二等星 星空のハイブリット
ニ等星
家に戻ると俺の親父と紗弥夏、加奈が話に花を咲かせて盛り上がっていた。幼馴染みの俺を抜きでかよ……ふざけるなって……
「おっ! おかえり佑くん。疲れたでしょ?」
「あぁ、お前等が変態ジジイと盛り上がっている頃、俺はジュースとお菓子が幾つも入ったビニール袋を持って、夕飯の材料まで買って……」
「ご苦労だね。偉い、偉い。もっと早く帰ってきてらもっと偉かったのに」
「加奈、お前は何様のつもりだ?」
「神様かな」
「え〜加奈だけずるい! じゃあ私も神様ね」
もう、何とでも言ってろ……全く、俺は何でこんな村に帰ってきてしまったのだか……良いことなんてなにもないじゃないか……
「よしっ! 材料も揃った事だし、じゃあそろそろ始めようか」
「そうだね。じゃあ紗弥夏はジュースとか用意しといて」
「分かった!」
一体、何を始めようと言うのだ? 小火騒ぎなら止してくれ。引っ越し早々大火事なんて嫌だからな。
しばらくすると、リビングのテーブルの上には豪華な料理が続々と並んできた。
「じゃあ始めようか。佑くんおかえりパーティー」
「佑輔、帰郷おめでとう。よくぞ帰ってきたね」
そういう事か。だから親父はさっき「じゃあ、俺は久し振りに婆さん爺さんになっちまった奴等と一騒ぎしてくるかな。じゃあ佑輔、今日は帰らないかもしれないから」と言っていたのか。恐らく、紗弥夏と加奈の両親と酒飲んで盛り上がっている事だろう。ガキは無視してか? まぁいい。
「とりあえず、ありがとう」
「そんな、佑くんが御礼なんて珍しい」
「きっと、明日は大嵐とハリケーンだね」
「加奈、一言多いぞ」
「まぁまぁ、じゃあコップ持って」
紗弥夏がそう言うと、俺と加奈は言い争いを休戦しジュースが入ったコップを持った。
そして
「佑くんの帰郷と幼馴染み三人の再会。私達の友情に……乾杯!」
三人という少人数であるが、テンションを上げ、乾杯した。
俺だってこいつらに会えて良かったと思っているからな。
それから数時間後。
大抵の食事も済んでくだらない昔話で盛り上がっていた。
「ねぇ佑くん。ちょっと部屋に行こう」
「そうそう。ちょっと用事があるから」
「何だよ、用事って?」
「いいから、いいから」
と二人は言葉を揃えて俺の部屋に向かった。何やら一つ鞄を抱えて。
「もう夜だから大丈夫だね」
「うん」
「何がだよ?」
「じゃーん! 懐かしいでしょ?」
紗弥夏が鞄から出した物は見覚えのある小さな球体だった。
「懐かしいでしょ!」
それは俺が小さい頃引っ越しする時、紗弥夏にあげた手作りプラネタリウムだった。
「これも」
と加奈が鞄から出した物は、これまた懐かしい。俺が加奈にあげた小さい望遠鏡。丸で双眼鏡のような望遠鏡。この2つがあれば部屋の中でも星が見れる。
昔そう思った俺が作った物だった。
「懐かしいな。まだ持ってたのか」
「当たり前じゃん。佑くんから貰った物なんだから!」
「じゃあ、やろう」加奈が言う。
「そうだね、やろうか」紗弥夏が言う。
そして、二人は言葉を揃えて言った。
「天才観測」
俺は本物の望遠鏡を持っているし、今日は晴れだった。外は空一面星屑の世界だった。でも、俺にも分かっている。このプラネタリウムと望遠鏡が俺達にとって特別な物という事。
それは俺達にとって本当に特別な物で、引っ越し前日にも三人でこの部屋でやった大切な思い出の物。
「よし! じゃあ佑くん電気消して」
「あぁ」
暗闇になる部屋の中、星座かどうかも分からないような点が天井に広がる。懐かしい。三人で寝っ転がって眺める星空。この空を見て俺は本当に帰ってきた、そう感じた。
これの為に今日家に来たのだろう。これだけは有り難いかな。
翌日、午前6時。
その呼び出し信号が響き、俺は救難信号を出したくなった。
今日は転校初日。昨日二人が帰る時「明日朝迎えに行く」と言っていたが……
もしやこの耳障りな玄関チャイムが俺を呼ぶ死の声なのか……朝6時に……
「佑く〜ん! 学校行くよ! 遅刻したいのか〜?」
「早く起きなよ、馬鹿野郎。初日から遅刻して初日から退学になればいい」
あぁ〜うるせぇ……うるせぇ、うるせぇ、うるせぇ! なんで学校行くのに6時なんだ。早い……
「早く行くよ!」
……………
「おはよう。佑くん」
「あぁ」
「佑輔おはよう」
「あぁ………」
「佑くん! 初日なんだからもっと元気出して行こうよ!」
「ほら、元気出せポンコツ」
一々言葉が突き刺さる奴だ。もう返す返事を考える事も面倒だ。あぁ実に面倒だ。
朝ごはんを食べようと思ったが、紗弥夏に「そんな時間無いよ!」と言われ敢えなく断念。
自転車で学校へ向かう。昨日買い物に行った時、その学校を見掛けたが、普通の校舎で特に凄いとも感じなかった。
さて、これからどんな学校生活が俺を待ち受けているのだか……
自転車で1時間。
その距離に学校はある。
何故こんなに早く家を出たか、その理由はここにあるようだ。それでも早く着きすぎじゃないか? 何をして暇を潰せば良いのだ? 初めて来る学校で堂々と遊べるかよ。そんなマナー知らずで堂々自信過剰家では無いぞ。さぁどうするべきか……
「佑輔、此処」
その冷めた声が鼓膜を凍らせようと冷気を送る中、俺がしなければならない事がどうやら決まったらしい。
「遅刻しちゃいけないでしょ? 佑くん、今日が初日だから……」
「それは分かってる。何でこんなに早く来たんだ?」
「だから……遅刻しちゃいけないでしょ?」
「その為か?」
「うん……」
「ふざけるな!」
「え〜と、小明佑輔といいます。これから宜しくお願いします」
そして、担任のじゃがいもみたいな顔した先生に席の位置を決め付けられ、その目的地を目指して黙々と歩いている……のだが、どうも行きたくない。窓際の後ろから2つ目の席。俺が思う最高の特等席だろう。だが、だがだ、隣に紗弥夏、その後ろが加奈という最悪の位置に当てられてしまった……ただでさえいつも一緒にいるのに、学校でも一緒かよ……まぁ全く知らない奴と居るよりはいいか……
「よう! 俺は筒下光太。これから宜しくな」
後ろの席の奴が話し掛けてきた。
「あぁ、宜しく」
こんな返事でいいのだろうか。どうやら悪い奴ではないようだ。こいつと友人関係になるのも悪くはないか。
「佑くん、とりあえず学校案内してあげるよ」
「佑輔が迷って泣かないようにね」
一言多い。
「ここが職員室。何かあったら先生に言いなよ」
「ここが学食室。ご飯はここだけど、佑くんはお弁当だから行かないよね」
そんな学校案内をされながな初見の学校内を探索している最中、俺の背中に何やら覚えのあるような物が飛び込んできた。
「小明さ〜ん!」
「何だお前は!」
「私ですよ! 私! 天宮観月です。覚えていませんか?」
天宮観月……
「知らないな〜」
「知ってるくせに! 嘘付かないで下さいよ」
「あぁ、覚えてるよ」
そう。覚えているとも。こいつも幼馴染みに属する位置にいるだろう。年下だが、昔一緒に遊んだ相手だ。何年経っても変わらない事もあるんだな。昔の雰囲気が漂いすぎだ。
いつも後ろから突っ込んできて、もう驚く事は無いけど体には悪い、そう思うよ。
「久し振りですね。私に何も言わないで行っちゃうんですから〜もぉ」
「悪かったよ」
「本当ですよ。もう〜」
そんなこんなで学校初日は幕を閉じた。別に至って変わっている所の無い、普通の学校だった。まぁ俺に合っているかな。
晩。紗弥加と加奈は佑輔の父親と話をしていた。
「本当ですか?」
「あぁ。残念だけど、本当なんだよ……」
「嘘! 嘘ですよね? 嘘って言ってくださいよ!」
「本当なんだ……だから、それまで今まで通り接してくれればいいよ」
「分かりました……」
その時がくるまで……




