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第8話 合宿最強メンバー

 突然ですが、嶺帝学園高等部に入学した我々一学年一同は只今生徒間の親睦を深める事を目的とした二泊三日の合宿行事に参加しております。

 豊かな自然が広がる湖畔周辺で1日目は皆でカレー作りをメインにした飯盒炊爨。2日目は森林ツアー。

そして3日目は集合時間まで確実自由行動となっている。

 見るからに至って平凡なこの合宿にA級クラス以上の生徒達からは不満の声が上がっていた。

それもその筈だ。彼等はアメリカやイギリス、フランス、イタリア等に行くと勝手に勘違いしていたのだ。


 合宿で国外とか……。


 流石お金持ちと言うべきか。もし国外だったらB級クラスの親御さんは金銭的な問題で泣く。

特に庶民にはつらい。庶民を労わってあげて欲しい。

 私としては飯盒炊爨なんてとても懐かしくて楽しみにしているのだが。

 華京院エリカとして生まれてこの方料理とは無縁だった。

 家では私が料理をしたいと言っても料理長やメイドさん達、そして茅に拒否されてしまうのだ。

 お手を煩わせるわけにはいかないからと皆に言われる。私がやりたいと言っているのだからお手を煩わせるも何もないだろう。

しかし本当に困った顔をされてしまうのでいつも私が先に折れるのだ。

 1度花嫁修業をしたいと申し出たこともあった。その時の茅はとても嫌そうな顔をしていた。

 そしてどこで嗅ぎつけたのか葵君がやって来たのだ。


「エリカに包丁を持たせるなんて危ないよ。指を切ったら大変だ。俺の為に花嫁修業をしてくれるのは嬉しいけれど、料理はシェフや俺がやるからエリカはしなくていいよ」


 いやいや、葵君に包丁を持たせる方が危ない。命に関わりそうで。

尤も葵君に振舞われたフランス料理のフルコースはとても美味しかったけれど。

 葵君のほうが花嫁修業してそうで怖かった。



「1番美味しいカレーを作ろうね、なずな君!」

「う、うん……」


 拳を可愛いくぎゅっとして意気込んでいるのは春原さんだ。そんな彼女に声を掛けられた男子生徒はオドオドとした面持ちで軽く頷く。

 雪柳(ゆきやなぎ)なずな。A級普通学科所属の生徒だ。

深みのあるモスグリーン色の髪は柔らかくパーマがかかっていて、王道のマッシュショート。髪色より明るい青緑色の瞳。

小柄で可愛いらしい印象を与える内気少年な彼は春原さんの推しメンである攻略対象だ。


 ……どうやら春原さんはショタキャラが好きな模様。


 この前、逆ハーレムエンドが終わったらなずな君と結婚すると言っていた。明らかになずな君が好き好きオーラを出しているのだが、これで逆ハーレムエンドを見れるのだろうか。

 現時点で会える攻略対象とも交流はしていることは知っている。春原さんはこの合宿行事で更に仲を深めようとしているに違いない。

 何故ならこの合宿行事は原作(ゲーム)でも描かれていたシーンであるからだ。

 ヒロインが攻略対象と交流して絆を深める最初のイベントがこの二泊三日の合宿だ。

 クラス階級関係なく組まれる班はヒロインの為と言っても過言ではない。

 学園側としては生徒間の親睦を深める為であるが、流石ヒロインクオリティ。彼女の班に攻略対象が大集合である。

 そこに私も含まれているのはあれだ、葵君の仕業だと思う。いや、間違いなくそうだ。

 先生はこの班分けはランダムと言っていたが絶対に違う。ランダムであるが、蘇芳葵を除くが正しい。

先生達による班分け会議で最重要事項にそれが書かれてたことだろう。


 ここで今回の合宿最強メンバーを紹介する。

まずはヤンデレでお馴染みS特クラスの蘇芳葵。次いで万年二位君ことA特クラスの杜若皐月。

お次は根暗なショタっ子、Aクラスの雪柳なずな。そして極道の跡取り息子。喧嘩上等ヤンキーなBクラスの鬼龍(きりゅう)(なつめ)

それから私の側近、朝霧茅。そこに春原ひなたと私、華京院エリカを含めた計7名が第1班だ。


 ……この編成はやばい。

『恋乱』の攻略対象8人のうち5人が揃っている。

加えてヒロインと悪役令嬢も参戦してるのだ。

……なんというカオス。

 誰の陰謀ってそれは『恋乱』のゲーム制作会社である。

 『恋乱』の攻略対象は殆ど一年生だから最初の合宿行事からこういう事になるんだ。何故もっと学年をバラけさせなかったのか。

 学園モノ乙女ゲームの大半は俺様系か王子様系として3年の生徒会長ポジションな攻略対象がいる。


私の経験則だから宛になるか分からないけれど。


 『恋乱』の攻略対象では生徒会長はおろか、そもそも三年生がいない。そしてヒロインが一年生なので後輩もいない。

先輩枠は二年生の攻略対象2人だけ。しかもその内の1人は編入してくるのでまだこの学園にすらいない。

 『恋乱』は先輩枠2人、先生枠1人、特殊枠1人、同学年4人で構成されているのだ。

 三年生と後輩枠がないのは珍しいのではないだろうか。今となっては制作会社にその意図を聞くことは出来ないのだけれど。

聞いたところで「ふーん。そうなんだ」くらいにしか思えないが。


「いいですか、ニンジンはなるべく細かく薄めの厚さ且つ等間隔でお願いしますよ」

「………」

「そこの赤髪! ピアスの! 貴方に言ってるんです。ああっ! そんなゴロゴロと分厚く切らないで下さい。しかも均等じゃないじゃないですか」

「あ?うっせーな。オレに指図すんじゃねぇ! こんなのテキトーにでっかく切っときゃいいだろ。どうせ腹に入ったら同じじゃねーか」

「なっ。私はそんな大きいニンジンなんて食べられませんよ!」

「お前の好き嫌いは聞いてねぇ。黙って眼鏡でも拭いてろガリ勉野郎」


 今のところ口で指示しかしていない杜若君はニンジンが嫌いなのか。

 彼が赤髪ピアスと言った少年が極道の跡取り息子、鬼龍棗君だ。派手な赤髪の持ち主で思いっきり前髪を上に立てておでこを出したアップバングスタイル。

耳には金色のリングピアスを片耳に3つずつ付けていて見た目はもろ近寄り難いヤンキーだ。

コンビニとかでたむろってそうな奴である。

 ワイルドで恰好いいけれど、意外に優しく、可愛い動物とかに目がないという外見では想像つかない一面を持っている。そのギャップで彼に落とされたファンも少なくはなかった筈だ。


「ねぇ、茅。私は何を手伝えばいい?」

「エリカお嬢様はそこで眺めてていただければ結構ですよ」

「下僕の言う通りだよ。エリカは座ってればいいから。俺等に任せて」


 この過保護達め。

先程からウロチョロとしてやる事がないのは私だけである。……いや、春原さんと雪柳君も何もしていない。

 春原さんは何故か応援してる。


「すっ春原さん……。僕達も手伝おうよ……」


 雪柳君が声を掛けているのに彼の声量が無さ過ぎて見向きもされていない。

 ……春原さん、雪柳君の声に気付いてあげてよ。彼の事が大好きな筈なのにいいのかそれで。

なずな君は涙目で体育座りをしている。負のオーラ出してしまっているではないか。

絶対好感度が下がっている。


「……もー見てるだけなんてつまらない。私も何か手伝いたい。……そうだ! お米。お米洗う! それくらいいいでしょ?」

「エリカの綺麗な指が荒れるから駄目」

「それくらい大丈夫だよ! お願い。ね?」


 さあ喰らえ! 首を傾げて上目遣いの攻撃だ!


 前世の私だったら効果はないであろう。だが、華京院エリカは美人なのだ。この攻撃をしても許されると思う。

 ヒロインの攻撃には敵わないであろうが。


「ぐっ…… そんな可愛いくおねだりしても駄目だよ」

「そうです。いくら上目遣いで可愛いからと言って、エリカお嬢様にこのような雑務をさせるわけには」

「お米洗いたい! 洗わせてくれなかったら2人のこと嫌いになる」

「それは嫌だ!」

「それは困ります!」


 じゃあ洗わせてよと言えば、2人は渋々と了承した。家では先に折れているのだから、学校行事では料理させて下さい。

 るんるん気分で私はお米とボールを持って川辺に向かう準備をする。水道がないから川の水を頂戴するのだ。

とても澄んでいて綺麗と言っていたから問題ない。


「待って下さい、エリカお嬢様。いいですか、お米を洗うと言ってもですね、間違っても洗剤で洗わないで下さいね」

「それくらい分かるよ!」


 茅は私を馬鹿にしてるのか。そんな間違いをするわけがないだろう!

 私がお米を研ぐって表現ではなく、洗うって言ってしまったのも悪いかもしれないが、流石に洗剤で洗うとか嘗めてる。

 分かるって言ってるのにそのいかにも心配そうな顔をするのやめて頂きたい。

 

 こうなったらこの2人にギャフンと言わせてやる!

 米研ぎマスターの称号貰ってやるからな!

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