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ダニエルはいつのまにか地面に転がっていた。エリーと別れたその場所で、冷たい土に片方の頬をつけ身体を丸めてうずくまっていた。とてつもない疲労感でとても動けるような状態ではなかった。エリーを失った喪失感以上になにかが体を蝕んで疲れさせていた。動く気力も発想も出てこない・・・このまま力尽きてしまうのではないか。
そんなダニエルのそばに誰かが近づいてくる気配がした。
恐怖の音がした。
はるか遠くから聞こえてだんだんと近づいてくるように、あるいは常に身近にあってしだいに離れていくように。
波のように押し寄せすべてを飲み込むと見せかけては恐怖の感情を植え付け、あっさりと引き下がる。
そんな音の恐怖を繰り返すうちに、はじめに感じた恐怖は何倍にも何十倍にも大きく膨れていった。
ダニエルの頭と体は自身の恐怖心に押しつぶされ、圧倒的な存在であるなにかに完全に支配されていた。
大きな影を周りに漂わせ、中心にはさらにどぎつい黒でどこまでも深い闇の塊がある。その塊は人の形をしている。
おそらく人間であろうその闇の塊は、確実にダニエルに近づいて来ている。
死神が迎えにきたのかもしれない。ダニエルはそう思った。
すぐそばまで来ていた。見下ろすように立っている。絶対に見られている。
「苦しい、やめてくれ。ちかづくな・・・」
そう願った。願いむなしく・・・
視線が注がれ続けている感覚がしていたので、それだけで命が消えてなくなってしまうのではないかと思う。それほどの存在力を感じてしまう。
黒い人影は何事かをつぶやいている。聞き取ることはできないが聞いたこともない言葉だった。
「nrtghiue fuhur bueerihwo ci ihrisubzo・・・・」
初めて聞く言葉にしては耳に心地よく、流れるような文節の一つ一つが無数に分裂をくりかえし、すーっと体中の毛穴から入り込んできてダニエルの体を満たしていった。
先ほどまでは疲労感にさいなまれ、とてつもない恐怖に押しつぶされようともほとんど動くこともできなかった。しかし今は体中のすべてがみたされている。元気になったどころの話ではない、
とてつもない力が芽生え始めているのを感じる。
「これは、僕はいま生まれ変わっているのではないのか?現在進行形で。」
寝転がったままつぶやいてみた。どうやら口はいままでどうりに動くようだ。
変なところで関心しながらも、体の変化は止まらない。見た目が変化しているわけではなく、中身が変化しているような気がしてならない。
僕は僕だ。僕のままなんだ。そう、あらがうように心の奥底で叫んでいた。
すると・・・・しだいに抵抗する必要もないほどに、変化の荒波は静まっていった。
「お前は生まれ変わったわけではない。安心するがよい。」
静かな低い声がした。
見上げてみると、やっぱり怖かった!!大きな体は筋肉に彩られボロボロの布をまとい、浅黒い肌は隠しきれずにところどころに露出している。顔は堀が深く汚かった。
「いや、怖いです。」
思わずそう言ってしまった。やばい。マジでやばいことを言ってしまった。