子猫の名前と宿屋の名前と。
新しい街『クラシラス』での新たに冒険者生活を初めて7日後
冒険者ギルドの職員からは『採取の人』とか『子猫の人』とか呼ばれていた。
それは『クラシラス』に到着した日から連続で薬草採取をしたからなのだが・・・
どうやら『クラシラス』では連続で薬草採取をする冒険者は存在せず
ジン以外の冒険者は討伐依頼をしながらランクアップや生活費を稼いでいた。
その為ジンは冒険者ギルド内では少しだけ浮いた存在になっていた。
「それでは今日の薬草採取の報酬です。」
「はい、ありがとうございます。」
「いえいえ、ジンさんの採取した薬草は調合師の評判がいいで
これからも一定数の採取をお願いします。」
「もちろんです、薬草の種類を増やしていきたいんですが・・・」
「それなら・・・この小冊子をお渡しします。」
ギルド職員は一冊の小冊子をジンに手渡した。
それは前の村で渡された小冊子とは違い表紙に『クラシラス編』と書かれていた。
「この小冊子は『クラシラス』周辺の薬草採取や討伐依頼などの資料となります。
もちろん細かい点はギルドの資料室で調べてもらった方がいいんですが
一応、小冊子にはジンさんが知りたかった薬草の種類なども書かれており
採取のお手伝いのなると思うんですが・・・」
ジンはギルド職員の話を聞きながら小冊子を読み進めていく
確かに小冊子の中央には薬草が数種類紹介されており
ジンの知らない薬草が書き記されていた。
「薬草の名前と姿形が書かれているのか・・・
これなら明日からは数種類の薬草を採取できそうな気がする。」
「現在冒険者ギルドでは薬草の在庫が少なくなっている状況なので
ジンさんには定期的に薬草を採取してもらえればと思います。」
「なるほど・・・今日まで採取した薬草は調合するとポーションになるので?」
「そうです、体力回復用のポーションになります。」
「ギルドとしては、小冊子に書かれた薬草で在庫切れの物はありますか?」
「そうですね・・・体力回復用のポーションはいくらあっても大丈夫ですが・・・
在庫切れの薬草は毒消し用の薬草と熱さまし用の薬草が少なくなってきてますね。
それと秋口には風邪に効く薬草の採取もお願いできればと・・・」
「なるほど毒消しと熱さましの薬草ですね・・・
明日の薬草採取の時に見かけたら採取してみますね。」
「お願いします、小冊子にも書かれていますが
毒消し用の薬草は根元が採取箇所になり
熱さましの薬草は茎と葉が採取箇所になります。」
「やはり10本1束で採取ですか?」
「はい、どちらも10本1束でお願いします」
「了解です。
それじゃ、また明日。」
「お疲れ様でした。」
「にゃー」
ジンはギルド職員に手を振り
腕に抱かれた子猫は「にゃー」とあいさつしギルドを後にする。
ジンは宿屋で戻る前に道具屋により薬草を結ぶ紐を30本購入し
子猫用にミルクの小瓶を数本とリンゴに似た果実を購入し宿屋へ戻るのだった。
ジン達が宿泊する宿屋は冒険者ギルドの裏の通りにあり
宿泊費も比較的安いという理由からジン達は利用していた。
もっとも子猫と宿泊可能な宿屋の数が少なく
この宿宿表通りの高級店しか選ぶことができなかっただけなのだが・・・
宿屋にはジン達のほかに数人の冒険者が宿泊し
中には黒犬や灰犬をテイムした冒険者がいたり
少しだけ騒がしい雰囲気がある宿屋であったが
ジンや子猫は気にすることなく宿泊することができていた。
ジン達が宿泊した宿屋は『はちみつ熊さん』といい
黒熊をテイムした元冒険者がオーナーが冒険者時代に
はちみつの採取に長けていたから宿屋の名前が自然に決まったらしい。
ちなみにオーナーのテイムした黒熊は宿屋の裏庭で生活していた。
黒熊は高齢になり自然に返すことが難しくなっていたので
宿屋の裏庭で静かにオーナー家族と一緒に暮らしていた。
宿屋の宿泊客は黒犬『クロナ』と冒険者の『アロズ』に
灰犬『ハイジ』と冒険者『シオン』の2人とジン達のみだった。
この2人はパートナーと一緒に採取を得意とした冒険者達ということだった。
『アロズ』さんは森の中から調合で使用する『キノコ』などを採取したり
『シオン』さんも料理で使用する珍しい食材を採取するらしい・・・。
どちらもパートナーの黒犬と灰犬の協力があって初めて採取できるという話なので
冒険者ギルドの中でも2人は貴重な冒険者ということのようだ。
「そういえばジンさんの子猫は名前はなんていうんですか?」
宿屋の食堂でパートナーを交えての食事中に
『シオン』さんがジンに子猫の名前を聞いてきた・・・。
「名前ですか・・・
そういえば子猫に名前を付けていませんでした。」
「それは意図的に名前を付けていないということですか?」
ジンと『シオン』さんとの話に『アロズ』さんが会話に参加してきた。
「そういうわけじゃないんですが・・・
忙しくて今日まで名前を付ける余裕がなかっただけというか・・・。」
「それじゃ、名前を付けることに否定的じゃないと?」
「そんなに大事にしているなら名前をプレゼントしてもいいんじゃないですか?」
確かに『シオン』さんの子猫に名前のプレゼントはいい考えだ。
「その子猫はジンさんの大事な家族なんじゃないのかい?」
食堂の調理場からオーナーが顔を出しジン達に話しかける。
手には追加の料理が大皿に並べられており
ジン達3人はオーナーの話より大皿の料理に目を奪われていた。
「それはもちろん大事な家族ですよ。」
「それじゃ、名前を付けてあげたほうがいい」
「大事な家族ならなおさらね・・・名前は大事だと思うよ」
「何より家族なのに名無しというのは寂しいだろ?」
『シオン』さん『アロズ』さんオーナーに名前の大事なことを教えてもらい。
ジンは子猫を抱き上げ目を見つめながら
「名前を付けていいか?」
「にゃー」
子猫はジンの目を見つめながら返事をしている。
青い毛並みに白い瞳の可愛らしい子猫はジンに抱き上げられ嬉しそうにしている。
「青い毛並みに白い瞳だから・・・君の名前は『ソラ』に決めた。」
「にゃー♪」
子猫に『ソラ』と名付けた瞬間・・・
『ソラ』が微かに光り輝きジンとの確かに結びつきができた。
そして、ジンは『ソラ』の声を聴くことが出来た。
ジン以外には『にゃー』としか聞こえない声も
ジンの耳には・・・『ジン、大好き』と。
新しい街の名前は『クラシラス』防壁に囲まれた街。
人たちが宿泊する宿屋『はちみつ熊さん』もと冒険者のオーナーが営む宿であり
冒険者時代にテイムした黒熊と宿屋で暮らしている。
『はちみつ熊さん』の宿泊客は冒険者『シオン』とテイムした灰犬『ハイジ』
冒険者『アロズ』とテイムした黒犬『クロナ』。
そして、ジンと子猫の『ソラ』が『はちみつ熊さん』に宿泊してます。
ジンは『ソラ』と名付けた瞬間から『ソラ』の言葉を理解し
意思疎通が可能になるのだが・・・。
ジン以外の者たちには「にゃーにゃー」としか聞こえない仕様。