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銀色の雲  作者: 火曜日の風
2章 伝説の聖女様現る
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7話 酒場にて


 草原を駆け抜ける2体のアルパは、カキレイの街に向けて疾走と駆け抜けていた。アルパにまたがっている瑠偉は、アルパの走行で起きる上下運動と背中に当たる固い突起。そして、地球の馬より大きい、その背中で広がり切った股。その姿勢で、内股、お尻、背中をリズムよく打ち付けていた。


「ララさん・・・内股とか、お尻とか、背中が痛いです。特に肩甲骨辺りが…」

「お嬢様、喋ると舌噛みますよ」

「気分も悪くなってきた」

「あと10分で着きます。我慢してください」


 クレハのアルパに先導され、走り続ける事10分カキレイの街が見えてきた。クレハの後ろには、ララの乗るアルパアが追走していた。ララの前に乗っている瑠偉は、右手で口を押え顔が青ざめ始めていた。


「ララさん、もう限界です」

「あと少しです」


 2頭アルパは、街に入ると速度を落とし酒場に向かって行った。先行していたクレハは、酒場に付くと素早く降りララ達に迎え入れた。


「ルイ、大丈夫か?」

「クレハさん、少し休憩させてください。初めて乗ったので、気分が悪いです」

「わかった、休憩していこうか」


 クレハはそう言って、尻尾を陽気にフワフワさえながら、酒場の入り口まで進んでいった。彼女は、扉の間で振り返った「心配するな、奢るぞ」と言うと、そのまま店の中に入っていった。


 ララは瑠偉の両脇を両手で抱えると、彼女を地面に下した。瑠偉は地面に降りると、両手を膝に付け中腰状態で息を整えている。ララは彼女の近くに寄ると、彼女の背中を優しく摩り始める。それと同時に、瑠偉の体の状態を調べていった。


「お嬢様。肩甲骨辺りの筋肉が、炎症してます」

「はぁ、はぁ…それは寝る前の全身マッサージで、ついでに治します」

「なるほど…いつもの治癒能力を込めた、夜の全身美肌マッサージですね」

「あ、あの…なんで、知ってるのですか? 誰にも言ったことないんだけど」


 ララは、瑠偉のその言葉を聞くと同時に、酒場の扉に向かって歩き出した。「さあ、クレハさんが待ってます。入りましょう」と瑠偉の方を少し振り返り、中に入っていった。

 瑠偉はその姿を目で追いながら、何かの違和感を感じ取った。そして「なんか、怪しいわね」と言いながら、酒場に入っていった。


 彼女が店に入ると、酒場の雰囲気が一斉に静まり返り。他の客たちは、瑠偉達をチラチラ見ながら、何やら瑠偉達の事を話しているような雰囲気だった。彼女は幾分の嫌悪感を感じ、周囲を確認しながらと酒場の中に進んでいった。


「おーい、こっちだ!」


 店の中央付近で、手を振りながらクレハがララと瑠偉を呼んでいた。二人はクレハの元に向かうと、すでにテーブルには3つのコップが置かれていた。クレハは二人が近づくと、手前のコップを持ち上げ二人に見せた。


「酒は、大丈夫だんだろ?」

「私は、未成年なんですが…」


 そう瑠偉が答えると、クレハは瑠偉の全身を舐めるように見渡す。そして、右手をアゴに当て考え始めた。


「うーん、未成年に見えないけど。ルイは何歳なんだ?」

「一応、17歳ですが・・・」

「なら立派な成人じゃないか! はっはっ、とにかく飲んで元気出せ!」


 クレハは更に「ホラホラ、飲んだ飲んだ」と右手で座って、飲むよう促した。瑠偉は座ると、コップを取り一口含む。喉が焼けるような感覚と、炭酸飲料の様な刺激が口を駆け巡った。もともと炭酸飲料は苦手であった彼女は、そのまま飲むふりをしコップをテーブルに戻した。そして長い息を吐くと、クレハに語り始めた。


「クレハさん、領主様の用件は何でしょう? 知ってるんじゃないですか?」

「連れて来てくれとしか、聞いてないんだ。すまんな・・・」


 クレハはコップとテーブルに置くと、腕を組み改めて瑠偉達に向かい合と黙り込んだ。そんな彼女を瑠偉は、注意深く観察していた。お互いの顔を合わせていたが、先にクレハが瑠偉から目線を外し酒を飲み始めた。


「聞いてはいないけど、用件は予想できている。と言った感じですね? 聞かせてくれませんか?」


 事前に用件を知っておけば、ある程度の対策は立てやすい。そう考えた瑠偉は、クレハから何とか聞き出そうと考えていた。隣に座っている、無表情で行動の予測がつかないロボットよりは。感情表現や目線で、予測ができるので話しやすい。


「領主様の息子の件だ」


 クレハは持っていた酒を、一口含み静かにテーブルに置き語り始めた。


「彼の名は『レッグ』と言って。彼とは3年ほど前から、ガフと一緒に3人で狩りをしていた。そんな時だったかな、ちょうど1年前のこの時期だ。遠出をして狩りをしよう、と言う話になってな。森の奥まで進んでいった、狩りは問題無かった。けど、知らない土地に言ったせいか迷ってな。そんな時だったな、レッグが崖から落ちた・・・。私とガフで、直ぐに助けに行った。レッグも数年の狩りの経験もある、上手く着地したようだったが・・・」


 そこでクレハが黙り込んだ、テーブルにあるコップを勢い良くとる。彼女はそれを一気の飲み干し、長い息を吐いた。瑠偉はクレハの表情と話の内容から、ある程度の予想を立てる。そしてクレハの話が続く前に、彼女に話しかけた。


「クレハさん、そのレッグと言う人。その時に何かしら、大きな怪我を負った。で、その後遺症が残っている。と言う感じですね? さらに、その狩りに誘ったのが、クレハさんと言う事ですか? それで、レッグさんに負い目を感じていると・・・」

「まあな・・・たしかに、誘ったのは私だ。あの時血が出ている個所は、私とガフで何とか塞いだ。しかし、両足が動かなかったんだ」


「そうですか・・・それで私を? 領主様が呼んでいるというのは嘘ですか?」

「ああ・・・ガフの腕を直したのを見て、もしかしたらと思ってな。知ってると思うが、錬気で怪我を直す時は、手は白色に光る。青く光る事は無いんだ」


「なるほど、普通は白く光るのですか・・・普通は白くねぇ」と言って瑠偉は、ララの方を見る。しかし、相変わらずの無表情であった。瑠偉はララに顔を近づけ、小声で話しかけた。


「ハメました?」

「お嬢様、単なる情報不足です」

「ホントかなぁ~?? あやしいな~」


「クレハさん、レッグさんが怪我をした場所をお聞かせください」


 ララは、瑠偉の疑問をスルーすると、クレハに怪我の状況を確認した。それによると、背中から落ち、岩などに打ち付けたような傷跡だったそうだ。


「なるほど。足が動かないのと、背中の強打から推測するに。脊髄の損傷でしょう」

「せ…き…ず…い?」とクレハは、聞いたことな単語に、片言でララに聞き返した。


「手足を動かす神経が通る場所です」

「しんけい?」

「ああぁ、何でもないです。気にしないでください」


 知らない単語を聞き返してくるクレハに、瑠偉は話が長くなりそうな気がして。早々に切り上げようと割り込んできた。そして、再びクレハと向かい合った。


「クレハさん。ガフさんの腕の件は、こちらの落ち度です。が、レッグさんの件は違います。無償で…と言う訳にはいきません」

「そうだな、報酬は私が払う。足りないなら、働いて返す。必ずだ」

「そ、そんなに高額な請求はしませんけど・・・幾らぐらい貰えますか?」

「金10でどうだ?」


 瑠偉はここで、お金の価値が分からない事に気づき、隣のララを見た。


「金10だと、ここでどれだけ暮らせるの?」

「帰る時までは、十分持ちます。お嬢様が、豪遊しなければですが」


 帰る時まで、働かなくていい。と考えた瑠偉は、自然に口元に笑みを浮かべた。


「わかりました、その金額で構いません」

「そうか! なら、直ぐに行こう!」


 クレハは立ち上がると、瑠偉に近づき彼女の手を取ると。そのまま瑠偉を立たせ、店の出入り口まで引っ張って行こうとした。


「ちょっと、クレハさん。慌てないでください! 引っ張らないで、痛いです!」

「おお、すまん。つい嬉しくなってな。行こうぜ!」


 クレハは立ち止まると、瑠偉の肩に手を回し歩き始めた。その時、後方から「治るといいですね」とララの声が聞こえた。瑠偉は、振り返ってララを見た。


「え? 無理なの?」

「さあ、どうでしょう? お嬢様、行きましょうか」


 瑠偉の心配をよそに、3人は酒場を後にレッグの元に向かって行った。



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