猫のお着替え
(何か今さらっとすっごい重大発言した気がするんだけど!?…あ、でもそっか。そういえば『選んだ』って言ってたっけ。とするとこの体はその頃、まだ俺じゃない誰かが入ってたって可能性が高いな。さり気なく重要情報ゲット!
…てか今この人、自分の服でもとか言わなかったか?)
突然の情報でびっくりしていると、レア様の呼びかけにすぐに反応しなかったせいか、レア様は待ちきれないといった様子で俺の方まで戻り俺の手を握ってきた。
「別に気にしなくていいのよ、私がしたくて用意したんだから!」
そう言ってそのまま俺をクローゼットの方へと引っ張っていく。
(いやほんとすいません、別に引け目を感じたのが理由で止まってた訳じゃないんです。
…それと、まぁもうこの際だ、覚悟を決めるしかないよな。)
そう考えた俺は、とりあえずされるがままにする事にした。
「さってどんなのが合うかなー、やっぱり青とか白系かな?あ、あと可愛い感じとか大人っぽい感じとかもあるわね。」
だが色々と悩みながらレア様が漁っているクローゼットを見て、俺は絶句した。
…いわゆるあれだ、ドレスっぽいのとかふわふわしたのとか、そういうのしか入ってないのだ。
「あ、あのすいません!」
「んー?どうしたの?」
「服ってその、あ、嫌って言いたい訳ではないのですが…そんな感じの服が多いのですか?」
「そんな感じ、って言うのがよくわかんないけど…ここに入ってる奴以外でも、私が着ても良いかなって物ばかりよ!だから安心して?」
レア様は相変わらずの明るい笑顔で答えた。
…あ、終わった。これもうふりふり着る未来しかないわ。
「それならお…私はそういうのを着た事無いのでレア様にまかせます。」
「あらそう?別にいいのよ、どんどん意見言ってもらっても。」
レア様は相変わらずの良い人ぶりを見せてきた。
…けどすいません、その中から着るなら正直どれ着ても恥ずかしい事に変わりないので、もう好きにしてください。
「いえ、いいんです。レア様が選んでくださった物がいいので。」
「…わかった!それなら私のじゃ無い奴でだけど…これとかどう?」
そう言って俺に見せてくれたのは、確かに無難に似合いそうな白と水色を貴重とした、そして細部に青色が所々入ったふりふりな服を出してきた。
…てかよかった、さり気なく一番やばい方向のは回避できた様だ。さすがにまだ女の子の着てた服着るのはハードル高いです、恥ずかしさで死ねます。
「これ今私が着てる奴の色違いなの!どうかな?」
レア様は自分が着ている黒と赤、そして細部に金色が入った感じの、俺の貧弱な知識だとゴスロリ系としか思いつかない様な服の裾を掴み、そして軽くポーズを取るようにして俺を見てきた。
(…うん、可愛いんですけどね。出来ればもっとラフなのが欲しかったんだよなぁ…でもわざわざ色々揃えてくれてたみたいな手前、そんな事言い辛いんだよね。
まぁあれだ!こんな可愛い娘とお揃い着れるんだ。そこで我慢しよう。って今思ったけどそれって奴隷とお揃いって事になるけど、貴族としていいのかレア様…いやペットだからセーフなのか?
それにそうとなると下着も着なくちゃだよなぁ…いやでも俺は今女の子の体なんだから女物の下着で普通なんだ。決して変態的な意味で着る訳じゃないんだ!)
「…良いと思います、ただ私とレア様が同じというのは。」
「んー?別にいいんじゃない?自分のペットとお揃いの物つけるってよくある話だし。
さてじゃあこれ着てみよっか!下着はこれに合う奴とすると白とかがいっか。後は胸…」
あ、そういう扱いなのね。…って上ですか!?
「そ、それはいいですよ!お…じゃなくて私はまだ大丈夫なので。」
「そう?でもこういうのって早い内からしてた方がいいらしいけど…まぁ本人が良いって言うならいっか。」
こうして俺はさすがに上の下着は勘弁してもらいつつ、レア様の手で着換えをさせられた。
「うん!やっぱり似合う!すっごく可愛い!」
レア様の部屋にあった大きな鏡、そこには先程の服を着た俺が映っていた。
(し、下着の感触が何か気になるが、これが俺か…何かまじで他人を見てる気分だ、いやまぁ元々の中の人じゃないから他人なんだろうけど。
…にしても俺こんな外見だったんだな、結構可愛いじゃん。ただかなり痩せてるからもうちょっと肉つけて、そうすれば完全に俺好み…ってそれだと俺は自分に恋する事になるのか?あかん、それはあかん。よしちょっと痩せ気味くらいでいこう、自分の好みに合いすぎると駄目だ。)
レア様が横できゃあきゃあしてる中、俺は密かに自分自身の外見との付き合い方について考えていたりした。
「シアちゃぁぁぁん!」
するとレア様が突然俺に抱きついて来た。
(めっちゃくっついてるー!感触が!匂いがー!)
「レ、レア様!?」
「んー?なーに?」
「あ、あの、そんなに近づいたら…」
「…もしかしてまだ身分の事気にしてるの?別にいいのよ、私がしたくてしてるんだから!」
完全にパニクる俺に対して、レア様はとても冷静だった。
それからしばらくの間レア様に抱きつかれ、たまに耳とか触られたりしていると。
ぐぅ〜
俺の腹が思っきり鳴ってしまった。
…そういやお腹すいてたな、色々あったせいで気にならなかったけど。
「あらお腹空いたの…って考えてみれば見た目からしてお腹空いてるの当たり前じゃない!ごめんね!?」
するとレア様は直ぐ様に離れ、メイドあたりにでも声をかけようとした様だったが。
「って私が二人きりにしてって言ったんじゃん!あー…なんかもうほんとごめんね、ちょっとここで待っててくれる?すぐご飯用意するから!」
すぐにメイドさんが近くにいない事を思い出し、レア様は部屋から出て行ってしまった。
(…もうちょっとしてくれてても良かったんだけどなぁ。まぁいいか、それより今レア様は部屋を出ていったからこの部屋では自分一人、また一人になれるのなんていつかわからないしな、ちょっと情報整理しとこう。
えーと多分この世界では獣人族=奴隷で、俺はその獣人の奴隷なんだけど運良くレア様に買ってもらえた。だからペット扱いだけど待遇としてはかなり良い方になりそう。
…あーついでに何で獣人族=奴隷と思ったのかの理由も整理しとこ、まぁ簡単な事だけどそれはこの世界で今のとこ会った2人の嫌悪的反応とレア様の好意的反応とだ。
だって獣人好きー言ってる人がそもそも奴隷扱いな事につっこまないんだよ?普通そういう人とって私は対等に見るからね!とかそういう展開になるじゃんか、だから多分そうなんじゃないかと思ったって所だ。
それにしても気になる事が多いんだよな、この体の前の人はどんな人だったのか、そもそも前の人がいたのか、んでもってなんでそこに俺が入ったのか。ぱっとでももう三つあるよやったね!
えーそれで他には…あーそうだ魔法に関する事と、レア様が今どんな生活をしている中で俺を買ったのかって事だ。魔法に関してはそりゃわからない事だらけだし、レア様の生活しだいで俺の生活レベルも変わるからな。
…まーでも今考えた所で答えなんか出ないし、とりあえず疑問に思う事を忘れなければいいや。今はどうせ何も出来やしないんだから。ただこういうのをほっとくと絶対後でめんどくさい状況になるからな!俺はただのんびりしたいんだ、けど不安要素とか気になる要素残したままじゃ安心しきれない。だから今のところはレア様についていきつつ、少しずつ謎を紐解いていけばいい。
…よし!とりあえずこんな所でしょ!)
しばらく一人で考え込んでいた俺は床に座り、ちょっと休憩しようとした。
そしてその感覚があまりにも軽すぎる事に驚いた。
(ほんと軽いなー、体重とかまじで30キロ代じゃないの?前の俺は70キロくらいだったから…あー2倍以上違うのか。そりゃ全然違うわな!…にしても)
軽く俺は自分の体を触ってみた、それは何処もかしこも柔らかく、前世の男の時の体とは全然違っていた。
(…ほ、ほんと柔らかい体だな。何か軽く触っただけで壊れちゃいそうだ。それに加えてずっと思ってたけどこの股間の喪失感、何か色々と自分の存在が小さく感じるな。…ま、まだこないよね?それならちょっとくらい…)
俺は自分の服の中に手を入れた。
(こ、この先にあれが)
そして自分の股間を触ってみようとした。
その時だった。
ガチャ!
「シアー!お待たせ!ご飯用意したわよ!メイドに頼んで即席で作らせた魚料理だけど…」
ちょうどそのタイミングで、料理を台に乗せて運んでいるメイドさんとレア様が帰ってきたのは。
(な、何か話が全然進んでない気が…いやでもTSしたら普通最初が一番色々葛藤あるよね?だから今のうちにやっといた方が普通…なはず。)