰だっけ? こんなに何もしていない時間がある旅に、価値があるとは思えんな」

「それなら『あらゆる旅は、その速さに比例してつまらなくなる』と言う、名言もあるわね。と言う訳で、寄り道しない?」


「どこに?」

「迷宮よ! その奥底に、ひっそりと待ち構えている財宝! そして、財宝を守るドラゴン。はぁ~、ロマンだわー」


「ねーよ、迷宮なんて…」と兼次は言うと、組んでいた腕を崩すと。腰にある巾着を取り出すと、中から豆金を取り出した「ほら、お小遣いだ。大事に使えよ?」と言い、麻衣に向かって豆金を投げた。


「わわわっ、ちょっと投げないでよ!」と麻衣は、投げられた豆金を慌ててキャッチする。彼女は手を顔の近くに上げ、中身を確認すると。豆金が3個入っていた。そして、悩ましげな表情で、兼次を見つめた。


「随分太っ腹ね? 何かの陰謀を感じるんだけど…」

「素直に喜べよ…ったく。俺は次の街で、夜の探求を行う。宿屋に付いたら、自由行動だ。大事に使えよ?」


麻衣は手に載っている豆金を握りしめ、迷走状態に入った。そしてその口元から、一人妄想ストーリが展開された。



「私が人影の少ない裏路地に行くと、そこにナイフを持った男達が現れる。

『ねぇ、ねぇ、お嬢さん。俺達といい事しない~、へっへっー』

そして私は、それを見て恐怖で腰が抜けて地面に倒れこんじゃう。そして、ゆっくり手で体を引きずって、男たちから遠ざかる。男達は、そんな私を見てヨダレを垂らしながら、近寄って来た。

『いやぁ~!』と私は、悲鳴を上げる。絶体絶命の危機。そんな時、私を救う勇者が現れた。

『まて、貴様ら』と、私は彼を見る。そこには、長身細身、そでいて綺麗な筋肉質、琥珀色の髪に載るのは犬耳。整った顔立ちから覗く鋭い目つき。私は、彼の足元に……へへへっ」



兼次は、そんな麻衣を黙って見ていた。しかし、まだまだ続く彼女の妄想。彼は目をしかめながら立ち上がると、彼女の前に出た。手を額に向けて繰り出すと、彼女のおアデコで指を弾く。バッチッっという、綺麗な音が馬車内に広がった。彼女の頭が仰け反ると、後ろの壁に後頭部を打ち付けた。


「いたっーい! ちょ、なにするの」


兼次は、彼女が覚醒したのを確認する。そのまま彼女の対面に戻った。


「旅立つ前にも言ったが、事件を起こすなよ?」

「それ、フリだよね?」

「フリじゃねー! と言う訳で、裏路地に行くのは禁止! 素直にスイーツでも食ってろ」

「え~・・・でも、巻き込まれたら仕方ないよね?」

「そんな、都合のいい展開は起きねーよ『麻衣は、裏路地に入った。しかし、何も起きなかった』これが現実だ」

「ふふふっ、果たしてそうなるかなー? なにかが起こる予感がするんだよねー」


そんな時、麻衣の横に置いてあるスマホが振動を始めた。それに気づいた彼女は「あ、着信」とそのスマホを手に取った。「瑠偉ちゃんからだけど?」と彼女は、兼次の方を見た。


「わかっているな? 上手くやれよ」

「わかったわよ」

彼女は、スマホを通話状態にすると、耳に当て話し始めた。


『おはようございます、麻衣』

「おはよう。S系お嬢様』

『誰が、S系よ! 刺すわよ?」

「はっはは、冗談だってば。で、どうしたの? アレの件?」

『違います! 麻衣、なぜ橋を壊したのですか? 街の人達が、困っていましたよ。私は貴方を、そんな人だとは思ってませんでしたが・・・」

「ちょっと、待って待って。壊したのは、私じゃないんだってば・・・あっ」

『わまりました。麻衣、スマホを兼次の方に向けてください』

「え? なんで?」

『いいから向ける!』

「わああ、向けるから・・・怒んないでよ」


麻衣はスマホを耳から離すと、そのまま腕を前に伸ばし、兼次に向けた。


『バカー! アホー! タワケー!』


と、スマホから瑠偉の大声が、馬車内に響き渡った。

麻衣はスマホを戻し、その画面を見る「切れてる…」そして、前にいる兼次を笑顔で見た。


「おぉ~…罵り三大都市活用だね!」

「上手い事言ってんじゃねーよ…お前、隠し事できねーな。まぁ…いい、新しい嫌がらせを考えておこう」

「もう、攻略諦めたら?」

「一度決めた目標は、必ず成し遂げる!」

「カッコいい言葉だけど、目的がねー・・・」


兼次は、そんな麻衣を見ながら。再び横になった。

馬車は、小さな振動と共に、ただひたすら走りつ続けていた。


※引用・参考

目的を見つけよ。手段は後からついてくる。

マハトマ・ガンジー(印・1869~1948)


All travelling becomes dull in exact proportion to its rapidity.

ジョン・ラスキン(英・1819~1900)


旅の過程にこそ、価値がある。

スティーブ・ジョブズ(米・1955~2011)


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