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第6話 相違点

 おかしい。本当におかしい。

確かに原作(ゲーム)と違い、私が華京院エリカに成り変わったせいで幼少期から彼女と深く関わりのある蘇芳葵や朝霧茅といった1部の攻略対象も原作(ゲーム)と違う設定になってしまった。

 その点は間違いなく私のせいであるが、何故ヒロインである彼女──春原(すのはら)ひなたの設定も原作(ゲーム)と違うのか。


 本来なら彼女は嶺帝学園高等部の1年B級特別進学学科に在籍する筈である。それなのに彼女はB級普通学科に在籍しているのだ。

 入学式で迷子にもなってないし、ふわふわ系のおっとりした少女でもない。見た目は原作(ゲーム)と違いがないから初めのうちは気付かなかった。


 ……これはヒロイン側でも予期せぬ事態が起こったのかもしれない。

 例えば、私が華京院エリカに成り代わったように、春原ひなたに成り代わった人物がいるのでは?

そう踏んだ私は昼休みや放課後等を使って時間の許す限り彼女を観察した。

 四六時中と言っていい程葵君が私に張り付いてるから全然時間がないのだけれど。そこは私の代わりに申し訳ないと思いつつ、茅に頼んで彼女の事を観察、接触もして貰った。

 因みに説明を省いていたが、何故3つ年上である茅が高等部にいるのかというと、学園側に書類を提出すればS特生に限り任意で自分の身の回りのお世話をしたり、護衛をさせたりする者を1名だけ手元に置いておけるからだ。

 でないと原作(ゲーム)で茅が攻略対象である意味がない。せいぜい送り迎えの時くらいしか学園に来ないことになる。


 茅ルートはヒロインに嫌がらせをするようエリカに命じられた彼が、健気で綺麗な心を持つヒロインを側で見ている内に彼女に恋心を抱いていくようなストーリーだった。

……多分。朧気にしか覚えていないから自信はない。

 私は茅にヒロインの嫌がらせを命じてはいないが、観察及び接触するようには命じたのでどう心変わりして来るかなと兄の様に慕っていた彼が離れていくのを少し寂しく思いつつも楽しみにしていた。


 ……のだがここ数日彼女を観察したり、接触していた彼に何も変化を感じられなかった。相変わらずエリカ至上主義者の1人である。

 葵君の様に歪んでないから別にいいけれど。茅のはシスコン的な感じだ。


 ヒロインと何の進展もなかった茅の情報を聞くと、彼から出て来る彼女が交流を深めている人物達の名はどれも聞き覚えのある攻略対象の名前ばかりだった。

 こう着々と恋愛値を上げているとなると、やはり『恋乱』をプレイしたことがある転生者の説が強い。


 私としては別にヒロインが私と同じ転生者で攻略対象達全員の恋愛値を一定に満たすと見れる大団円エンド基、逆ハーレムエンドを目指していようが関係ない。

 そこに葵君が含まれてくれてさえいれば好きなエンドを見てくださいって感じだ。私は葵君と婚約破棄をして、ヒロインに彼を押し付けられればいいのだから。

 しかし今の状況は実に良くない。彼女は蘇芳葵と接触を図って来ないのだ。それでは私が困る。

 皆の恋愛値を上げようとしているのが茅の情報から読み取れるのに何故蘇芳葵には接触して来ないのか。

 私がずっと彼の横にいるからなの? 正確には彼がずっと私の横にいるのだが。

 悶々としているのも嫌だったので、直談判だ。


「失礼、あの…… あそこにいる桃色の髪の…… 春原さんを呼んでもらってもいい?あ、私は1年S級特別進学学科の──」

「ひいぃぃ! あのS特のっ。女王様! はいぃぃ直ぐお呼びして来ますぅぅ! 春原ぁぁぁ」


 葵君の目を盗んで私は普通学科のクラスがある校舎にやって来た。

 1年B級普通学科E組。それが春原ひなたがいるクラスだ。窓枠の上に書かれた1B-Eの標識を見て、中に彼女がいることも確認した私はドアの近くにいた彼女のクラスメイトであろう男子生徒に声を掛けた。

 

 ただ春原さんを呼んで貰うよう頼んだだけなのに何故叫ぶ必要がある? 

 聞きなれない単語も聞こえたのだが……。その女王様とは私のあだ名なのか?


 なんか悪役令嬢っぽい。しかも呼び出しとかいかにもって感じである。ここに来て漸く悪役令嬢っぽいことをした。

 そのまま人目のつかない場所に連れてって牽制すればこれで私も真の悪役令嬢に……。なんてことにはならないだろうな……。私の性格的に。



「……あ、どうも。前世では乙ゲーマー。今世では一応悪役令嬢してます。華京院エリカです」

「……あ、こちらこそどうも。同じく前世では乙ゲーマー。今世では絶賛ヒロイン満喫してます。春原ひなたです」


 春原さんを呼び出して人目のつかない場所に移動した私は数分間春原さんをただ無言で見つめた。あちらもただ無言で私を見てくる。

 数分間見つめ合った末、お互いに転生者であると本能的に通じた私達は気付けば自己紹介をしていた。

 

「えーと、まぁ…… 単刀直入に言いますとですね。ヤンデレくそ野郎のフラグも是非回収して欲しいなぁーなんて思ってるんですが」

「だが断る」

「何故だ」


 どう考えても彼女が目指してるのは逆ハーレムエンドなのに。何故葵君のフラグは回収してくれないのか。

 私の言わんとしてることが分かったのか、春原さんは語り出した。


「確かに折角前世で大好きだった『恋乱』のヒロインポジションに生まれ変わったからには攻略対象全員に愛されて終わる逆ハーレムエンドを一応目指してるけど……」

「だったら尚更葵君のフラグを回収して下さい」

「わたしはね、あいつ嫌いなの。あいつに何度逆ハーレムエンドや彼以外の攻略対象とのエンドを阻害されたことか! 貴女だってプレイしてたから分かるでしょ? あの難しさが」

「え、いや…… ごめんなさい。攻略サイトを見てやる派だから知らない」

「この下衆野郎! 邪道!」


 その可愛らしい顔でそんな汚い言葉言わないで下さい。私の中での『恋乱』のヒロイン像が崩れていく。

 それに乙女ゲームのやり方なんて人それぞれだからいいではないか。下衆でもいい。邪道上等。


「あいつの恋愛値を上げる順番を間違えたり、少し他キャラより恋愛値を多く上げてしまうと奴の略奪エンドになるの! 一種のバッドエンドよ! あれは!」

「略奪エンドって蘇芳葵が他の攻略対象を殺しちゃうやつだよね。茅編とか皐月編とか全攻略対象分の略奪エンドがあった筈」

「そうよ。ほんと図々しい! あいつだけ他の攻略対象よりエンドが多いのよ! 何で攻略しようとしてたキャラが殺されてあいつの略奪エンド見ないといけないの!もう何回も見たわ!」


 ぜぇぜぇと息を切らせながら話す春原さんの勢いに私はついていけない。

 熱狂的『恋乱』のファンだ。

 そして凄い葵君を嫌ってる。最悪のパターンだ。


「はぁ…… はぁっ… まぁ、貴女のおかげで幸いにもあいつの歪んだ愛は貴女に向いているようだし? 茅が手なずけられてるのは残念ではあるけど、そこはなんとかするとして」

「え……」

「貴女はあいつと仲良しこよししてて頂戴。わたしはあいつ以外で逆ハーレムエンドを目指し、最終的には愛しのショタっ子なずな君と結婚する予定だから」


 それではごきげんようと春原さんはマシンガンの如く前世の愚痴だけこぼして帰って行った。

 ……要約すると何だ? 私は彼女に蘇芳葵を譲られたのか?

いや、私からしてみれば押し付けられたに等しい。

 おいおい待ってくれ。全然嬉しくない。

ヒロインは貴女である。攻略対象をきちんと引き取って欲しい。

 もうほんと最悪だ。こうなったら何が何でも婚約破棄だけはしてやるっ。待ってろよ、蘇芳葵!

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