相棒
短いお話です。
ほぼ説明のみの状態が続きます。
詳細な設定を物語のなかで鏤められる作者さんは本当に凄いですね。
4:相棒
どれほど、気を失っていたのだろう。
目が覚めると、最初に感じたのは異臭。
体の感覚で、自分は色々まずいことになっていることに気がつく。
股間と尻あたりに違和感・・・失禁どころではないのだろう。
起き上がると、精霊の姿は見えなかった。
洞窟?の外へは直ぐに出ることができた。
『熊』のような化け物が、この辺りに居ないことは『精霊』が教えてくれた。
直ぐそばにある、川の水を飲み、ズボンと一緒に下着を脱ぐ。
予想通り、酷いことになっていた。
川下がどうなっているか気にならないわけでもないが、ズボンと下着を洗う。
ついでに、体も洗っておくことを忘れない。
水はそれなりに冷たいものの、風邪をひいてしまうほど寒いわけではない。
日本で言う、初夏前くらいだろう。
洗ったばかりの下着やズボンを穿くこともできず、下半身露出の変質者張りの格好で洞窟に戻ると、先ほど居なかった精霊がいた。
《多少、この世界のことがわかっただろ?》
精霊の言葉に、苦笑しながらも僅かに頷く。
「これで理解が出来るなら、最初からやってくれればいいんじゃないか?」
最初にされた、説明も今ならある程度理解できる。
どの道、問答無用だったのだから、最初からやればよかったのだと。
《全くの無知でやると、もっと凄いことになってたけどね?多分駄目になってたんじゃないかなぁ?》
サラリと恐ろしいことを口走る精霊に、深い溜息をつく。
《なるほどね》
本当はどうかはわからないが、おそらく間違いない。嘘を言うメリットが彼らには無いのだから。
《さて、君も色々大変だろうけど、僕もそれなりでね?これで失礼するけど、眷属は憑かせるよ?》
そういうと、目の前の精霊と同じような姿の・・・大きさは20cmほどの精霊が現れる。
《この子が、今日から君の『相棒』だよ?仲良くしてくれると嬉しいな?》
そういって、答えも聞かずに精霊は姿を消した。
残ったのは、小さな精霊と下半身丸出しの男という・・・なかなかシュールな光景だけだった。
『贈り物』を得たことで、この『世界』のことを少しだけ理解できた。
この世界に名前は無い。
そもそも、自分の居た世界も星の名前、大陸の名前、国の名前はあっても世界の名前なんて無かったような気がするし、そういうものなのだろう。
『世界』が俺を招き寄せたらしい。
元の『世界』に戻るには、この『世界』が俺を呼んだ原因を解決する必要があるようだ。
その原因はわからない。
この世界には、『精霊』が存在する。
それも、視覚で確認できるほどの確固たる存在としてだ。
この世界の住人は、『精霊』の『祝福』や『神』の『加護』を受けて生活しているらしい。
『神』様も存在しているとは・・・びっくりだ。
どんな『住人』なのかは判らない。見たことが無いから。
が、人間に近しい生物がある程度集団で生活をしているのは間違いないようだ。
『祝福』を受けると、そういった『この世界の常識』がある程度わかるようになる。
それが、わかるのも『祝福』を受けたからで・・・ややこしいことこの上ない。
『精霊』の『祝福』や『神』の『加護』は非常に判りやすい。
なぜなら・・・
「さて、とりあえず住人とやらが住んでいる場所に行ってみますか・・・」
そういって、伸びをして歩き出す。
『加護』のおかげで、体は今までに無いくらい軽い。山だろうと森だろうと何とかなるだろう。
俺に『祝福』を与えた『精霊』の眷属。名前なんてものも無いらしい。
そもそも、人に憑いた『精霊』は他人には見えない。よほど力の強い『精霊』で無い限り。
この小さな『精霊』はそれほどの力はもっていない。
不都合があれば、あちらから何か言ってくるだろうし、必要ならこちらから呼び名を決めてもいい。
どちらにしても、俺達は『相棒』とやらなのだから。
「ま、仲良くやっていこうや」
そういって、小さな『精霊』に話しかけると、体の歪みを色濃くしながら
《下半身丸出しですけどね》
そう答えてくる。指摘は嬉しいが仕方ないだろう・・・乾いてないんだから。