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ピョンピョンと飛び移るように木を登ると木のてっぺんにたどり着いた。
この世界に生まれ落ちてから、こんなに高いところに登ったのは初めてだった。
この世界を見下ろすと、地面が遠くに感じた。地に咲く草花が小さすぎて気にもとめなくなり、ましてやその下にある地下空間のことなんて想像もできない、別世界のことのように感じた。
なんて狭い世界で生きていたのだろう・・・・
この世界を見渡すと、果てしなく遠くみえた。
先ほど二人で走ってきた方向を見れば、地下への入り口と、その先にうまれ育った村が見える。
意外と規模の小さな村で驚いたのだ。
ダニエルはある程度の大きさのあるちゃんとした村だと思っていた。それほど生活に不便することもないし、大半の人が幸せそうに見えた。おそらく村人たちが築いてきた、努力の成果で不自由のない暮らしができていたのだろう。
だが思いのほか、こんなにも小さかった。
村ごと小さくみえるのだから、その中でのぼくはもっともっと小さかった。
背後には森がどこまでも続いている。森の雰囲気は暖かく、穏やかないい空気が流れている。すべての植物や動物を受け入れる準備ができていて、優しく迎え入れてくれる。すべてを包み込んでくれる偉大な自然、生きとし生けるものそれぞれが放つ尊大な愛で・・満ちあふれている。そんな森だ。
端の見えないほどどこまでも続く、終わりのない森が・・
この世界に種が落ちた時から・・・永遠に続いてきて、これからもきっとずっと続いていくのだろう。
こんなに高いところに来たのに頭の上には空がもっと高くまで広がって、満月の夜空もこの世界のすべてが僕を歓迎してくれる。
そう思い、初めて来た森に感動し、想いをはせていた。
「おぉ~~い!そろそろおりてこんか!!待ちくたびれたぞ。」
ローガンは地に足をしっかりとつけ、両手の平を腰に当て、仁王立ちでダニエルのことを見上げていた。
「あ、はい。」
ダニエルは背の高い樹木のてっぺんから、地面に向かっていっきに飛び降りた。
普通の人間なら必ず命を落とすだろう距離だ。ほんの少しの恐怖もなかった、今ならいける!そう思った。だから飛んでしまった。落ちている最中も慌てることはなかった。
<怖いものなんて何にもない!なんでもできる!>
しかしその考えは誤りだった、完璧に間違っていた。
空中でバランスを取り、足で着地する、そう予定していたのだが・・・
落下中にバランスをとることはできた、足は地面に向いている。あとはこの足で身体を支えればいいだけ・・・だったのだが・・・それは叶わなかった。
足をついた瞬間に体勢を崩し、やっと気が付いた、これはムリだ!!
落下の速度そのままに、お尻から背中、頭まですべてを地面に打ちつけていた。
あたりの地面の土をえぐるようにと言ったら言い過ぎだが、身体で押しつぶされて、土の密度は上がったのではないかと思う。
それからしばらく意識がとんでいた。
気が付くと夜が明けていた。
朝焼けの香りが残る、すがすがしい朝だ。まだ、太陽も低い位置にいて、今日一日をどうやって照らそうかと考えているのだろうか・・・
目を覚ましたのは風の音のせいだった。
風に揺らされる木々の細かい葉の音と吹き抜ける低い風の音とが混ざりあっている。
今日は昨日よりも少し風の勢いが強いようだ、日に日に変化する風をこれからもずっと感じていたい。このままここで・・
横を見るとローガンが寝ている。裸に近い恰好で、大きな葉を敷き詰めた上に転がっている。
自分の下にも葉が敷かれていたし、ずいぶんとボロボロな薄っぺらい布がかけられている。どうやらまたしてもローガンに面倒をかけてしまったようだ。
反省しなければならないかな・・・
でも・・・・
きっと、かいがいしく世話を焼いてくれたのだろう。想像してみるとちょっと面白い。
いかつい顔のおじさんがちょっとめんどくさそうに、寝ている儚げな少年の面倒みていたのだろう。
覗けるものなら覗いて見たい光景だ。