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序章

 皆さんは乙女ゲームをご存知だろうか?

女性向け恋愛ゲームの中で主人公(プレーヤー)が女性のゲームの総称である。乙女ゲー、乙ゲーなんて略称で一部の女性から親しまれているジャンルだ。

 その一部の女性という者に私も属していた。見目麗しい男性攻略対象の恋愛値を上げて、そのキャラクター達との恋愛を楽しむゲーム。

 

 乙女ゲームの楽しみ方は簡単に分けると二パターンだと思う。自己投影型と第三者型。

 どちらも想像はつくかもしれないが一応簡単に説明しておくと、ヒロイン(主人公)はゲームをしている自分(プレーヤー)と考え、攻略対象と自分の恋愛を楽しむタイプが自己投影型。

 逆にヒロイン(主人公)と自分をイコールで結び付けないで、第三者としてあくまでヒロイン(主人公)と攻略対象の恋愛を少女漫画の如く楽しむのが第三者型だ。

 私はと言うと後者のタイプであった。


 割と沢山乙女ゲームを嗜んで来た私であるが、まさかとある乙女ゲームの世界で第二の人生を歩む事になるとは誰が想像出来たであろうか?

 確かに以前は転生やトリップといった類いの創作小説と二次創作小説も読んでいたが、実際に自分が経験するとは……。

 大抵の読者や作者も思っているわけがない。非現実的だからこそ惹かれる者が多い分類なのだ。

 

 絶対に起こりうることなど有り得ないと鼻で笑っていたが、結論的に言えば、先にも述べたように私は以前自分がやっていた乙女ゲーム作品の一つの世界に生まれた。所謂成り代わり転生をしたのだ。

 その乙女ゲームというのが、『恋愛乱舞(れんあいらんぶ)』という作品で、ファンは親しみを込めて『恋乱(こいらん)』と呼んでいた。

 

 貧しい家庭に生まれたが、可愛らしい容姿に恵まれ、性格も良く、何事にもひたむきに頑張る愛されヒロインが見目麗しいお金持ちのお坊ちゃまや先生と学校生活を通して彼等の心の闇を癒し、愛を育んでいく……。

 こう言ってしまってはあれだが、まぁ、ありがちな身分違いの学園恋愛物語だ。異世界ファンタジー系を好む私としては少し物足りなかったのを覚えている。

 ただキャラクターのデザインをした絵師さんが私の好きな方で、美しいスチル見たさに買った。何だかんだ言いつつも、全キャラ全エンドコンプリートもした。

 もう何年も前なので記憶は薄れてきているが、『恋乱』で唯一ヤンデレタイプである彼のルートは今でも色濃く覚えている。あれは衝撃的だった。

 ヤンデレを攻略したのが彼が初めてだったからもあるかもしれないが、兎に角凄かった。

 

 ヒロインと彼の恋を阻む邪魔者は高確率で殺される。彼の許嫁であった悪役令嬢なんか彼の全エンドで殺されていた。

 彼を婚約者として縛り付け、ヒロインをいじめていた悪役令嬢も悪いが、普通そこまでするかとヤンデレを知らない当時は狂気地味たその行動に恐怖を感じた。

 しかもヒロインを束縛して監禁するわ暴力振るうわ媚薬で犯すわでもう滅茶苦茶だ。「僕以外を見る君の瞳なんていらないよね」とヒロインの目を抉るとかおかしい。終いには脚を切り落とすし、一緒に心中しちゃうし意味が分からない。

 

 ビジュアルはドストライクだけどヤンデレは嫌だ。ヤンデレ怖い。

 ヤンデレが好きな友人はあんな風に束縛されたいとか言っていたが、彼女は自殺志願者か何かなのか?法に触れる愛し方をされても嬉しくない。

 こうしてわたしはこのヤンデレ攻略対象にトラウマを植付けられたわけだ。


 ……何が言いたいかと言うと、私はヤンデレ攻略対象な彼──蘇芳(すおう)(あおい)が苦手である。


 ──それなのにっ! それなのにっ!


「エリカ、こちらがお前の婚約相手の蘇芳葵君だ」


 先日6歳の誕生日を迎えた私にお父様はそう言って彼を紹介した。

 それまでは子供だけど子供じゃないような妙な違和感を感じつつも裕福な家庭に生まれた私は楽しく毎日を過ごしていた。

 それがどうだ? 彼を目の前にした瞬間、身体に衝撃が走った。

 そして私は文字通り乙女ゲーマーだった前世の記憶が走馬灯の如く頭の中を駆け巡ったのだ。いきなり蘇ったそれは幼い身体には酷だった。キャパシティはオーバーし、その場で倒れた挙句、数日間高熱で魘された。


 華京院(かきょういん)エリカ。

それが私の今世での名前だ。そしてこの華京院エリカと言うのは皆さんお気付きかもしれないが、『恋乱』ではヒロインのライバル的当て馬悪役令嬢だった。

 そう、あの葵ルートでは全エンドで殺されるあの悪役令嬢だ。


 ──嘘だろ嘘だろ! 冗談じゃない!


 私は人様の恋路に突っ込んで死にたくない。

 どうすれば自分が死なずに済むのか。まずは葵との婚約を破棄すればいい。これは簡単だと思う。

葵ルートでのエリカは実は彼ではなく、彼の兄が好きだった筈だし、彼は彼女にとって単なるキープに過ぎなかった。

 傲慢でプライドの高い彼女はそれでもヒロインに葵を取られるのが嫌で二人の仲をあの手この手で引き裂こうとして最終的に殺される。

 葵はそんなエリカが元から好きではなかった。彼を婚約者として縛り付けていたのはエリカ、つまり私だ。

 ならば彼が婚約破棄を持ち掛けて来た時に素直に了承してしまえばいい。そうすれば今後いざこざに巻き込まれることはない。出来ることなら原作(ゲーム)が始まる前に破棄しておきたいものだ。


「エリカ、具合はどうだ?」

「だいぶ良くなりました。ごめいわくをおかけてしてしまい、もうしわけありません、お父様」

「いや、顔色も良くなってきたみたいで安心したよ。本来ならば葵君と会ったその日に仲を深める為にもと茶会を用意していたのだが……。

「もしかしてお茶会はなしになってしまったのですか?」

「いや、後日改めてということになった。それまでにきちんと治るよう今はゆっくり休んでなさい」


 ……まじですか。早速またあの将来ヤンデレ確定君に会わないといけないのか……。……いや待て。将来ヤンデレということはまだ今は違うだろう。

 それならば今から彼をヤンデレにしないよう更生しよう。

 彼がヤンデレでなくなれば更に私の死亡フラグが減る。私は原作(ゲーム)通りになんて進ませない。


 傲慢でプライドの高い悪役令嬢? それはまぁ蘇芳葵のヤンデレを防いで婚約を破棄してもらうには多少は傲慢にならないとかもしれないが、転生前は教室の片隅にいるタイプだったのだ。直ぐに性格を変えられるものでもない。

 

 私は私なりに何とかしてみせる。全ては平穏の為に──……。

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