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ドカッ
蹴られた。それも無言で。横を向いていた僕の体は仰向けになった。蹴られても全く痛くはなかった、きっと手加減しているのだろうな~
そう思いながら上を向いて転がったままでいたら、胸ぐらをつかまれた。服を強引に引っ張られると嫌でも体がついていく。まともに顔を見る気にはとてもなれなくて、目線を左下に落とし顔を背けた。
「いいかげんに、自分の脚でたて。」
そう言うと胸ぐらを掴んでいた手が離された。ダニエルは重力に任せてそのまま崩れ落ちるかと思ったが、意外にもしっかりと立っていた。
感覚としてはふわふわと浮いているようだった。体の重みがまるで感じない。
「僕になにをしたの?」
「おぬしはわしが何かしたと思っているようだが、それは違う。わしが特別なにかをしたわけではない。死にかけた坊主を見つけてしまったから、助けてやった。ただそれだけの話だ。見捨てることが出来なくてつい、な。
よくあるだろう、捨てられた子猫を見つけて思わず連れ帰って世話をしてしまうなんてことが。それに似ているな。」
ぶっきらぼうに言い放つも、照れくさそうに顔が引きつっていた。
「じゃあほんとになにもしてない・?僕のからだなんだかおかしいんだけど。」
「しつこいな。なにもしておらん。治療魔法をかけただけだ・・・・」
ダニエルは魔法と聞いてとても驚いた。興奮して心が躍り始めた。
自分が人見知りだってことも忘れてしまうほどに。
「治療魔法!?おじさん、魔法つかえるの?それはすごいよ!!だって魔法って選ばれた人しか使えないんだよね!!それも、ハンターにならないと使えないんでしょ!?」
「おじさんはハンターだってことだよね!モンスターが現れたら命がけで戦ったりするんだよね!?僕、モンスターって見たことないし、みんな見たことないと思うけど、ハンターはすごいんだって聞いたことあるよ!!」
「まあ、落ち着け。一度にいろいろ質問するな」
そう言うと強面の不思議なおじさんは、いろんなことを教えてくれた。見かけによらず丁寧で、僕に理解できるように根気強く説明してくれた。
その話によると、こういう事だった。
まず、ハンターとはそこらへんに普通にいるわけではない。選ばれた、限られたもののみがなれる、人々から尊敬される、職業である。国が認めたもののみが依頼される仕事だそうだ。
モンスターはほとんど見かけることもないが、もし現れたらこの世を盛大にかき乱す。それほどまでにおぞましい怪物であるらしい。そんなモンスターを追い払ったり、倒したりするのがハンターの仕事だ。
ハンターになるためには、死ぬほど辛い試練の旅を成し遂げなくてはならない。今までにハンターに憧れ、試練の旅に挑戦し命を落としたものが大勢いる。大抵のものが死んでしまう、むちゃくちゃ難しい試練だそうだ。
この試練の旅に失敗しても『名誉ある死』とされるそうだが・・・・国のために誇りを持ち挑戦したことを褒め称えようということらしかった。
おじさんの名前はローガンといい、若いころに苦労してなんとか試練の旅をクリアしハンターとなった。
若くしてハンターに認定されたものだから天才だなんだとそれはもう周りからうるさいほどにさわがれた。
才能があるとは思っていなかったローガンはその期待に応えるために苦労した。早く強くなるように、少しでも力と技術を身に付けるように、すべての時間を修行に費やすようになった。
修行を続けるなかで魔法の存在を知った。
魔法とはハンターになってから、魔法のための鍛錬をして身に付けるそうだ。簡単にだれもが使えるものではない。鍛錬を続けても一生だめってやつもいる。
ハンターが鍛錬を続けて、それも、運命にさだめられた者がある日突然使えるようになるってわけだ。
ローガンは魔法を使えるようになってやっと本物のハンターだと人々から認められるようになった。自分でもやっと自分自身を認められるようになって自信がついてきたのはちょうどこの頃だという。
魔法を使って多くの人々を救いたい。
はじめにころはそう思ったそうだが、魔法とは世の秩序を乱すものだから滅多なことでは使ってはならない。
そんな決まりに従わなければならないために、もどかしい場面も心が苦しくなってしまう想いも何度もしてきたという。
ここまで聞いて、ダニエルは不思議に思った。
「じゃあなんで、僕には魔法を使ってくれたの・・・・?」