第三十五話
「帰りながらも訓練よっ。肉体強化魔法でイメージの練習するわよ」
そう言ってエリカが森の中に走っていく。
「わかった、頑張るよっ」
俺もエリカに続いて森の中へと走っていく。
「って、速すぎだろ。もうあんなに先の方にいるなんて。…最初から全力じゃないと、ついていくことができないってことか…よしっ」
俺は街に来たときと同じように、まずは肉体強化魔法を意識して発動させる。
「続いて五感を強化する…っと」
イメージに魔力を通し、感覚が研ぎ澄まされるのを感じる。
俺は走りながら前方に目をこらし、エリカをさがして発見する。
「………見つけたっ。全力で追いつくっ!」
俺は走る速度を上げて、エリカに追いつこうとする。
「意外と速かったわね。なら少し、本気を出すわよっ」
俺がエリカに近付くと、エリカが一度俺に振り返り、すぐさま速度を上げて走っていく。
「まじかよっ!?俺はこれでも結構いっぱいいっぱいなのに…」
俺は今、全力といっていい速度で走っている。
街に行った時と同じくらいの速度を出しているはずだ。
なのに、エリカは俺よりもぜんぜん速くて追いつけない。
「くそっ、行きは俺にあわせて加減してたってことかよっ」
俺とエリカの距離は少しずつひらいていき、目算で50メートルくらいははなれてしまっている。
「これ以上速くするにはどうすればいいんだ?…俺のイメージじゃ足りないってことなのか!?…いや、違う。あきらめたらそこで終わりだっ」
俺は走りながら全力で考える。
「何が違うんだ…?俺とエリカは何が違う…?」
俺はどんどんはなれていくエリカを見つめ、自分との違いを考える…。
すると、エリカは自分より断然スマートに走っている事がわかる。
俺よりも一歩一歩の歩幅が小さく、小刻みに動かしている。
「そういうことかっ!俺には無駄が多いってことだなっ!」
俺は今、走っているというよりは「飛び跳ねている」という表現があっているだろう走り方をしている。
一歩一歩の歩幅が3メートルほどであり、木にぶつからないように避けるときも、同じように跳んでいる。
「つまり俺は、知らない間にジグザグに走ってたってことになるのか。…そりゃあ、まっすぐ走っているよりも、遅くなるはずだわな…」
俺は意識的に歩幅を小さくして、エリカと同じように走ろうとする。
「これは…けっこうキツいな…」
意識的に歩幅を小さくしたことにより、バランスがとりにくくなり、前につんのめりそうになる。
「これは…けっこう危ないぞ。エリカはどうやってバランスをとってるんだ?っうわっと」
考えることに頭をさいていると、バランスをとるのが難しくなる。
「肉体強化魔法の出力を上げるか?いや、余計にバランスがとりにくくなるかもだな…」
俺は必死になって考える。
「エリカが見えなくなったら終わりだ、道がわからなくなる。…まぁ、さがしに来てはくれるんだろうけど、それはカッコ悪いよな…」
俺は苦笑いしながら、どうすればいいのかを考える。
「肉体強化魔法の出力を少し下げてみるか?出力を下げた状態で、一度ならしてみるのもありかもしれない…」
俺は体に流す魔力を少し抑えてみる。
「これはっ…正解らしいな。さっきより全然バランスがとりやすい。それに、歩幅を意識して小さくする必要がない…」
肉体強化魔法の出力を抑えたことで、余裕ができた俺は、先ほどのエリカの言葉を思い出す。
「本気っていうのは、最適化のことだったんだな。…言葉に騙されて出力を上げていたのが、逆に追いつけない理由だったのか…」
俺はエリカの言葉勘違いしていた。
何も出力を上げることだけが、本気というわけじゃない。
「こうやって少しずつ試してみて、俺の最適を見つけてやるっ」
俺は少しずつ肉体強化魔法の出力を上げていき、俺にとっての最適を見つけだす。
「これが俺にとっての最適なバランスか。…よしっ追いついてやるぜっ!」
俺は気合いを入れ直し、エリカを追いかけていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ゴール。…結局追いつけなかったぜ…」
俺はゴールのエリカの家につき、悔しさをつのらせる。
「でもまぁ、二回目にしては上出来よ。私の本気について来れたんだから…」
そう言ってエリカが微笑むが、俺は少し納得がいかない。
「それに、こんな短時間で自分の最適を見つけるなんて…ゲンは魔法のセンスがすごいわよっ」
「そうかな?…でもそれって「魔法の担い手」の効果じゃないかな?」
「そういえば、そんな感じのことを書いてあったわね…」
「そういうこと。…でもまぁこれで、魔法のイメージの仕方はわかったよ。これなら属性系統の魔法も上手くいきそうかな?」
「そう?なら使ってみたら?簡単に、指の先に炎を出してみるとか」
「そうだね…やってみるよ。………「我が指先に宿れ…「フレアー」」」
俺が呪文と魔法名を唱えると、右手の人差し指の先に、握り拳くらいの炎がゆらめいた。
「一発で成功なんてスゴいじゃない。やっぱりセンスもあるのよっ」
「そうかな?そうだといいなぁ…」
「絶対そうよっ。次は水で試してみて?」
「わかった。………「我が指先に集まれ…「ウォーター」」」
俺がまた呪文と魔法名を唱えると、今度は右手の人差し指の先に、握り拳くらいの水球があらわれる。
「やっぱり、イメージがしっかりできているのね…」
「そうだね、魔力を流すイメージはできてるよ。…これなら、アニメとかで使われていたみたいな魔法も使えるかも…」
「魔法はイメージがすべてだからね。イメージさえしっかりしていれば、何でもできるわよ」
「そうだよね。なら、スーピット相手にいろいろと試してみるよ」
「それがいいわね。…さて?せっかく家に戻って来たんだから、お昼にしましょうか?」
「もうそんな時間か。…そうだね、そうしようか」
「なら家にはいりましょう?準備するから」
そう言ってエリカが家に入る。
「わかった」
俺もエリカの言葉に頷くと、家に入っていった。




