四等星 仲良しのナイトロフト
四等星 仲良しのナイトロフト
なんか最近疲れたな。村に帰ってきたのは良いけど、驚く出来事とか早起きとかで体が変になった気がする。気のせいだろうか。あぁ〜体が思うように動かない……少し休みが必要だな。紗弥加と加奈にも言っておこうか。あいつらに言わないと何をされるか分からないからな。1日くらい学校を休んでもいいだろう。と、自分を納得させようとしていると、
ピンポーン……
またこんな早い時間に……あの二人が持っている時計はきっと壊れているに違いない。
「佑く〜ん!」
「佑輔!」
同時に2つの声、呼び名から呼び出しされ、仕方無く玄関へと降りていく。
「おはようございます、お二人さん。今日はまた、いつにも増してお早くいらっしゃったのですね……」
「佑くん、学校行くよ! 早く準備して」
例により、俺の話はスルーされフレームアウトしていくのであった。
「今日は休みたいんだ。ちょっと体が思うように動かなくてな。きっと疲労だと思うんだが……」
「佑輔……本当に?」
「あぁ。だから、今日は休む。ごめんな」
「仕方無いね。じゃあ、お大事に。学校終わったらまた来るから。行こう、加奈」
「う、うん……」
そして二人は家から離れて行った。
俺はまだ寝不足だからこれからまた睡眠を果実栽培の取り放題の如く思う存分とってやろうと思うのだが、誰か反論を訴える朝に強い御方達の種族の人はいるだろうか? なんて、くだらない事を考えてみるのであった。休みは良いが退屈だな。
親父はまた今日も家にいない。必死に仕事をしてくれているのなら心配をする必要もないのだが、果たして真実はどうなのだろう。遊び呆けていたら一発体罰を与えなければならないか。まぁ、あの親父の事だ。どうせちゃっかり仕事はこなしているはずさ。
平日の午前がこんなにも静かだったとは生まれてこの方、初めて知り得た情報だ。和やかな平和的国民定休日ではなく、個人的自己満足疲労休憩日に相応しい自然に包まれた日だ。
ベッドに寝ながら辺りを見渡す。近くには人1人いない。まだ、午前の本場の時間。テレビはニュースばかりの情報伝達の時間帯。する事もなく本を手にする。普通の小説だ。読み始めて2ページ頃、ついに思ってしまった。
「静かすぎる……物足りないな……」
それは俺があの二人を必要としているサインなのだろう。強がっていながら俺も可愛らしい所があるもんだな。自画自賛というのだろうか、はたまた、ただの寂しがり屋か、答えはまぁどちらでもいい。
本を読み続け、一冊読み終わった頃にはちょうどお昼を少しばかり過ぎたところであった。
俺は食事を求め、覚束無い足取りで階段を一段一段降りていく。そこに家主を呼び出すチャイムが鳴った。何か宗教の勧誘とか化粧品のお勧めなら間に合っているぞ。何処の誰だ。体調が悪い俺を呼び出す奴は。
「はーい、どちら様でしょう……か……?」
「佑輔、お弁当」
「おっ、おぅ。サンキュー……学校はどうしたんだ?」
「今は昼休み中」
「そりゃ今は昼休み中だろうな。だが、俺はそんな簡単に騙されやしない。学校から此処まで来るのに1時間掛かるって事知ってるか? どう考えても4時間目から抜け出さないとこの時間に俺の家には来れないのだが、さて、どういう事だ?」
「ちくしょう、バレたわ」
「バレバレだ」
と、加奈はなんとなく悔しいような台詞は吐いているが、顔は最初からバレる事など分かっていたという表情をしている。
「っで、どうしたんだ?」
「だから、へたばってる佑輔とお昼でも一緒に食べてやろうと思ったのよ! 悪い?」
「悪くはないが、それだけの為に学校を抜け出してきたのなら悪いな」
「うるさいわね! 早退してきたのよ……」
「体調悪いのか?」
「今の佑輔には言われたくないわ!」
そりゃそうだろうけどさ。玄関で話すのも変だから、とりあえず俺の部屋へ行く事にした。下を俯いたりしている様子を見ると、本当に体調が悪いのかもしれないと思えてきた。いやっ、加奈を疑っているわけではないが、こいつの事だから仮病も高確率で有り得ると思っただけだ。
「本当に体調悪いなら家に帰って寝てた方が良いんじゃないか?」
「佑輔に言われたくないわ……」
「はいはい、分かったよ。じゃあ、俺のベッド使って良いから、とりあえず体休ませろよ。自転車漕いできて疲れただろうしな」
「あ、ありが……とう……」
そう言って、加奈はベッドに入って俺がいる方ではなく、反対側に顔を向けた。
確かに恥ずかしい気持ちは分からなくもないが、幼馴染みなんだし、それくらいは捨ててもいい気持ちだと思うけどな。まぁ、いいか。
それから、しばしの沈黙。
「なぁ、加奈。本当はなんで帰ってきたんだ? 何も余計な事は言わないから教えてくれよ、な? 隠したって幼馴染みなんだから少しは勘づくさ」
「喧嘩したの……」
喧嘩。加奈が喧嘩して帰ってくるほど落ち込む相手といったら、ただ1人しかいないだろう。だが、信じ難い事だ。まさか、あいつと喧嘩するなんて考えられない事だ。それほど大きな事が起きたのだろう。
俺に二人を癒して、また繋げる事が出来るだろうか、それとも二人から近付くか? いやっ、それはないな。こいつらは喧嘩なんて初めてだろう。
「大丈夫……なのか?」
「大丈夫だと思う? 私、なんか不安なのよ……」
「そりゃ、そうだろうな」
「どうすればいいのかなぁ……分からないよ……」
「喧嘩の理由は?」
「それは言えない」
完全な拒絶信号だな。危ない、危ない。余程の事があったんだな……こんな時、どうすればいいのか分からない。
俺は座っていた勉強机の椅子から立ち上がり、ベッドの加奈の前で立ち止まった。
「……加奈、いくぞ」
「なっ、何よ? 嫌よ! 私だってまだ嫌だから」
「何言ってんだ? おい、加奈。なぁ、加奈。早くしようぜ……」
「……心の準備がまだ……だって……だって……まだ早いよ。幼馴染みだし……」
「さっきからぶつぶつ何言ってんだ?」
「だって佑輔が……その……私を淫らにしようと……」
「なっ、何言ってんだよ! 俺は学校行くぞって言ってんだよ! 紗弥加のところに行くぞって言ってんだよ!」
「…………バカ」
勝手に勘違いしといて悪者は俺かよ。いい加減にしてくれよ、もう。それにしても、こいつも本当に大人になったんだな。なんだか、こっちが照れてくるな。
「でも、佑輔、体調が……」
「お前らの喧嘩のせいで頭が心配で変になりそうだ。こればかりは治したいからな」
「……ありがとう……」
そんな事をいいながらも、泣きそうな加奈を横にしてお昼だけはしっかり食べた。俺の為に作ってくれていた弁当だし、食べないと失礼だからな。もっとも、加奈は料理がやたらと上手いから理由とか無しに真面目に食べたかったが。
やはり味は最高だった。
そして、俺は制服に着替え、加奈と学校へ向かった。
加奈はずっと心配そうに顔を曇らせて俯いている。
こいつは意外と心配性だったらしい。
学校の門の前。なかなか足を前に出そうとしない。本当に紗弥加は怒っているのだろうか、加奈が勝手に一人芝居のように紗弥加の前で怒鳴ったりして飛び出してきただけなんじゃないだろうか。紗弥加が怒っている姿も見てみたいものだが。
加奈の決心が定まるまで長々と俺は待ち続けた。門の前で立ち止まる加奈を横目に俺はずっとレンガで出来た門に寄り掛かって待った。待ち続けた。
結構長い事待ったな。さすがにこれはへたばる。もう、下校する生徒の姿も伺えるようになった茜色の下。もしや、こいつは態とこの時間まで待ったのかもしれない。自分から行くのが嫌だからって、相手が来るのをひたすら待っているのかもしれない。意外と根性が無いんだな。
そんな事をずっと考えていた時間にも終わりは来るわけで、とうとう、その姿を発見する事が出来た。1人で黙々と歩いて門に向かう紗弥加の姿。それをただ見詰める加奈。なんだ、この緊張感。幼馴染みってこんなに大気を動かせるほどの冷気を出せるのだろうか。
一歩一歩、確実に近付いてきた紗弥加は俺達の目の前まで来て止まった。
沈黙。
「どうしたの、佑くん? 体調が悪いんじゃなかったの? 寝てないとダメだよ!」
「体調が悪いのも気にならないほど、心配事が脳に入ってしまってな。こっちの方が重症の原因だ」
「そう、なんだ……」
「紗弥加……」
加奈は聞き取ることが精一杯というほどの音量の声を出して言った。きっと、目の前に相手がいるから勇気を出すしかなかったのだろう。
「何? 加奈」
「あのね……えぇーと……ごめんね……」
「もう大丈夫だよ! お互い様だから。私こそ、ごめんね」
丸く収まったみたいだ。喧嘩の原因とは一体何なのだろう。聞きたいけど、聞かない方がいいのかな。まぁ、後で気が向いたら聞く事にしよう。
「仲直りだよ、加奈!」
「うん……ありがとう」
「じゃあ、仲直りの記念に、行こうか! ね! 佑くん」
「久しぶりだな」
俺達が仲を確かめるために行く場所はあの3階建てのビルの屋上だ。俺達の思い出の場所。俺の大切な場所。
そこは、俺達がガキの頃に決めた絆の場所。




