前編
人は希望の中に生きている。
しかし、自分ひとりだけ生きていける世界を 俺は求めている。
しかし、そんな世界は存在するのだろうか。
どうすればいいのか。
創るしかないだろう。
地表の7割を水が包む地球。人口は三十億五千万人。九十億に到達すると言われていた人口爆発はヨーロッパ焦土戦争、ウイグル独立戦争、第2次日中戦争、香港独立戦争、第二次朝鮮戦争、シベリア事変、インド民族浄化戦争により終わりを迎えた。
日本は東南アジア、モンゴル、ウイグルを統合旧大東亜共栄圏にあたるアジア連合を成立、アメリカ、イギリス、ロシアに対抗する経済圏を創る。
終了のチャイムがなる。
次、射撃訓練何だから遅れるなよっと、授業を長引かせた本人は足早に逃げていった。
「なあ、颯」
「なんだよ・・・神田」
機嫌が悪い。
よりにもよって何で塹壕なんだよ。
しかも、教官アイツやし。
「どうした元気ねえなあ?」
「まあな。」
「また、補講だったのかよ。」
「ちげーよ。」
「昨日、弾切れて買いに行ってたんだよ。M-4(エムフォー)の」
「おまっ、また派手に撃ったな。」
「いいだろ別に。」
「それよりもなあ、お前さあ、SVD (グノフ)の弾どこで買ってるんだよ、今度、教えてくれね」
「あれはまだ余ってるんだよ。」
「前のか?」
「そうだ」
「いいねえ、経験者は」
「気楽そうで。あ〜あっ、俺も行けば良かった」
「・・・・・」
「なんだよ怖い顔して・・・」
「お前今度そういうこと言ったら殺す」
「えっわ…なんだよこえーこと言うなよ」
「あっ、立川!昼休み購買行かね?」
「うん、ああ良いよ。けど、お前の奢りな♪」
「なんだてめぇ、やんのか。」
「・・・・・」
(ははっ・・・。なんだろうなこの感じ。)
「俺も行くよ」
こうして今日もオレは1日を過ごす。
なんてことない普通の生活だ。
これからも・・・。
ずっと・・・。
・・・・・。
・・・・・。
「一番相田行きます!」
乾いた音が鳴り響く。
「二番石井行きます!」
香る硝煙のにおい。
狭い塹壕から顔を出しては隠れる。
そのたび名前を叫び引き金を引く。
…俺の番か。
「十二番立川行きます!」
例に漏れず引き金を引いた。
今月で4回目
五十メートルなら簡単に当てられる。
まあ、動いていなければ、だが。
「撃ち方止め!」
教官の一声で訓練は終わる。
「立川!」
「はいっ!」
「声が小さい!」
「はい!」
「結果は見たか!」
「見ました!」
「言ってみろ!」
「初弾命中、のち三点連射三回うち有効五発無効十発、その後十四発を連射有効五発無効九発です!」
「よろしい、では何故だ!」
「連射時の反動を制御出来てないからであります。」
「声が小さい!」
「はい!」
「次、千歳!」
「はい!」
…。
…。
…。
「これで今日の全過程を終える!」
「礼!」
「ありがとうございました!」
「・・・・・」
「はぁ・・・」
「よっ、お疲れ!」
「なんだ・・・神田か・・・」
「お疲れ~」
「神崎もか。にっしても疲れたなぁ・・・」
「そうだな・・・はぁ・・・」
「なに疲れた顔してるんだ。お前。」
「何って、あの教官だよ」
「ああ、お前の姉さんか」
「可愛がられてんだよ,隼人は」
「おまえらー・・・他人ごとだと思いやがって」
ああ、他人事だよ。
あんな怖い姉は欲しくないな・・・。
隼人お前も大変だな・・・。
「そう思ってないって♪仲がいいって言ってるんだよ。颯は」
「そうなのか?」
「ああ・・・」
(そうだよな・・・あの人は・・・。)
「ところで、慎也・・・」
「ん?なんだ?颯?」
「このクラスで一番可愛い子って誰だと思う?」
「なっ・・・!!」
「おっ・・・颯、お前。そっちの人だったのか?」
「・・・へっ?」
「ネットアイドルとかにしか興味無いのかと・・・」
「泣くぞ・・・俺・・・」
「・・・・・」
(可愛い子かぁ・・・。はぁ・・・そういう出会いってあるのかな?)
ないか・・・そんなの・・・。
・・・・・。
・・・・・。
学校からの帰り道。
太陽はまだ高い。
「筋トレ・・・した方がいいかな・・・」
今日、言われたことを思い出す。
銃っていうものは科学で物理法則が働く。
今のよりもカラシニコフは反動が大きいらしい・・・。
どんな銃だよそれ・・・。
「はぁ・・・」
「てぇいっ!」
「はぐぁっ!!」
突然の痛みに奇声をあげてしまった。
(・・・このカバン・・・。)
「シロ・・・お前か・・・」
「にひひ。今日もたくさん外したねぇ。慎也君、シロは犬みたいだからやめて!」
「ぐぬぬ・・・」
「シロじゃなくてシルヴィアよ!。まったく・・・あんたは・・・もう・・・ふふっ、たった百メートルの距離で外すとか。笑えるんですけど」
「うう・・・」
(スコアで負けてる以上言い返せない・・・。)
「にひひ・・・」
「・・・」
(笑い方ホントムカつくんだよなコイツ。隼人の野郎は可愛いとか言ってやがったが・・・中身ホント最悪だぞ・・・。)
「もうそこら辺にしてあげなよ・・・。シルヴィア・・・」
「・・・確かにそうね。流石に大人気なかったわ」
「そうだよ〜。あっそうだ!。慎也くん。お兄ちゃん見なかった?」
・・・・・。
そうだよ~じゃなくて反論して欲しいのですが・・・。
「颯か?」
「うん。」
「用事があるって先帰ったぞ」
「そうなんだ・・・。わかった。それじゃぁね。シルヴィア♪」
「うん。お疲れ♪。玲奈♪」
「颯か・・・。」
「ん?なんだ?」
「アイツ・・・。ホント何なのよ!もう!」
「?」
「何よ・・・涼しい顔して、《ああ・・・今日はダメだなぁ~》とか言いながらほとんど当てて!。何よ!あれが経験者って奴!。ああ、ホントイライラする」
「・・・・・」
頼むから・・・無言ですねを蹴らないでください…。
あと、俺じゃなくて慎也だ!。
「なんか言いなさいよ!」
「はいっ!」
・・・この後ひたすらシルヴィアから愚痴を聞かされ、家に帰ったのであった。
お門違いもいいところだ。
・・・・・。
・・・・・。
「ただいま〜」
「お帰り~、くそ兄貴〜」
「・・・お前ってやつは・・・」
「ご飯~!」
「はい、はい・・・」
「はぁー・・・」
「どうしたのため息なんか吐いて・・・ああ、また派手に外したのか・・・」
「ぐぉーっ・・・てめぇ・・・俺が一番気にしていることをーっ・・・」
「悪い、紗奈・・・。今日の晩飯はなしだ!」
「えっ、ちょっ、お兄ちゃん、そんな殺生なぁー」
「うう…。こんな可愛い妹にご飯も作ってくれない兄が居たなんてぇー」
「自分で可愛いって言ってる当たりで駄目だろ!」
「ちぇーっ!」
「はあ、今日は作ってやるから・・・。言うのやめてくれ・・・。ください・・・」
「は~いっと・・・」
紗奈は俺と2歳歳の離れた妹だ。昔は…可愛かったのだが…今は、ただウザイだけだ。まあ、 玲奈とかシルヴィアとか、鈴音が面倒見てくれたおかげでこれでもまだましな方だと思う。いや、思いたい。
「七時になりました。七時のニュースをお伝えします。今日、午後4時頃シルバーバレットの犯行と見られる殺人事件が起きました。現場には、薬包の他、被害者に関する資料が置いてあり、また純銀の弾が被害者の体内から発見されシルバーバレットの犯行に間違えないと警察は認め殺人事件として捜査をする方針です。被害者の氏名は吉田元明氏で現職の国会議員名高い政治家でありましたが、一方で企業からワイロを受け取っていた疑いが浮上していました。今回の事件で、現場に置かれた資料から企業からのワイロを受け取っていたことがわかり、警察は捜査をする方針です。田所さん、これはどう考えた方がいいでしょうか?」
ピッ・・・。
リモコンを持った紗奈がチャンネルを変えた。わずかだが震えている・・・。
「えっ、紗奈?」
「・・・殺人事件なんて見たくない」
「・・・うん」
・・・子供なのかな・・・紗奈は・・・まだ。
テレビからは女性の声が聞こえる。
「どうも皆さまご機嫌いかがでしょうか?こちら中立領パナマに来ています。現在、このパナマの治安は比較的安定しており、警官の姿は見かけるもののアメリカ、アジア連合の軍人はおらず、武力衝突も起きていません!。是非、皆さんもお越しになってください。」
「・・・・・」
(停戦協定が結ばれて一か月しか経ってないのに行けるか!。)
「パナマかぁ~。いいなぁ~」
なんて・・・紗奈は遠く離れた南国の地に居る自分を想像していたのであった。
お気楽だな・・・。
本当に・・・。
・・・・・。
・・・・・。
「おはよう」
いつも通り教室についた。教室は生徒の声で満ちている。騒がしいとは思うがもう慣れた。入学から1ヶ月たってもまだ変わらない。まあ、そうだろう。
「んっ、ああ・・・おはよう慎也」
「はよー」
「珍しいな颯がこんなに早く学校に来てるなんて・・・」
「シルヴィアの策略だ・・・。毎日遅刻ギリギリに来るからイライラしていらっしゃる・・・。それで・・・、玲奈と鈴音に怒られて、しかも今日、一緒に行くことになった・・・」
「おう、そっか。そういや、何読んでんだ隼人?」
「ああ、これ。読むか?」
「ああ・・・」
「「・・・・・」」
「月刊メインアームズ オプション装備特集」
「「・・・・・」」
(また、これか。)
「なあ、隼人」
「なんだ?」
「この付箋は?」
「あっ、それ!新しいレーザーポインターが出たらしいからチェックしたわ。今度、買いに行かね?一緒に?」
「いや・・・、うちの学校というかレーザー全般禁止だろ。嫌がらせとか、目潰しに使われるとかでな」
「ああ、知ってる。でもよ、欲しいんだよ!。めっちゃ欲しいんだよ!。なあ、颯はどうだ?」
「必要無いな・・・」
「なっ・・・」
「第一そんなの使ったら敵に見つかるし」
「うっ・・・確かにそうだ」
「それに重量も増す。競技会ではともかく使うことはほぼ無いな」
「・・・改めて考えると確かにそうだな。使う場所がない・・・」
「まあ、あってもいいんじゃないか。授業じゃ使えないが」
「そうだな。俺、決めた今日買いに行ってくる」
「おう。いってら」
「一緒に来ないのかよ!」
「ああ」
「慎也は?。一緒に買いに行かね?」
「行かないわー」!
「ああ・・・そうか。」
「そういえば、昨日の事件見た?」
「事件?」
「ほらシルバーバレットだよ」
「ああ。妹に途中でチャンネル変えられて・・・朝も怖いって見せてもらえなかった」
「へ~。可愛い妹だな」
こいつは・・・死ぬつもりなのか。それとも、末期?。
あるいは・・・。
いや、止めておこう。義兄さんとは呼ばれたくない。
「かわいくねぇーよ。悪魔だよ」
「小悪魔?」
「ちゃうわ!」
「こら、席に戻りなさい!チャイムなるわよ!」
「うるせえ…まったくわかってますって委員長」
「ほらっ、颯も!」
「はいはい、戻りますてっば」
「はぁ・・・」
「ほら慎也も!」
「はい・・・」
今日も一日が始まる。けど、今日はすこし違っていた。
正確には「「今日」」からだったのかもしれない・・・。
誰だって・・・どこが運命の分かれ道なんかわからないだろう?
・・・・・。
・・・・・。
「はぁ、はぁ、ごくんっ・・・」
唾を飲み込む
「やった、やってやった!」
「ははっ、キミが悪いんだぞ!」
「キミが僕を捨てるから」
空は、晴れ渡り、星が綺麗な夜。
1人の鬼がいた。
「ははっ、ハハハ、ははははは!」
鬼が引き金を引いたとき、ガラスが割れる音がした。男はその音を聞いたが驚きはしなかった。
これまで何10回、何100回も繰り返した、その動作は鬼にとって呼吸だった。
ああ、この前撃ったのはいつだったのだろう。
何年も前だった。山にいる獣を撃ったときだ。
あのときは、憎々しくてなん度も撃った、
仲間からはこんなの喰えないと言われた。
「ははっ、ははははは!」
大事なのはこれからだ。家から人が出てこないことが良かった。出てきても殺せば良いと考えたが
いつにもまして、冷静だった。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
今日も1日が終わった。
正確には授業がだ。
「帰るかぁ~」
「お疲れ、隼人。レーザーポインター買いに行くんじゃないのか?」
「あっ、行けね!忘れてた。買いに行ってくるわ」
「ああ、お疲れ、颯!慎也!」
「お疲れー」
「おう、いってら」
適当に言葉を返す。
今日は、もう疲れた・・・眠い。
授業をただ受けただけなんだけどな・・・。
疲れるものは疲れる・・・。
「慎也、帰るか?」
「ああ」
「よっし、それじゃあ、帰ろう」
「おう。
「あれ?あんた達もう帰るの?。
「いいだろ、別に」
「まあ、そうなんだけど・・・お疲れ」
「ああ」
颯と一緒に帰路につく。
「なあ、颯」
「なんだ?」
「今日、暇?」
「暇だ。」
「うち、寄っていかね?紗奈も喜ぶし」
「それじゃぁ、寄ってくわ」
「よ~し、それじゃあ近道するか」
「近道?」
「ああ、近道だ」
「こっちだ」
「ちょっ、待て!おまっ、ここ廃屋じゃん。やめとけって」
壁のペンキは剥がれ、ことろどころ黒ずんでいる。
窓にはテープが貼ってある。
「平気、平気」
「むっ・・・。人がいる・・・」
「はぁ~、お前ってやつは」
「仕方ない迂回するか」
廃屋には市役所勤めだと思われる2人の男がいた。
彼らがその部屋を開けるとき、凄い音がした。
「えっ・・・」
「伏せろ!」
とっさに颯に頭を抑えられる。
その日からだった。
俺の日常がズレていったのは・・・。
そして、戻ることはもうなかったのであった。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
「大丈夫か?」
颯の声が聞こえる。なんだ今の音・・・。
焦げ臭い・・・。
「あれって・・・」
・・・・・。
・・・・・!!
さっきの2人がそこに倒れていた。
「早く、助けないと!」
「ちょっ、待て慎也!」
颯の声を振り切り、俺はただ彼ら?のもとへと走った。
「えっ・・・」
扉を開けた男は、顔が無い・・・いや、正確には・・・。
焼けただれている・・・。
髪は燃え、腹部は肌が見えている。
呼吸は今にも途切れそうだ・・・。
「うっ・・・うわー!」
「慎也!消防に電話を!早く!」
「えっうわ・・・あう・・・」
「しっかりしろ慎也!お前は無事だ!」
携帯電話で、通報する。
驚くことに腕は動いていた。打ち間違えることもなく・・・。
颯は、隣で応急処置を行いはじめた。
・・・・・。
・・・・・ッ!
電話が繋がるまでの間、颯の姿を見ていた。
しかし、彼は扉を開けた男ではなく、隣に倒れていた男に手当てを施していた。
火傷を負っているが・・・軽度のようだ。
意識を失っていたらしい。
呼びかけに、応じたらしく意識が戻ったようだ。
・・・・・。
右腰の鞘から、ナイフを取り出した。
そして、颯は扉を開けた男の服を縦に切った。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
その間、俺は電話が繋がったため、状況を説明した。すぐには、来れないらしい。
それぐらい、わかってはいるが。
颯は、心臓マッサージをしている。
いつも持っている医療用ポーチが無い。
駆けつけた人に、任せたのだろう。
ふと、燃えている部屋を見た。
・・・・・。
部屋の奥に何かあった。黒くてよくわからない。
何故か、吐き気がしてきた。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
救急車、消防車、パトカーが来た。
2人は運ばれていく・・・。
そして、俺と颯は警察から任意の事情聴取を受け
た。
解放されたのち、今日は家に帰ることにした。
颯から錠剤を貰った・・・。
ものすごくまずかった・・・。
俺も紗奈が心配だったので早めに帰った。
まあ、これがただの家事では無いことはすぐにわかった。
「9時になりました。9時のニュースをお伝えします。今日、午後3時頃横田地区で、火災が発生。重軽傷2名。ともに病院で治療を受け、快方に向かっているとの事です。また、部屋の中からは遺体が見つかり、身元を捜査しているとの事です。警察は、事件現場に残された薬包からシルバーバレット、又はその愉快犯を容疑者とし、殺人事件として捜査をする方針です」
「・・・・・」
俺と颯の事は、何も言ってない。
当事者になって、はじめてニュース、報道って、
何もわからないんだと思う。
今日、起きたことを端的に述べているだけ、その全容がわかることなんてほとんどない。
この事だって、テレビにすら映ってないのかもしれない。
「・・・お兄ちゃん?」
「ん?どうかした?紗奈?」
「うん、今日のお兄ちゃん変だよ!」
紗奈の声は優しかった。
「・・・そうか」
「うん」
・・・何だったんだろう、あれは。
「・・・の中から、・・・が発見され、・・・の可能性もあり、遺体は・・・をしようとしたところ、・・・によって、・・・され、・・・は・・・するために、・・・を置いた可能性があります。また、このことから火災原因は・・・であるとされています。」
・・・今日はもう寝よう。
声も入ってこない。
視界もぼやける・・・。
今日はつかれた・・・。
「はぁ・・・」
「あれ、死体だったのか・・・」
「どうりで・・・」
部屋の中で1人呟いた。
5月ではあるが・・・夜は肌寒く感じる。
気温ではない別の要因もあるだろう。
死体を見るのははじめてではない。ただ一つ気になることがある。
「シルバーバレットはどうやったんだ・・・」
あの火災の原因は、バックドラフト。
現場にあった練炭、一酸化炭素が不完全燃焼を起こしていた。そこに、昨日会った役人がドアを開けたことで急激な反応が起こったのだろう。
しかし・・・。
一酸化炭素で充満した部屋で、どうやって撃ったんだよ・・・。
いや、もういい、今日のことは忘れよう。
何かあったらまた、警察か、消防が来るさ。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
彼女を殺してから一日が経った。
「ふふっ。ははははは!」
殺したのは私だ。しかし、警察はシルバーバレットが犯人だと思っている。
何が、シルバーバレットだ。
無論、こちらは都合がいい。
今日も1日が終わった。
正確には授業がだ。
「帰るかぁ~」
「お疲れ、隼人。レーザーポインター買いに行くんじゃないのか?」
「あっ、行けね!忘れてた。買いに行ってくるわ」
「ああ、お疲れ、颯!慎也!」
「お疲れー」
「おう、いってら」
適当に言葉を返す。
今日は、もう疲れた・・・眠い。
授業をただ受けただけなんだけどな・・・。
疲れるものは疲れる・・・。
「慎也、帰るか?」
「ああ」
「よっし、それじゃあ、帰ろう」
「おう。
「あれ?あんた達もう帰るの?。
「いいだろ、別に」
「まあ、そうなんだけど・・・お疲れ」
「ああ」
颯と一緒に帰路につく。
「なあ、颯」
「なんだ?」
「今日、暇?」
「暇だ。」
「うち、寄っていかね?紗奈も喜ぶし」
「それじゃぁ、寄ってくわ」
「よ~し、それじゃあ近道するか」
「近道?」
「ああ、近道だ」
「こっちだ」
「ちょっ、待て!おまっ、ここ廃屋じゃん。やめとけって」
壁のペンキは剥がれ、ことろどころ黒ずんでいる。
窓にはテープが貼ってある。
「平気、平気」
「むっ・・・。人がいる・・・」
「はぁ~、お前ってやつは」
「仕方ない迂回するか」
廃屋には市役所勤めだと思われる2人の男がいた。
彼らがその部屋を開けるとき、凄い音がした。
「えっ・・・」
「伏せろ!」
とっさに颯に頭を抑えられる。
その日からだった。
俺の日常がズレていったのは・・・。
そして、戻ることはもうなかったのであった。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
「大丈夫か?」
颯の声が聞こえる。なんだ今の音・・・。
焦げ臭い・・・。
「あれって・・・」
・・・・・。
・・・・・!!
さっきの2人がそこに倒れていた。
「早く、助けないと!」
「ちょっ、待て慎也!」
颯の声を振り切り、俺はただ彼ら?のもとへと走った。
「えっ・・・」
扉を開けた男は、顔が無い・・・いや、正確には・・・。
焼けただれている・・・。
髪は燃え、腹部は肌が見えている。
呼吸は今にも途切れそうだ・・・。
「うっ・・・うわー!」
「慎也!消防に電話を!早く!」
「えっうわ・・・あう・・・」
「しっかりしろ慎也!お前は無事だ!」
携帯電話で、通報する。
驚くことに腕は動いていた。打ち間違えることもなく・・・。
颯は、隣で応急処置を行いはじめた。
・・・・・。
・・・・・ッ!
電話が繋がるまでの間、颯の姿を見ていた。
しかし、彼は扉を開けた男ではなく、隣に倒れていた男に手当てを施していた。
火傷を負っているが・・・軽度のようだ。
意識を失っていたらしい。
呼びかけに、応じたらしく意識が戻ったようだ。
・・・・・。
右腰の鞘から、ナイフを取り出した。
そして、颯は扉を開けた男の服を縦に切った。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
その間、俺は電話が繋がったため、状況を説明した。すぐには、来れないらしい。
それぐらい、わかってはいるが。
颯は、心臓マッサージをしている。
いつも持っている医療用ポーチが無い。
駆けつけた人に、任せたのだろう。
ふと、燃えている部屋を見た。
・・・・・。
部屋の奥に何かあった。黒くてよくわからない。
何故か、吐き気がしてきた。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
救急車、消防車、パトカーが来た。
2人は運ばれていく・・・。
そして、俺と颯は警察から任意の事情聴取を受け
た。
解放されたのち、今日は家に帰ることにした。
颯から錠剤を貰った・・・。
ものすごくまずかった・・・。
俺も紗奈が心配だったので早めに帰った。
まあ、これがただの家事では無いことはすぐにわかった。
「9時になりました。9時のニュースをお伝えします。今日、午後3時頃横田地区で、火災が発生。重軽傷2名。ともに病院で治療を受け、快方に向かっているとの事です。また、部屋の中からは遺体が見つかり、身元を捜査しているとの事です。警察は、事件現場に残された薬包からシルバーバレット、又はその愉快犯を容疑者とし、殺人事件として捜査をする方針です」
「・・・・・」
俺と颯の事は、何も言ってない。
当事者になって、はじめてニュース、報道って、
何もわからないんだと思う。
今日、起きたことを端的に述べているだけ、その全容がわかることなんてほとんどない。
この事だって、テレビにすら映ってないのかもしれない。
「・・・お兄ちゃん?」
「ん?どうかした?紗奈?」
「うん、今日のお兄ちゃん変だよ!」
紗奈の声は優しかった。
「・・・そうか」
「うん」
・・・何だったんだろう、あれは。
「・・・の中から、・・・が発見され、・・・の可能性もあり、遺体は・・・をしようとしたところ、・・・によって、・・・され、・・・は・・・するために、・・・を置いた可能性があります。また、このことから火災原因は・・・であるとされています。」
・・・今日はもう寝よう。
声も入ってこない。
視界もぼやける・・・。
今日はつかれた・・・。
「はぁ・・・」
「あれ、死体だったのか・・・」
「どうりで・・・」
部屋の中で1人呟いた。
5月ではあるが・・・夜は肌寒く感じる。
気温ではない別の要因もあるだろう。
死体を見るのははじめてではない。ただ一つ気になることがある。
「シルバーバレットはどうやったんだ・・・」
あの火災の原因は、バックドラフト。
現場にあった練炭、一酸化炭素が不完全燃焼を起こしていた。そこに、昨日会った役人がドアを開けたことで急激な反応が起こったのだろう。
しかし・・・。
一酸化炭素で充満した部屋で、どうやって撃ったんだよ・・・。
いや、もういい、今日のことは忘れよう。
何かあったらまた、警察か、消防が来るさ。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
彼女を殺してから一日が経った。
「ふふっ。ははははは!」
殺したのは私だ。しかし、警察はシルバーバレットが犯人だと思っている。
何が、シルバーバレットだ。
無論、こちらは都合がいい。
「逃げる、いや、逃げない方がいいか・・・」
シルバーバレットの被害者を、装っていればいい。
そうすれば、大丈夫だ。犯人だと誰も思いはしないだろ。現にそうしたのだから。
「ははっ、こいつはいいねぇ!」
一人部屋で、笑っている。まあ、いい今日はあのうるさい女もいない。勝利の美酒は飲んだ。
「ははははは、ははははは!」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・えっ」
物音がする・・・。
自分以外誰もいないはずなのに・・・。
咄嗟に、武器をとる。
妻を殺した凶器そのものだ。
「なんだよ!なんだよお前!」
「ひぇっ・・・」
頭に冷たい感触がある。
正確には、あっただか。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
ジャラッ・・・。
薬包が落ちる。
そして、消えていった。
辺りに赤い花びらと白い本を残して。
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
「おはよう、紗奈♪」
「おはよう、お兄ちゃん♪」
時計を見る。
昨日のことがあったせいか、寝坊した。
遅刻はしなさそうだが・・・。
急いだ方がいいだろう。
いつもより起きるのが遅いので今朝は紗奈が起こしに来てくれた。
「ほら、早く」
俺を気遣っているのか明るく振る舞っているように見える。
情け・・・ないな、俺。
「わかったって」
「次のニュースです」
また、昨日と同じ内容だ。
「えっ、ちょっお兄ちゃん?」
「どうした?」
「いや、いつも私がチャンネル変えるから・・・」
「・・・そうか」
「犯人、捕まるといいね」
「ああ、紗奈も気をつけろよ!」
「うん」
紗奈は、どこか遠い目をしていた。
けど・・・俺はそれを見逃した。
「おはよう。慎也!」
「・・・・・」
「慎也!」
「・・・っ、シルヴィアか・・・」
「何よ、それよりどうしたの?」
「いつもなら返事返すのに・・・」
「ああ、今日は疲れていてな・・・それで」
「そう、へぇ~。で?」
「で?」
「ええ、そうよ!」
「せめておはようぐらい言いなさいよ!」
「あっ、悪い」
「はぁ~・・・、しっかりしなさいよ!」
席につく。
あれはシルヴィアなりの優しさなんだろう。
いつもそうだ。
言葉が足りない。
だからいつも誤解されて・・・。
・・・まったくお前ってやつは。
シルヴィアの優しさが、温かった。
「おはよう慎也」
「おはよう、隼人・・・」
「なあ、本当か?」
「何が?」
「昨日、あの現場に居たんだろ?」
「なっ・・・何でそれを」
「見ていたんだよ、三組の田村が。それでどうだった?シルバーバレットはいたのか?」
「いなかった」
「そっかぁ・・・さすがだな・・・でも、どうやって逃げたんだろうな?」
「知らねぇよ!」
おもわず怒鳴ってしまった。
「・・・慎也」
「・・・ああ、すまない」
確かにそうだった、昨日あの場所にシルバーバレットはいなかった・・・。
一体どこに?
シルバーバレットって、幽霊なのかなやっぱ、誰も姿を見たことが無いんだぜ。
そんでもって、現場にはご丁寧に薬包が落ちてる、いや、置いていっているのか・・・。
そんなことわからないが・・・。
隼人がシルバーバレットについて、話している。
入学当時から、何度も聞いた。
確か親父が警官だっけ。
「そんでな、おっ、発見者が来た!」
隼人の声で、教室の扉に視線が集まる。
「おはよう」
「おはよう、颯くん、今日は妹さんと一緒なのね♪」
「ああ、シルバーバレットがまだうろついてるかもしれないしな」
「それで、今日は一緒に来た」
「エスコートって、奴だ」
「まあ、委員長さんはどうどうと道を歩けるから羨ましい」
「ちょっ、あんた!」
「磔にするわよ!」
「わー、怖い」
「何ですって!」
「お兄ちゃん!」
「兄さん!」
颯が、玲奈、鈴音、シルヴィアの3人から叱責を喰らう。
負け時と反論するが、旗色が悪い。
ようやく、3人から解放された颯がこっちに来た。
「おはよう」
「おはよう」
平静を装っているのか颯の声はいつもと同じだった。
どこか他人行儀ではあるが。
「いやー、昨日は大変だったな、慎也」
「ああ・・・」
「へぇ~、じゃあやっぱり」
「ああ、いたぞ現場に」
「へぇ~。少し話を聞かせてくれないか?」
「おっと、取り調べか?、令書ないとダメなんじゃないかなぁ?神田殿?」
「ふむ、そうくるかでは任意の事情聴取だ」
「報酬は・・・」
「グラビアアイドル写真集でどうだ?袋とじ未開封だ!」
「のった!」
「あんた達~!」
「お兄ちゃん・・・」
「お兄さん!」
「おうおう、学校に不要物とは没収してもいいってことだな!」
「「えっ・・・!」」
颯と、隼人の表情が固まる。
シルヴィアに玲奈、鈴音、神田先生もって・・・。
いつ来たんだ、あんた。誰も気が付かなかったぞ。
ってか、颯!。
お前グラビアアイドル写真集見たかったのかよ!
それで、釣られるの中学生までだぞ・・・。
「慎也?」
「慎也さん?」
「慎也君?」
「立川?」
「えっ!」
「あなたも同罪ですよ」
「そうです、不純です!」
「きっとお兄さんと一緒に読むつもりだったのよ!」
「1度聞かせないと言って、自分達の価値を上げて、目的のモノを得ようとする策士。」
「・・・っ、なんて手ごわい。」
「ちょっ、違うって俺は~!」
なんて理不尽なんだ、この世界。
冤罪だ・・・。
「・・・・・」
玲奈、鈴音、シルヴィア、神田先生からやっと解放された。
無実だよ…俺。
「ああ、だるかった〜・・・」
隼人がだるそうに言う。
「そうだな・・・」
颯も面倒くさそうに返す。
俺は、まだ彼らより早く解放されたから、良かったが…こいつらは…。
「俺のグラビアアイドル写真集ー!あとで、母上に怒られる~!泣くぞ」
まだ・・・隼人は懲りていないようだ・・・。
「まあ、落ち着けよ隼人」
「何がだ!」
「まだ、手元にあるだろ」
「ああ・・・それが?」
「取引だ」
「取引?」
「ああ、お前は家族にそれが見つかるとまずい」
「そうだ」
「だったら、俺がその本をシルバーバレットの話と交換すればいい」
「そうすれば、お前は家族に見つかることなく、神田先生が何を言おうと証拠がない」
「…天才か!」
「ああ、そうだ」
「よし、取引成立だ」
「・・・・・」
待て、待つんだ隼人!そして、颯!お前さっき怒られたばっかだろ・・・。
颯・・・写真集お前の部屋から見つかったら・・・起こられるぞ・・・マジで。
颯は隼人から写真集を貰い、話し始めた。
まあ、同じ内容だ。
テレビと変わらない。
「なあ?」
「本当に、シルバーバレットはいなかったのか?」
「ああ、あったものと言えば被害者の焼死体だね。真っ黒だったよ。」
「そっか・・・。何者、なんだろうな?シルバーバレットって?」
「さぁ?」
・・・・・。
・・・・・。
・・・・・。
「颯♪今日もうちに寄ってかないか?」
「いいけど…。近道はダメだ・・・」
「わかってるって」
その後、なんとか気分が落ち着いた俺は颯とまた一緒に帰ることにした。
まあ、颯が冗談言ったり、何も考えてないため、安心したのだろう。
それにしても、今日は派手に外したな。
「なあ、颯?」
「なんだ?」
「今度、うまく撃つ方法教えてくれないか?」
「いいけど、どうした急に?」
「いや、いいだろ別に・・・」
「そっか、まあ、別にいいが。お前そこまで外してないだろ?」
「そうか?」
「そうだ。初めてにしては上手くできてる。というか「「慣れてきた」」って感じかな」
「そうなのか?」
「ああ、銃を撃つ基本は慣れだからね。それと、自分用に改造するとか。ノーマルだろ?お前の?」
「そうだけど・・・」
「そろそろしてもいい頃だとは思う」
「改造か・・・」
そして、俺と颯は家で雑談しながらゲームをした。
昨日もこうして遊んでいただろう。
不思議なものだと思う。
少し早かったら、事件に巻き込まて無かったのにな。
「それじゃぁな、慎也。それに、紗奈ちゃん」
「じゃあな、また明日」
「お兄ちゃんじゃあね、玲奈姉ちゃん達によろしく」
「ああ、わかったよ。それじゃぁ」
そうして、颯は帰っていった。
「よっし、ご飯にするか!」
「うん!」
紗奈もいつもと同じように笑っていた。
「…俺も、くよくよしてられないな」
「そう思って、いつもより気合いを入れて料理を作るようにした」
・・・・・。
・・・・・。
「今日午前9時ごろ、シルバーバレットによるものだと思われる殺人事件が起きました。被害者は発見当時既に死亡が確認され死後4時間は経過していました。被害者は獅子塚ハヤト氏で、被害者の周りには薬包六つと純銀の銃弾があり、さらに被害者が殺人を企んでいたと思われる証拠が落ちていました。また、検死の結果被害者は獅子塚トウコさんと断定。このことから、ハヤト氏はシルバーバレットの犯行と装っていたことがわかり、明日にも実況見分を行う方針です」
・・・・・。
・・・・・。
「はぁ~あ・・・」
眠い、眠すぎる。昨日、遅くまで隼人とゲームするんじゃなかった・・・。
欠伸をかみ潰す。
眠い、眠い、帰ろうかな・・・。
っと思ってたその時ヤツが現れた。
「おはよう、慎也。元気?」
ああ、シルヴィアか・・・今日これ以上悪いことは無いだろう・・・。
はぁ~、とりあえず返事をするか・・・。
「おはよう、シルヴィア」
「おはよう、今日も無様ね!」
「・・・・・」
(はやまるな俺、いつもの事じゃないか。出会ったときの第一声がよろしくじゃなくて<何?こっち見ないでくれる?。>って言われたときからこいつウザイってわかってたじゃん。女子にしか優しくてなかったじゃん。懐かしいわー。)
俺が5歳ぐらいの頃、シルヴィアに出会った。
まあ、憶えてはいないんだよな正確には。
なんせそれくらい昔だ。
玲奈はいたっけ?鈴音は本を読んでたな。
確か一緒に遊ぼうって言ったら喜んでたしな。
隣に越して来て、親の後ろに隠れてた。
それで、よろしくねって言ったら・・・。
災難だった。
未だにそのことだけ憶えているぞ。
それから、暇なときはいつも釣っかかて来ては一緒に遊んだな。玲奈と俺とシルヴィアの3人で。
はぁ~、確実に今よりも可愛げがあった。
いや、そもそもなかった気がする。
絶対そうだ。
「・・・ぐほッ」
「えっ、ちょっ。あのシルヴィアさん?」
「何よ?あんたがまた変なこと考えてると思ったから蹴った」
「・・・・・」
(理不尽。)
その後、何かを感じたと思われるシルヴィアさんは俺に蹴りを喰らわせてきた。
・・・つらい。
しばらくシルヴィアと歩いていた。特に話すこともないのでただシルヴィアの話を聞いてはうなづくだけだ。
「おはよう慎也♪それに、シルヴィア・・・さん」
・・・テンポが遅れたな、颯。
「・・・ぐほ」
「なっ、何するんだ・・・シルヴィア」
「別に、私の顔見て落ち込んだから」
「理不っ!」
蹴られる颯。
そうだよね、理不尽だよね。
俺も同意見だ。
「全く、人によって態度を変えるのは良くないことだと教わらなかったの?」
「いや、俺はその人が有益か無益かで見分けr!」
シルヴィアの回し蹴りを颯は避けた。
「へえー、そうなんだぁ。悲しいなぁー」
「俺もだよ。カメラ持ってりゃ良かった」
「ちょっ、はやてぇぇー!!。スカートの中見えたからって」
「黒か、シルヴィアも男が欲しいと見える」
だから、はやてぇぇー!!死にたいのか?。
「なっ、何よこの変態!死ね!」
そう言うと、シルヴィアは回し蹴りを繰り出す。
軽々と避ける慎也。
前、前、横、後ろ。
必死に蹴りを繰り出すシルヴィア。
何事も無かったかのように避ける颯。
というか、そんな荷物持って良く避けられるな。
「おっ、ここまでか姐さん?」
「うっ、もう。このくらいにしてあげる。遅刻しないこと、チャイムには着席!いい!」
「はいよ」
「返事は! 」
「はい」
「うう・・・」
トボトボと歩いていくシルヴィア。
「はぁー、まったく何なんだアイツ・・・」
「死ぬかと思ったよ」
颯・・・お前油注ぎ過ぎ。
あとそのスキルを・・・俺にも・・・。
シルヴィアとの格闘?から解放された颯。
そういえば、そのカバン何なんだ・・・。
いや、大きすぎるだろ・・・。
中に何が・・・。
「あっ、これ?。NATO弾」
なんの脈絡もなく颯は言った。
えっ、ちょっ待て、待て。俺なにも言ってない!。
何なんだ、シルヴィアといい、颯といい何だよ。
「ああ、お前の目線がこっちに集まってたから」
いや、だから…何も言ってないんですが…。
「ん?NATO弾?。颯、何でそれを?」
「何でって…お前が上手くないたいって言うから持ってきた」
「えっ、ああ、ありがとう」
「ついでに、言っておくと射撃場も予約しておいた」
俺の通う学校国立横田第一高等学校は旧在日米軍基地を米軍の撤退後日本が接収したもので一部施設は壊されたものの、学校としての運用には充分であった。
また、人口の増加により若年層が急激に増加したためでもあった。
野外での戦闘教練は教官による安全管理が徹底されているために、実質個人での塹壕、射撃練習はできないことになっている。
生徒個人でも練習ができるよう射撃場が設けられた。
現在、希望生徒が多く、予約がほとんど取れなくなっているのが実情だったりする。
ありがたい限りだ。
「マジか!ありがとう、本当に」
「で、何発撃つつもりだったんだ?」
「えっ…90発ぐらい」
「颯は?」
「ああ、これ全部だから…30×40だから」
「・・・1200。・・・少ないよな」
「・・・・・。じゅ、充分じゃないかな・・・」
「そうか?」
「・・・・・」
(こいつも謎が多いな・・・。)
シルヴィアもこんなんお小遣い一日分よ!
とか言って、スナイパーライフル買ってたな・・・。
隼人は、どうだこれって?
MP-5を見せてくるし、
しかも改造してあるし・・・何なんだろうな。
とはいえ、俺も自分用にあるし、
拳銃もベレッタで、ナイフも買ったしな・・・。
まあ、いい方だ。
ありがたい。
「ん?どうした慎也?」
「別に・・・」
「そうか」
「よう、お二人さん♪」
「おう、隼人か珍しい」
「いっつも、遅刻してる訳じゃないんです。それより、これ!」
「「ん?」」
月刊 メインアームズ 六月号
<モテる男のマシンガン>
「「また、かよ!」」
颯と声が合う。
「いや、そんなことないって見てみろって」
「いや…だってこれ」
「隼人…銃がカッコよくても、使えなかったらモテないぞ」
「うっ・・・」
「・・・・・」
(図星かい!そして、颯・・・何でそこを当てるんだよ!。)
と思ったその時。
パタパター!!。
「ん?あれは?」
「おっ、「「ピルグリム」」じゃん。しかも、3機!」
「一番、後ろのは「スピアー」か」
「…ずいぶんと、低空飛行だなぁ。着陸かな?」
「まさか、ここら辺に基地なんて無いだろ・・・」
「いや、あっちって。」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「「「学校じゃん。」」」
なんだろう・・・いやな予感がするのは、
気のせいかな?。
こうして、足早に学校へと向かった。
ヘリコプターの編隊は真っ直ぐに学校へ向かって行った。
「・・・ついたー」
校門までダッシュしてきた。
あとから、隼人達も・・・。
なぜか颯は呼吸を乱してはいない・・・。
すでにへリポートの辺りに人だかりができている。
「って・・・あれは」
シルヴィアがいた。よくは見えないが誰かと話している。
ふくらはぎが、見えるってことは女子か。
って・・・もう時間か。
「・・・綺麗だな。」
「そうだな・・・綺麗な脚だ。」
「・・・!!」
「颯か・・・」
「お気に召したのかい?慎也殿?」
「い、いやー、綺麗だなぁーと」
「ほう」
「てっ、そうじゃない」
「はは、良いじゃないか。いい趣味してるよ」
「こっんの…」
確かに綺麗な脚だ。
傷一つない白磁の陶器のような脚。肉付きも良く、洗練されたような印象も受ける。
・・・人ごみのせいで顔が見えないのは残念だ。
「・・・!!」
ふと、視線の先の脚は消えっ・・・。
消えたっ!。
そう思った瞬間、
痛みを感じたのは同時だった。
「ッあ・・・」
声にならない声がでる。
「あんた・・・さっきから私のことをジロジロと・・・この変態!。このド腐れ穀潰しヤロウ!」
酷い暴言だ。俺のメンタルが・・・。
上を見上げるとそこには、白いパンツが・・・。
「へっ・・・」
声を出したのと、蹴られたのは同じだった。
「やれやれ・・・」
颯の声が聞こえる。
あとで憶えてろよ・・・。
「君は?」
「ヨーロッパ連合同盟国ドイツより来た、
統合戦技生<アレクシア・ヴュルツナー>だ!」
そう、彼女は名乗った。
「アレクシア・・・」
「何よ?」
彼女は、ぶっきらぼうに返した。
統合戦技生…ってなんだ?。
「ふむ、ドイツの女性は怖い人が多いようだな」
「・・・・・」
「そこら辺にしておきなさい、アレクシア!。」
「・・・・・」
無言で退く。
ようやく痛みがひいたので立ち上がった。
辺りは、騒然としている。
無理もないだろう。
異様な光景だ、銀色の髪のドイツ人と、金髪の女性・・・おそらく同年代だろう。
アレクシアと似たような服を着ている。2人とも腰部にホルスターを付けている。
スカートの上から。
「大丈夫か?慎也?」
「ああ、大丈夫だ」
「嘘つけ」
「ああ、凄い痛い」
「まあ、良いもの見れたんだから等価交換だろうな」
・・・お前は不平等だろうが。
颯は、俺のことを気にかけてはいるようだが、目は2人を捉えていた。統合戦技生って何だよ?。
本当に・・・。
この凶暴なヤツしかいないのか・・・その、統合戦技生とやらは・・・。
「で、あんたの名は?」
「セリア・アポリネールよ」
「あなたは?」
「神崎颯」
「そう、綺麗な名前ね。よろしくどうぞ」
「どうも、お嬢様。ご機嫌うるわしゅう」
「・・・っ!」
「セリア!」
「ん?どうした?フランスの統合戦技生」
「セリア・アポリネール」
「確か、あんたの親父さんが・・・関係ないか。」
「それに、アレクシアか・・・」
「こいつは…まあ、アレか。」
「おっと、近距離だとナイフの方がいいぜ。お嬢様♪」
颯は、彼女が銃を撃つよりも速く、撃てないようにしていた。
システマって、ヤツだっけ?。
テレビで見たことある技だ。
まあ、リボルバーだとできないのだが・・・。
何だよ・・・今の・・・。
速くて・・・見えない。
いや、見えてはいたが・・・。
「ッツ!」
彼女も驚愕の表情を隠せてはいない・・・。
アレクシアが、銃に手を掛けようとした時。
「そこまで!」
神田先生の声が聞こえた。
「神崎!」
「はい」
「手を離せ!」
「わかりました」
「アレクシア!」
「了解しました」
アレクシアもお付の者だと思われる者からの声で、銃をしまった。
おそらく、彼が彼女らをまとめる役だろうか。
周りの大男達とは雰囲気が違う。
「これは、失礼しました」
「君、大丈夫かい?」
「・・・はい」
「これを」
「ありがとうございます・・・」
「はは、うちのアレクシアとセリアがすまないことをしたねぇ」
「いえ、そんなことは・・・」
「ふむ、これはおもしろそうだ」
「あっ、いや。怪我がなくて良かった」
「怪我をさせてしまったら・・・外交問題だからね」
皮肉を込めてそう言ったのだろう・・・笑っているのだろうが・・・引きつってるぞ。
流暢な日本語を話す。
恰幅のいい男性だ。
髪は、歳のせいか白くはなっているが、見た目よりは若い印象を受ける。
「エアハルト統合戦技生管理官殿」
「いや、エアハルトでいいよ、神田さん」
「わかりました。」
「すいません・・・うちの生徒が」
「いえ、こちらこそ」
「これからよろしくお願いします」
「はい、わかっています」
掴みどころのない男だ…彼は。
「神崎、立川!」
「「はい!」」
「さっさと、教室に行け!欠席を付けるぞ!」
「「はい」」
こうして、俺と颯と、後ろで隠れてた隼人は教室へと向かった。
「はぁ・・・」
シルヴィアはため息をついた。
それも全部、同じクラスメイトのせいだ。
(うぅ・・・頭が痛い。)
それもそうだろう・・・慎也と颯がドイツとフランスの統合戦技生に喧嘩を売ったようなものだろう。
「困ったわねぇ・・・」
聞こえないように呟いた。
「本当に…困ったわねぇ・・・」
(ここはいっそ攻めて行くか・・・いや、まだ待った方が・・・っていつまで待てばいいのよ!。)
慎也とは幼馴染だ。
それも彼にとって一番最初のだ。
あの時からこの淡い気持ちは変わらない。
もう付き合っても馬鹿にはされない。
「・・・そうよね。」
そうだ、きっとそのはず・・・。
それにしても、あの2人・・・まさか・・・。
無いよね…。いや、あるいは・・・。
「シルヴィアさん?」
「うへぇっ?」
「あのー?」
「何かしら・・・?。仙石さん?」
「いやー・・・、さっきから話し掛けているのに返事がないから・・・」
「あっ、ごめんなさい」
目の前のことよりも恋の方が先。
乙女とはそういうものなのだ。
「なぁ、慎也?」
「どうした隼人?」
「このクラスで一番可愛い人って誰だと思う?」
「・・・また、その話か。」
「お前も男だろ。そろそろ彼女でもって話だ。あれ?ホモだっけ?お前?」
「違います!れっきとした異性愛者です」
「それじゃぁ、誰だ?」
「えっ・・・いや・・・それは」
(このクラスで一番可愛い子か。)
このクラスは女子が多いというか、この学校に通うほとんど生徒が女性だ。理由はいくつかあるが、家から近いっていうのが大半だ。
「可愛い子、颯は誰が一番だと思う?」
答えるのが恥ずかしいので颯に流す。
「えっ…ああ、俺かぁ。」
(すまん・・・颯、俺も答えづらいんだよ・・・こういうの・・・。)
返事に颯が詰まっているので別の話題に変えようとしたとき。
「玲奈かな・・・」
「えっ?」
「だから玲奈だ。」
「えっ、ああ、そうか」
「颯・・・お前シスコンか・・・?」
隼人は言った。
「いや、だから玲奈が一番可愛い。」
「「・・・・・」」
つかの間の沈黙。
「それ本気で・・・」
「ああ。」
颯は真顔でそう言った。
「あの、颯さん?それ、自分の妹が一番だって言ってるようなものなのですが」
「いや、だから・・・可愛さだ。妹とか関係なく」
「はあ・・・」
(頷くしかないだろ。隼人お前も・・・。)
「俺は水瀬さんが一番だ」
(話続けるかい!。)
心の中で1人つっこむ。
「何でだ?」
「何でだって。可愛いからさ。」
「あのほとんどレイプ目みたいな目で、ほとんど喋らなくてのほほんとしている、それであまり…うむ…成長していない、いかにもトロそうな子が?。」
「ああ、ホント可愛い。最高だ。罵られたい。」
「「・・・大丈夫か?」」
「yes」
(隼人・・・お前何を言ってい るのか。確かに、藤堂さんは可愛いけど罵られたいって言うのも聞くけど…。それに颯…言っていいことと悪いことが。)
ヒュンッ。
「おっと・・・」
パキッ。
「「「・・・・・」」」
ペンが飛んできた・・・しかもものすごく速く。
それを颯が打ち落とした。
まあ・・・ペンは無惨な姿に・・・。
「・・・」
(藤堂さんだ…)
俺らの話を聞いていたらしい。
いつもと同じ目なのに、今日は暑さを感じる。
サファイアのような赤い目だ。
それが・・・彼女の綺麗な白い髪も心なしか…赤みがかかっているような気もする。
「何故、打ち落としたのですか?貴方には当たらない軌道でしたのに。」
藤堂さんは淡々と言った。
「友だちがケガをするところは見たくないのでね。」
颯は笑いながら返す。
「・・・そうですか。」
藤堂さんはそっぽを向いてそう言った。
ゼッタイまだ怒ってるよ・・・。
「コラ!颯!雫さんに意地悪して」
「ってシルヴィア、・・・いや、これには訳が。」
「知らない!。女の子に意地悪するなんて最低!。
「いや、だからシルヴィアこれは。
「うるさい!。アンタら全員!処分よ」
「それって・・・俺も・・・」
「問答無用!」
「理不尽!」
今日も、1日が始まる。
発砲音と、共に・・・。
「・・・・・」
酷い目にあった・・・。
シルヴィアさん・・・いくら制服が防弾繊維だとしても痛いものは痛いんですが・・・。
シルヴィアが発砲した後すぐに先生がやってきたので二発目はこなかったが・・・。
・・・不機嫌だ。
そりゃそうだろう・・・。
統合戦技生との揉め事の後にこれじゃあな・・・。
まったく。
「皆も知っての通りだが、この学校に今日、ヨーロッパから留学生達が来た。仲良くするように。そして、このクラスにも2人入ることになる。」
神田先生は、強い口調で言った。
まあ、颯を牽制するためだろう。
「誰が来るんだろうな?」
「はぁ・・・あのおっかない奴だと言いだけどな」
「まあ、大丈夫じゃね」
「簡単に言うなよ、まあ、別の奴だろう」
後から隼人と颯の声が聞こえる。
颯は隣りの席を見てはため息をついていた。
まあ、わからなくはないが・・・。
はぁ・・・俺の隣のヤツ誰だろうな。
「神田!前を向け」
「ちぇ」
慌てて前に向き直す隼人。
「それでは留学生の紹介を、2人とも」
「はい」
「・・・はい」
「・・・・・」
ウソだろ・・・。
何でよりにもよって・・・。
なんでお前らなんだよー!。
「皆さん初めまして。フランスから来ました、統合戦技生セリア・アポリネールと言います。どうぞよろしくお願いいたします」
彼女が自己紹介をした瞬間、教室が沸いた。
主に男子。
まあ、それもそうだろう。
金色の髪で、深い海のような青い瞳、白い肌。
日本人なら誰もが思い浮かべる白人像だろう。
しかし、これが初対面ではなければ良かったのだが・・・。
っと考えているとセリアと目があった。
「・・・・・」
「・・・・・」
気まずい。
物凄く気まずい。
颯に目で助けを求めるが・・・。
うつぶせ・・・寝てやがる。
起きろよ、起きてくれよ。
頼むからこの気まずさから解放してください。
「え~、次に、アレクシア。あいさつを」
「・・・はい」
・・・なんで。
「今日からこのクラスで共に勉学に励ことになった。アレクシア・ヴュルツナーだ。私がこの学校にきた目的は・・・」
「え?」
目的ってそんなん勉強以外には・・・。
ああ、教練かぁ。
まったくビックリさせやがって・・・。
「私がこの学校にきた目的は・・・」
はい、はい、そう大きな声で話さなくていいって。
「殺人鬼、シルバーバレットの逮捕だ」
「え?」
逮捕って・・・。
今、逮捕って言ったのか。
シルバーバレットって・・・。
教室がもう一度沸く。
この様子じゃだれもアレクシアの言ったことを信じてはいないだろう。
シルヴィアだって、驚いてるし。
「静かに。」
神田先生の怒鳴り声が聞こえる。
「アレクシアは、これまで何度も犯人逮捕に協力しているドイツの統合戦技生だ。彼女の言葉噓でなく、また、特例として日本での捜査、逮捕が許可されている。よって、立川慎也、神崎颯。彼女の捜査に協力しろ。」
なっ・・・なんですと~?。
「立川。お前は彼女のホストファミリーなのだから、面倒を見るように」
「・・・・・」
「いえ・・・。あの・・・その・・・」
ホストファミリーって・・・。
そんな話聞いてないのだが。
「返事は?」
「はい」
・・・マジかよ。
これから蹴られるのか・・・。
シルヴィアだけで充分だ!。
「神崎」
「はい。」
「うむ、貴様はセリアのホストファミリーだな」
「・・・そうなんですか?」
「そうだ」
「・・・玲奈、鈴音」
「そうですよ、お兄さん」
「今日の朝話したはずですよお兄様」
「・・・マジ?」
「真剣です」
「・・・なんて日なんだよ今日は」
「「・・・お兄さん?」」
「・・・はい」
・・・。
颯・・・俺も叫びたいよ。
・・・なんて日だ。
「さて、では両名席につけ。アレクシアは立川の隣、セリアは神崎颯の隣だ」
「・・・はい」
「わかりましてよ」
「・・・よろしく」
「ああ、よろしく。・・・アレクシアさん」
「・・・世話になる」
「・・・・・」
気まずい。
何で・・・。
アレクシアなんだろう。
他にも統合戦技生いたじゃないか。
男子も。
いや、別にそっちの方がいいとかそういうわけじゃないんだけど・・・。
・・・その・・・かっ、可愛い子でよかった。
・・・って、何考えているんだ俺は。
これ・・・可愛い子じゃあなくて、
<爆弾姫>じゃないか。
しかも、今朝俺に蹴ってきた・・・。
・・・あれは、俺のせいだが。
ともかく何とか関係を築かないと・・・。
なんせこれから一緒に暮らす(?)わけだし。
そういうのって大事だよね。
「あ、アレクシアさん」
「・・・何?」
「なっ・・・何か困ったことがあったら言ってください。俺、何でもするんで」
・・・。
・・・恥かしい。
・・・自分で言ったのもなんだがすっごいはずかしい。
「・・・そう」
「・・・はい」
ああ、今日も星が綺麗だな~。
ああ、メンタルが・・・。
今日は、身体も、心もズタボロです・・・。
「そういえば・・・」
「・・・何?」
「アレクシアはなんでシルバーバレットを捕まえたいんだ?」
「・・・あなた」
「・・・え?」
「自分が何言っているかわかっているの?」
・・・・・やっちまった。
地雷・・・踏みました。
ああ、こうも簡単に人は言ってはいけないものを言ってしまうのだろうか。
「私は・・・」
「・・・」
「シルバーバレットを殺したい」
「・・・」
「私はそれで、死んでもいい。あいつを捕まえることが出来さえすればそれで・・・」
「・・・」
彼女の口からは、怨嗟、軽蔑、憎悪を感じ取れた。
「・・・私は」
それは、俺では手に負えないものだった。
<殺す>か・・・。
本気で言っているのか・・・。
いや、本気で言っているのだろう・・・。
今まで聞いてきた同じ言葉でここまで明確に拒絶の意、嫌悪を感じたのは初めてだ。
それも、子供が喧嘩でいうもの、チンピラがいうものよりももっと深く鋭く人の心を抉り取る響だ。
しかし・・・。
その・・・なんだ。
彼女の容姿からは想像できないし、そんな言葉を言うなんてわからなかった。
一抹に怖さを感じる。
「・・・・・」
今まで綺麗だと思っていたモノ。
それが、不気味に見えた。
白亜の白い肌ではなく・・・。
熱のある人形がそこにはあった。
しかし何でそこまで・・・。
シルバーバレットに執着するのか。
彼女だってまだ少女だ・・・。
けど・・・。
これまでのことを振り返ると・・・。
・・・。
彼女は・・・。
アレクシアは・・・。
シルバーバレットを殺すために生きてきた・・・。
いや、そんなことはないだろう・・・。
だいたい・・・。
シルバーバレットが活動を始めたのは今年の二月だ。
だから・・・。
「なあ・・・」
俺は・・・
「アレクシア・・・」
彼女に・・・。
「シルバーバレットは悪い奴じゃないと思うんだ・・・」
それを・・・。
「それに、あいつは・・・」
言った・・・。
「俺を助けてくれた・・・」
顔の右側に痛みを感じる。
殴られた・・・?。
いたい・・・。
腰が・・・。
・・・。
・・・アレクシア・・・?。
起き上がるとそこには・・・。
鬼が・・・いた。
まあ、比喩だけどな・・・。
ああ・・・。
まただ・・・。
「何を言っているのかわかって言っているの?」
アレクシアの声が聞こえる。
さっきまでがやがやとうるさかった教室は静かだ。
「アイツは・・・。」
アレクシアだけの声が聞こえる・・・。
「殺人鬼・・・。ひとを救いなんかしない・・・」
もう・・・。
「私は・・・見たのよ・・・」
やめてくれ・・・。
「人を助けるためにソイツの名を借りた人が・・・。優しい人達が・・・。本人に殺された・・・」
頼むよ・・・。
「アイツは好き勝手殺しているだけなのに・・・」
泣かないで・・・。
俺はアレクシアを抱きしめた。
・・・なんでだろうな。
わからない・・・。
彼女は軽かった・・・。
柔らかかった・・・。
小さかった・・・。
華奢だった・・・。
彼女が何を見てきたのかは俺にはわからない・・・。
・・・けど。
抱きしめてあげるくらいなら・・・。
彼女はただ・・・。
泣いていた・・・。
「立川、ちょっとこい」
「はい」
放課後、俺は呼び出された。
まあ、なにかはわかるが・・・。
部屋に案内される。
補講部屋だ。
まさか・・・。
くることになるなんてな・・・。
「立川、お前はシルバーバレットをどこまで知ってる」
「えっ・・・」
意外なことばだった。
「テレビやネットくらいしか」
「そうか・・・」
神田先生はそれからしばらく話し始めた。
「シルバーバレットは殺人鬼だ。それは、わかっているだろう。彼、または彼女達が活動を始めたのは今年からだ。しかし、11年前も同様の事件が起きている・・・。まあ、聞いたことがあるかは知らないが・・・。<光の姫事件>だ。当時、児童養護施設、老人ホーム、刑務所、障害者施設にいた患者、犯人が殺された。シルバーバレットも活動を始めた際これらの施設を攻撃した。・・・しかし。・・・不可能なんだよ。・・・全部。・・・人には。世界中で同じことを同じ日に・・・。しかも、殺された人のほとんどが犯罪者であった。これは公にはされていない。これを伝えてしまうと殺されてない人達、まあ親族が魔女狩りに会うのではと不安になったからね。国連で決まったというより、代表国の意向だがね。まあ・・・・・・。シルバーバレットはこの施設にいた医療関係者、警備などの人たちは殺してはいない。<光の姫>も同様だ。犯人像としては正義感のあるものかもしれないが、狂っている。共通しているのはこれくらいだ。あと・・・。まあ、そういうことだ。今回のことは、責めないだから・・・。アレクシアの力になってくれ。以上だ。」
「・・・はい」
神田先生は何か隠し事をしているのはわかった。
隼人じゃなくてもすぐにわかる。
姉弟そっくりだ。
けど・・・今は、そうじゃない。
「アレクシアに謝ってきます」
「・・・そうか。頼んだぞ」
「はい。」
「ははっ、そうかしこまるなって。まったく・・・。昔から変わらないな」
「うう・・・」
「はあ、まあ頼んだぞ。くれぐれも粗相のないように」
「はい」
「よし、帰ってよし」
「はい」
そうして、俺は急いで帰るのであった。
そう、彼女に謝るために。
・・・・・。
・・・・・。
「・・・・・むかし・・・か」
「大きくなったなアイツも」
彼がいなくなった部屋で一人つぶやく。
誰にも聞かれないというものはいいものだ。
なんせこれまではずっと団体行動で、弱音すら吐けなかった。
そして、抜けて行った人たちが強いと感じた。
私はただ・・・。
流れに囚われて、踏み出そうともせずただ・・・。
団体意識、孤立、体裁を気にしていたのだろう。
「本当に大きくなったものだな」
うれしいと思う。
私にとっては二人目の弟のようなものだ。
まあ、あのバカよりはマシだが。
「・・・まだ、子供なのにな」
手元にある紙を見る。
彼らはどうするのだろうか・・・。
「・・・・・」
・・・頭が痛い。
考えすぎなのかもしれない。
きっと・・・大丈夫。
「はあ、逃げ出したものだな」
教官としての願いは、個人としての願いではなく、異なるものだ。
社会は良い人材を必要としている。
人は送りたくはないものだ。
本来なら送りたいものだろう。
しかし・・・。
「知り合いじゃなかったらもっと楽だったのかもしれないな」
本音はそれだ。
しかし・・・。
「・・・いいのか、それは」
知り合いだから・・・。
他人だから・・・。
・・・。
「・・・・・」
部屋には温度はもう無かった。
「ただいま・・・」
「お帰りなさい。お兄ちゃん?」
「なぜ疑問系?」
「死体が喋ってる」
「おい、こら」
「冗談だよ。まあ、汗臭いけど」
「・・・・・」
あの後、家までダッシュで帰ってきたのだが、その途中アレクシアに会うことはなかった。
「なあ、紗奈」
「なに?お兄ちゃん?」
「アレクシアさんにあったか?」
「うん、会ったよ。とっても綺麗な人で、やさしくて」
「そっか」
「うん、よく話す人だったよ」
「おう、そっか」
・・・。
よく話す人?。
彼女がか・・・。
いや、待て・・・。
そんなはずはない・・・。
だって、学校で・・・。
ほとんど話してないじゃなか・・・。
彼女が話をしたのは数回。
それもほとんどが質問の返答だった。
クラスの女子に比べても圧倒的に口数が少ない。
あのおしゃべりなシルヴィアでさえ、心が折れそうになっていたレベル・・・。
・・・しかも・・・その・・・。
あの後だぞ・・・。
失言をしたあと・・・。
「あら、お帰りなさい。思ってたよりも早くてよかったわ。今日は私がドイツの伝統料理作ってあげたから早く席について、慎也くん。紗奈ちゃん」
「は~い。うわ~すっごいいい匂いがする」
「ふふ、よりによりをかけた料理ですもの、ほらつったってないで早く」
「・・・」
・・・はい。
えっと・・・。
怒ってない・・・のかな。
しかし、今謝るのもその・・・。
野暮ってものだ。
・・・。
あとで絶対に謝ろう。
きっと、ドイツの代表ってことで場馴れしているのであろう。
ほら、初対面の印象ってずっと残るじゃん。
それにしても・・・。
「~♪」
ギャップというか・・・その・・・。
可愛いな・・・本当に。
アレクシアの作ってくれた料理はとても美味しかった。
ウサギってあんな味がするんだな。
お坊さんが一羽って数えたくなったわけだ。
いや、知らんけどね。
今度、作り方教えてもらおうかな。
そんなことを思っていると・・・。
「ねえ、アレクシアさん♪」
「なに?紗奈ちゃん」
すかっり馴染んでいるようだ。
よかった。
俺はともかく、紗奈はうれしそうで。
「アレクシアさんの料理とっても美味しかった」
「そう、喜んでもらえてよかった」
「あのアレクシアさん!」
「なっ、何かしら」
「あの、その・・・。おねえちゃんって呼んでもいいですか」
「えっ、ええ・・・」
「やっぱりダメですか・・・」
紗奈・・・。
そんなあからさまに落ち込んで・・・。
それに上目遣いまでして・・・。
まったく・・・。
何を考えているのか・・・。
アレクシアも困っているし・・・。
はあ・・・。
アレクシアがオロオロしているので、いいんじゃないのと軽くジェスチャーをする。
伝わるか別として。
アレクシアは軽くうなずいた。
さて、どうでるか。
「紗奈ちゃん」
「アレクシアさん」
「その、えっとね、その・・・家の中だけだったらおねえちゃんって呼んでもいいよ」
「ほんと!」
すごくうれしそうだ。
まあ、紗奈は甘えん坊さんだったからなぁ。
最近は、玲奈も鈴音ちゃんもあまり遊んでもらえなかったからなぁ。
犬だったら尻尾を凄い勢いで振り回しているだろう。
「おねえちゃん、おねえちゃんかぁ・・・」
何度も繰り返している。
「ふふ、これでお兄ちゃんのお嫁さんも・・・。ふふ・・・」
何か不穏な単語が聞こえたのだが・・・。
気のせいだろう。
さて・・・っと。
「こら、紗奈。アレクシアさんは慣れない環境で疲れているんだ。それくらいにしておけ」
「は~い」
「それと、部屋には案内したのか?」
「したよ」
「近所のお店とかは?」
「教えたよ。でも、帰る途中で買い物は済ませたって」
「・・・そうなのか」
「ええ、必要な物は買い揃えました」
綺麗な声で受け答えをしてくれる。
学校でも・・・これくらい・・・話してくれたら・・・。
「そうですか。何かあったら言ってください」
「はい、お世話になります」
「・・・」
自分の部屋に戻る。
英語の予習をやらなければならないのだが・・・。
今日は、やらなくていいか。
それにしても・・・。
「いえなかったな・・・」
俺はまだ彼女に・・・。
はあ・・・。
そうしてうやむやしている間に時間はたった。
「・・・言わなきゃな」
覚悟を決めて、とりあえずリビングに・・・。
「・・・えっ」
するとそこには・・・。
「うん?。ああ、慎也さんお風呂いただきました。
バスタオルを巻いただけのアレクシアがいた。
「ちょ、アレクシアさん。着替えてから移動して・・・って・・・。お兄ちゃん・・・」
「いや・・・まて・・・紗奈・・・これにはわけが・・・」
「お兄ちゃんのばか!童貞!変態!死んじゃえ!」
「だから、俺は・・・」
っつ・・・。
紗奈の蹴りが炸裂するそこまで痛くはないのだが・・・。
連続で蹴ってくるため、痛みが蓄積する。
ボディときたか・・・。
まあ、いいこのまま落ち着くまで待って・・・。
・・・えっ。
ドス・・・。
「ぐはっ・・・」
呼吸が・・・。
息が・・・。
できない・・・。
「ふう・・・。これでいいのですか?」
「うん、おねえちゃん。変態にはこれもご褒美だっていう日本文化があるから大丈夫。乙女のやわ肌を見たからにはこれくらいの代償は必要不可欠なのである」
「なるほど・・・これが日本の愛情表現ですか」
「そうです」
「なるほど・・・。それではもう一度」
待ってください、アレクシアさん。
死んでしまいます。
「せい!。女性の身体は愛する人にしか見せません。覗きなんて言語道断!死になさい!」
「理不尽・・・」
ごほ・・・。
身体に痛みが走る。
これでも・・・手を抜いてくれたほうですよね?。
頭じゃないし・・・。
それからしばらく動けなかったのは言うまでもない。
「はあ・・・」
あの後、やりたくはなかったが落ち着かなかったので、勉強を再開することにした。
案の定頭に入るわけもなく、スマートフォンを弄っては参考書を眺めた。
「・・・・・」
外にでも出るか・・・・・。
このままじっとしていても落ち着かないし。
紗奈に見つからないように家を出る。
でも、この時気付かなかった・・・・。
アレクシアの靴がなかったことを・・・・。
「はあ・・・」
何度目かのため息をつく。
やはり夜は寒いものだ。
近くのコンビニエンスストアまで行く。
「明るいな・・・昼間みたいだ。」
そんなことをつぶやく。
紗奈が俺が外に出たことに気づくとめんどくさいからな。
「・・・近道・・・するか」
あの事件以来、廃屋はできる限り避けてはいる。
首都であった東京は大規模な疎開などにより、空き家が進み戦争以後も人々が戻らず。
オリンピックの開催都市であったことも忘れらるほど荒廃が進み、この辺りでさえも人がいなくなった。
友達も何人かいなくなっている。
霞が関は庁舎の移動で更地にされた。
国会議事堂は史跡になっている。
今、あそこにいるのは天皇様だけだ。
企業のほとんどが海外、大阪、仙台、九州へと移動した。
とうぜん文化もだ。
今の日本の芸能の最先端は神戸だ。
上京するのなら早いうちにとしつこく言われたな。
「・・・・・」
このあたりの建物は最近出来た・・・。
といっても二十年は経過している。
近々爆破される予定になっている。
何でも所有者が死亡したからだと。
犯罪の抑制として空き家の放置は避けたいということだ。
「・・・・・」
友達の家も何軒かなくなった。
もう戻っては来ないと・・・・・。
「・・・・・」
乾いた音が聞こえる。
そこの林の裏側からだ。
正確には家だ。
法改正前に建てられたもので誰のもかもわからず。
行政代執行もできないまま放置され、誰からも苦情が来ることもなく、住むことができないというとから放置され続けた結果がこれだ。
「・・・・・なんだろう?」
気になったので覗いてみようと思った。
本来、禁止されている行為だが・・・。
まあ、いいだろう・・・。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・アレクシア?」
なんでここに・・・。
家にいたはずだが・・・・・。
誰だ、あれは?。
アレクシアは戦っていた。
華奢な体で拳銃を撃ちながら・・・。
腰にサブマシンガンと思われるものを装備している。
昼間は付けていなかった。
「伏せて!」
「えっ・・・」
そう言われるのと頭を押さえれるのは同時だった。
「この女!!!!」
乾いた音が数発。
弾が切れたのだろう。
しかし、その女はひたすら引き金を引いていた。
ヒステリックを起こしたらしい。
「・・・・・っ・・・はあ」
静かになった。
「・・・何が・・・・・?」
「大丈夫?慎也くん」
優しい声で話しかけられる。
「・・・玲奈?」
「そうよ」
「何で話はあとで、アレクシアに聞いて。あと颯には言わないで」
「ああ・・・・・?」
「それじゃあ、また後で」
すると玲奈言ってしまった。
「おつかれ、アレクシア」
「いえ、玲奈。たいしたことなかったわ」
「そう、これは私と鈴音で運ぶわ。あなたは彼を」
「彼って・・・・・?」
「慎也よ、近くにいたのは・・・」
「ええっ!」
何やら2人で話しているようだ。
「それじゃあ、仙谷と雫も引き揚げているみたいだから」
「私も・・・・」
「駄目よ、見られた以上もう他人ではないし。今後の関係も・・・」
「わかったわ」
「おつかれ」
「おつかれさま」
「はあ・・・・・・。慎也?」
「ああ、なんだ?」
「・・・帰りましょう。話しながら帰るわ」
「・・・・・わかった」
「はあ・・・」
アレクシアの口からため息がこぼれた。
やっぱり・・・近道はするものじゃないな。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・ねえ」
「はい」
「私を捜しに来たの?」
「違うって・・・」
「そう・・・・・それじゃあ何しにきたの?」
「コンビニで買い物をしに・・・・・です」
「はあ・・・・・そうなの」
「ああ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
話をしてはこの繰り返しだった。
「すこし寄り道をする」
と言われただ歩いている。
「なあ・・・。さっきのは・・・・・」
「仕事よ、仕事。言ったでしょう執行権があるって」
「ああ・・・」
「あの女は受け子よ、受け子!」
「受け子って・・・薬の?」
「そうよ、おまけに使用者だったわ」
「いいのかそんなことを俺に言って・・・」
「いいのよ、解決した事件だし」
「・・・・・」
さっきのことが夢のように思える。
白昼夢だろうか・・・。
けど・・・・・。
「・・・・・」
夢ではないのは確かだ。
「統合戦技生ってあんなこともするのか?」
「・・・するわよ。この国じゃあまり知られていないけど」
「そうなのか・・・」
「ええ、私の国では協力しないわけにはいかないから」
「・・・そうか。玲奈たちとは?。」
「こっちへ来る前から知っていたわ。まあ、実際にあったのは今日が初めてだけど」
「玲奈たちも・・・その・・・統合戦技生?」
「ええ、そうよ。知らなかったの?」
「ああ・・・。それに、指名されるのは来週って話だし」
「希望生よ」
「えっ・・・」
「希望生。入学が決まった時点から訓練に参加していたそうよ」
「・・・噓だろ。玲奈が・・・鈴音が・・・」
「本当よ」
「颯は?」
「いいえ、神崎はいなかったわ。まあ、選ばれるだろうけど。神田も」
「・・・隼人も」
「ええ、そしてあなたもよ」
「・・・そんな。」
「気がつかなかったの?。」
「えっ・・・・・」
「クラス分けの時点で確定していたものよ」
「なっ・・・何を」
訳がわからない。
っと言おうとしたその時。
「不自然だと思わなかった?」
「えっ・・・」
「・・・まったく」
わからない、わからない、何なんだよ・・・ホント。
クラスメイトが統合戦技生でしたって・・・。
いきなりすぎる・・・。
「・・・はあ」
「どう、わかった」
「ああ・・・でも一つ」
「なに?」
「紗奈は・・・何で君が来ることを知ってたんだ。俺すら、知らなかったのに・・・」
「ああ、それ。あなたの両親が決めたことよ」
「なっ・・・・・」
「教えてあげなかったのは、あなたを驚かせるためにじゃないのかしら」
「・・・そうかもな」
はあ・・・・・。
軽くため息をつく。
まったく・・・。
母さんだな、おそらく。
にしても性格が悪い。
教えてくれたっていいだろ。
「ここよ」
「ここは・・・って・・・」
忘れるものか、ここを。
アレクシアに連れてこられた場所は・・・。
廃墟だった。
焼け跡がある。
しかも最近のものだ。
間違いないここは・・・。
颯と一緒に巻き込まれた、殺人現場だ。
「・・・・・」
「やっぱり・・・あなただったのね。現場にいた学生って」
「ああ、そうだ・・・。颯もいた」
「シルバーバレットは?」
「いなかった・・・」
「けどシルバーバレットは現れた。しかも、この殺人を犯した犯人を・・・」
「ああ・・・」
「獅子塚ハヤトは、エンコーしていたそうよ」
「エンコー・・・援助交際」
「ええ、教え子とね。まあ、その子も殺されたわ」
「・・・誰に?」
「シルバーバレット」
「・・・」
「そして、獅子塚の息子も殺されたわ。まあ、あまりいい人ではなかったそうよ。こういうのもなんだけど・・・」
「「「死んでよかった」」」
「そういうやつよ」
「・・・・・」
「まあ、不謹慎だとはわかるわ」
「・・・憎いのかシルバーバレットは?」
「ええ、もちろん」
「・・・そうか。あの・・・昼間は・・・その・・・悪かった」
「ああ、そのこと。大丈夫よ気にしていないし」
「でも・・・」
「大丈夫よ。けど一つだけ・・・」
「なんだ・・・?」
「私のチームに入りなさい」
「えっ・・・」
「私のチームに入りなさいって言っているの」
「それって・・・」
「統合戦技生になりなさい」
ああ・・・。
そういうことか。
願ったり叶ったりだな。
「わかったなるよ」
「そう、そう言ってくると思ったわ」
「けど・・・」
「ええ、そうね。まっ考えておけば。けど・・・あなたは統合戦技生を選ぶわ・・・」
「・・・・・」
「ふふ、幼なじみを守るためかしら」
「それって・・・」
「ええ、シルヴィアも選ばれているわ」
「はあ・・・」
「意外ね。もっと驚くかと思ってた」
「いや、考えてみたら・・・あるかもなって思ってさ」
「そう・・・なんだ。よく知っているのね。彼女のこと」
「まあな・・・」
「そっか・・・」
「アレクシア?」
「なっ、なんでもないわ・・・。少しうらやましく思って・・・。私のいた町からは人が消えていったから・・・知り合いがいなくなっちゃって・・・。そういう私も町を離れたから・・・。そう・・・なの」
「・・・・・」
アレクシアはその後、口を開かなかった。
けれど・・・彼女の手は彼女の心を表していた。
少し震えている・・・。
それは・・・彼女が強がっていることをただ、表していた。
彼女に何があったのかは知らない・・・。
しかし、俺はただ彼女のそばにいてあげたいと思った。
でも・・・それは俺の本心なのだろうか。
それとも下心なのだろうか・・・。
ただ、自分よりも弱いものを助けたいという奢りなのか・・・。
わからない・・・。
ただ、晴れ渡る空がものすごく冷たかった・・・。
「なあ・・・」
沈黙に耐え兼ねて声をかけた。
「なに?」
シルヴィアが答える。
声はいつもと同じようだ。
「薬がそんなに珍しかった?」
そんな言葉が返ってきた。
「いや、そうじゃない・・・」
それじゃあ、何?っと返ってきた。
俺は・・・。
「シルバーバレットのことをどう思う?」
っと何度も繰り返した問いを言った。
「あなたはアレが善人に見えるの?」
いや、そうじゃない・・・。
そのことじゃない・・・。
「・・・負けなのよ」
彼女は黙っている俺にそう答えた。
「私たちが罪を捕らえないと・・・。」
「「「正義が人々を殺すわ」」」
そう彼女は言った。
「私たちは法に則って行動をし、法によって人々を裁く。それを私たちではない殺人鬼が正義の味方として、殺人を繰り返したら・・・負けなのよ。だから・・・捕まえる」
・・・そういうことか。
確かにそうだろう・・・。
それは、殺人を許可しているようなものだ。
いや・・・。
大衆とはそういうものかもしれない・・・。
自分に都合のいいものを可愛がる。
そして、それが不要になったとき、自分に害をもたらすとき手を返す。
シンプルだ。
誰も自分が不利になるものを欲しがらない。
持ちたくない。
たとえそれが正しいことであっても捨てる。
不要だから・・・。
シルバーバレットもいつかは不要になるだろう・・・。
しかし、それに気がつくまで何人死ぬかは、わからない・・・。
シルバーバレットを名乗る者もいる・・・。
現にそれで死者が出ている・・・。
・・・だから彼女は止めたいのだろう。
・・・でも。
・・・いや、やめておこう。
・・・いつかわかるさ。
・・・それも。
「寒いわね。帰りましょう。その・・・シャワーを借りてもいいかしら」
「ああ、構わないよ。・・・おつかれさま」
「ええ、これからお世話になるわね。・・・改めてよろしく」
「ああ、よろしくな。・・・アレクシア・ヴュルツナー」
「ええ、よろしく。立川慎也」
ふふ・・・。
彼女は笑っていた。
それは、俺が出会ってから初めて見た、アレクシアの心からの笑みだった。
「はあ・・・」
ようやく家に帰ってきた・・・。
思わぬ道草になったものだ・・・。
だが、そこまで悪いようなものではない気がする・・・。
「・・・うれしい・・・かな」
そうだ・・・。
いつかわかることが今日に変わっただけだ。
そして、アレクシアのことも知ることができた。
わずか・・・ではあるが・・・。
無駄なことではない。
良かったのかな・・・。
今日は・・・。
「・・・寝るか」
あんなことがあって眠れるはずはないと思ったのだが、思いのほかすぐに寝つけた。
「・・・・・」
今週はいろいろなことが長け続けに起きた。
まあ、疲れるのは当たり前のことなのだが・・・。
「・・・・・」
そういえば、何か忘れている気がする・・・。
何だっけな・・・。
今から携帯開いて確認するのもめんどくさいしな・・・。
それに、この時間にメールを送るのもなんだしな・・・。
・・・だれに送るのかわからないし。
明日は、土曜日だ。
お昼くらいに連絡すればいいだろう。
何も連絡がこなかったら、相手側も気にしてないってことだろうし・・・。
来週は落ち着けるだろう・・・。
そんなことを考えて寝た。
でも、これからだった・・・。
今までの日常が変わっていったのは・・・。
朝日が昇る。
一見、普通のことに思えるだろう。
しかし、生きているうちはこのことに感動を覚える人はそうはいないだろう。
かく言う私もその一人だった。
夜とは太陽の輝く生の時間ではなく、死の時間だ。
生物を照らしていた光は落ち、静寂が満ちる。
本来、それが常である。
まあ、そうであった。
そのため、死にゆく者は闇に惹かれて消えていくのだと・・・。
惹かれてか・・・。
まあ、よくはわからない・・・。
何も宗教的な話ではないのだ。
つまり、本来の生物が活動しない夜に行動を起こすことができるのは他者に比べアドヴァンテージになるのだ。
その闇を、照らすことができたのは人類だった。
では、<光の姫>は人々を照らすことができたのだろうか・・・。
彼女は何者であったのか・・・。
なぜヒト型だと言われるようになったのか・・・。
地球を覆ったあの一条の光が、人々を変えたわけではない。
かと言って無意味だと切り捨てることもできない。
私はジャーナリストとしてその意味を世界中に届けるだけだ。
私は命を懸けてこれに臨むつもりだ。
報道は正義であることを信じて・・・。
パク・べクシク
「ふむ・・・」
「姉ちゃん何読んでんだ?」
「うるさい。別に何読んだっていいでしょう」
「はあ・・・。今どき、週刊誌を読んでいる人は早々いないぞ、美月ねえ」
「いいでしょ、私が何を読んだって。ストレスがたまるのよ。特に高校生の相手は・・・」
「まあ、そういうなって。飯作っておいたから後で食べといてくれ」
「は~い・・・」
「それじゃあ、出かけてくるわ」
「・・・どこへ?」
「買い物だよ。別にいいだろ」
「私のご飯は?」
「自分で作れるだろ」
「そっ、そんなあ~。隼人・・・あなたはこんなにカワイイお姐さんをおいて、出かけてしまうなんて・・・。うう、おねえちゃん悲しいわ」
「はあ・・・。カワイイねえ・・・」
「なっ、なによ・・・」
「颯と慎也は美月ねえのこと美人だって言ってたよ。」
「なっ・・それホント。」
「ホントだって、綺麗だねって。まあ、本性を知ればなんとやら」
「なっ、隼人あんたああああ!」
「おっ、いいのか。飯はないぞ」
「うぐぅ・・・。兵糧攻めだと・・・ただでさえ昨日はユーロから団体様がおいでになって、任務を行うから監視役兼アドバイザー兼指揮官として働いたのに・・・」
「はあ・・・。機密が筒抜けだぞ、美月ねえ」
「あっ・・・いけない」
「まったく・・・。前から口は軽いんだからさ、あんまむちゃすんなよ。こっちも困るんだからな。まったく・・・。戻ってきたと思ったらこれなんだから・・・」
隼人はあきれたようにそう言った。
そう言って、頭をかいていた。
照れ隠しだ。
昔からそのしぐさは変わらない。
家を出て、向かったのは軍で、戦場から帰ってきたら教官に任命されて・・・。
・・・迷惑をかけてしまった。
でも、それを許してくれる家族が優しかった。
甘えなんだろう。
軍ではとても厳しくされた。
自由などなかった。
死がとなり合わせだった。
それよりもっと、ひどいこともあった。
帰ってきてからは教官達が自分たちを厳しく訓練してくれたのかがわかった。
だから、私もそうすることにした。
失くさないようにするために。
つらかったんだろうな・・・。
あの人も・・・。
今は、もういない・・・。
でも、こういう仕事とは関係ない時は・・・。
「美月ねえ?」
少しくらい・・・ね。
「なに?」
「終わったらすぐに帰ってくるよ。久しぶりに一緒に食事でも・・・どうかな?。それとも、外食にする?」
「そうね、待ってるわ。帰ってくるのを」
「そっか。わかった」
太陽が登るのは好きか?。
大好きだ。
眺めるのは。
だって、冷たくなっていった友達が最後に見たものだから・・・。
・・・・・。
・・・・・。
「・・・・・」
「・・・・・」
「慎也・・・」
・・・なんだ。
紗奈か?。
眠いんだよ・・・。
もう少しだけ寝させてくれないか。
俺は何も言わずに体勢を変える。
いつもなら呆れてどこかへいくのだが・・・。
「慎也、慎也」
う~ん。
今日は、あきらめが悪いようだ。
「起きなさい!」
仕方がないので返事を返すことにした。
「もう少し・・・10分くらい」
・・・・・。
・・・あれ?。
いつもならすぐに布団を取り上げらるのだが・・・。
あれ・・・。
そう言えば紗奈ってこんな声だっけ?。
起きると、そこには・・・。
アレクシアがいた。
何故か制服なのだが・・・。
「・・・おはよう」
「・・・おはようございます」
すかさず敬語で返してしまった。
「・・・ごはんが冷めてしまいますよ」
アレクシアはそう言った。
昨日、いや今日かな・・・。
あの時と同じ口調ではなく、学校で話していた時と同じトーンだ。
「ああ、わかった」
「・・・・」
「あの・・・」
「はい」
「今日は、暇ですか?」
「え、ああ暇ですよ」
「・・・そうですか。では、今日は二人きりですね」
・・・えっ。
「・・・それでは」
そう言うとアレクシアは部屋に戻って行った。
俺はそのあと、着替えて、すでに冷めている朝ご飯を食べてアレクシアの部屋に向かった。
「アレクシアさん、いますか?。入りますね」
まさか、自分の家なのにこうやった人の部屋に入ることになるとは思いもしなかった。
その、まあ前までは、昨日までは何もない部屋であったとはいえ、今では、アレクシア、女性の部屋だ。
まあ、その・・・。
わくわくするとかじゃなくて・・・その恥かしいというか・・・楽しみというか・・・。
テンションが上がります。
いや、これは年頃の男子であれば当然自然なことであって・・・。
・・・何言ってんだろ俺。
襖を開ける。
海外の人に和室はどうかと思ったが、異文化体験みたいな感じで喜んでいたと昨日紗奈からは聞いたので心配はないような気もするが自分が見慣れないものに囲まれるというのは不安になるものだ。
まあ、この家は和室の他に使っていない部屋はないのだが。
この家は、二階建て庭付きの和洋折衷の作りになっている。
もともとは富裕層の一家が住む予定であったが、戦争の開始共に疎開することになり売り出すことになったのだが、買い手が現れずまた、都心部も移動したため地価の下落も受けたため普通の一戸建ての価格まで資産価値が低下したため、それをうちが買ったわけだ。
まあ、できてからそう時間は経っておらず、設備も問題なくまた、住むのにもちょうどいい大きさだったので父は買うのを決めたそうだ。
まあ、母は反対したんだと。
掃除がめんどくさいって・・・。
ゆっくりと襖を開ける。
・・・・・。
アレクシアはいなかった。
「・・・あれ?」
何度も見渡すが見当たらない・・・。
床に何か落ちている・・・。
何だろう・・・。
いや、やめておこう・・・。
アレクシアの下着・・・他のものでもアウトだが。
触らぬ姫に祟りなしと、部屋から出ようとした時。
「・・・何をやっているんですか?」
「あっ・・・アレクシアさん」
後ろにはアレクシアがいた。
彼女から見ればホームステイ先の家で、クラスメイト兼ホストファミリーが、自分の部屋から出てきたわけで・・・。
「・・・部屋に来てくださいとは言いましたが、中で待っていてくださいとは言っていません」
アレクシアは淡々と言った。
表情には出ていないが怒っているのは明白だった。
「えっと・・・これは・・・その・・・」
なっ・・・何戸惑ってんだ・・・。
早く誤解を解かないと・・・。
「いいわけですか?・・・見苦しいです」
・・・・・。
・・・終わった。
・・・終わりました、終わってしまった、終わってしまいました。
ああ・・・今までいい感じになってきたと思ったのだがな・・・。
まさか、こうも簡単崩れるものとはな・・・。
「・・・どうしました?行きましょ」
俺がどこへと尋ねる間もなくアレクシアが歩を早めたので慌ててついていくことになった。
道中、話しかけるも無視された。
うう・・・。
きついなこれは・・・。
シルヴィアは殴ってくるけどそのあと話をしてくれるのだが・・・。
「・・・・・」
こういうのは精神的に来るんだよな・・・。
そのあと、アレクシアと話したのは目的の場所に着いてからだった。
「ん?あれって・・・」
シルヴィアはアレクシアと一緒に歩いている慎也を見つけた。
いつもなら気にならいのだが・・・。
「・・・怪しいわね」
別に慎也が、ほかの国の統合戦技生・・・。
アレクシアと歩いている。
「うう・・・」
昔からの症状だが、慎也が自分以外の他の女性と歩いているとすごく不安になるのだ。
昔は自分のものが人に取られるから嫌な気持ちになると思っていたが、違っていた。
「・・・//」
自分でも恥ずかしが恋なのだろう。
魚の方じゃない。
恋だ。
それにしても・・・。
「あっの、おんな~」
慎也がさっきからずっと話かているにもかかわらず無視している。
「うらやましいじゃなくて、何よ!」
疎ましい・・・。
慎也から話しかけられていてうらやましい。
そして、ものすごく寂しい・・・。
「何よ、慎也!。そんな人形みたいな娘が好みなの?うっそ、信じられない、マジあり得ない。慎也のばっか、ばっか、ばっかあああああああ」
乙女の恋心というものは、時に恋愛対象に怒りを覚えてしまうものだ。
「何なのよ~、もう・・・」
嫉妬という感情ではあるが・・・。
「ふんっ、だ・・・」
彼女自身は自分には非がないとするのが・・・。
「・・・ぐすん」
恋をする乙女なのである。
・・・・・。
・・・・・。
「・・・・・」
「・・・着いたわ」
「・・・学校?」
「・・・見ればわかるでしょう」
「・・・・・」
「・・・行きましょう」
・・・何でですか?アレクシアさん。
俺がそう言うよりも早くアレクシアは行ってしまった。
あわてて、追いかける。
歩みを進めるのが早い・・・。
何をそんなに急ぐのか・・・。
まるで・・・いや、これは競歩だ。
「なあ、アレクシアどこへ?」
疲れてきたので口調も軽くなる。
「・・・あそこの建物」
「あそこって・・・」
アレクシアは止まってゆびで建物を示した。
「・・・いや、あの建物には入れませんよ」
「・・・そう」
「いや、だから・・・」
「・・・あなたもここに通うようになるわ」
「・・・・・」
アレクシアがゆびを指したあの建物。
元は在日アメリカ軍の核弾頭保管施設だったらしい。
日本とアメリカの密約で持ち込まれた戦術核の保管場所・・・。
そのため、基地返還を求めていた人々は、土地を手放し出ていった。
それは、周辺に住む人々も一緒だった。
そのため、地価は下落した。
保管されていた核弾頭は日本が保有することになったが保管場所は知らされていない。
横須賀の基地に移動されたというのがもっぱらの噂である。
住民がいなくなったあと国はその土地を買収し、基地の区画を拡大した。
そして、この建物はその保管場所の上に造られた。
そのため、この建物は普通生徒は入れないものとなっているのだが・・・。
「・・・・・」
どうやら引き留めるのは無理そうだ・・・。
「はあー・・・」
軽くため息をつく。
こうなったら行くしかないのだろう・・・。
蹴り飛ばされるのもいやだしな。
こうして俺たちは建物へと向かった。
建物は形から櫓と呼ばれている。
誰がそう名付けたのかはわからないが、警備が厳しからだろう・・・。
先が思いやられる・・・。
「・・・まったく」
呆れたようにそうつぶやく。
アレクシアは意に返さずそのまま歩き続ける。
まるでこの先に答えがあるのだと思わんばかりだ。
はて、さてそこに何があるのだろうか。
まったく・・・。
俺もお人好しが過ぎるのかな。
もう少し人を疑うことを覚えた方がいいってシルヴィアに言われたものだ。
でも・・・。
彼女といるのはそう悪くはないと感じた。
櫓の中は綺麗だった。
まあ、警備員が武装していることを除けばそうだろう。
都心部では警備員が銃を持つことはあるが、それは官庁街などだけだ。
一般には武装していない警備員が多い。
拳銃は携帯しているが。
「・・・・・」
「・・・どうしたの。」
「いや、何で俺はこんなところにいるのかなっと思って」
「・・・何を言っているのかわからない。歩いてきたからでしょ」
「・・・いや、そういうことじゃなくて」
「・・・何なの?」
「何でもない」
「・・・そう」
エントランスに衛兵がいる建物なんて入ったことない。
しかも、ライフル持ってたし。
どんだけやばい施設なんだよ・・・ここ。
アレクシアはひたすら進んで行く。
時折、検問所で許可証を見せては進んで行く。
どこへ行くのだろうか。
同じような景色が回っていく。
一片の曇りのない純白の壁、どこか病院に似た手すり、ただ白い光を灯す蛍光灯。
色があるのは床だけだ。
その床もうすい水色なので白っぽい。
もういやだ。
っと思ったその時、アレクシアは止まった。
・・・・・。
・・・近くね。
辺りを見回してみると、入ってきた入口のすぐ近くだった。
っとすると・・・。
「なあ、アレクシア。もしかして迷ってたのか」
「・・・・・」
アレクシアがフリーズした。
どうやら本当に迷っていたらしい。
耳まで真っ赤だ。
「・・・るさい・・」
「えっ・・・」
アレクシアさん?。
「・・・うるさい、うるさい、うるさい!。私だって間違えることはあるんだから!。揚げ足をとるな、バカ~」
「ちょ、待て。痛い、痛いってアレクシア」
「うるさい、うるさい、うるさい!」
子供のように泣きじゃくるアレクシア。
頼むから叩くのをやめてくれ・・・。
みぞおちに入ってるんだ。
「・・・なにをイチャついているのだ、貴様ら」
「「へっ・・・」」
アレクシアのポンポンが収まる。
正確にはグサグサだけどな。
声が聞こえた方に顔を向けるとそこには、冷たい笑みを浮かべた神田先生がいた・・・。
「はあ・・。」
神田先生の口からため息がこぼれる。
「・・・・・」
「・・・・・」
・・・気まずい。
部屋を見渡すが特に目を引くものはなく紙の束があちこちにある。
会議室だ。
それにしても・・・。
第三会議室と書かれたプレートが扉についているだけで真正面から見なければわからないとは・・・。
それに、銀色に白文字とは・・・。
さすがにゲシュタルト崩壊するレベルだ。
この建物には白色が多すぎる。
まったく・・・どうなってんだろうな。
エレベーターとエスカレーターもあったが、他の階も同じような白色なのだろうか。
もはや病的だな。
っと俺が思っているとさっきため息をついていた神田先生が話し始めた。
「アレクシア」
「はい」
「楽しいか?慎也との共同生活は?」
「はい。よくして頂いています。今のところ不備はありません」
「そうか。まあ、何よりだ」
「それよりも昨日のことは慎也に話したのか?」
「ええ、統合戦技生候補として選ばれたことを伝えました。あとは彼の決断次第です。決まり次第彼を私の部隊に入れるつもりです」
「・・・アレクシア。統合戦技生については?」
「いえ、何も・・・」
「・・・まったく」
「なぜですか?」
「・・・はあ。アレクシア。この国では統合戦技生は有名ではない。だから、統合戦技生について説明しろと言ったはずだが」
「・・・すいません。」
「まったく・・・。立川!」
「はっ、はい」
急に声をかけられたので声がうわづる。
「統合戦技生について知っていることは?」
「えっ、いえよく知りません」
「・・・まったく」
「・・・・・」
「はあ・・・。まあいいだろう、アレクシア。貴様も聞いていろ」
「はい」
「はあ・・・。統合戦技生とはフィリピン警察の対薬物部隊を前身として新たに設けられたものだ。
当時は、青少年の薬物中毒者の増加防止として学校に通う生徒を監視官として学校に通いながら密告するというスパイのようなものだった。そして、その選ばれた生徒の一部はそのまま警察官になり、この制度に対する権限を拡大した。そして、有事の際は兵隊として戦えるようにもした。これが一般の生徒との違いだ。日本で言えば旧予備自衛官、現国土義勇軍の制度と同じだ。そして、この制度は海を渡りヨーロッパ各地へと渡った。スイスが一番最初にこの制度を導入、イタリア、フランス、ドイツも続いて導入、法制度化まで行った。しかし、日本は反対派が多かったがアメリカン・バイヤー事件を受けて導入した。それでもなお、反対が多かったため八王子や日光、北海道など屯田兵や千人同心など歴史的に武装した一般人がいたことがあるなどこの制度の導入に積極的だった都市ではすぐに訓練が始められた。現在は統合戦技生の大会が行われているが日本の順位は低い。これは、練度の問題ではなく他の国々が軍隊と絡めているためである。日本では、警察学校などの生徒は統合戦技生になれない、それは日本の防衛力を秘匿するためである。まあ、他の国々は力を誇示したいのだろうな。それとこの統合戦技生の育成が大々的に行われているのは日本で数校である。この横田第一高等学校はその中の一つある。それもほとんどが秘匿されているため統合戦技生が知られていないのが現状だ。以上が統合戦技生についてだ」
「はあ・・・」
・・・。
すごいっていうのはわかった。
「さてと、統合戦技生についてはこれぐらいにしておくか・・・」
神田先生はまたため息をつく。
それにしても・・・。
統合戦技生って本当になんなんだよ。
スパイとか、特殊部隊とかそういう次元だぞ。
「ようするに、非常任の国家公務員っといったところよ。まあ、それなりに権限はあるわ」
「そう・・・なのか?」
「ええ、そうよ」
「信じられないな・・・」
「何が?」
「俺らが普通に生活を送っているその中にこんな団体があったなんて・・・」
「そうね。一般的だわ」
・・・・・。
軽くけなされてるよな。
「さて、では立川慎也」
神田先生がこっちに目を向ける。
真剣そのものだ。
殺意は感じないが凄味がある。
「君は、統合戦技生になるのか?」
・・・・・。
えっ・・・。
「立川慎也、貴様は統合戦技生になるのか?」
「待ってください」
アレクシアが声を荒げる。
「まだ彼は決めていません、それに期限は来週では」
「今は、人材の確保が最優先だ」
「しかし・・・」
「訓練は一日でも早い方がいい、それにまだ他の候補者もいる。こちらとしてはその一人一人の答えを悠長に待つことなど到底できない」
「・・・わかりました」
アレクシアは引いた。
彼女の目はすまなそうにこっちに向いている。
「では、立川慎也。答えを聞こう」
「・・・なります」
「死ぬ危険もあるのだぞ」
「承知の上です」
「活躍しても名は載らない、気づかれないそういうものだぞ」
「わかってます、やらせてください」
「・・・そうか。アレクシア、いいものを拾ったな。早速だが彼の教育係を頼む」
「わかりました」
「これで、分隊は全員揃ったか。まあ、あとは任せる」
「わかりました」
「では・・・」
「しっ、失礼します」
アレクシアについていく。
扉を閉めたとき神田先生は少し悲しそうな顔をしていた。
気のせいだろう・・・おそらく。
・・・・・。
・・・・・。
「はあ・・・」
予想通りだったな、まあ彼がそれくらいで怖じ気づくとは思っていなかったが・・・。
少し驚かせすぎたかな・・・。
まあ、あれくらいがいいだろう。
「どちらにしても、結局はこうなるのだな」
神田美月は紙をまた見つめた。
統合戦技生の候補者名簿・・・立川慎也の名も当然載っていた。
「ここにいる全員は統合戦技生になることを拒否しなかったわけか・・・」
これからどうなるのやら・・・。
頭が痛くなりそうだ。
残りのメンバーも呼び出さなくてはな・・・。
「・・・軍がらみか。まったく、あとどれくらい増強すれば気が済むのか・・・」
そんなことを口にする、聞かれたらまずいことばかり口にしている。
「まあ・・・。これからだな・・・」
そうして決意を口にするのだった。
・・・・・。
・・・・・。
「ねえ、あなた何で統合戦技生になるって決められたの?。」
部屋を出て少しの所でアレクシアにそう聞かれた。
まあ、無理もない。
「なんとなくだ」
そう答える。
アレクシアはわかりやすく驚いたのがわかるくらい目を大きくさせた。
「・・・本気で言っているの?」
「ああ、どのみち拒否権はなかったし」
「それって・・・」
「神田先生のことはよく知っているからな」
「噓、あんなに無表情だったのに・・・」
「まあ、昔から付き合いがあるだけだよ。そのうちわかるようにはなると思う。ところで、アレクシアは神田先生のことどう思ってる?」
「・・・そうねえ。おっかない人だと思ったわよ。それにしても以外ねえ、まさかあの堅物そうな人に好印象を持っている人がいるなんて」
「美月ねえ・・・神田先生は悪い人じゃないよ。・・・今も、昔も」
「そう・・・なんだ」
「それじゃあ、少し確認することがあるけどいい?」
「・・・いいけど。なんだ?」
「ええ、あなたが統合戦技生にふさわしいかテストしてあげる」
「まあ、いいけど」
「よし、それじゃあ質問その一。あなたは一人称視点のシューティングゲーム及び俗に言うガンゲーをやったことはある?」
・・・なんつう質問だ。
まあ、いい答えておこう。
にしてもガンゲーか・・・。
縁日とか、ゲームセンターくらいかな。
「あるよ」
「詳しく!」
「えっ、ああ。お祭りの時の射的とか、ゲームセンターのコントローラを持って遊ぶやつくらいかな」
「ネットゲームは?」
「ああ、少しくらいは」
「そう、だったらすぐに止めた方がいいわよ」
「どうして?」
「実際の銃を撃つときゲームの癖が出るのよ。それで結局、何だったけ?。エイム能力、それがゲームとは違って反動が使用者自身にくるのに違和感があるから標的に弾が当たらなくなるの。簡単でしょ、あくまでもゲームの撃ち方になるのよ。これは、日常的にネットゲームをやっている人ほど癖が出やすいわ。研究結果からもそう結論づけられているわ。わかった?」
「ああ、わかった」
・・・・・。
結構つらいな。
まあ、現実で銃も持っているわけだし、大丈夫だろう。
「弾を無駄にしないことは生存率の増加にも繋がるは、でも私たちはリスポーンできない。一度死んだら終わりよ・・・」
「わかった。肝に銘じておくよ」
「ええ、頼むわよ。あんたの墓になんかお見舞いに行かないんだから」
「そっか、俺も薔薇を摘みたくはないよ」
「へえ~・・・。いきなりそんな口を叩くんだ。知らないわよ、後悔しても」
「大丈夫だ」
「本当に~?」
「だっ、大丈夫だ・・・」
「ふふ、期待しているわ」
・・・・・。
本当に可愛げがないな。
それにしても・・・。
これが素のアレクシアなのだろうか。
冗談を言ったり、心配したり・・・。
・・・どれが本物のなのかな。
っと俺は心の中でそう思った。
・・・・・。
・・・・・。
「ここよ!」
アレクシアに部屋に案内された。
装飾も何もないドアは冷たく感じる。
人の出入りがあるのか床は汚れている。
「・・・何もないな」
部屋にはとくに目ぼしいものはなかった。
「それにしても・・・」
「何?」
「まさか、学校の地下がこうなっているとは思いもしなかった」
「当たり前よ、このくらい。なんせ軍事基地だったんでしょ。私のところもこんな感じだったわよ」
「はあ・・・」
「さてと、それじゃあ荷物を確認して」
「ああ。よっと・・・」
机の上に荷物を置く。
ここへ来る途中に資材置き場で貰ったものだ。
ご丁寧に名前まで書いてある。
しかも、英語、日本語、中国語でだ。
そのまま荷物を開ける。
「・・・・・」
「どうしたの?」
「いや・・・」
「何よ?」
中に入っていたのは分解してある銃とナイフ、手錠、防弾チョッキ?、バッジ、その他もろもろが入っていた。
いや、まあ支給されるのはうれしいのだが、少し違和感が。
「なあ・・・」
「なに?」
「このプレートって?」
「ええ、それ?」
「ああ・・・」
「追加装甲よ?」
「何の?」
「防弾服の」
「えっ・・・」
このプラスチック製のプレートが?。
そう、違和感はこれだった。
個々にパッケージされていて、黒い色のこの板がなんで入っているのかが気になった。
そして、防弾チョッキもとい防弾服にもポケットはあるが何も入っていなかった。
「ああ、そう知らないのね。それは、防弾プラスチックよ」
「・・・防弾プラスチック?」
「ええ、そうよ」
「聞いたことがないな・・・」
「ええ、最近できた物よ。まあ、前線でも使われているものだけど」
「防弾ガラスは聞いたことがあるんだけどな」
「そう・・・。あっ、説明した方がいいわね。この防弾プラスチック、まあこのプレートね。この中には繊維状の硬化プラスチックが入っていてしかもその繊維はナノサイズで鎖状になっているの。従来の防弾繊維に比べて9倍以上も硬くて、計算上は12.7ミリメートル弾が全く同じ場所に三回着弾しても耐えられるって言われているわ。嘘か本当のことかはわからないけどとにかく硬いってことよ。そして、この防弾服も特殊なもので形状からもわかるように被弾した部分を取り換えることができるのよ。まあ、これは体格も考慮してのことよ。ほら、着てみて・・・」
「かるいな・・・。」
見た目のわりに防弾服はとても軽かった。
もっと重厚で重いってイメージがあったんだけどな。
「へええ、すごいでしょう」
まるで自分のことのようにアレクシアは喜んでいる。
なんか・・・そのほほえましくもある。
「なに見てんのよ」
「別に・・・」
「そう・・・なんだ」
「ところでアレクシア」
「なによ?」
「ひとつ気になったんだけどこの施設には来たことあるのか?」
「あるわよ」
「なんで場所がわかるの?」
思い返してみれば不可解なことだ。
なぜ、アレクシアは先ほど迷子になったのに関わらず、この部屋までこれたのか。
作りが似ているというのもあれだが。
「だから言ってるでしょう。似ているの」
「それは、聞いたけどさ」
「何よ?」
「このあとはどうするんだ?。」
「えっ、いやそれはその・・・訓練するの。それから、ああもういい、ついてきなさい。なんでこの施設のことを知っているかというと、昨日ここに来たから。さっき迷ったのは案内されてないから。この部屋は更衣室だからよ。なに、それがどうしたの」
「いや、聞いただけだよ」
「そんなに私のことが信用できない?」
アレクシアの目はうっすらとうるんでいる。
「いや、そういうわけじゃ・・・」
「じゃあ何よ」
「気になっただけだ」
「そう、ならいいじゃない。あなたはこれから私と同じ部隊に入って統合戦技生として生きる問題ないでしょう」
「わかってるって・・・」
「なによ。私じゃ不満」
「いやそういうことはないけど・・・」
アレクシアはかんしゃくを起こしている。
まあ、理由はわかるが。
それは、俺がアレクシアを信用していないってことだろう。
きっとそれで不安になったのはわかるが・・・。
もはや幼児退行レベルまで引き下がっているというか・・・。
なんにせよ、このままにしておくわけにもいかないし、どうすればいいか。
「何よ、慎也のばっか、ばっか。うう、何なのよもう・・・」
「いや、だから・・・」
「言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!。これだから日本人は・・・」
「あのな、アレクシア」
「うるさい」
理不尽!。
やばいな、もはや話ができるかできないかのレベルだぞ。
ここは落ち着くまで待つべきか。
いや、この際ハッキリと「「信用できないんだ。」」っと真っ向から言うのか・・・。
どうすれば・・・。
っと俺が困り果てているその時部屋の扉が開いた。
ふと、そこに目を向ける。
アレクシアも同様に目を向けた。
「ええっとお・・・。アレクシアさん?」
「えっ、ああ。玲奈さん、どうしたのですか?」
「いや、もしかしたら迷子になっているんじゃないかと思ったんだけどその・・・喧嘩?」
「いえ、違うわよ。慎也が私を信用しないって言うから・・・その・・・ごにょごにょ」
アレクシアは顔を真っ赤にしながら小さな声で小言を言っている・・・。
・・・・・。
うう~ん、俺も悪かったかな。
「そうなんだ。ん、あっ、慎也君おはよう。そして、入隊おめでとうプラス統合戦技生着任おめでとう。今日からよろしくね!。ああ、あと私あなたの教育係になったから」
「えっ・・・アレクシアじゃなくて?。うん、ここに来て日が浅いしね。まあ、迷子になるくらいだから私に頼って。困ったことがあれば相談に乗るよ。あっ、でも恋のお悩みは・・・って何言ってるんだろう、ごめんね。嬉しくて・・・って今何にも言ってないから」
ほわわ~っと。
顔を赤くする玲奈。
不覚にも可愛いと思ってしまった。
すると横で・・・。
「ぐぬぬぬぬ、恋敵?いや、まだ早い・・・。にしてもあのおんな~。あっ、そうだ事故死に見せかければ・・・」
何か怖いことを言っているので聞かなかったことにする。
「それじゃあ、用意できたわね。あっ、荷物持てる?」
「持てるよ、これくらい」
「うん、そうだね」
「そういえば、慎也君武器はどうしたの?」
「学校に置いてあるけど?。持ってきた方が良かった?」
「えっ、いや・・・。そのね、お兄ちゃんが昨日、慎也と射撃の練習するから遅くなるって言ってたから」
・・・・・。
・・・忘れてた。
ああ、やっと思い出した。
そういえば、昨日大量の弾薬を颯が持ってきてたな。
あと、あの量だと逮捕モノなんだけどね。
「ああ、思い出したよ。颯はそのあとどうしたんだ?」
「うん、全弾ぶちかましてお兄ちゃんのM-4(エムフォー)使えなくなったって。それで、今日は買いに行くって言ってた」
「そうなんだ・・・」
・・・アイツ、よく撃てたな。
「うん、次はP-90(キュウマル)にするとか言ってたよ」
「・・・サブマシンガンに?」
「そうだよ、MP-5(エムピーファイブ)も壊したって」
「壊し過ぎ・・・」
「そうだよねー、もっと相棒(銃)を大切にしなきゃね。って言いたいんだけど機関部は損傷が激しいし、銃身は焼き尽くしてるから文句も言えないの・・・」
「それは、仕方のないことなんじゃないのかな」
「でも、モノは大切にしなきゃ。まあ、銃なんて消耗品なんだけどね。慎也も日々のメンテナンスは行うように、統合戦技生になったんだからしっかりとね」
「わかってるよ・・・」
玲奈はどこぞのクラスの委員長と同じような口調で俺にそう言ってきた。
・・・・・。
ふと腰に目をやる。
いつものように黒い物体がそこにある。
買った当初は慣れていなかったが最近は使用することも多く、慣れてきた。
M-4(ライフル)と同じく精度はまだ甘いが、これからだろう。
「武器か・・・。なあ、玲奈」
「なに、アレクシア」
「この近くに銃技工士っている?。腕のいい人」
「いるよ、ああそうか。まだ、教えてなかったからね」
「慎也にも教えておくね」
「ああ、頼むよ。それその、銃技工士さんはどこにいるんだ?。このあたりじゃ聞いたことはないんだけど・・・」
「うん、そうだよ。この近くじゃなくてこの下にいるよ」
「っということは地下に?」
「そうだよ、慎也。地下に銃工廠があって非致死弾頭の開発もやっているんだよ。あと、改造もできるから出してみたらいいと思うよ」
「そっか。弾も売ってるの?」
「売ってるよ。でも、支給されるからお金の心配はしなくていいよ。国が払ってくれるから。でも、その代わりに任務もこなさなきゃいけないよ。けど、ゲームみたいな任務じゃなくて死亡することもある任務だよ。
やめるのなら今のうちだよ。
もう後戻りはできないから・・・」
・・・・・。
玲奈は同じ目をしていた。
空虚で冷たいが本質はそれと似ていた。
・・・・・。
・・・・・。
玲奈に案内されて地下工廠に向かう。
エレベーターには地上階三階までと地下階5階まであった。
地下の階のボタンの間にはところどころに点が入っている。
それだけ、深いってことだろう。
まあ、玲奈の話によると地下シェルターだったらしく、米軍撤退後に改修工事を行いこういう作りになったらしい。
このエレベーターはそのときに造られたものの一つだ。
他にもいくつかあるらしい。
荷物運搬用のものもあったと。
まあ、核弾頭か機密書類の類いだろう。
当時はそのことでひと騒動起きた。
けど、結局見つからずわからなかったようだ。
おそらくすぐにどこかへ運ばれたのだろう。
見つかったとしても破片か、塵だろう。
「ここだよ」
「ここ?」
「うん、ここが工廠だよ。さあ入って入って」
「・・・お邪魔します」
「・・・・・」
中に入るとさまざまな匂いがした。
オイル、グリス、硝煙のにおい・・・。
巨大な換気扇は止まることなく動いている。
奥では機械が音を立てて作業をしている。
レーンの上には弾丸が。
他のレーンには、プラスチックの平べったいパネルが・・・。
「そうか、ここで作られているのか・・・」
「ん?。あっ、アレ。防弾プラスチックを作る機械だよ。この国にはわずか数百台しかない貴重なものだよ。五基あるけどそれでも供給量はいっぱいいっぱいなんだ。けど、死なれちゃ困るからね」
「う~ん、数はあまりピント来ないんだけど生産量はどれくらいなの?」
「一日に500人分生産できるよ。これ以上生産量を多くするために機械のスピードを速めると質が低下するって言ってたよ」
「そうなのか。はあ・・・」
大量生産出来ないか。それでも、2500人分は生産できる。
けどそれでも足りないとは・・・。
我ながら呆れるな。
「いっらしゃい。あなた達が新しい統合戦技生ね。ここの主任の榎戸優奈よ。よろしく」
うっとりするほどの美声が聞こえた。
振り返るとそこのには背の高い綺麗な眼鏡をかけた女性がいた。
青いつなぎの服を着ていて、髪はポニーテールにしているが、あどけなさはなく妙齢の女性であった。
「初めまして、ドイツから来ました。アレクシア・ヴュルツナーです。よろしくお願いいたします」
「ええ、噂はかねがね聞いているわ。よろしく。っと、隣にいるあなたは?」
「あっ、はい。立川慎也と言います」
「そう、あなたが昨日現場にいた候補生ね。よろしく」
優奈さんはそういうと手袋を脱いだ。
傷一つない綺麗な手だった。
俺もそれに応じて、右手を出して握手を交わした。
あったかかった。
自然に心臓が早く動いていた。
女性に触れることがなかったわけではないのだが、緊張しているのは確かなのだろう。
意外と、初心なんだなと改めて思う。
何故かアレクシアの視線が物凄く痛いのだが、気のせいだろう。
玲奈の方はうっすらと笑みを浮かべている。
しかし、顔が笑っていない。
「ところで慎也くん?」
「なんですか?。優奈さん・・・榎戸さん?」
「優奈でいいわよ、ちょっとあなたのピストルを見せてくれないかしら」
「はい」
腰のホルスターから銃を取り出す。
そして、優奈さんに渡した。
「M-92 F・・・ベレッタか、いい銃ね。うん、目立った汚れも見当たらないし、損傷もないわね。定期的にメンテナンスしているみたいね」
「はい、まあ一週間に一回くらいの頻度ですから・・・」
「完全分解で?」
「はい・・・慣れてはいませんが」
「そう、とりあえずこれを構えてみて」
「あっ、はい」
優奈さんから相棒のベレッタを返してもらう、そして俺はベレッタを構えた。
「・・・・・」
「・・・どうですか?」
「そうねえ、慎也くん。ベレッタでの命中率は?」
「72パーセントとくらいです」
静止目標で、四メートルの場合だ。
「そう、改造しましょうか」
「えっ、いいんですか?」
「ええ、いいわよ。なんだって統合戦技生になったんだから」
「お願いします」
「ええ、いいわ。・・・玲奈?このあとの予定は?」
「射撃場を案内することになっています」
「そう、終わったら戻ってきて。改造したものを渡すから」
「わかりました」
「それにしても・・・ベレッタか・・・」
「どうしたんですか?」
「いえ、珍しいと思ってね。なんせ統合戦技生もとい特殊公務員の人達はM 1911(ガバメント)とか、コルトパイソンとかだからね」
「はあ・・・」
「なんせ近接戦闘が多いから、確実に撃つことができる銃を求める傾向にあるから」
「リボルバーとかもまだ現役なんですか?」
「ええ、システマとかの格闘術で銃のスライドを抑えられて撃てないようにされることもあるからリボルバーも重宝されるのよ」
「そうなんですか」
「ええ、殴れるから」
「・・・・・」
「本当よ」
「はあ・・・」
「まあ、こっちはすんごい迷惑だけどね。横撃ちも同様だけどね」
「大切にします」
「ええ、お願いね。けど、無理は駄目よ。死んでは元も子もないから」
「・・・そうですね」
「私はね、好きなんだ。こうやって、話すのが・・・。銃を使う人、銃を治す人。見ている観点が違うからこそその人にあった武器が作れるの・・・」
「・・・・・。
「湿っぽい話でごめんね」
「いえ、そんなことは・・・」
「そう・・・」
「あの、優奈さんは戦場に行ったことは・・・」
「ええ、あるわよ。最近ね。神田先生も一緒だった」
「やっぱり・・・そうなんですね」
「そうよ・・・」
「さて、そろそろ行かなきゃならないんでしょ」
「えっ、あっはい」
「それじゃあ、またいらっしゃい」
「はい、これからお世話になります」
「よろしくお願いいたします」
「ええ、よろしく」
・・・・・。
・・・・・。
優奈さんにベレッタを渡したあと俺と、アレクシア、玲奈の三人は一緒に地下の射撃場へと向かった。
エレベーターで二階分離れている。
地上から何メートル位したなのだろうか・・・。
「目標!」
「補足、交叉、誤差修正・・・撃ちます。ファイヤ!」
「命中、+0.235-0.12」
「誤差修正、次弾装填・・・ファイヤ!」
「命中確認。次、目標!」
「了解、補足、交叉・・・ファイヤ!」
射撃場の中では既に何組かが射撃をしていた。
「・・・あれって」
「うん、鈴音と隼人だよ」
「何で二人が・・・」
「ええ、鈴音は狙撃手で、隼人が観測手兼護衛なのよ」
「今日が初めてにしては、隼人くんはいい感じね。まあ、そうでなきゃ困るけど・・・」
「・・・はあ」
ただ、うなずくしかなかった。
昨日、今日でいろんなことが起きていて混乱している。
何だっけ・・・アレクシアのホームステイ先が家で、さらには来て初日で統合戦技生の任務を受けていて、その中に玲奈や鈴音の姿まであってそして、隼人も・・・俺も・・・か。
「撃ち方止め!」
「撃ち方止め」
さっきまで聞こえていた発砲音が鳴き止む。
すると、隼人と鈴音が出てきた。
「よう、慎也。お前も今日から着任か」
「おはよう、立川君。それに、アレクシアさん。昨日はどうも」
「ええ、昨日は良かったわ。いい腕ね」
「そんなことないよ・・・。彩音には負けるし・・・」
「ふふ、謙虚なのね。まあ、仙谷さんの腕は知らないけど・・・今日、彼女は?」
「来てるよ。たぶん、PXじゃないかな?。飲み物でも買いに行ったと思うよ」
「そう、ありがとう。ってことは行き違いになったみたいね。そうか、まあ後で会えるかもね」
「そうだね。今は、携帯無線機を持ってないと思うし、まあ雫さんもいるから話しているんじゃないのかな。」
「なあ、慎也」
「なんだ、隼人」
「アレクシアさんってあんなに話すのか?それとも手籠めに・・・」
「してない・・・。もうすこし小声で話せよ・・・。聞こえたらまずいだろ」
「そうだな・・・」
「そういえば、隼人はいつからここに?」
「入学が決まってすぐに着任したわ」
「早くないか・・・」
「いや、玲奈も鈴音も雫もいたぞ」
「仙谷さんは?」
「ああ、仙石は少し後だったな。まあ、本人はやる気満々だったけど体力に不安があるから少し鍛えてからここに来たって言ってたよ」
「はあ・・・。仙谷さんらしいな。そういうところ」
「ああ、そうだな。ちなみに仙谷さんは通信士だ。昨日も仲介をしていたってよ」
「そういえば、昨日お前はいなかったけど・・・何やってたんだ?」
「昨日は、まだ訓練をしていて出れなかったよ」
「そういうものなのか・・・」
「そういうものだ」
「それって・・・観測手の訓練か?」
「そうだ、なんか急に決まってな。まあ、俺はそれで良かったと思うよ。前に出るとつい感情的になるからな・・・」
「そうか・・・。なあ、観測手とか狙撃手とかって?」
「兵科か?。勝手に決まるぞ」
「そうなのか?。誰が?」
「部隊長、神田先生だな。まあ、統合戦技生、特殊公務員もとい民間義勇兵には階級というものはないけど指導者、隊長や副隊長といった役職は存在するぞ」
「そうなのか、候補生もその枠組みなのか?」
「いや、候補生は違っていて統合戦技生になるか、ならないかの選択があるだけだ。イエスを選られば統合戦技生になれるし、ノーだったら普通の生徒だ。候補生というものはないからな」
「ってことは俺はもう統合戦技生なのか」
「そういうこと、兵科は今度伝えらるんじゃないか」
「わかった。ありがとう、それとよろしくお願いいたします」
「別に他人行儀じゃなくてもいいぞ。先に来ただけだ。階級が存在しない分言葉に気を付けろよ。コミュニケーションは大事ってな。まあ、気負うことはない」
「そうするよ」
「あんたたちさっきから何コソコソ話しているの?気になるんですけど?」
目をやるとアレクシアが仁王立ちしていた。
ご立腹のようだ。
・・・別にやましいことなんて話してないし、怒ることもないのだが・・・。
「ねえ、聞いているの?」
「聞いてるって・・・」
こちらも少し機嫌が悪そうに素っ気ない態度で返す。
「なにを話していたの?」
「兵科のことだよ」
「兵科ねえ・・・他には?」
「隼人がいつからこの施設に来て訓練しているのかだけど・・・」
「本当に、信用できないわねえ。だいたい、あんたたち二人の時誰が一番かわいいとかの話しかしてないじゃい、どうなの?」
「そんなことないって・・・」
「噓よ、そんなの・・・」
・・・理不尽。
隼人に目で助けを求めるがクスッと笑ってやれやれと体を上下させた。
助けに来るつもりなど最初からないらしい。
鈴音ちゃんも目を意図的にそらすし・・・。
なんなんだよ・・・。
みんな・・・フォローの一つでも。
さすがに、キレそうだ。
「話してないって言ってるだろう」
強い口調でそう言い放つ。
「・・・っつ」
さすがのアレクシアも引き下がる。
これで、下がってくれなかった困るからな。
男のメンツとしても・・・。
これで、嚙みついてきたら傍から見れば逆切れしたみたいだし、女性を傷つけた野郎とさえもいわれるからな・・・。
寂しい世界だ。
レディーファーストって言ったのはどこの国の人だろうか・・・。
ただ、たんに尻に引かれた人が揶揄していったのだろうか。
もちろん、妻にだが。
女性は弱く、母は強しか。
もしくは女性は弱く見せたがり、男性は強がりか。
果てしなく不平等だな。
「わかったわ。ところで誰が一番可愛いのか教えてくれる?」
「えっ、ああ。仙谷さんが一番かわいいってことに・・・」
下半身に痛みが・・・。
アレクシアさん・・・痛いです。
俺は正直者なのにな・・・。
隼人がまたやれやれと態度で表している。
俺の何にが悪いんだよ。
「・・・アレクシアさん・・・やりすぎかと思うよ」
「うう・・・ごめんなさい」
「慎也、大丈夫?」
「大丈夫だよ、鈴音ちゃん」
「玲奈です」
「・・・・・」
・・・なんで間違えたんだよ・・・俺。
「慎也、大丈夫?ごめんなさい。けど、あなたが悪いのよ」
・・・・・。
何で怒られなきゃならないんだろう。
ひどいなもう少し心配してくれてもいいのに。
「そうだね。慎也も悪いわよ」
「どうして?」
「知らない」
アレクシアはそっぽを向いた。
いきなり冷たくないか?。
「にぶにぶですね」
「そうね。ガードは硬くて、愛は大なりかな。私はまだ、諦めないわよ」
「そうですか、姉さん。シルヴィアさんではなく新しい恋敵も増えたというのにまだ諦めないんですか・・・」
「何よ、悪い?」
「いえ、この先大変ですよとだけ言っておきます」
「そう、あなたもそうやって一言多いんじゃないかしら?」
「何を言っておらしゃるのか?これまで何度もチャンスを作ってアゲマシタノニ」
「こんのおおお!」
「やりますか?いいですよ」
「喧嘩するなよ・・・」
「「うるさい!」」
「・・・すいません」
うお・・・。
なんかすごいことになってる。
ようやく痛みが引いてきたので体を起こす。
玲奈と鈴音の姉妹喧嘩、それを止めようとした隼人が返り討ち、こっちにはそっぽを向いたアレクシア。
誰か止めてくれ・・・。
仕方がないのでひとまずそっぽを向いているアレクシアに声をかける。
「なあ、アレクシアさん・・・?」
「・・・・・」
「アレクシア?」
「なに?」
良かった返事はしてくれた。
ここは何気なく。
「兵科について教えてくれないか?」
・・・違う・・・そっちじゃないんだ・・・俺。
「いいわよ」
・・・何とかセーフだったみたいだ。
この地雷原をどう処理していくか。
しかも、中身は核・・・。
いや、そんなもの存在しないけどね。
「兵科を知りたいの?」
「ああ、教えてくれるか?」
「いいわよ。統合戦技生の兵科は大きく二つに分かれていて、攻撃型と支援型の二種類あるわ。攻撃型には、射手、壁射手、狙撃手、破壊射手、工作射手、尾行射手などがあるわ。銃を使うことが多く、警察と協力することもあるわ。次に、支援型。衛生射手、通信士、情報工作員、施設、運搬、護衛、観測手の他にも銃技工士などの兵科があるわ。この支援型は将来役に立つから民間の志願者も多いわ。まあ、危険なことには変わりがないけどね」
「そうか。教えてくれてありがとう」
「いいえ、もっと頼ってくれてもいいのよ」
良かった機嫌を直してくれたみたいで。
あっちのほうも落ち着いたようだ・・・。
・・・あとでもう一度兵科の説明をしてもらおう・・・多いわ・・・。
「さて、雫たちを探しに行きますか」
「そうだな。とりあえず顔は見せとかないと」
「それじゃね、鈴音、隼人」
「うん、それじゃあまたね」
「これからよろしく!。(アレクシアさんに・・・名前呼ばれた・・・。)」
「ええ、これからも一緒に戦うことになるかもしれないわね。その時は頼むわよ」
「はい」
「了解です!」
「それじゃあ、案内するね」
隼人と鈴音にさよならを言って部屋を後にした。
「なあ、玲奈」
「わかっているわ、武器でしょ。大丈夫忘れていないわ」
「よかった・・・」
「私はそこまで記憶力悪くはないわよ。昨日、あなたとアレクシアが学校で何回話したのかも覚えているもの」
「えっ・・・ああそうなんだ」
何でそんなことを数えているのか?。
「それじゃあ、何回?」
「25回よ」
「・・・・・」
即答・・・ですか。
ためが一つもないというか、俺が質問し終える前に答えを言おうとしていたのですが・・・。
そういや25回も話しかけたかなぁ・・・。
覚えていないや。
エレベーターが来たのでそれに乗って工廠へ。
中には誰も乗っていなかった。
そういや、なんか人と会ってないな。
この基地が広いせいなのだろうか?。
エレベーターが止まった。
着いたようだ。
縦揺れを感じる。
エレベーターの扉が開いたので降りた。
そこから、まっすぐ工廠を目指す。
「こんにちはー。戻りました」
「あらっ、遅かったわねえ。はい、もうできているわ」
「ありがとうございます」
「どう?。構えてみて」
胸の前で構えてみる。
少し重くなった感じがする。
ベレッタ特有のスライドがふさがれている。
「少し重くなりましたね」
「ええ、銃身を延長、スライドを硬化ポリマーに変更、特製のモノよ」
「特製って・・・作ったんですかこれを?」
「ええ、これくらい簡単なことよ。さて、渡したことだし昼食にするわ。あなた達も来る?」
「昼食ってもうそんな時間・・・あれ、ホントだ」
「地下だから時間の経過があまり感じられないのよ。光は蛍光灯くらいだし」
「そうですか」
「まあ、慣れるものよ。それじゃあ、行きましょうか」
「はい」
「・・・また、新手の恋敵?いえ、年増さのババアだし・・・。いや、もしかしてそういう趣味が・・・。うそどうしよう矯正しなきゃ・・・」
・・・・・。
また、なんか聞こえたなあ。
幻聴だろうか・・・。
疲れているし・・・。
今日は、早く寝よう。
「ん?あれって・・・」
「あっ、玲奈ちゃんこっちこっち!」
仙谷さんの声が部屋中に響く。
そのことに気がついたのか仙谷さんは「すいません。」と軽く会釈をした。
その姿でさえも華やかなだった。
確かに颯が彼女のことを推すのはわかるな。
だって、あんなに綺麗で、元気で、可愛いし。
男の嫁としての理想像みたいなひとだからな・・・。
彼女が笑っていると周りも自然と笑顔になるし、彼女が落ち込んでいれば「誰が仙谷さんを悲しませたんだ!。」って言う感じになるからな。
俺も彼女は素敵だと思う。
それが、この前俺と隼人と颯で出した結論なのだが・・・。
「・・・・・」
後ろの同年代二人は不服のようだ。
頼むからその視線止めてくれないか・・・。
さっきから痛いのだが・・・。
俺の体に平行な四つの穴があくよ・・・。
「お待たせ、待った?」
「待ったよ。あっ、慎也くんも統合戦技生になったんだ。おめでとう」
「ありがとう、仙谷さん。これからもよろしく」
「ムー・・・」
「どうかしたの?」
「何で名前で呼んでくれないの?」
「えっ?」
「だって、同じ統合戦技生なのに敬語は寂しいよ・・・。名前で呼んでくれる?。それとも、私の名前覚えてくれなかったの?」
そう、上目づかいでこちらを見てくる仙谷さんはものすごく可愛かった。
胸の鼓動がすごく速くなった。
さっき優奈さんにあったときと同じくらいのスピードだった。
顔も赤くなっているだろう・・・。
まるで、天使に甘く囁かれた気分だ。
・・・死ぬのかな・・・俺。
そういや、隼人もよく死んでもいいやって言うけどこういうものかな・・・。
隼人、お前は間違っていなかった。
すまない・・・軽くキモイと思っていた。
っと夢ううつの気持ちだったのだが・・・。
「・・・・・」
「・・・・・」
またもや、この二人のせいで興ざめた。
・・・もうすこしだけ・・・でよかったのに。
「覚えているよいるよ」
「本当に?」
「ああ、綾音でしょ」
「うん、そうだよ」
「それじゃあ、よろしく綾音」
「よろしく、慎也」
「・・・あざとい」
「意図的ですね」
まただ、もうなんか疲れたな・・・。
心が・・・。
ガラス製のなのに・・・。
壊れそうだ・・・。
・・・・・。
・・・・・。
「慎也か。元気?」
「ああ、元気だよ」
「藤堂さんも元気そうだね」
「まあ相変わらずだよ。着任おめでとう。あと雫でいい」
「わかった。よろしく雫」
「よろしく。慎也」
「優奈さんも一緒でしたか」
「ああ、別に構わないだろう」
「はい」
「それじゃあ、隣いいかな?慎也くん?」
「いいですよ」
「それじゃあ、失礼する」
「なあ、玲奈?」
「なに?昼飯ってここで食うのか?」
「そうだよ。あそこのカウンターで好きなものを頼むの」
「そっか、おすすめは何かあるか?」
「ハンバーグ定食がおいしよ。他には生姜焼き定食とか麻婆豆腐とかカレーとかだよ。日替わりメニューもあるよ」
「へえ~、そんなにあるのか」
「うん、学校よりもメニューは多いよ」
「それじゃあ、貰ってくるよ。アレクシアも一緒に貰いに行かないか?」
「ええ、行きましょう」
~数十分後~
「美味しかった」
「そうでしょう」
「これから昼はここで済ませるのか」
「お弁当を作って持ってくる人もいるよ」
「そうなんだ」
「そういえば、綾音と雫はいつからここに?」
「最近だよ。まあ、雫ちゃんより早いけど」
「こっちはびっくりしたよ・・・。みんな私よりも先に統合戦技生になっていたんだもの」
「やっぱり、早くから統合戦技生になった方が良かったのかな?」
「そんなことはないよ。そこまで困ってはいないから」
「そうなんだ。二人の兵科は?」
「私は通信士だよ」
「私は射手だよ。まあ、これから他にも取るかもしれないけど」
「兵科ってそんなにすぐに変えたり、他と兼ねていたりできるものなのか?」
「ええ、兼任はできるわ。けれど、そこまで離れているものはできないわ」
「へえ~。アレクシアも何か兼ねているのか?」
「私は、一応狙撃もできるし、壁もできるわよ。護衛もだけど」
「そっか、綾音も通信士の他にも?」
「うん、射手もできるよ」
「射手かあ・・・俺も射手からスタートなのかな?」
「ええ、統合戦技生のほとんどが通る道よ。私も射手はできるわ」
「優奈さんもですか・・・」
「ええ、そうよ。頑張ってね。それじゃあ、もう行くわ。また、何かあったら来てね」
「はい」
「それじゃあ、また」
そうして優奈さんは地下工廠へと戻って行った。
「ん?どうしたの?。慎也くん?」
「えっ?」
「今、すっごい悲しそうな顔してたよ。」
「そうか」
「うん。けど、慎也。優奈さんって彼氏さんいるって」
「そうなの?」
「うん、だから諦めて。そういえば、慎也は好きな人っているの?」
綾音が急にそんなことを言うのでうろたえてしまう。
「・・・いないよ」
「うっそ。それ本当に言ってるの?。このご時世好きな人が一人もいない男なんて悪そのものだよ。ただでさえ、死にやすいのに・・・」
「そこまで言うの?」
「もちろんです。彼女いる?いたことある?」
「・・・ないです」
「ありゃ」
「早く作った方がいいぞいつ日本を離れることになるかわからないからな」
「わかったよ。そのうちな」
「そのうちね」
一方その頃アレクシアは・・・。
慎也くんと優奈さんが・・・いや、そんなことはないわよ。
相手は彼氏持ちよ・・・まさか・・・。
「「ねえ、慎也くん私がなんで君のベレッタを改造したのかわかる?」」
「「わかりません、なんでですか。優奈さん?」」
「「逞しかったからよ。ふふ、あの人のものよりも汚れていなかったし、綺麗だったわ。ねえ、慎也くん?」」
「「なんですか、優奈さん?」」
「「お姉さんのこと、DA・I・SU・KI?」」
そんなあ・・・。そんなことないわよねえ・・・。
うう・・・。若さゆえに危ない行動。
「はっ・・・背徳感・・・それって最後には・・・」
「アレクシア?」
「はひっ?。・・・雫さんどうしたの?」
「いえ、具合が悪そうだったから」
「・・・何でもないわ」
「さてと、訓練といきますか。」
「そうね。今日は、まだ何もやってないし。」
昼食を済ませたあと、優奈さんと別れてしばらく話をしていた。
雫と綾音は、今日の訓練は終わったから家に帰るそうだ。
まだ、任務を貰っていないのでやることがないらしい。
「訓練って・・・まだ着任初日なんだけど」
「なに言ってるの?。統合戦技生になったんだから休みなんてないわよ」
「なっ、なんですとー」
「そうよ、統合戦技生には休みがないのよ。何か事件があれば応援に駆け付けたり、交通規制とかしたり」
「他にも、殺人現場の保存、捜査協力、現行犯の確保も仕事よ」
「非番の時も?」
「もちろんよ」
「そうだよ、慎也。月火水木金陽陰だよ」
「いつの標語だよそれ・・・」
「いい、休める時は休め。日々の変化に順応せよ。死してなせることあらず、生あるうちに事を成せ。悔いな気選択をし、恥じることはするな。精進し、備えよ。そして、仲間を思え。これが統合戦技生の心得だよ。覚えておいてね」
「ええっと・・・」
・・・長いな。
けど、覚えられないわけではなさそうだが・・・。
「ほら、復唱」
「ああ、休める時は休め、日々の変化に順応せよ。死してなせることあらず・・・。
生あるうちに事を成せ。・・・悔いな気選択をし、恥じることはするな。精進し、備えよ。そして、仲間を思え・・・」
「うん、いい感じね。この心得で大切なことはわかるわよね?」
「休める時に休め?」
「違う、そこじゃないわよ」
「精進し、備えよ・・・か?」
「違うって、仲間を思えよ。大切なことは」
「どうして?」
「一番最後に書いてあるから」
「なんだよ、それ・・・」
「パッケージ、荷物の中に入っていたはずよ。手帳が」
「手帳?」
「うん、手帳よ。確かめて見て?」
「はあ・・・」
でかい荷物を机の上に出す。
中を開けては見るが見当たらない・・・。
「それ、ガンケースになるから、一番下にあるはずよ」
戸惑っている俺に呆れたのかアレクシアはそう言った。
こっちだって必死で探しているのに・・・。
アレクシアに言われた通りにそこの部分を外してみる。
中には手帳とカードと通信機が入っていた。
取り出してみる。
袋を破って中を見てみると一番最初のページに心得が書いてあった。
「・・・マジすか」
「真剣よ」
「教えてくれても良かったとは思うのですが・・・」
「そうね。あとその銃も組み立てておきなさい」
「これは?」
「グロックよ。統合戦技生正式モデルの一つで日本や、ヨーロッパで採用されている小型自動拳銃よ。」
「それは、わかるけど・・・」
「27(フタナナ)だね。私も持ってるよ。使ってはいないけど」
「そうなの?」
「うん。私と鈴音はSIGの拳銃とライフルを使ってるよ」
「アレクシアは?」
「私は、H&Kの物よ」
「そうか・・・。」
「別に使わなくてもいいけど、コーナーショットとか使用するときに使うわよ」
「ちなみにそれは、日本がコピーしたものだよ」
「はあ・・・」
一応持っておくか・・・。
そういえば・・・。
「ところで弾はどうするんだ?」
「そこの弾薬庫でもらえるよ。バッジを見せて書類にサインするだけだよ。発泡したときはどこに撃ったか記録しなきゃいけないけど射撃場だったら覚えてなくても大丈夫だよ。あと、外に持っていけるパウダー・・・火薬は弾倉3つ分までだよ」
「それ以上持つことは?」
「大事なことがある時、任務の際どうしても必要な場合は持っていけるよ。もちろん報告と書類あり。」
「書類通せば持っていけるんだ」
「そうだよ。簡単でしょ」
「ああ、そうだな」
「弾薬の携帯量は、一般の人たちより少し多いだけだよ。それで、自分も人も守らなくちゃならないから大変だよね」
「そうだな」
「けど、そこまで武装してたら平和じゃないもんね」
「ああ、それじゃ貰ってくる」
「ええ、待ってるわ」
「先に行ってるね」
「わかった。それじゃあ」
「うん」
「なるべく早くね」
「わかったって」
・・・・・。
・・・・・。
「はい、どうぞ。くれぐれもケガのないようにしてくださいね」
「わかりました」
「最初は戸惑うことがあるかもしれませんが何事も経験ですよ」
「はい」
なんとか道に迷わずこれた・・・。
ここって本当に広いな・・・。
移動するだけでもかなり時間がかかるんじゃん。
アレクシア達が待っているので早くしなければ・・・。
ともかく弾をもらおう・・・。
受付には綺麗なお姉さんがいた。
物腰が柔らかそうな人だった。
「拳銃弾だけで良かったのよね?」
「はい、改造して貰ったベレッタに慣れるようにするだけですから」
「そう、ライフルの弾もサブマシンガンの弾もここで貰えるから。あと書類は必ず書くように。書かないと犯行に使われたとか、民間に横流しをしているとかで疑われるから」
「統合戦技生さえ・・・ですか?」
「ええ、もちろんよ。今では、簡単に暗殺くらいできるようになったものだから・・・。そして、これは統合戦技生の目的の一つ、青少年の犯罪率減少をなすためのものだから。あなたみたいな年ごろ子は感情的になりやすいから事件が起きやすいのよ。だから、ね。」
「わかりました・・・」
・・・言い方は優しいがそう思われているのだろうか?。
「あともう一つ」
「なんですか?」
「これからは常に武器を持った方がいいわよ」
「・・・なぜですか?」
「ええ、最近は物騒だから・・・私たちでさえも標的にするような奴もいるから・・・」
「えっ・・・それって・・・」
今、なんて・・・。
「そう、殺されかけたっていうのもあるのよ」
「そんな・・・なんで?」
「嫌われてるというよりも妬みかしら・・・なぜ自分たちを助けてくれないのかとか、あんたらのせいで生活保護が受けられないとか・・・そんなものよ」
「でも、そんなこと聞いたことがないんですが・・・」
「ええ、公務執行妨害で現行犯逮捕とか、傷害罪で逮捕しているわ」
「・・・今のところ死亡者は?」
「・・・ケガはあったものの軽度よ。骨折までで済んでいるわ」
「骨折って・・・」
「あばら骨と腕が多いわね。大丈夫、今のところ後遺症が残っている人はいないわ」
「そう、ですか」
「けどね、逮捕者はそのあと自殺をしているわ」
「なっ・・・」
「本当よ、今日も一件見つかったわ。時間が経っているけど自殺で間違いらしいってさっきぼやいていたわ。報告に来た警官がね」
「・・・・・」
「これまでは、こちら側に死傷者はでなかった。それも、奇跡に近いわ。これからはどうなるかわわからない」
「・・・そうですよね」
「ええ、だから・・・あなたも構わず撃ちなさい。そうしないと、死ぬわよ」
「・・・・・」
「少し怖がらせすぎたかしら・・・」
「いえ、そんなことは・・・」
「そう、それじゃほら行きなさい。あの子達が待っているんでしょ」
「はい・・・見ていたんですか?」
「ええ、そうよ」
「・・・はあ」
「いいわね、若いって・・・」
「はい。それじゃあ、また」
「ええ、またね」
「・・・若い・・・か」
あの背中はこれから何を背負うのか・・・。
何人もの統合戦技生は見てきたが珍しいタイプだ。
普通は自身に溢れているか、優越感を味わいたいだけか、正義を称えるかだ。
あの子の背中は・・・。
「・・・あいつと似ているのか・・・」
・・・・・。
・・・・・。
「アレクシア達が待っているので早く行かないと」
あの後、書類を書き間違えたためまた最初から書き直すことになった・・・。
まあ、文字の上から線を引けば良かったらしいかった。
今度は、気をつけよう。
それで、書き間違えた書類はシュレッダーにかけた。
悪用を防ぐためらしいに徹底して管理しているようだ。
それにしても・・・自分たちの仲間でさえ信じられないとは・・・物騒だな。
それとも俺が日和見主義なのかもしれないってことかもな。
危機管理能力が低いってアレクシアに言われそうだ。
「ええっと、確かこの階だったな・・・」
エレベーターに乗って射撃場のある階のボタンを押す。
この施設には一応地図はあるものの何も書いてない。
正確には、間取しか書いてない。
ただ、線と四角形が書いてあるだけだ。
先に案内してもらえてよかったとは思う。
「お待たせ」
「遅い」
「ごめんなさい」
開口一番それですか・・・。
「まったく、何をしていたの?」
「書類を書き間違えた」
「他にもあるでしょ?」
「え、ああ・・・職員の人と話してたよ」
「本当にそれだけなの?」
「そうだけど・・・どうしたの?」
「うっさい。人の気持ちも知らないで」
「えっ?」
「とぼけても無駄よ。どうせ可愛い女の子にでも話しかけていたんでしょ」
「・・・・・」
いきなり何を言い出すんだろう。
このドイツ人。
これがドイツのギャグなのか?。
いや、それにしてはかなり気合を入れているようだが・・・。
ここは俺も乗っかるか。
「そうだな。確かに綺麗な人がいたから話しかけたよ」
その瞬間、時が止まった。
俺とアレクシアと玲奈の空間で・・・。
他のものは変わらず動いている・・・。
「「・・・やらかした」」
瞬間的にそう思った瞬間、次に返ってきた言葉は。
「こんのおおお、ばっかああああああああああああああ」
「へえ~、そうなんだ。慎也は友達が待っている間、他の女の子とイチャイチャしちゃうひとなんだね。わかったよ」
「玲奈、アレクシア・・・その、冗談だよ」
「ばっか、ばか、ばか~!」
「このプレイボーイが!」
顔を真っ赤にさせたアレクシアが拳銃を乱射してくる。
目が雫と同じようなレイプ目になった玲奈もさっき言っていた拳銃で撃ってくる。
偶然にも、背後に訓練用の的をかばうようなった状態の俺に彼女たちはひたすら撃ってくる。
そのために、逃げ場が横に三歩分しかない俺はひたすら横移動し、前にも出れないので弾切れを待つ。
後ろで、的が壊れる音が聞こえる。
この状態を傍から見れば射撃訓練の邪魔をしているアホな男子統合戦技生だろう。
弾もまっすぐ訓練用の的にぶつかっているので、後で怒られるのは俺だけだろう・・・。
なんてことだ・・・。
彼女達の弾は、俺が背にしている台の上に弾倉が一つずつ置いてあるから最初から銃に入れてあるものと、予備の弾倉二つだけだ。
訓練で使う沢山の弾は台の上においてあるため、二回装填すれば終わるだろう。
とはいえ、安堵はできない・・・。
俺が貰った弾はガンケースに押し込めたが・・・そのケースは今、俺の肩に掛かっている。
そして、このケースがさっきから言っているが重い。
「「・・・悲しいなぁ・・・冗談言ったつもりなのに」」
颯がたまに言うつまらない冗談に今度ばかりは笑ってあげようと思った。
・・・・・。
・・・・・。
太陽は傾いてオレンジ色の光を放っている。
空は茜色だ。
「・・・・・」
彼はただ川を眺めていた。
とくに思うこともなく見ていた。
よくは見えないが子ども達が野球の練習をしているようだ。
犬を連れて散歩をしている人もいる。
ジョギングをしている人も。
なんにもない普通の景色だ。
彼はベンチに座っていた。
そうしていると、野球ボールが彼の足元に転がってきた。
ふと、まわりを見渡すとグローブを嵌めた少年がいた。
すると彼は、
「ほらよっ。」
っと少年に向かってボールを投げた。
少年はそのボールを受け取ると
「ありがとう」
と、彼に言った。
すると彼は、笑って野球は好きかと少年に尋ねた。
少年は元気よく楽しいと答えた。
彼は、そうかと頷き、頑張れよと言った。
少年は軽く頷き友達の元へと駆けていった。
すると彼は、ため息をついた。
そして、自分の右腕を見た。
なんにもないただの腕だ。
すると彼は、立ち上がりどこかへ歩いて行った。
誰も彼のことは気にもしないだろう。
誰も彼のことは知らない。
ましてやどうなったのかさえ誰も知らないだろう。
変わっていったのは世界だけではない。
「・・・野球か」
彼は破棄捨てるようにそう言った。
右腕が痛む重いものばかり投げていたせいでもう投げることは出来ないと医者に言われた。
「・・・・・」
それでも人数が足りなかった。
だから投げるしかなかった。
けれど身体は限界のはずなのに不思議と飛んで行った。
完全に治ったわけではない。
まだ、リハビリは必要だと言われている。
「・・・・?」
彼の目の前にまた野球ボールが飛んできた。
ファールボールだろう。
河川敷のグラウンドにはさっきの少年がいた。
「・・・はは」
彼はボールを拾い高く挙げた。
そして、彼は右手でボールを投げた。
とても長い距離を投げるようなフォームではなかった。
ただ肘を曲げて投げた。
その姿に、少年らは苦笑いをしている。
「・・・!!」
すると彼が投げたボールは落ちるとなくまっすぐ少年のグローブにぶつかった。
少年はそのボールを取りこぼしてしまった。
しかし、誰も少年を笑うことはなかった。
彼は照れくさそうに笑いまた歩いていった。
「「・・・時間はない」」
彼は、そう思っていた。
だから、止めなければならないのだ。
たとえそれが正義でなくても、友を裏切ることであっても・・・。
・・・・・。
・・・・・。
「・・・ぜえぜえ」
「・・・ふう」
「慎也、大丈夫?」
「大丈夫なわけないだろう。こんな近距離であれだけ撃ち込まれて大丈夫なやつなんていないだろ・・・」
「なに言ってるの私の国では当たり前よ」
「そんなことあるわけないだろ・・・」
玲奈とアレクシアの弾を全てよけた訳だが・・・意図的に外していると言った方が正しい。
当たっても制服と防弾服の上なら防げるはずだが、試しいとは思わない。
それに、この防弾服は胸部と腹部しか守れないので腕や脚は防弾(紙)の制服だけだ。
対刃(紙)もあるがこのさいなんの役にも立たない。
今度こそはと軽くアレクシアの冗談を受け流そうとしたわけだが・・・。
「これくらいドイツでは普通よ。よく若いカップルとが揉めて・・・」
「「何よ、あなたこんなビッチがいいの私とは遊びだったの?。信じられない、今すぐ元に戻してあげるから止まりなさい」」
って撃ちまくって捕まることはよくあるわよ。警察には殺すつもりは最初からなかった。わざと外した。私の旦那様を返してって言っているわ」
「・・・・・」
・・・なにそれ、コワイ。
「まあ、その旦那もエッチなDVDを見たから当たり前のことよね。自業自得とはまさにこのこと。男子は女子を、女子は男子を愛してればいいのよ。違う?」
「そう思います」
全力で首を縦に振って肯定することを全力で示す。
それと・・・。
隼人、すまない。
あれがもうお前の所に戻ってくることはもうないだろう。
すまない、家にいる妹だけだから大丈夫ばれることないから、預かってやるわ。
って感じでなくなく預かることになったあの本たちは俺が責任を持って処分する。
許しておくれ・・・俺だって死にたくないんだよ。
「そうよね、慎也は女の子大好きだよね♪。ふふっ」
アレクシアが俺の右腕をすごい勢いでつかんでくる。
「・・・アレクシア痛いのですが」
「そう、私は痛くないわよ」
「いや、だから・・・」
「こら、アレクシア。慎也が困っているでしょう」
そう言って、玲奈は慎也の左腕をつかんだ。
「・・・・・」
どうすればいいのか・・・これがハニートラップ?。
仕掛人が地雷系なのですが・・・。
「アレクシア、その・・・そろそ。」
「あっ・・・ごめんなさい」
そうするとアレクシアは離れた。
玲奈も続いて離れる。
「・・・えっと・・・それじゃあ訓練しましょうか」
気まずい雰囲気の中、沈黙を破ったのは玲奈だった。
顔を真っ赤にしていたがいくらか血が引いて白くなった。
それでも、まだ赤いが・・・。
そのあと・・・。
なんとか訓練をこなした俺とアレクシアは帰ることになった。
あまり遅くなると紗奈が心配するしな。
「なあ、玲奈?」
「なに、慎也?」
「このケースって持って帰らなきゃいけない感じ?」
正直言って、このケースを毎回家からここまで運ぶのはごめんだ。
重い、特に重い。
「そういうわけじゃないよ。預かってもらえるようにはなっているけど鍵はかけといた方がいいよ。あと南京錠だったらナンバーをやすりで削っておいてね。それと、通信機と手帳とバッジと防弾服と各種ポーチは持って帰ってね」
「・・・ほとんど全部じゃないか」
っと俺が驚いていると玲奈は平然と・・・。
「あと防弾服は常時着用、武器は携帯、ポーチは全装備だよ」
「・・・腰が痛くなりそう」
「老人か、お前は」
ぺちと擬音が聞こえそうなほどゆっくりした動作で頭をたたいてくる。
痛くはないが、むずがゆいな。
まあ、不快ではないのだが。
むしろ、不快なのは・・・。
「・・・・・」
さっきから俺をガン見しているこの女性なのですが・・・。
そうだよ、アレクシアだ。
今日は、何回この顔を見たことか・・・。
俺が射撃しているときも・・・玲奈にアドバイスを貰っている時も・・・。
・・・なんなんだろうな。
それで、玲奈と離れると嬉しそうな顔になる・・・。
わけがわからない・・・。
なので・・・。
「アレクシア」
「なに?」
「玲奈とは昔からの仲で幼なじみなんだ」
っといまさら過ぎることをアレクシアに言った。
彼女が俺と玲奈の仲がよいことに疑問を持っていたら最適解はこれだろう。
それくらい俺にだってわかるさ。
仲間はずれにされるのは誰だっていやだもんな。
「そうなの・・・」
・・・・・。
・・・あれ?。
予想していた反応と違うのですが・・・。
えっと、それじゃ何を疑問に思っていたんだアレクシアは?。
この際、聞いてしまうのがいいだろう。
「なあ、アレクシア?」
「なに、さっきから?」
「いや、あのさあ」
「なに?」
「そうだな、アレクシアはさっきから不機嫌な顔をしているけど何かあった?」
さすがに俺も、さっきから目線が気味悪いんだけどとは言えないのでとりあえずオブラートに包んだ感じで、少しねつ造した。
あれだよ、言いたいことを伝えるのが大事って小学校の先生が言ってたな。
そのあと、クラスのやつとケンカして、こいつのことがいつも気に食わないので今回ばかりは本気でやりましたって言ってたら怒られた。
・・・あれ、俺が悪いんじゃないんだけどな。
なつかしい。
だいたいそいつが鈴音をいじめてたわけで、シルヴィアも玲奈も加勢していたわけで・・・。
なぜか呼び出されたのが俺とそいつだけだった。
謎だよなあ・・・ほんと。
それかえこひいきか・・・。
まあ、そんなことはどうでもいい。
それで帰ってきた答えは・・・。
「・・・ばっか」
ただそれだけだった。
「それじゃあ、私はここで・・・」
「ああ、お疲れ様」
「じゃあね、玲奈」
辺りはもう暗くなっていた。
青紫の空はどこか怪しげだ。
今日も雲が見当たらない。
白色を放つ街灯はただ悲しいだけだ。
早く帰ろう。
「・・・・・」
「・・・ねえ?」
「なんだ?」
「後悔してない?」
「そんなことはない」
「・・・そう。ありがとう」
後悔はない。
ただ不安がある。
これからどうなるのかだ。
どうやらこの統合戦技生とやらは俺が考えている以上に厄介なものらしい。
覚悟はできている。
なんて言えるわけない。
だけど自分が出した答えに依存はない。
ただ前に進むだけだろう。
いつものように。
まあ、ただ流されているだけなんだろうけど。
「なあ、アレクシア?」
「なに、慎也?」
「これからよろしくな」
「なによ、もう」
「いいだろ別に、帰ろうか」
「ええ、急ぎましょう」
・・・・・。
・・・・・。
「・・・はあ」
風速、温度、湿度問題なし。
目標、確認。
不備無し。
彼は、遠くから見ていた。
どこからでも当てられる。
視界に目標がいれば、なおさらだ。
「・・・やりますか」
後には引けない。
実行を押すだけだ。
「・・・・・」
彼は、口に入れた。
視界がクリアになる。
時間は残り48時間。
それまでに片づければいい。
「目標、確認。いけっ・・・」
彼は、それを全力で投げた。
外れるはずはない。
これはそういう力だ。
「・・・どうだ」
「・・・・・命中か」
赤いマークがそこについた。
「・・・行こう、まだ足りない」
そして、彼は歩いて行った。
逃亡だろうか。
それは、罪ではなく後ろめたさかもしれない。
・・・・・。
・・・・・。
「それで、紗奈はいつも俺に・・・」
アレクシアと雑談をしながらゆっくり帰り道を歩いていた。
とくに話すことはないため他愛のないことをさっきから話している。
アレクシアはそれをただ笑って時に質問をしてくる。
まあ、だんまりよりは気が楽なのだが。
っと二人で歩いていると・・・。
「ん?」
何かが目の前を横切った。
何だろう。
黒かった。
するとそのあと。
何かを叩きつけたような音がした。
すると、俺とアレクシアの前を横切って歩いていた男性に当たった。
すると、その男性は膝から崩れ落ちていった。
「大丈夫ですか?」
アレクシアがそう話かけたときアレクシアの顔は驚愕を瞬間的に表した。
「・・・慎也!隠れて!」
「・・・っ」
何かわからないがとっさに左側にあった家の塀に身を隠す。
「・・・慎也、これを飲んで」
アレクシアから白いタブレットのようなモノを受け取った。
手渡しくれてもいいのにと楽観的に考えていると。
「なにしているの?早く」
「これは?」
「気付け薬よ、噛んで」
いわれるがままに俺はタブレットを噛んだ。
なんか冴えた気がする。
あと、ものすごくまずい。
「なあ、アレクシア?」
「敵よ、周辺を警戒して!」
「・・・わかった」
腰からベレッタを取り出す。
いつでも撃てるようにロックを解除する。
いったい何が・・・。
「アレクシア・・・」
「なにしているの?早く!」
そういうアレクシアをよそに俺は崩れ落ちた男性を確認しようとするとアレクシアが目の前に来て、男性を隠した。
「・・・アレクシア?」
「ダメよ、助からないわ。応援を呼ぶ。あなたは向こうにテープを貼って。それくらいできるでしょ」
「わかった」
俺は左側から回り込むことにした。
アレクシアを通りすぎるとき何か白いものが見えた。
タバコだろう。
目がかすんでいる。
薬の作用だろうか。
走る、構える、歩くの繰り返しだ。
そして、アレクシアに言われた通り、赤地に白色で立ち入り禁止と書かれたテープを電柱に巻く。
すると、やじ馬が集まってきた。
彼らどうした、何があったっと呟いたり、スマートフォンをいじったりしている。
何度かテレビでは見たことがあるが迷惑だな。
警察側は。
「通してくれるか?」
やじ馬の中からその人はこっちに来た。
お世辞にも若いとは言えない、禿頭の男だ。
「ああ、統合戦技生か?何があった」
「あなたは?」
「同じだよ。ほら」
そう言ってバッジを見せてきた。
「慎也?」
「アレクシア」
「近くにいたもので連絡を受けて応援に来た。状況は?」
「既に死んでいます。凶器はそれかと・・・」
アレクシアはひび割れているアスファルトを指した。
同心円状に広がっている中心には黒い玉のようなものがある。
「そうか。君はドイツから来たのか?」
「はい、そうです。彼は、今日が着任初日なんです。ですので・・・」
「ああ、そういうことか。災難だね君も」
「いえ・・・」
「薬は飲ませているのでしばらくは大丈夫です。しかし・・・」
「ああ、まずいな。早く、来てくれるといいが・・・。それにしても惨いな」
「はい・・・」
「上が無くなっているな・・・申し訳ない」
「いいえ、まだ見せてはいませんので・・・」
「・・・・・」
アレクシアと男性が話している。
なんについてだろうか・・・。
それと、体が重くなってきた。
いつ、警察は来るのだろうか・・・。
・・・救急車ではないか。
あそこにあるのは・・・。
・・・死体なのか。
最悪だな・・・。
・・・・・。
・・・・・。
しばらくして遠くからサイレンの音が聞こえてくる。
警察が来たのだろう。
パトカーから人が降りてくる。
あれって・・・。
「おっ、慎也じゃないか」
「お久しぶりです・・・」
神田正行・・・。
隼人の父親だ。
・・・・・。
・・・・・。
パトカーから降りてきた男は神田正行。
何を隠そう隼人の父親だ。
「それにしても災難だな、まさかひと月に二回もホトケに会うなんてかあーついてないねえ。」
「そうですね」
・・・体がさっきから重い。
なんでだろう。
「あとは本職に任せな。第一発見者は・・・」
「・・・俺です」
「・・・えっ」
拍子抜けた顔をしている。
まあ、無理もない。
通常、人が事件に会う確率なんて多くても小数点以下だろう。
しかも、第一発見者としてなんて・・・。
「慎也?」
「ああ、アレクシアどうしたの?」
「いえ、なんか知り合いみたいだから」
「おっと、紹介が遅れたね。刑事の神田正行だ。息子から話は聞いているよ。フランスの統合戦技生だって」
「いえ、ドイツから来ました。アレクシア・ヴュルツナーと言います」
「これは失礼。さて、どうしたものかな。まさかこんなことになるなんてね。二人はこの辺りで不審な人影は見たか?」
「見ていません。付近を見回しましたが誰もいませんでした・・・」
「そうか・・・犯行から見てシルバーバレットではないな。新手か・・・こいつは手厳しいな。」
「・・・シルバーバレット?。」
「ああ、まだこの辺にもいるかもしれないからね。それに、今日はまだ誰も死んでない。まあ、あれが何のために殺し歩いてるかわからないけどな」
「・・・・・」
「誰一人も?」
「ああ、そうだ」
・・・シルバーバレットか。
確かに辺りには人がいなかったし、音も黒い砲丸?が地面にめり込んだ時に発生しただけで実際には無音だ。
しかし、そうだとしてもシルバーバレットの名前が出てくることはまずない。
シルバーバレットは人を殺す際純銀の弾を放つ。
けど・・・これは。
「投げたのか・・・」
「えっ、慎也今なんて?」
「いや、その・・・犯人はあれを投げたんじゃないのかな?」
「何言ってんの、無理よそんなのふつうじゃ・・・」
アレクシアの顔をが急に曇った。
「ふつうじゃない・・・犯人は・・・。だとすると・・・誰?」
「アレクシア?。アレクシア?」
「うん、そうよね」
「・・・アレクシア?」
「大丈夫よ」
「本当に?」
「ええ」
「神田さん、ちょっと」
「ああ、わかった。それじゃあ慎也また後で。お疲れのようだが事情聴取がある。なに早く終わるさ。それよりもさっきからふらふらしているが大丈夫か?」
「はい」
「神田さん、彼には気付け薬を飲ませています。その作用でしょう」
「飲ませたのか、彼に?」
「はい、刺激が強すぎます。着任初日にこれではあとあと治すのが大変なのでC型を投与しました」
「そうか、それだと今夜事情聴取をするのは無理そうだ。日を改めてになるな。」
「はい、すみません」
「いや、そんなことはない。良い判断だ。あれは私でもキツイからね。今回のは特に。それじゃあ、君も明日頼むよ」
「私は今からでも・・・」
「そういうわけにはいかない。慎也を家まで頼むよ。それでは、彼が呼んでいるのでね。お休み」
「おやすみなさい」
「はい、では明日」
アレクシアに支えられながら家に帰った。
頭は冴えているのに、体が重い。
申し訳ないと思う。
そのあと、俺は紗奈から叱責を受け、なんとかご飯をもらい、風呂に入って寝た。
なんか疲れたな。
・・・いい夢が見れそうだ。
「・・・問題なしか」
やっと落ち着ける。
なんとか彼を正常のままにできている。
症状がひどくなるとカウンセリングを受けさせる必要がある。
もしくは催眠暗示をかけるかだ。
カウンセリングはともかく暗示は避けたい。
いっそ見せてしまった方がよかったのだろうか。
心のキズを癒すのは容易なことではない。
しかし、こういうことが起きるたび薬を投与するのは合理的ではない。
彼の心をどうにかして強くしなければならない。
薬を使うことで、ストレスから逃げられると思ってしまわれるのは困る。
なんにせよ安堵はできない。
事情聴取が終わったあと彼を何処かに連れていった方がよさそうだ。
「アレクシアさん?」
「ん?どうかしたか?」
「うん、何か考え事をしているみたいだから」
「そうか」
「うん、どうしたの?バカ兄貴がなんかした」
「いや、慎也のことではないのだが」
「それじゃあ、恋のお悩み?」
この時期の女子は恋にあこがれを持つというか恋バナが大好きだ。
ドイツでもこの年ごろの女子はそういう話をしている。
やれ子供っぽいとか、大人っぽいとか、性的だとかそんなのばっかだ。
ただでさえ、男性が少ないのにその中から一番を選んでは取り合っている。
何をしているのか・・・。
自分が好きな人が一番に決まっているだろとは言ったのだがそういうとあんた彼氏いないじゃん、行き遅れるよ。
白馬の王子さまなんていつの時代?今は、女性から攻める時代だよ。
とか、彼氏の自慢とか逆に返される始末だ。
文句を言うわりには彼氏のことが大好きで仕方のないようだ。
セリアも学校にくる途中のヘリコプターの中で、日本にはいい男性がいるかなあ、愛してくれるかなとすごく惚けた顔をしていた。
・・・私にもできるかな。
さすがに一人ぼっちは寂しいが、自分が好きだと思う人じゃなきゃダメだ。
「違うよ。ねえ、紗奈ちゃんは慎也との思い出の場所ってある?」
紗奈はびっくりしたのか目を丸くしている。
すると。
「あるよ。水族館。そこに行けばいいと思うよ」
そう、恥ずかしながら紗奈ちゃんは言ってきた。
瞳の奥には期待の目がある。
私だって女の子だ。
隠し事があることくらいすぐに見破れる。
しかし、何に対しての期待なのだろうか。
「どこにあるの?」
私はそう聞く。
そう、彼を失わないようにするために。
紗奈ちゃんからお兄ちゃんを失くさないようにするために・・・。
・・・・・。
・・・・・。
部下からの呼び出しでその場に来た。
慎也とドイツの嬢ちゃんはもう帰ったのだろう。
後ろ姿は見えない。
彼女たちと一緒にいた男性も警察への引継ぎが終わったので帰って行った。
「それで、どうしたんだ」
「それが、このホトケさん防衛省の人なんですよ」
「何?」
「ええ、間違いありません。それに・・・」
「まだあるのか?」
「はい。今さっき連絡があってこのホトケと同じような事件が起きたと・・・。」
「まさか、同一人物ではないな」
「・・・・・」
「同一人物なのか?」
「断言できませんがおそらくは・・・」
「場所は?」
「立川です」
「・・・噓だろ」
「いいえ、事実です」
「しかしだ。その場合犯人はどうやって?」
「立川でも周りには誰もおらず、何かを叩きつけたような大きな音が聞こえただけだと言っています。ホトケの身元は現在捜査中とのことです。しかし・・・おそらくは」
「そうか・・・投げたのか」
「なんですか?まさかこの玉を無理ですよ」
「見せてくれないか?」
「あっはい。今、鑑識が・・・」
「これかね?」
「はい、そうですですが・・・どうされました?」
「野球ボールみたいだ」
「・・・野球ボール。噓だ、そんなことは」
「投げたんだろうよ・・・こういうことができるのはアレくらいだろ」
「・・・すぐに特科に」
「遅いかもしれないな・・・」
ピーピー;
携帯電話のコールが鳴り響く。
部下は「なんだよこんな時に!」っと荒っぽく受話器を取る。
すると、すぐに。
「神田さん!」
「どうした?」
「「「防衛省が攻撃を受けました!」」」
・・・今夜も徹夜だな。
そう神田正行は思った。