七等星 痛みのマイタワー
七等星 痛みのマイタワー
あの手紙を貰って俺はどうしろっていうんだ。気まずくて話も出来ないだろ……その日は1日、紗弥加と加奈とは会話を買わす事はなく、帰りも1人で帰った。
家に着いてからも、頭がぼぉーとして何もやる気がでない。今日は早く寝よう。そう思って布団に身を投げたが、やはり寝られるわけもなく、ただ時が朝になるのを待つのであった。
いつの間にか朝だ。
寝たかどうかもよく分からない。たぶん、ちょっとは寝たと思う。でも、イマイチ記憶がない。俺はぼぉーとした頭を何とかして起動させようとコーヒーを口に含み、玄関に新聞を取りに行った。親父は今日も家に居ない。村に戻ってきてから、いつも以上に忙しくなっているように思えるが、気のせいだろうか。
朝食を食べていると、いつものように俺を呼ぶチャイムが鳴った。
「おはよー、佑くん!」
「佑輔、おはよう」
「あぁ、おはよう」
いつも通りだ。まるであんな手紙が無かったかのように。
お互い知らないのだろうか。だから、隠すためにいつものテンションでいるのだろうか。
「よしっ! じゃあ、今日も元気だして学校行くよ!」
いつもながら、紗弥加はテンションが高い。その明るい性格も、今は少し寂しく感じる。
「佑輔、早く行くよ。全く、足腰が衰えてるんだから」
こいつもいつもながら、口が悪い。
「悪かったな。まだ、疲れが溜まってるみたいなんだ。最近、体が思うように動かなくてな。俺も困ってるよ」
「そう、なんだ……」
なんだよ、その暗い声は。こっちまで暗くなるから、お二方、やめてくれ。
学校に着くなり、うるさい奴が近付いてきた。
「佑輔!」
「なんだ、もうじき転校生」
「その呼び名はやめてくれ。何気に落ち込んでんだからよ……俺だって、お前と会えなくなるのは寂しいさ」
「俺は寂しくない。さっさと転校しろ」
「あぁ〜、酷い! 酷い!」
うるさいな。だから何だっていうんだ。俺は残念ながらお前に特別な感情は抱いていないものでな。会わなくなってもすぐ忘れられそうだ。
「佑輔、俺は今日、遂に想いを告げようと思っている。協力してくれるか?」
「全力で却下する」
「なんでだよ!」
「勝手に告白でもなんでもしててくれ。俺は結果だけ聞いてやるから」
こいつの告白なんて興味がない。いや、相手が紗弥加か加奈というのは非常に気になるが、結果はもう決まっているだろう。気にする事はないか。
放課後。
「佑輔、じゃあ、俺は行って来るぞ!」
「勝手に何処でも行って来い」
「なんて、心優しくない親友だ……」
俺はお前の親友になった覚えは無いぞ。勝手に決めないでくれ。友達関係の仲の良さのランクくらい自分で付けさせてほしい。
光太は深く深呼吸をして、教室を出て行った。二人のうち、どっちに決めたのだろう。ちょっとついていってみるか……
光太は廊下を淡々と歩き、屋上へと向かった。どうやら、待ち合わせは屋上でしているらしい。手紙でも渡したのだろう。似合わない事をする奴だな。
光太が屋上へと姿を消した。俺も屋上のドアのガラス窓から様子を伺う。ん? はっ?! バカかあいつは! 二人とも呼んでるじゃないか。一体何を考えているんだ。
「光太くん、話って何?」
紗弥加が本当に不思議そうに質問をした。
「右に同じ」
加奈は誰にだってそんな喋り方なのか? 愛想の無い奴だ。
「時間が無い中、二人には悪いと思っている……」
そして、光太は転校する事を話し始めた。紗弥加は「うん、うん……」と頷きながら話を聞いていて、加奈はまるで興味がないように、空を見ていた。
「これからが本題なんだ」
やっと、転校の話が終わり、光太はまた深く呼吸をし、ついに言葉に出した。
「俺は、お前達二人が好きだ」
最悪の告白だね。男の俺からもそう思えるよ。告白って相手が一人だから告白してる方も格好良く見えるものだ。それなのに、こいつは同時に二人に告白をしている。本当に最悪だ。
「そ、それって、私と加奈が好きって事? 二人とも?」
当然の反応だ。普通はおかしいと思うよな。
「あぁ、俺は二人とも好きだ。だから、どうしても気持ちを伝えたかった」
加奈は何も言わない。
「光太くん……ごめんね。私、好きな人が居るの……」
「星崎は、誰か好きな人が居るのか?」
「……いる」
「そうか……」
そして、振られる。なんて最悪な告白だ。見てる方はもう笑ってしまうね。
「じゃあ、俺はもう転校する。最後に誰が好きなのか言ってくれないか? そうじゃないと、スッキリしないんだよ」
なんて自己中心的な奴だ。
「で、でも……恥ずかしいよ……」
「……右に同じ」
どうやら、加奈も照れているらしい。
「じゃあ、その相手を同時に言ってくれないか? そうすれば、混ざってよく聞こえない。恥じらいもなくなるだろ」
「うん……」
「じゃあ、加奈、言うよ?」
「……うん」
「せーの……」
「小明佑輔!」
見事に二つの声が綺麗に重なった。光太も少し驚いた顔をしている。
「佑輔……でも、佑輔はもう長くないんだろ?」
「…………」
こいつ、何言ってんだ? 俺は髪なら普通の長さだぞ。足だって短いわけじゃない。何が長くないんだ?
「俺は知ってんだよ。お前達の親友で天宮観月っているだろ? あいつは俺の生き別れの妹だ。そいつが毎日毎日俺の所に来て泣いてるんだ。」
「…………」
おい、なんで紗弥加は何も言わないんだよ。加奈もなんか言えよ。俺は堪え切れず、屋上のドアを開けた。
「おい、どういう事だよ?」
「ゆ、佑くん!」
「なんで、お前がこんな所に居るんだ?」
「気になってついてきた。そんな事より、長くないって何の話だよ。観月が泣いてるって何の話だよ!」
「佑輔、落ち着いて!」
「うるせぇ! 何の話だか教えろよ! うっ……」
「佑くん? 佑くん!」
「おい、しっかりしろよ!」
「佑輔!」
その事実を俺は初めて知った。
今日も星が見れそうな、晴れた日だった。




